日産のコンパクトSUV、キックスの受注台数が1万台を超えた。
最近は日産の新型車が欠乏しており、ノートの人気が高いといっても発売から8年を経過する。さまざまな日産車ユーザーがキックスに乗り替えており、1万台は驚くほどの受注台数ではないが、好調であることは確かだ。
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そのために納期も遅延気味で、販売店によると「2020年7月下旬に契約しても、納車は2020年12月になる。仕様によっては2021年1月にズレ込む可能性もある」という。
納期が伸びた背景には好調な受注もあるが、タイ工場で製造される輸入車であることも影響した。製造から納車までの期間が長い。受注台数の割に生産規模の少ないボディカラーなどを希望すると、納期がさらに伸びる。
ただ、今までのタイ生産車を振り返ると、好調に売れた車種は少なかった。現行マーチはタイ製になり、2010年の発売直後から売れ行きが伸び悩んだ。東日本大震災の2011年は除くとして、2012年には1か月平均の登録台数が3300台だ。
当時は設計が比較的新しかったのに、発売が2008年のキューブと比べても低調だった。最近は1か月平均が600台前後まで落ち込み、ノートの8000台から9000台に比べて大幅に少ない。
新型キックスはこの“ジンクス”を果たして破ることができるのだろうか。
文:渡辺陽一郎、写真:日産
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マーチの躓き 伸び悩む理由は「車両の品質」
2代目マーチ(1991年~2002年)
1992年発売の2代目マーチは、1993~1997年まで、月平均で1万~1万2000台を登録していた。2002年登場の先代型(3代目)も、2003~2004年には月当たり8000~1万台を登録している。
これに比べると、4代目になる現行マーチの3300台は明らかに少ない。ミラージュもタイ製で、これも売れ行きが伸び悩み、今では1か月の登録台数は200台前後だ。
現行型マーチ(2010年~)
タイ生産の輸入車が伸び悩む理由は、主に車両の質に基づく。背景にあるのは、車両自体のコスト低減と、タイ工場の品質管理だ。
もともと安さを重視して開発された車両をタイ工場で生産したことにより、総合的に質の不満を感じるようになった。
例えば現行マーチが発売された当初、荷物を広げるために後席の背もたれを前側に倒すと、隙間のあるスチールパネルがムキ出しになって驚いた。
日本では、2012年に生産終了したが、海外では現在3代目ティーダが販売している(地域により車名が異なる)
日産は2004年にティーダを開発した頃から「パーシブド・クオリティ」にこだわった。「感性品質」といわれ、内装を触った時に心地よいとか、シートに座った時に高級感がある、といった漠然とした印象も含んだ上質感だ。
そのためにティーダの開発者は「通常はお客様の目に触れない部分まで、しっかりと造り込んだ。何かの拍子で粗さが見えると、お客様の満足感を下げてしまう」と述べた。
「パーシブド・クオリティ」により従来のコンパクトカーより、高い質感を実現した
2004年に登場したティーダでこのようなクルマ造りを行ったのに、2010年の現行マーチでは「パーシブド・クオリティ」が軽視された。その結果、売れ行きを下げた。
海外ではダットサンブランドも失敗している。伝統あるダットサンの名称を冠した海外ブランドで、生産はインド、インドネシア、ロシアが行った。価格は安かったが、商品の質も低く、販売面で成功していない。
開発者は「今は新興国でも安っぽいクルマは売れない。安いクルマを求めるお客様は、インドであれば低価格で定評のあるマルチスズキ車を買われる。日産には価格が少し高めでも高品質を求めており、その期待に応える必要があった」と振り返る。
この問題はマーチにも通じるだろう。市場を問わず、低価格よりも質の高さが重視されるようになったのに、日産のクルマ造りは付いていけなかった。
3代目マーチ(2002年~2010年)
特にマーチは、前述の通り日本では2代目と3代目が高い人気を得ており、この後で高級感の伴うティーダも好調に売れた。現行マーチの質の低下と販売の伸び悩みは、日産社内でも解決すべき課題になった。
同じタイ生産でもキックスは品質管理を大幅に改善
日産の開発者は以下のように述べている。
「キックスについては、マーチとは品質管理の方法を大幅に改めた。品質管理担当者だけでなく、車両の開発者もタイの生産状況を確認している。
