先日、ミニバンの運転席に座っている人が、ハンドルの上に足をあげ、さらには居眠りしているかのように目を閉じた状態で、クルマが走行している(アダプティブクルーズコントロールで走行していると思われる)という、極めて危険な動画がSNSで拡散されていた。自分や同乗者だけでなく、全く関係のない他人にとんでもない危険を及ぼす可能性のある大変迷惑な行為であり、ドライバーは当然のこと、動画を撮影していた仲間も同時に処罰されるべき件だ。
ただ、現在普及が進んでいるレベル3未満の運転支援システムが、これができてしまうことも問題だと感じた。現状の運転支援システムに危惧される課題と対処方法について考えていきたい。
文:吉川賢一
アイキャッチ画像:Adobe Stock_ryanking999
写真:NISSAN、HONDA、TOYOTA、SUBARU
警告システムはあるものの、抜け道がある、現在の運転支援技術
ご存じのとおり、運転支援テクノロジーは近年、飛躍的な進化を遂げている。衝突被害軽減ブレーキやアダプティブクルーズコントロール(ACC)、ステアリングアシストは当たり前となり、渋滞時以外でもハンズオフ走行ができる日産のプロパイロット2.0やトヨタのアドバンストドライブ、スバルのアイサイトXなども登場している。2021年には、ホンダが渋滞時走行中のアイズオフができる、世界初の自動運転レベル3技術「ホンダセンシングelite」をレジェンドに搭載した。かつては夢だった自動走行が現実のものとなってきた。
MIRAIに搭載されているのが、本線走行や車線変更、分岐などでも、ハンズオフ(手放し運転)を含む運転支援が得られる「アドバンストドライブ」。購入後もOTAによって機能・性能を段階的に進化させることが可能
ただ現状の技術は、自動運転レベル3を実現したホンダセンシングelite以外はすべて、あくまで運転の主体はドライバーにあり、システムは運転を支援しているにすぎない。しかし使っている人ならばわかると思うが、これらシステムは極めて優秀。システム作動中、ドライバーはヒマになるので、ついつい監視をさぼりたくなってしまう。
もちろん、各自動車メーカーとしても、ドライバーが運転状況の監視を怠ることがないよう、ACCの作動中にステアリングホイールに操作入力が加えられてないと判断すると、警告表示やアラームを鳴らすという対策は施されている。筆者の乗る2018年式のクルマもACC中の無操作を検知されると、「ステアリングホイールを持ってください」と、警告が出るようになっている。
ただ逆にいえば、ステアリングホイールに負荷をかけてさえいればシステムを誤魔化すことができてしまうため、ステアリングホイールに重りを引っかけるなどをすれば、「手放し運転」ができてしまい、冒頭の件のように、実際にそうして街中を走行する人もいる。人間のズル賢さのほうが上回ってしまったのだ。運転の主体はドライバーであり、ハンドルを握った状態で運転状況を監視する義務があるにもかかわらず、漫然運転(居眠り・よそ見など)ができてしまう。
普及しつつある、ドライバーモニターカメラ
ただ近年は、ドライバーの状況を常に監視するドライバーモニターカメラを搭載するクルマが増えてきており、このドライバーモニターカメラがあれば、(通常の姿勢で運転していないと判断したら警報を鳴らすなど)冒頭のような無謀運転を防げるだろう。たとえば、日産アリアのドライバーモニターシステムは、メーター手前にあるカメラが、運転者の目、鼻、口、顔や頭の形などの特徴を認識し、走行中に運転者が一定時間以上、眼を閉じたり顔の向きを前方から大きく外したりするなどをすることで、システムが居眠りや脇見と判断すると、音と表示で警告を出す。
トヨタも同様の機能を持つが、ドライバーの急な体調急変を検知すると、クルマが自動減速して停止までする機能も備わっている。また、スバルのドライバーモニタリングシステムでは、脇見や居眠り検知のほかにも、シートポジションやドアミラー鏡面角度、ユーザーの平均燃費表示、ドライブモードセレクトなど、ユーザー情報に連動したパーソナライズ機能も提供するなど、めちゃくちゃ優れたアイテムとなっている(当然、コストはかかっている)。
日産アリアのステアリングホイール。デジタルメーターとステアリングセンター部分の間にある横長の突起がドライバーモニターカメラだ
スバルのドライバーモニターカメラ。脇見や居眠り検知の外にも、シートポジションやドアミラー鏡面角度、ユーザーの平均燃費表示、ドライブモードセレクトなど、ユーザー情報に連動した機能も備わる
ドライバーの操作によらないで走行している以上、監視するべきドライバーの監視は必要
トヨタは、ドライバーモニターカメラを現行車のラインアップへ順次、拡大採用している状況だ。MIRAI、レクサスLS、カムリ、ノア/ヴォクシー、クラウン、プリウスなど、新型モデルへ標準搭載し始めた。日産は、スカイライン、アリア、セレナ、エクストレイルにドライバーモニターカメラを設定し、プロパイロット緊急停止支援システム(SOSコール機能付き)としてグレード別に搭載している。
ホンダも、開発中のホンダセンシング360の次世代版にて、ハンズオフ走行支援機能と合わせて、ドライバーモニターカメラを全車標準搭載する計画を立てている。またマツダも、ドライバーモニターカメラによるドライバー異常時対応システム(DEA)をCX-60に初搭載した。順次、搭載車種を増やす方針だと公表している。スバルは、フォレスター、レヴォーグ、レガシイアウトバック、クロストレックなどにドライバーモニターカメラを設定している。
どの国内自動車メーカーも搭載車種を増やしてはいるが、比較的、高額車種のみにとどまっているのが現状。冒頭の件は言語道断な行為ではあるが、そればかりではなく、突然の体調不良なども考えられる。クルマがドライバーの操作によらないで走行していて、そのシステムをドライバーが監視する必要がある以上、ドライバーの状況をモニターすることは必要だと思う。ACCなどの先進運転支援が搭載されるならば、価格帯を問わずドライバーモニターカメラもセットにして搭載する必要があるのではないだろうか。
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毎回日産のコマーシャルは人をバカにしてます。