2021年4月の改良でヴェルファイアは1グレードだけに縮小された。いまやヴェルファイアの販売台数は兄弟車であるアルファードの10分の1以下で、2021年5月の販売台数は487台しか売れていない。
とはいえ、月500台程度は売れているのだから1グレードだけでも販売を継続するのもわからなくはない。が、代わりにアルファードを売ればいいようにも思える。
“戦力外“も販売から熱烈ラブコール? 人気車シエンタが異例の復活を遂げた裏事情
トヨタは今年3月末にプレミオ/アリオンやプリウスαを生産終了するなど、車種整理を進めている。それなのに、ここまで兄弟車のアルファードに比べて売れなくなったヴェルファイアを販売継続するのはなぜなのか?
新車販売事情に詳しいジャーナリストの小林敦志氏が解説する。
文/小林敦志
写真/トヨタ、一汽トヨタ、ベストカー編集部
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■デビュー時の販売目標はアルファードよりも多かった!
2021年4月28日に、トヨタ アルファードと同ヴェルファイアが、法規対応をメインとした一部改良を実施した。そして、この改良によりヴェルファイアは、改良前は特別仕様車であった“GOLDEN EYES II”をグレード化すると同時に、このグレードのみとするモノグレード化を実施した。
2021年4月28日の一部改良で、グレードが「GOLDEN EYES II」だけになったヴェルファイア
ヴェルファイア GOLDEN EYES IIの内装。「ちょいワル」な高級感が漂う
改良後のカタログは、イメージとしてはアルファードのカタログにヴェルファイアが“居候”するような形で、アルファードとヴェルファイアが1冊にまとめられている。
今時にしてはかなり分厚いカタログではあるものの、ヴェルファイアに関するものは、巻末近くの数ページのみとなっている。兄弟車とはいえ、カタログが一冊にまとめられているのはかなり珍しい。
販売現場では、「ヴェルファイアはそのうちなくなるだろう」という見方が大勢となっているようで、かつてヴェルファイアを専売していたネッツ店へ出向き、「ヴェルファイアを見にきた」と伝えても、「なぜアルファードではなく、ヴェルファイアなのですか?」とセールスマンに聞かれる始末。
なんともヴェルファイアの置かれている現状は、同情したくなるほど寂しいものとなっている。
現行アルファード&ヴェルファイアが登場した時(2015年1月26日)のトヨタが発信したニュースリリースを見ると、月販目標台数ではアルファードが3000台に対し、ヴェルファイアが4000台となっている。
2015年1月のフルモデルチェンジで登場した現行ヴェルファイア
さらに2017年12月25日にマイナーチェンジを実施しているのだが、この時のニュースリリースを見ると、アルファード3600台に対し、ヴェルファイアは4500台となっている。
つまり、現行モデルのデビュー当初や、その2年後のマイナーチェンジの頃は、ヴェルファイアのほうが売れるだろう(売りたい?)と見ていたのである、ところが……。
■年が進むにつれ反転する人気
まずはグラフを見てもらいたい。これは自販連(日本自動車販売協会連合会)の統計をもとに、2016年度(2016年4月~2017年3月)から2020年度(2020年4月~2021年3月)までの、各年度締めでの年間販売台数の推移を表したものとなる。
アル/ヴェルの販売台数推移
2016年度は約1.4万台の差をつけてヴェルファイアのほうが売れていたのだが、翌2017年度はわずか1983台差ではあるがアルファードが逆転、以降アルファードとの差は開く一方となり、2020年度にいたっては、ヴェルファイアはアルファードの販売台数に対して約13.8%となる1万4749台で終わっている。
つまり、現行モデルがデビューして1年後ぐらいには、すでにヴェルファイアの販売台数は下降線をたどっていたのである。
2020年5月からの、トヨタ系ディーラー全店での全車(一部を除く)併売化実施前は、アルファードはトヨペット店のみ、ヴェルファイアはネッツ店のみの専売となっていた。
アルファード、ヴェルファイアともに、見た目は異なるものの、かなり押しの強いエクステリアや、ゴージャスなインテリアは共通なのだが、より若々しさを強調した押しの強さを持つヴェルファイアは年齢の若い人、そのなかでも“やんちゃなお客”が目立っていたようだ。
トヨタが全店併売化実施を表明した頃に販売現場で聞くと、「取り扱い車種が増えるのは歓迎ですが、ヴェルファイアはちょっと……」という話をセールスマンから聞いたことがある。
