2021年内の生産終了が決定! ホンダの名門「オデッセイ」が、ミニバンというジャンルに起こした革命と、初代モデルが誕生した1994年から約25年の間に生じた「迷い」。
そして、昨年の改良から僅か半年あまりで絶版が決定した背景とは?
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文/御堀直嗣
写真/HONDA
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改良直後の生産終了決定は「苦渋の選択」
現行型オデッセイ(販売期間:2013年~2021年予定/全長4855×全幅1800×全高1695mm)
悲しい知らせが届いた。ホンダ オデッセイが生産を止めるという。
実はホンダ社内でも苦渋の決断であったようだ。何とか存続できないかと模索が続いたそうだ。それでも断念せざるを得ない状況であるという。
あわせて、レジェンドとクラリティも生産を終えることになる。これらの車種は、埼玉県の狭山製作所(生産工場)で製造されていた。この度、同製作所が閉鎖となり、県内の寄居工場に生産が移される。それに際しての生産終了だ。ホンダにはほかに、三重県鈴鹿にも4輪車の製作所がある。
ホンダは、2輪のオートバイメーカーとして創業したが、4輪事業へ進出するに際して1964年に狭山製作所を立ち上げた。創業の地である浜松から1953年に東京へ本社機能を移し、鈴鹿とともに狭山はホンダの4輪事業を支えてきた歴史ある工場だ。
しかし、さすがに老朽化の限界に来ていたのだろう。2013年に寄居工場が稼働した。その時点で、いずれ生産工場の移行という計画は考えられていたはずだ。それでも長い歴史のなかで、狭山製作所には数々の名車が足跡を残している。
制約を逆手にミニバンの価値を創ったオデッセイ
そのなかの一台が、アコードだ。現在アコードはタイで生産されている。
アコードは、登録車として爆発的人気を得たシビックの一つ上級の車種として、1976年に誕生した。その後、シビックとともに米国の人気車種となり、乗用車販売で1位になるなど、トヨタ カムリの競合としても知られるホンダの主力車種の一台だ。
1980年代末から1990年代初頭にかけて、ホンダは、当時はやったレクリエイショナル・ヴィークル(RV:いすゞ ビッグホーンや三菱 パジェロ)を持たなかったため苦境に立たされていた。それを救ったのが、オデッセイをはじめとするクリエイティブ・ムーヴァーである。
ただし、ホンダにはワンボックス車もなかったため、製作所の生産ラインはいずれもシビックやアコードといった普通の乗用車の天井高さしか確保されていなかった。その制約のなかで、ミニバンという価値を生み出し、それがオデッセイであったのだ。
初代オデッセイ(販売期間:1994年~1999年/全長4750×全幅1770×全高1645mm)
ミニバンそのものは、さきに米国にあった。そもそも多人数乗車のバンが米国にあり、それをやや小型にしたのがミニバンで、米国市場で徐々に人気を得はじめていた。ただしそれらは、商用車を基につくられていたので、快適性は二の次だった。
一方、オデッセイは乗用車で、しかもシビックより上級の車種であるアコードを基に、生産工場の天井高さぎりぎりまで車高をあげたてつくられたため、乗員の快適性は米国のミニバンの比ではなく高かった。
当然、ミニバン先進国の米国でもオデッセイは人気を得、なおかつ米国の道路事情に合わせて米国仕様のオデッセイが登場する。それがのちに日本にも導入されたラグレイトであり、後継のエリシオンである。
国内では、やはりワンボックスのバンを基にしたワゴンとしてのワンボックス車がトヨタや日産などに存在し、家族で移動する足として活躍していた。
しかしそれらは、商用バンと同じように運転席下にエンジンを搭載する、キャブオーバーと呼ばれる機構であったため、車内騒音が大きかった。それでも静粛性の改善に努めて人気を博したのが、トヨタの初代エスティマだ。
それは3ナンバー車であったが、5ナンバーでほしいという消費者のために、幅を縮小したルシーダやエミーナというワンボックスのワゴン車が誕生し、これも爆発的な人気を得た。
写真は、初代オデッセイの室内。4ドアセダンを基にする構造で、エンジンの静粛性、走行安定性に優れている。さらに天井が高く、室内の快適性も良い
そこに登場したのが、初代オデッセイである。乗用の4ドアセダンを基にするため、エンジンは客室の前にあるので、静粛性はワンボックスカーの比ではなく、室内は快適だ。なおかつ、天井は高いが、4ドアセダンのシャシーを使うため、走行安定性も優れる。
