今、 軽自動車でも登録車でも一番の売れ筋はスーパーハイトワゴン。販売台数ナンバーワン車は軽自動車ではホンダN-BOX、登録車は1位のヤリスシリーズがヤリス、ヤリスクロス、GRヤリスの3車種を合わせた台数なので、単一車種で数えるとルーミーがトップに立つのだ。
今最も売れているのはスーパーハイトワゴン。そして、そのなかでも軽自動車と登録車のナンバーワン車になっているN-BOXとルーミーは、どっちがお薦めなのか? カーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏が徹底解説する。
地味だけど小さな高級車の佳作 トヨタ SAIの挑戦【偉大な生産終了車】
文/渡辺陽一郎
写真/TOYOTA、HONDA、ベストカー編集部
【画像ギャラリー】もはや日本の国民車?スーパーハイトな軽と小型車のツートップを徹底比較!!
■2021年上半期新車販売ベスト4がスーパーハイトワゴン
日本自動車販売協会連合会、全国軽自動車協会連合会が公表しているデータによると、2021年1~6月に国内で売られた新車の販売1位は、トヨタヤリスとされる。
しかしトヨタヤリスの登録台数には、コンパクトカーのヤリスに加えて、SUVのヤリスクロス、スポーツモデルのGRヤリスも含まれる。多くのユーザーにとって、ヤリスとヤリスクロスはまったく異なるクルマだろう。
そこで登録台数を分割して算出すると、2021年1~6月の1カ月平均は、ヤリスが9848台、ヤリスクロスは9193台だ。いずれも1万台を下まわった。
そうなると国内販売の1位は軽自動車のホンダN-BOXになる。2021年1~6月の1カ月平均は1万8425台に達した。2位はスズキスペーシアで1万3116台。3位は僅差でコンパクトカーのトヨタルーミーが入り、1カ月平均は1万2915台だ。4位はダイハツタントで1万1544台になる。
軽スーパーハイト系ワゴンの独走を許さじと急遽開発・発売された、トヨタルーミー。狙いは当たり、見事に軽スーパーハイトワゴン3強の一角を崩した
以上の国内販売上位4車は、2021年1~6月における1カ月平均の登録台数(軽自動車は届け出台数)が1万台を超えた。
そしてこの4車は、すべて2列シート車でありながら、全高は1700mmを上まわる。後席のドアは全車がスライド式で、スーパーハイトワゴンと呼ばれるタイプだ。そのために外観はすべて似ている。今の国内販売ベスト4車は、同じカテゴリーのボディ形状で占められているわけだ。
■スペース効率命のN-BOXとルーミー、クラスは違えど似たようなボディサイズだ
そこで軽自動車で販売1位のN-BOXと、小型/普通車で1位のルーミーを比べてみたい。
ボディは小型車のルーミーが大きい。ルーミーの全長は3700mm(標準ボディ)、全幅は1670mm、全高は1735mmだ。N-BOXは3395mm×1475mm×1790mm(2WD)になる。
ボディサイズでは小型車のルーミーが当然大きい。ただしホイールベースはベースとなるパッソと共通の2490mmとなり、軽のN-BOXよりも短いのだ。
ルーミーはN-BOXに比べて305mm長く、195mm広いが、全高は55mm低い。注目すべきはホイールベース(前輪と後輪の間隔)で、ルーミーは2490mm、N-BOXは2520mmだ。N-BOXの全長はルーミーに比べて305mm短いのに、ホイールベースは逆に30mm長い。
ホンダN-BOX。初代のヒットにより、2代目も気合いとおカネをかけて開発された。それゆえ、軽スーパーハイトワゴンとして群を抜く出来である。日本一の売れゆきもうなずける
そのためにN-BOXでは、4輪がボディの四隅に配置され、前後のオーバーハング(ボディがホイールよりも前後に張り出した部分)は短い。N-BOXは全長と全幅が小さな軽自動車なのに、全高はルーミーよりも55mm高く外観が不安定に見えそうだが、ホイールベースを長くして視覚的なバランスを整えた。