またタイから日本に輸入された後、改めて日本で検査するシステムも新たに整えた。日本に輸入した後で修正を加える必要はまったくないが、入念にチェックしている」という。
2020年6月に発売開始した新型キックスe-POWER
これらの成果で、キックスの品質は、マーチに比べて明らかに高まった。インパネ周辺の造りなど、ヴェゼルやC-HRなどのライバル車を超えるほど上質ではないが、見劣りする印象は抑えた。
タイ工場の品質は今後も向上するから、近い将来、国内生産と同じ水準に達するだろう。従って「タイ生産のクルマは売れない」というジンクスは、ある程度は破られる。
しかし絶好調の売れ行きとするのは難しい。なぜなら日本メーカーの海外生産車には、タイに限らず品質以外の課題も多いからだ。
まず輸入車だから、日本製に比べて、生産から納車までに手間と時間を要する。要は納期が全般的に長い。
トヨタの商用車となるタウンエース(ライトエースは廃止)も、現行型はインドネシア製の輸入車だ。販売店によると「現行型では納期は5か月から7か月を要する。商用車の場合、スグに納車を希望するお客様も多いので、もう少し短く抑えて欲しい」という。
タウンエースはインドネシアにあるダイハツ工場で生産されている(2020年6月マイナーチェンジ)
しかも海外生産は合理化を目的に実施されるため、多彩なバリエーションは用意しにくい。キックスは実質1グレードで、装備を充実させたe-POWERのみだから価格は270万円を超えた。
マーチは複数のセレクションを設けるが、基本は3グレードだ。生産ラインで装着するメーカーオプションも限られ、仕様と価格の幅を広げにくい。
エンジンの種類は、マーチ、ミラージュ、ハンガリー生産のエスクードやSX4Sクロスを含めて1タイプしか選べない。インド製のバレーノは2種類を用意したが、先ごろ国内販売を終えた。
スズキバレーノ 2020年3月に国内販売終了へ
納期が長いので、実質的に生産計画が優先され、ユーザーも与えられた選択肢から選ぶ。グレードが少ないから、選ぶといってもパッケージとボディカラー程度だが、個性的な色彩を希望すると車種によっては納期が3か月以上に長引く。
特別仕様車も国内生産車に比べると設定しにくく、細かな対応を迅速に行うのは困難だ。
キックスで見せた改善は国内外の顧客満足度を高める
また、品質を向上させても、基本的には海外向けの商品だから、日本の顧客満足度だけを追求することはできない。
キックスの開発者は「ジュークでは後席と荷室の広さがお客様の期待を下まわり、国内販売をキックスに切り替えた」というが、キックスの後席も決して広くはない。
足元空間はヴェゼルよりも狭く、座り心地は硬めだ。荷室拡大のために背もたれの角度を立てたから、拘束感が生じた。後席を使った状態で、900mmの荷室奥行寸法を確保した結果、後席の足元空間が狭まった事情もある。
荷室拡大により、ヴェゼルよりも足元空間が狭い。座り心地は硬めになっている。
そこでキックスのユーザー年齢層は、20~30代と50~60代としており、後席が重視される子育てファミリー層は除いた。
車両カタログにも、後席に乗員が座っている写真は掲載されないが、日本ではコンパクトSUVもファミリーカーとして人気が高い。
後席にスライド機能を装着して、乗車人数や荷物の量に応じて調節可能にすると便利だ。このように合理的な海外生産車でありがら、いかに日本のユーザーニーズに合わせられるかが、今後の課題になる。
後席にスライド機能があり、乗車人数と荷物の量に応じて調整ができる
それにしても、タイ製のマーチ、インド製のダットサンブランドなどが商品を粗く造って売れ行きを下げたのは、日産のやり方としてイメージが悪かった。「大切なのは安さで、品質はこんなモンでイイでしょ」という思惑が透けて見えたからだ。
市場のニーズに応じた商品を投入するのは大切だが、品質に差が生じてはならない。商品の品質は、顧客を尊重する気持ちの表現になるからだ。
キックスで見せた改善は、タイ製品を購入する日本のユーザーだけでなく、海外の顧客満足度も高める。そこが大切だ。
個人的には「新興国」という表現と語感も、良識に欠けるように思う。
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タイ製であることや、ましてやタイ国やタイ人が悪いのではなく、あくまでも日産のやり方が悪い。
品質管理やマーケティング戦略の問題。
日本で造ったらいくらになるんだろ?