今、まさに高級SUVジャンルは、史上始まって以来の百花繚乱、まさに下克上のSUV戦国時代という状況だ。
その高級SUVのヒエラルキーの頂点と聞かれて、まず頭に思い浮かべるのはゲレンデヴァーゲンこと、メルセデス・ベンツGクラス。
老舗のレンジローバーやジープ・ラングラーからポルシェカイエン、最近ではランボルギーニ・ウルス、ベントレー・ベンテイガ、ロールスロイス・カリナン、アストンマーチンDBX、マセラティレヴァンテ、アルファロメオステルヴィオ、ランドローバー・ディフェンダー……とこれでもかと、蜜に群がるごとく怒涛の高級SUVの新車ラッシュが続いた!
日進月歩 切磋琢磨! 各メーカー自動運転技術ランキングを独断で選んでみた 2021年夏版
と、そんなところへ、新型ランクル300が登場した。はたしてベンツGクラスがいまだ高級SUVヒエラルキーの頂点に君臨しているのだろうか? 新型ランクル300の登場でヒエラルキーに変化の兆しは見えるのか、モータージャーナリストの清水草一氏が徹底分析!
文/清水草一
写真/トヨタ、メルセデス・ベンツ、ランドローバー、FCA、ベストカー編集部
【画像ギャラリー】高級SUVたちを写真で徹底比較!
■高級SUVの頂点はベンツGクラスに変わりなし?
トップモデルのG63AMGは4L、V8ツインターボ(585ps/850Nm)を搭載し、重量級SUVながら圧倒的な動力性能を誇る
高級SUVのヒエラルキーの頂点にいるのは、メルセデスGクラスで不動である。ベントレー・ベンテイガがどんなに高級かつまろやかな乗り心地であろうとも、ロールスロイス・カリナンがいかに別格であろうとも、Gクラスの前には新参者でしかない。Gクラスの徹底的にクラシカルなデザインと、メルセデスという「最善か無か」なブランドの組み合わせは、どんなクルマも覆せない不可侵領域だ。
それは、芸能人の愛車ラインナップを見てもわかる。驚くほど多くの芸能人が、Gクラスを愛車にしている。反町隆史、藤森慎吾、安田成美&木梨憲武、中川翔子、ココリコ遠藤、滝沢秀明、高島礼子、二宮和也……。「みんななんでそこまでGクラスが好きなんだ!」と言いたくなるくらい、Gクラスが多い。
芸能人がどれだけ乗っているかは、そのクルマのステイタスの目安になる。彼らは伊達に芸能人になったのではない。人気があるから芸能人になったのだ。人気者が乗るクルマ、イコール、真の人気車である。今回はそういうことで話を進めたいと思います。
G550d。価格は1705万円。搭載されるエンジンは422ps/610Nmを発生する4L、V8ツインターボ
円形ヘッドライト形状のエアアウトレットや助手席前方のグラブハンドル、3つのディファレンシャルロックを操作する
クローム仕上げのスイッチなど継承、デジタルメーターを採用するなど伝統とモダンさを合わせ持つ
Gクラスの魅力の第一は、伝統を守っていることにある。変わらないことが強みなのだ。Gクラスに乗る芸能人たちは、自分もGクラスのような伝説になるという願いを込めているのかもしれない。
この、かたくなに伝統を守る姿勢は、SUV、いやオフロード4WDだからこそ価値がある。なぜってオフロードは、40年経とうが1億年経とうが、デコボコのドロドロのゴツゴツで変わらないから!
同じメルセデスでも、Sクラスのデザインが40年以上変わっていなかったら、みんなこんなに飛びつくだろうか? 今なら「ウヒョーかっこええ!」飛びつくかもしれませんが、中間では元気がなくなったことでしょう。やっぱ舗装路には空力とかいろいろありますし。
■77年の伝統が息づくジープ・ラングラー
1941年の誕生以来、実に77年の伝統が息づくジープ・ラングラー。左は1945年式のCJ-2A。右は新型JL型ラングラー・ジープ・ルビコン。7本スロットグリルに丸目ヘッドライトは変わらず
4ドアのアンリミテッドサハラ
Gクラスと並んで、いやGクラス以上に伝統を順守しているオフロード4WDが、ジープ・ラングラーである。ラングラーという名前になったのは1987年からだが、なにしろジープ直系で、ジープ誕生以来の伝統を守っているのだから強い。
ジープ・ラングラーの人気も近年高まるばかりだ。2020年の年間販売台数は、なんと前年比+1.7%の成長となる13588台を記録。
そのブランドトップに君臨するのが、アメリカン正統派クロカンである「ラングラー」で、2020年の販売台数は、5757台と全体の約4割を占めるほどなのだ。
ラングラーは決して高級車ではないが、伝統的なジープスタイルと、先進国ではほぼ必要のない超本格派オフロード4WDであることが、独特の本物感を生み出している。
芸能界でも、岩城滉一やヒロミといった本物のクルマ好きをはじめとして、新山千春や劇団ひとりも愛車にしている。繰り返すが、芸能人が乗るのはつまり、そのクルマの存在がカッコいいからである。
2021年度(~2022年3月)中に日本導入予定のピックアップトラック、ジープグラデュエーター
■実に71年ぶりにフルモデルチェンジした人気急上昇中のレトロ&モダンSUV
人気のランドローバー・ディフェンダー110
先代のディフェンダーは武骨を絵にかいたようなデザインと堅牢なボディ、悪路走破性の高さでマニアから熱烈に支持されていた
伝統を守っているという意味では、ランドローバー・ディフェンダーも強力な存在だ。昨年、71年ぶりにモデルチェンジしてモダンになったけれど、旧型のイメージの残り方が実にステキ。世界中で人気が爆発している。まだ芸能人は乗ってないようですが、そのうち乗るんじゃないでしょうか。
3ドア仕様となるディフェンダー90。ルーフ部のガラスは「アルパインライトウィンドウ」と呼ばれる
■新型ランドクルーザーはベンツGクラスに迫る人気となるか?