突っ込んで聞いてみると、契約してもらったお客のなかで、明らかにフェンダーからはみ出す大径タイヤへの履き替えや、透過率が明らかに違法とわかるほど低いウインドウフィルムをディーラーの整備工場で装着して納車して欲しいという“やんちゃなオーダー”が結構目立つのが気になるとのことであった。
「客商売なので、正面切って断るのもなかなか難しいし、それがもとでトラブルにもなりかねない」というのが、ヴェルファイアに距離を置きたい、専売の頃にはヴェルファイアを扱っていなかった、トヨタ系セールスマンの本音のようであった。
ディーラーの整備工場は監督官庁となる、運輸支局の違法改造や不正整備に対する厳しい目が光っており、抜きうち監査なども行われるということなので、いくらお客のお願いとしても、企業コンプライアンス上、それを受け付けることはできないのである。
このような話が直接、今のヴェルファイアの状況を招いたとは思えないが、今回の全店併売化は、販売会社や販売拠点(店舗数)の統廃合などに優先して、全店舗での全車種併売化が実施された。
しかも、併売スタート時に統廃合された兄弟車は、ハイエースとレジアスエース、プロボックスとサクシードといった商用車ばかりであった。
その後は例えば、マイナーチェンジのタイミングで、タンクが廃止されてルーミーのみになったりもしているが、プレミオ&アリオンのように、どちらかが残るのではなく、両方とも生産を終了するケースなどもあった。
4月28日の一部改良はあくまで法規対応をメインとした小規模なものなので、ヴェルファイアはモノグレード化したものの、「私はやっぱりヴェルファイアがいい」というお客向けに残されたもので、近い将来には販売終了になるのではないか? という声が販売現場では多く聞かれる。
2020年5月の全店併売化スタート直後に、トヨタ系ディーラーを数軒を訪れると、いずれもショールーム内の目立つところにアルファードの大判ポスターが掲示されていた。
“上”からプッシュを指示されるアルファード。値段からはちょっと信じられないくらい好調に売れている
聞いてみると、「メーカーからかどうかはわからないが、“上”からアルファードをプッシュするように指示があった」とのことであった。その後アルファードはコロナ禍で爆発的に売れていくことになる。
■ヴェルファイア系デザインのヴォクシーは引き続き人気
興味深いのは格下となる、ノア、ヴォクシー、エスクァイア3兄弟のなかではヴォクシーが最も販売台数を稼いでいるのだが、ZSのみのモノグレード構成(特別仕様車ZS“煌III”はあり)となっているのである。ヴェルファイアと同じモノグレード構成なのに、状況はかなり異なっていると言えよう。
ノア3兄弟では、例えばエスクァイアの2020年度の年間販売台数をみると1万9800台となり、ヴォクシーが約7.1万台、ノアが約4.6万台を販売しているのに対し、大差がついている。
アル/ヴェルの販売台数は逆転したが、こちらは引き続き好調なヴォクシー。ノアよりも売れている
2021年末ともいわれている、ノア3兄弟のフルモデルチェンジではエスクァイアはなくなるというのがもっぱらの話となっている。
それでは、ノアもしくはヴォクシー、どちらに一本化されるのかということになるが、ノアを専売していたカローラ店に全店併売化直後に、ヴォクシーの試乗車が置かれたことや、テレビCMはヴォクシーばかりがオンエアされていることを考えれば、ヴォクシーに一本化されるのではと思える。
しかし、元専売店のネッツ店で聞くと、「ノアと言う車名のほうが歴史は長いのでノアではないか」とのことなので、はっきりしていない様子。
ただ、現状の人気を考えるとヴォクシーへの一本化が自然な流れのように見える。
アルファードとヴェルファイアについても、現行モデルのデビュー時にメーカーとしては、「ヴェルファイアのほうが売れるだろう」としていたようだが、そして少なくとも2017年のマイナーチェンジまでは、ヴェルファイアのほうが売れるとしていたのは月販目標台数を見ても明らか。
ただ、その後はアルファードの販売台数がヴェルファイアを抜き伸びている。これは、何か恣意的に操作された結果とも思えないので、純粋な市場人気を反映したものといっていいだろう。
海外への中古車輸出がアルファードでは活発となり、圧倒的にリセールバリューがいいことも大きく影響したかもしれない。
それなら、スパッとヴェルファイアをやめてもいいのではないかとも考えがちだが、日本以外の海外まで視野を広げると様子が変わってくる。意外なほど海外へ正規輸出されているのである。
■日本でも残? フェードアウトする?