初代オデッセイは、見かけ以上に壮快な運転を味わわせた。腕に覚えのある運転者も満足させる、家族のための多人数乗車可能な車種であったのだ。
同時に、室内の座席の調整にも巧みな案が込められ、3列目の座席は床下に収納でき、4~5人乗車の際に、荷室には余計な出っ張りのない商用バンのような広さをもたらした。
ワンボックス車やその後の他社のミニバンは、3列目の座席を室内側面に折りたたんだため、荷室は必ずしも広くなかった。折りたたむために腕力も必要だった。
写真のように3列目の座席を床下収納を行い、2列目を畳むことで、多くの荷物が積むことが出来た。さらに3列目のみ収納した場合も荷室に余計な出っ張りがなく、商用バンのような広さをもたらした
ホンダは、オデッセイの開発において、単にワンボックス車の競合とするだけでなく、運転しても、多人数で乗ったときの3列目の快適性も、またバンのように荷物をたくさん運びたいときも、あらゆる使い勝手で人々を満足させ、嬉しい気分にさせるミニバンを創造したのだ。売れないはずがない。
それを横目に、競合他社も相次いでワンボックス車からミニバンへ転向していくのである。
ミニバン王者・オデッセイに生じた「迷い」
ところが、オデッセイのその後は、迷いが生じたようだった。2代目は初代を継承したが、3代目で車高を下げ、ステーションワゴンとミニバンの中間的な存在にした。
1993年に、ホンダは北海道の鷹栖に、ドイツのニュルブルクリンクを模したコースを持つプル―ビンググラウンド(テストコース)を開設した。そこからホンダ車の操縦安定性は格段の進歩を遂げるのだが、そこを重視し過ぎた開発がオデッセイに及んだのではないかと思う。そして、ミニバンとは何かという価値を見失いかけた。
3代目オデッセイ(販売期間:2003年~2008年/全長4765×全幅1800×全高1550mm)
3代目のオデッセイの販売は、数字的には好調だったが、一方で、ミニバン本来の機能性を求めた消費者からは見放されたのではないか。そもそも、初代オデッセイから操縦安定性は他社のミニバンと比べても高かった。それをもっと速くという思いに駆られて車高を下げたのが3代目だろう。ところが、4代目では売れ行きが落ち、現行の5代目で再び車高を高く戻した。
またホンダは、トヨタ プリウスに次いでインサイトというハイブリッド車(HV)を手掛けたが、HVの拡充は歩みが遅かった。オデッセイにHVが加わるのは、現行車となって以降の2016年、わずか5年前のことである。
最新のヴェゼルの販売動向が、HV:93%というように、消費者のHV志向に対し、人気ミニバンの名をほしいままにしたオデッセイの対応は、いかにも遅い。
車高を下げた3代目オデッセイやHV導入の遅れは、経営陣の失策ともいえるだろう。新車開発は3~4年の期間を要するが、3代目の誕生した2003年から、HVの導入が遅れた2015年まで、ホンダを牽引したのは福井威夫社長~伊東孝紳社長の12年間である。オデッセイ凋落の遠因が、経営者の視野や判断の見誤りであった可能性もあるのではないか。
ホンダらしさで名車オデッセイの「失策」挽回に期待
ミニバンは、ステップ高が低いので、乗降性に優れている。人気のSUVに比べ、高齢者が乗降しやすいため、今後のEV化にも期待されていた
2021年1月、拙稿でオデッセイに触れ、その将来への期待を私は述べた。SUV人気の今日とはいえ、高齢者には乗降しにくい車種でもある。
その点、乗降性に優れ、スライドドアを持ち、同時に天井高さも確保されるミニバンは、電気自動車(EV)化も視野に入れながら、再び商品価値を高められる可能性があると期待した。だが、その前にオデッセイは消えゆくのである。
時代を読みそこなった過去の経営責任は大きい。そして、次なるホンダの一手も失うことになるだろう。
しかしホンダは、一度の失敗を許し、そこからの挽回に力を注ぎ、短期間に盛り返せる潜在能力がある。それは、1960年代からF1などによって鍛えられた精神構造がもたらす。レースは、一日として対応策を待ってくれないからだ。一歩遅れを取れば、負け続ける運命にある。その素早い挽回は、初代オデッセイ誕生の際にも活かされたはずだ。
2040年にEVメーカーになると三部敏宏社長が宣言したホンダが、次世代オデッセイなる価値を近年のうちに発表してくれることを切に願う。
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