最小回転半径はルーミーが4.6~4.7m、N-BOXは4.5~4.7mだ。狭い道での取りまわし性は、ボディの小さなN-BOXが有利だが、ルーミーも小回りが利くから小型車としては運転しやすい。スーパーハイトワゴンとあって両車ともに外観が直線基調だから、視界が優れ、ボディの四隅もわかりやすい。
■全方位的によくできたN-BOXに対し、ルーミーは快適性でやや劣る印象
車内に入ると、インパネなど内装の質感は、N-BOXが優れている。その半面、ルーミーは収納設備やカップホルダーの機能が多彩だ。
ルーミーのインパネ。ハードプラスチック多用で質感、遮音ともN-BOXに及ばない。特に走行時のドラミング音対策が甘く感じられる。収納スペースが非常に多いのは美点
メーターは、N-BOXではインパネの高い奥まった位置に装着されて見やすいが、前方視界は少し妨げられている。小柄なドライバーには圧迫感も生じやすい。
N-BOXのインパネ。限られたスペースをうまく活用しつつ、質感も備えているところはさすが王者! ただメーター、センターディスプレイとも高さがあるので、若干圧迫感を感じる事もある
前席の座り心地は互角だ。快適とはいえないが、ドライバーをしっかりと支えて座り心地に不満はない。
後席は両車ともにコンパクトに畳む機能を重視した。座り心地は柔軟性に欠ける。そのうえで比べるとN-BOXが快適だ。ルーミーは床と座面の間隔が不足して、足を前方へ投げ出す座り方になりやすい。内装の質と後席の座り心地はN-BOXが勝る。
後席の足元空間は両車ともに同程度だ。身長170cmの大人4名が乗車して、後席に座る乗員の膝先空間は、握りコブシ4つ分になる。室内幅はルーミーが1355mm、N-BOXは1350mmだ。全長と全幅はルーミーが大きく上まわるが、N-BOXはエンジンルームを短く抑え、内装のデザインも工夫したから、車内の広さは同程度になる。
スーパーハイトワゴンでは、荷室の機能も大切だ。後席を畳むと両車ともに広い空間に変更できるが、使い勝手は異なる。路上から荷室床面までの高さは、ルーミーは527mm、N-BOXは燃料タンクを前席に下に設置した効果で470mmと低い。自転車を積む時も、N-BOXでは前輪を大きく持ち上げる必要はない。
後席の畳み方も異なる。ルーミーは背もたれを前側に倒し、さらに後席全体を前側に落とし込むことで平らな荷室に変更できる。
ルーミーの荷室(後席を畳んだ状態)。後席がダイブインするため、フラットなフロアを実現。しかもシート裏面は防汚仕様となっていて、自転車等も遠慮なく積載可能だ
N-BOXは後席の背もたれを前側に倒すだけで座面も連動して下がる。シートアレンジの操作は簡単だが、広げた荷室の床に傾斜ができてしまう。ボックス状の荷室を得られるのはルーミーで、簡単に畳めるのはN-BOXだ。
N-BOXの荷室(後席を畳んだ状態)。センタータンク故の低床を実現し、荷物は積みやすい。またスライドドア含め室内への出っ張りが少なく、限られたスペースを最大限使用可能だ
ルーミーでは、荷室の床面を反転させると、汚れを落としやすい素材が貼られている。タイヤの汚れた自転車を積んだ後の手入れも簡単だ。荷室の使い勝手は、総合的にルーミーが上まわる。前述のとおり収納設備の使い勝手もルーミーが優れている。
■両車ともターボ付きでないと、動力性能的には厳しい
動力性能は、両車ともにノーマルエンジンは充分ではない。ルーミーは直列3気筒1Lで車両重量は1100kg弱、N-BOXは660ccで900kg以上だから、いずれもエンジンの負荷が大きい。
それでも実用回転域の駆動力は、排気量が1.5倍に増えるルーミーに余裕がある。その半面、N-BOXは遮音性能が優れ、ノイズはルーミーよりも小さい。