まず、2021年4月末に開催された上海モーターショーで、トヨタとの現地合弁会社のひとつ一汽トヨタはそれまでラインナップしていたヴェルファイア改め、“クラウンヴェルファイア”をデビューさせた。このクラウンヴェルファイアは日本で生産され輸出されることになる。
このほかASEAN地域をざっと調べてみると、ヴェルファイアとしては、インドネシア、マレーシア、シンガポール、香港などへ正規輸出されている。
一汽トヨタ クラウンヴェルファイア
海外向けモデルの生産も当分続くようなのだが、例えばインドネシアでは12憶1695万ルピア(約935万円/1ルピー:0.007695円)や、クラウンヴェルファイアでは最高で92万元(約1586万円/1中国元:17.24円)と、かなり高価なので人気が高いとしても販売台数は少なめとなる。
となれば、生産台数の調整もあるだろうが、「どうせ海外向けを日本で生産するのだから、日本向けもひっそりと生産して販売を続けよう」というものもあるのかもしれない。
そうはいっても、いまの状況をみると、ヴェルファイアはそんな遠い先ではなくフェードアウトするだろうというのが、いまは主流の見方となっている。それでは“ポスト ヴェルファイア(ヴェルファイアがなくなったあとの補完車種)”はあるのかを考えてみよう。
■いくつもある補完車種
トヨタではかつて4チャンネル(トヨタ店、トヨペット店、カローラ店、ネッツ店)それぞれの専売車種を生産終了する際には、そのままラインナップが減るのではなく、新たな補完車種が用意された。
全店併売化を待たずして、売れ筋は全店併売化前からアクアのような全店併売車であったので、補完車種の設定は最近になると頻繁に行われなくなったが、あえて補完車種があったらと考えてみたい。
いまトヨタは国内でのSUVラインナップの緻密化を進めている。クロカン色の強いランドクルーザーシリーズを除いても、ライズ、ヤリスクロス、C-HR、RAV4、ハリアーがすでにラインナップされており、“ヤリスクロス以上RAV4以下のサイズ”とされる、カローラクロスもラインナップの予定とされている。
これだけでもだいぶラインナップは緻密なのだが、これらのなかでまだ足りないのが、マツダCX-8のような3列シートを採用するSUVである。
そう考えると北米メインで、そのほか中国の現地合弁会社となる広州豊田で生産され中国市場でも販売されている、3列シートを用意するハイランダーの国内投入があれば、トヨタの国内市場におけるSUVラインナップはより強固なものとなるだろう。
中国で「クラウンクルーガー」として発表されたハイランダー
それか、アルファードとは対極をなす、実用性を重視したフルサイズミニバンとして、北米メインであり、間もなく中国市場でも現地生産され販売予定となっている“シエナ”の国内ラインナップもあるかもしれない。
シエナは先代モデルとはなるものの、日本に個人輸入され専門業者で販売されており、都市部では意外なほど見かけるので、いまのヴェルファイアぐらいの販売ボリュームならいけてしまうかもしれない。
シエナはエスティマの補完車種としても有効?
エスティマが販売終了となって久しいが、エスティマは“アンチ アルファード&ヴェルファイア”といった層の、受け皿的役割を担っていたので、このエスティマの役割をシエナにお願いしようというわけである。
ちなみにシエナは、ロシアあたりでは、アメリカから中古車として輸出されたものだろうが、モスクワあたりでも結構な頻度で見かけるほど中古車人気も高い。
単にヴェルファイアがなくなるというよりは、あくまで筆者の“妄想”に近い予想ではあるが、ハイランダーやシエナが国内導入されたほうが、より国内新車販売市場の活性化が期待できると考えるのだ。
ただ、それより先に“トヨタ一強”状態をさらに強固なものにしてしまうことになるだろう。
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