パワートレインは3.5LのV6ツインターボ ガソリンエンジン(最高出力415ps/最大トルク650Nm)と、3.3LのV6ツインターボ ディーゼルエンジン(309ps/700Nm)
そして8月に登場したのが、新型ランドクルーザー。いわゆる300系である。まだ実物を見てもいませんけど、写真を見るだけで、「これはひょっとして、Gクラスに迫る大人気になって、芸能人が大挙購入するのではないか!?」と予感させる。
もちろんランクルは以前から、「キング・オブ・オフローダー」と呼ばれていた。その無敵のオフロード性能+鉄壁の信頼性は、Gクラスだってまったく寄せ付けない。
実際のところ途上国では、Gクラスなんてお呼びじゃない。故障がシャレにならない地域では、ランクルじゃないとダメなのだ。私もチベット旅行では、ランクルのお世話になりました。ウズベキスタンでも無敵でした。
その流れで、現在途上国ではレクサスLXが最高のステイタスになってるが、LXもベースはランクルなので、ランクルみたいなもんですネ!
最近、盗難のニュースが多いレクサスLX570
しかし、ランクルには弱点があった。先進国での人気が、それほどでもなかったのだ。日本では「一番盗まれるクルマ」として大人気だが、それも途上国人気の裏返し。意外にも、ランクルに乗ってる芸能人も、カンニング竹山(80系)くらいしか聞いたことがない。
なんつーか、先進国ではランクルって、マニア人気なんだよね。「カッコつけてないところがカッコいいホンモノ」みたいな。だから芸能人はあんまり飛びつかなかったのだろう、たぶん。
が、300系の登場で、その流れはひょっとして変わるのではないか?
日本ですでに納車4年待ちと言われるほど人気が爆発しているが、その最大の理由はデザインにある。これまでランクルと言えば、デザインはただただ無骨一遍党。色気のカケラもなかった。
ランクルファンに言わせれば「それがいい」ということになるのでしょうが、フォルムは無骨だけどパネル面やディテールは中途半端にモダンだったりして、デザインにうるさい私に言わせれば、ランクルは「デザイン不毛の地」でありました。
途上国での大人気も、すべてはメカへの信頼ゆえ。デザインなんざオマケのオマケである。ところが300系は、一転して見るからにカッコイイ。ダサカッコイイんじゃなく直球でカッコイイ。
新型ランドクルーザー300に設定されたGR SPORT。価格はガソリン7人乗りが770万円、ディーゼル5人乗りが800万円
特にカッコいいのはGRスポーツだ。ブラックのグリルがスポーティで若々しい。そのカッコよさはちょいワル系。ほお髯みたいなサブグリルが、モテるオヤジ顔を演出している。
一方、通常モデルは、グリルが従来のランクル的で、相変わらずデザイン不毛の地の残り香が漂う。かなりトッツァンっぽい。途上国ではこっちのほうが人気があるのかもしれないが、先進国では断然GRスポーツである。
リア周りのデザインは先代の印象が残っているが、フェンダー部のふくらみやアーチがより強調された。リアウィンドウの傾斜はやや立ち上がったように見える
300系のデザインの弱点は、お尻にある。リアウィンドウはほぼ直立し、サイドの絞り込みもごく小さいのはともかくとして、サイドウィンドウ後端の絞り方やリアピラーの造形がヘタクソなので、横から見るとケツが持ち上がっているように見え、それがでっちり感につながっている。イケてるオヤジがでっちりではカッコがつかない。
リアウィンドウが立っているのは、本格派オフロード4WDの共通事項だが、Gクラスやラングラーやディフェンダーは、どれもサイドウィンドウを水平基調のまま後ろまで貫いている。それでいてケツを重く見せないよう、リアピラーを細くし、力強さはリアクォーターピラーの太さで表現している。
それに比べて、ランクル300系のサイドウィンドウやリアピラーの造形は実に残念だ。もうちょっと文法通りスッと伸ばせば、どこから見てもちょいワルになっただろうに。
しかしまぁ、クルマも人も顔が命。顔がイケてれば8割は許せる。これまでのランクルには、イケメンはひとりもいなかっただけに、ついに登場したイケメンのランクル300系は、ランクルの歴史を激変させる可能性を秘めている。
マニア的には、3.3リッターV6ディーゼルターボの登場が非常にうれしい。パワーはなんと309馬力! WLTCモード燃費も9.7km/L!
これなら実燃費でリッター7キロくらい走りそうですが、そういうのは芸能人には関係ありませんネ。彼らには本物感+見た目のカッコ良さが重要で、節約は必要ない。GクラスもAMG「G63」が大人気なのですから。
そう考えると、300系はエンジンがちょっと弱い。ガソリンエンジンは3.5リッターV6ツインターボのみ。415馬力は十分すぎるパワーだが、ステイタス性はいまひとつだ。だからこそ質実剛健なランクルなのですが、芸能人を飛びつかせるには、やや物足りないかもしれない。
このように、弱点もあるランクル300系だが、しかし中身の無敵ぶりは誰もが知っているし、顔もイケメンになった。芸能人の間でもかなりの人気になる予感がする!
Gクラスに乗っている芸能人たちのうち何人かが、ランクル300に浮気するかもしれない。というより増車ですかね?
新型ランドクルーザーは、従来のマニア人気の枠を飛び越え、Gクラスのようなアイドル的存在になっていくだろう!
新型ランクルのインテリア。指紋認証盗難防止システムが装備されたのもポイント
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