両車ともにターボも用意され、ルーミーでは動力性能がノーマルエンジンの1.4L相当、N-BOXも1L相当に拡大される。ターボの動力性能もルーミーが高く、遮音性能はN-BOXが優れている。
スペースに優れるハイト系ワゴンは重量が嵩む。(一見軽快に動くスライドドアも実はかなりの重量物)。よって街乗りのみに限定される使用方法でない限り、ターボ車がお薦めとなる
WLTCモード燃費(2WD)は、ルーミーのノーマルエンジンが18.4km/L、N-BOXは21.2km/Lだ。ターボはルーミーが16.8km/L、N-BOXは20.2km/Lになる。いずれも軽自動車のN-BOXが優れている。特にN-BOXではターボに注目したい。
N-BOXの最大トルクはノーマルエンジンが6.6kgm、ターボは10.6kgmだから1.6倍に増強されるが、燃費数値は5%しか悪化しない。N-BOXのターボは動力性能の割に燃費が優れている。
走行安定性は両車とも重心の高さを意識させるが、危険を避ける操作をした時は、車幅が狭いのにN-BOXが安定している。ルーミーは唐突にボディが傾いて不安定になりやすい。乗り心地は両車ともに硬めだが、N-BOXは足まわりが少し滑らかに動く印象がある。
■総合的にみれば王者N-BOXが優位
以上のようにN-BOXは、内装の質感、後席の着座姿勢と座り心地、エンジンノイズ、走行安定性、乗り心地などでルーミーに勝っている。現行N-BOXは2代目で、初代の成功を受けてコストを費やして開発されたからだ。
逆にルーミーは、開発段階で無理を強いられた。2014年は先代ハスラーのヒットを切っ掛けに、スズキとダイハツの軽自動車販売合戦が激化して、新車として売られたクルマの41%を軽自動車が占めた(2021年1~6月は38%)。
一部のOEMを除くと、軽自動車をほとんど扱わないトヨタでは、小型車から他社の軽自動車に乗り替えるユーザーも増えた。トヨタは急遽、対応を迫られた。
そこでわずか2年間でダイハツに開発させたのがルーミーだ。軽自動車で販売の好調なスーパーハイトワゴンを小型車のサイズで作り上げた。
ただし当時はライズから採用を開始した新しいプラットフォームが開発途上にあり、エンジンを含めて、メカニズムの大半をパッソから流用している。ルーミーの車両重量はパッソよりも約200kg重いから、走行安定性や乗り心地では不利になった。前述のとおりN-BOXと比べても、さまざまな機能に粗さが目立つ。
それでもルーミーが販売面で成功したのは、開発期間が乏しいこともあり、N-BOXやタントの特徴をほぼ忠実に再現したからだ。小型車だからカッコよくしようと考えて、ピラー(柱)を寝かせるなど手を加えていたら、ここまでのヒットは望めなかったかも知れない。
ルーミーは大量に売られるだけあって、日常生活のなかで使いやすい実用的なツールだが、ライバル車のソリオ、軽自動車のN-BOX/スペーシア/タント/ルークスなどと比べて選ぶのがいいだろう。一見すると皆同じように見えるが、各車とも工夫を凝らしているからだ。
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みんなのコメント
なんか日本向けには全くイイ話は聞こえてこないし、ホンダの車がこのまま国内から消えていくのかと思うと、なんとも寂しい時代になったなあ…。
>ホンダは2040年に世界で販売する新車の全てをEVと燃料電池車(FCV)にする目標を掲げている。一方で、ガソリン車を中心としてきた四輪事業は、利益率などが低迷している。次世代車の開発加速と、人員構成の見直しといった構造改革を並行して進める。
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