1980年代、日本車メーカーはこぞって“ホットハッチ”を市場へ投入した。なかでも、小川フミオが印象的だった5台をセレクト! 当時の思い出を振り返る。
2020年9月に販売開始されたトヨタ「GRヤリス」はじつに楽しいクルマだ。ハッチバックの「ヤリス」のイメージを残しつつ、3ドアボディもドライブトレインもすべて別のもの。世界ラリー選手権で活躍するGRヤリスを彷彿とさせる高性能ハッチバックだ。
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そもそもハッチバックという形態は、利便性を重視して生まれた。2ボックス型のボディで、リアにハッチゲートを備えた車型である。どっちかというと、せまい場所でも取りまわしのよい、ボディを切り詰めたステーションワゴンが、当初のボディのコンセプトだ。
そこに、小さなクルマをチューンナップして乗る、という欧州のひとたちの嗜好性がくわわった。ラリーを楽しむ伝統もあったし、そもそも、チューンナップされたエンジンやサスペンションを組み合わせるのは、クルマ好きにとっては、自然発生的な楽しみだったといえる。
そこに目をつけたのが、小型車も手がける欧州の自動車メーカー。最初は、たとえばイタリアのアバルトだ。全長3215mmのフィアット「600」をチューンナップしたアバルト「750」(1955年)や、それよりコンパクトな2970mmのヌオーバ500がベースのアバルト「595」(1963年)などで一般的になっていった。
日本のクルマ好きの憧れだったのは、1962年に出た「ミニ・クーパー」(厳密にはハッチバックではないけれど)や、1975年のフォルクスワーゲン「ゴルフGTI」だ。小さくて速いって、カッコよかったからだ。その価値観はいまにいたるまで続いている(冒頭のGRヤリスが好例)。
ここでは、日本車が”熱かった”1980年代に登場した、ジャパニーズ・ハッチバックの”名車”を紹介しよう。まだ若いひとたちがクルマに大きな興味をもっていた時代だけに、買いやすさと性能とそしてスタイルをバランスさせた、おもしろいクルマが続々と生まれた時代である。
(1)トヨタ・スターレットターボS(3代目)
スターレットは、当時の20代を中心ターゲットに据えたコンパクト・ハッチバックだ。後輪駆動方式の初代や2代目は国内ラリーで使われるなど、モータースポーツ文化に貢献した。
1984年登場の3代目は、ぐっとモダンになった。上記のような楽しみを持っていた一部ファンには惜しまれたものの、後輪駆動方式を捨て、当時の世界基準ともいえる効率的な前輪駆動方式を採用したのが大きな特徴だ。
いっぽう、(繰り返しになるけれど)若いターゲット層へのアピールのため、スポーティ性をなくすことはなかった。3代目にも、ホット(高性能)モデルが設定されたのだ。
それが1986年に追加された「ターボS」。ターボチャージャーの過給圧が2段階設定されていて、ドライバーが任意で設定できた。つまりパワフルな設定(91馬力)と、よりパワフルな設定(105馬力)が楽しめたのだ。
先代より質感が大きく上がったのが3代目の特徴だ。たしかに後輪駆動時代の、わかりやすい楽しさはやや希薄になったものの、十分楽しかった。
新しい時代は前輪駆動で、というのがまっとうなコンセプトであり、それは高性能化とも両立するのだと証明したモデルである。
(2)日産・マーチターボ(初代)
全長3.6mのコンパクトなハッチバック「マーチ」を日産自動車が発売したのは、1982年。シンプルなラインでまとめられたスタイリングは欧州的ともいえ、すぐに大きな人気を呼んだのも不思議ではない。
スポーティな仕様である「マーチターボ」が追加されたのは1985年。シリーズにマイナーチェンジがほどこされたのとおなじタイミングだ。987cc4気筒エンジンにターボチャージャーが装着され、標準モデルでは57psだった出力が、85psに引き上げられた。
スタイリングも特徴的だ。イメージカラーはホワイト。マーチターボはバンパーもエアダムもすべて真っ白だった。それが妙に迫力をかもしだしていたのだ。
くわえて、イエローレンズの丸型ドライビングランプがエアダムに埋め込まれていたし、専用シートをはじめ内装にもスポーティな雰囲気が盛り込まれていた。
クルマとしては、特筆したくなるほどの性能ぶりではなく、遅いマーチが、これでようやく速くなった、というかんじだった。日産では1989年にはターボチャージャーとスーパーチャージャーを組み合わせて、すべての回転域で高性能を発揮することを狙った「スーパーターボ」を設定。
性能的には十分だったものの、デビューから7年もたち、スタイリングがちょっと古くなってしまったのが残念だと思ったものだ。
(3)ホンダ・シティターボ(初代)
