2020年度の軽自動車販売は商用車など含むトータル台数ではダイハツがトップだったが、軽乗用車の販売台数では、スズキが2014年度以来6年ぶりの首位を獲得した。
スズキがダイハツを抜いて軽乗用車販売でトップに立ったのは、今はスズキの軽乗用車のほうが魅力的だからなのか? それともダイハツのほうに売れゆきを落とす要因があったのか?
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スズキとダイハツによる軽自動車販売の首位争いで起きている現状を、カーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏が徹底分析する。
文/渡辺陽一郎 写真/DAIHATSU、ベストカー編集部
【画像ギャラリー】軽自動車販売のトップ争いを徹底分析!! 宿命のライバル、スズキ&ダイハツ!!
■ダイハツが大きく販売台数を落としてスズキが抜いた
2020年度ブランド別軽乗用車販売台数
クルマには複数のカテゴリーがあるが、国内で最も多く売られるのは軽自動車だ。2020年度(2020年4月から2021年3月)には、新車として売られたクルマの38%が軽自動車であった。
軽自動車がここまで人気を高めた背景には、ホンダや日産の積極的な参入もある。2020年度に国内で売られたホンダ車の内、54%を軽自動車が占めた。日産も軽自動車の比率が44%に達する。
それでも軽自動車の主力メーカーはダイハツとスズキだ。2020年度の軽自動車届け出台数は、1位がダイハツで54万9409台、2位はスズキで53万9396台になる。両社の差はわずか1万台程度に留まった。
年度別では2006年度以降、ダイハツが一貫して軽自動車の販売1位を守るが、軽の乗用車に限定すると2020年度には順位が入れ替わった。1位はスズキで、41万9966台を届け出している。ダイハツは40万4446台だから、スズキを1万5520台下まわった。
その代わり軽商用車は、ダイハツが14万4963台で、スズキの11万9430台よりも2万5533台多い。その結果、軽自動車の総台数では例年どおりダイハツが1位だ。過去を振り返ると、2014年度も軽乗用車に限るとスズキが上まわり、2020年度も同じ構図になる。
ちなみに前年度(2019年度)における軽乗用車の届け出台数は、ダイハツが44万117台、スズキは41万8179台であった。ダイハツが2万1938台上まわる。
それが2020年度のダイハツは、軽乗用車を3万5671台減らしたから、横這い(正確には1787台の微増)のスズキに抜かれた。つまり軽乗用車届け出台数の1位がスズキ、2位がダイハツに入れ替わった一番の原因は、ダイハツの軽乗用車が減少したことだ。
■王者に何が起こった!? 多くの車種が伸び悩んだダイハツ
ダイハツ タント&タントカスタム。販売台数は前年度比で25%あまり減少した
そこでダイハツの軽乗用車の売れゆきを個別に見ると、前年度に比べて減少した車種が多い。タフトは2020年6月に登場した新規投入車種だから、6万918台の届け出台数が対前年度比でそのまま上乗せされたが、そのほかの軽乗用車はすべてマイナスだ。
特に大きな影響を与えたのが、ダイハツの最多販売車種になるタントだ。2019年度には17万2679台が届け出したが、2020年度は12万8218台だから、4万4461台減少した。比率に換算するとマイナス25.7%だ。
前述のとおり、2020年度におけるダイハツの軽乗用車届け出台数は、スズキに比べて1万5520台少なかった。仮にタントが前年と同程度に売れて、4万台以上の減少を防いだら、軽乗用車の販売順位もダイハツが1位であった。なぜ現行タントは販売不振なのか。
現行タントは2019年7月に発売され、1カ月の販売目標は1万2500台であった。ところが2020年度の1カ月平均は1万685台だ。発売して早々に目標台数を下まわった。
一方、先代タントは、2013年に発売されて2014年度には21万4867台を登録した。現行型の2020年度は12万8218台だから、2014年度は圧倒的に多かった。そのために先代タントは、ホンダの先代N-BOXを抜いて、2014年度には軽自動車の届け出台数1位になっている。
2020年度はN-BOXとスペーシアを下まわり、軽自動車の3位に留まった。
タントは売れ筋車種だから、設計の古いホンダN-BOXやスズキ スペーシアに負けると、ダイハツ全体の販売実績に悪影響を与える。しかもタントの販売不振は、2019年7月の販売直後から見られたため、2019年12月には価格を上げずに実用装備を加える格安な特別仕様車を追加した。