1981年に衝撃的というかんじでデビューした、斬新なスタイリングコンセプトを持つホンダ「シティ」。全長が3380mmしかないボディのため、ドアは2枚と割り切ったのも印象的である。
英のスカバンド、マッドネス出演による「ホンダ、ホンダ、ホンダ……」のテレビコマーシャルも若々しさを感じさせてよかった。ようするにトータルコンセプトにすぐれた商品だったのだ。
翌1982年にはすかさず「シティターボ」が追加されたので、当初から、高性能モデルが計画に入っていたことになる。標準モデルの「R」が1231ccの排気量から67psを出したのに対して、ターボは100psもあった。
オリジナルのデザインはくずさず、ボンネットにパワーバルジを設け、ドライビングランプを埋め込んだエアダムを深いタイプするなど、専用のスタイリングが特徴である。
標準モデルはおとなしい性能だったので、ドライビングが楽しめるシティとしてのターボの設定は好ましかった。ただし“シティカー”というシティのコンセプトからすると、ターボは”蛇足”のように感じられたのも事実だ。
いっそ、シティのラインナップは、標準モデルと、1983年に追加された”ムキムキ”のボディをもつ、インタークーラー付きターボで110psの「ターボII」の2本だてのほうが、いさぎよかったかも……と、思わないでもない。
(4)三菱・ミラージュサイボーグ(3代目)
1980年代の三菱自動車は世界ラリー選手権やパリダカールなどでの活躍もあってか、製品にはスポーティなものが多かった。1987年に出た3代目「ミラージュ」も、当時のイケイケ路線のたまものだ。
最初に出たのがハッチバックで、4車種発売された。スポーティな「スイフト」、リアクオーターウィンドウがなくパネルになっている「ザイビクス」、女性仕様などと言われた「ファビオ」、そして1.6リッターDOHCターボの高性能エンジン搭載の「サイボーグ」である。
スタイリングは、同年発表のギャランと共通のファミリーアンデンティティをもたされていた。上下幅が狭いグリルと4灯式角型ヘッドランプを組み合わせたフロントマスクや、面の張りで個性を出そうというサイドパネルなどにそれが顕著で、先代とはまったく違う、上質感を特徴としていたのだ。
ボディは3ドアで、リアクオーターウィンドウの大きさが目立った。とりわけ逆カンチレバールーフといって、Aピラーいがいはブラックアウトするデザイン手法が採用されていたため、後席と荷室の大きさが強調されたスタイリングである。
145psのサイボーグは、ひとことでいって、速いクルマだった。エンジンは活発にまわり、どの速度域からアクセラレーターを踏み込もうと、すかさず加速態勢に入るのが印象に残っている。
(5)ダイハツ・シャレード・デトマソ・ターボ(2代目)
シャレードといえば即座に「デトマソ」と、返してしまうほど、1983年に登場した2代目シャレードを印象づけたのが、スポーティなよそおいのシャレード・デトマソ・ターボである。
1984年に追加されたデトマソ・ターボは、既存の993cc直列3気筒ガソリンターボ・エンジンを搭載するシャレード・ターボをベースに、「パンテーラ」などで知られるイタリアのスポーツカーブランドが内外装に手を入れたモデルとして人気を呼んだ。
そもそも600kg台のボディに80psなので、シャレード・ターボは遅いクルマではなかった。ハンドリングが比較的しっかりした、やや荒っぽい前輪駆動車で、まさに手ごろなハットハッチ。それだけに、デトマソ・チューンのよそおいがよく似合った。
専用装備は、エアダムやルーフスポイラー、専用のカンパニョーロ製軽合金ホイール、ピレリP8タイヤ、それに2トーンのボディ塗り分け。さらにサイドに大きく入った「CHARADE DE TOMASO」の文字がやたら目をひいた。
内装では、イタリアのMOMO製革巻きステアリングホイールと、赤を効かせた2トーンのカラーコンビネーションがヤル気をあおるようだった。
ダイハツとデトマソの関係は、デトマソ傘下のイノチェンティが1974年に発売したミニに、ダイハツが3気筒エンジンを供給(1983年)したことから始まったという。このクルマにもターボ・デトマソというホット版が設定され、日本でも販売されていたのだ。
当時はステアリング・ホイールやロードホイールにも海外の”一流”ブランドがあり、それらが高い商品性をもっていた。クルマ好きは街の自動車部品屋に、それらを買いに出かけたものだ。それが標準装備ということも、消費者への大きなアピールポイントだった。
文・小川フミオ
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みんなのコメント
そろそろ免許返納を考えるべき年齢だね