このような特別仕様車は、通常は売れゆきが大幅に下がるモデル末期に設定するが、現行タントは発売から半年後に投入した。ダイハツがタントの販売不振を深刻に受け止めていた証拠だ。
それでも売れゆきは上向かず、2020年6月には、標準装着される一部の装備を省いて価格を下げる特別仕様車のXスペシャルまで加えた。標準装着される装備は、製造原価を徹底的に安く抑えるから、省いても価格はあまり下げられない。
従って高価格車を除くと、装備を省いて値下げする特別仕様車はほとんど用意されないが、タントはそこに踏み込んだ。販売不振に追い詰められていたからだ。それなのに売れゆきは伸びず、軽乗用車の届け出台数はスズキを下まわった。
■ライバルが強すぎた!? タントに牙を剝く軽ワゴンたち
モデルチェンジで乗り心地や静粛性も向上させたN-BOXとN-BOXカスタム
この背景にはタントのライバル車の強さもある。現行N-BOXは、先代型の広い室内に加えて内外装の質を高め、乗り心地や静粛性も向上させた。しかも、全高が1700mmを超える軽乗用車のスーパーハイトワゴンでは、車間距離を自動制御できるクルーズコントロールを初めて採用して話題になった。
スペーシアは標準ボディとスポーティなカスタムに加えて、SUV風のギアも加えている。マイルドハイブリッドの採用で実用燃費も向上させた。
タントも先代型の欠点を徹底的に改善して、後席の座り心地と走行安定性はライバル2車を上まわる。従来型と同じく左側のスライドドアにピラー(柱)を内蔵させ、前後のドアを開くと開口幅が1490mmまで広がるから、乗降性は抜群にいい。
シートアレンジにも工夫を凝らしたが、デザインや機能が全般的に地味で売れゆきは伸び悩む。
■ハスラーが総合力でタフトを圧倒!! ダイハツは戦い方を間違えた?
スズキ ハスラー
このほかSUVのタフトとハスラーの販売競争もある。タフトは前述のどおり2020年6月に新規投入されたから、2020年1月(発表は2019年12月)にフルモデルチェンジした現行ハスラーに比べると、2020年度の販売期間は約2カ月短い。
そこで両車とも条件が同じになる2020年度下半期(2020年10月から2021年3月)を比べると、タフトは3万7374台、ハスラーは4万6756台だ。つまりタフト対ハスラーの販売合戦でもスズキが勝っている。
ハスラーとタフトの特徴を比べると、ハスラーは後席に左右独立式のスライド機能を装着するなど、シートアレンジが多彩だ。マイルドハイブリッドで燃費性能も優れている。
対するタフトは、後席は荷室と割り切ってスライド機能を省き、燃費数値もハスラーに負ける。その代わりタフトは、価格が最も安い135万3000円のXにも、ガラスルーフのスカイフィールトップ、LEDヘッドランプ、電動パーキングブレーキを装着した。
このようにハスラーは総合的な機能と性能、タフトは装備に特化して、似通ったクルマながら真っ向勝負をしていない。この販売合戦にダイハツのタフトが負けた。
タフトが装備を充実させたのは、SUVの新規投入車種とあってハスラーとの競争を避けた結果とも受け取られるが、理由はそれだけではない。
ダイハツには車種が多いからだ。全高が1600mmを超える軽乗用車だけでも、ムーヴ、ムーヴキャンバス、タフト、キャストスタイル、タント、ウェイクをそろえる。
そうなるとタフトに後席のスライド機能などを装着したら、ムーヴキャンバスなどと重複が生じる。ダイハツには背の高い車種が多いため、タフトは個性化すべく、シートアレンジを簡素にして価格のわりに装備を充実させた。
そこが裏目に出たともいえるだろう。例えばスカイフィールトップは、誰でも欲しがる装備ではないからだ。
またキャストスタイルとウェイクは、販売が低調で、売り上げにはあまり貢献していない。
■少数精鋭で王座を奪還したスズキ
スズキ スペーシア&スペーシアカスタム
その点でスズキは車種が少ない。全高が1600mmを超える軽乗用車は、悪路向けSUVのジムニーを除くと、ワゴンR、ハスラー、スペーシアに限られる。
そうなるとスズキでは1車種で幅広い顧客に対応する必要があり、ハスラーにもワゴンRと同じシートアレンジを与えて燃費も向上させた。ハスラーはワゴンRの着せ替えともいえるが、充実した機能と個性的な外観で人気を得ている。
スペーシアも実用的な機能を満足させたうえで、SUV風モデルのスペーシアギアを含めて多彩な内外装を用意して、幅広い顧客に対応している。
以上のようにダイハツは、車種数を増やして細かなユーザーニーズに応える方針を採用した。スズキは車種数を減らして基本的な機能を充実させ、グレードを豊富にそろえる。
この戦略の違いと、タントの販売不振により、ダイハツの軽乗用車販売はスズキに負けた。
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