日産マーチ生産終了 歴史に幕
「マーチ」といえば、日産を代表するモデルであり、昭和を知る人間であれば、日産の良い時代を思い出させてくれるモデルだ。
【画像】初代から4代目、海外の「マイクラ」も【マーチの歴史を振り返る】 全179枚
そんな「マーチ」の日本向けモデルが、ついに生産終了となる。そこで、過去の「マーチ」の歴史を振り返り、その功績と消えた理由を考察してみたい。
まず、初代の「マーチ」の誕生は1982年10月のことであった。
当時、ダイハツの「シャレード」をはじめ、スズキ「カルタス」など、1Lのエンジンを搭載する、小さな「リッターカー」が注目を集めていた。
また、日産としても1960年代に誕生した「サニー」も1Lのエンジンを搭載していたが、ライバルとなる「カローラ」との1970年代の戦いの中で、どんどんとエンジン排気量と車格をアップしており、その下を担うクルマが求められていたのだ。
そこで、日産は最も小さなクラスとして「FF 1000ccの乗用車」を開発することになる。それが初代「マーチ」であった。
若い女性に支持「マッチのマーチ」
当時の開発エンジニアの話によると、初代「マーチ」の企画は、イタリアのカーデザイナー、ジウジアーロ氏の売り込みを日産の社長が気に入ったところからスタートしたという。
つまり、社長案件の企画であり、「世界一軽くて安く優れたリッターカーを作ろう」という意気込みであったという。
そのため、初代「マーチ」は、エンジンから車体まですべてが新設計となった。
車名を公募して話題を集めるという手法も採用された。
なんと、車名には、565万1318通もの応募があったというから驚きだ。
また、今、初代「マーチ」を見れば、デザインのシャープさが目を引くけれど、ターゲットとしたのは女性ドライバーであったという。
プロモーションにはジャニーズのアイドルであった近藤正彦氏が採用され「マッチのマーチ」というCMも放送されていたのだ。
また、発売直後のわずか10日間で1万台を超える受注を達成。
その半数が29歳以下で、3分の1が女性。しかも女性のうち約3分の2が29歳以下であったという。
初代「マーチ」は、小さくて運転しやすく、その割に車内も広いと、若い女性にも強く支持されたのだ。
さらに初代「マーチ」は、1982年のデビューから10年にわたって販売が続いた。
膨大となった開発コストに対して、販売価格が低かったことが、販売期間が伸びた理由だという。
ただし、その間、キャンバストップを装備したモデルや、ターボを採用した「マーチR」などの多くのバリエーションが誕生。
「Be-1」や「パオ」、「フィガロ」といったパイクカー(カスタムカー)のベースも初代「マーチ」であったのだ。
さらに初代「マーチ」は、生産開始から6年2か月となる、1988年12月に累計生産台数100万台を突破。
欧州・カナダでも販売されており、1988年の時点で、生産された100万台のうち約55万台が海外に出荷されていたのだ。
「世界一」思想から生まれた2代目
2代目「マーチ」の登場は、1992年のこと。
シャープなデザインの初代から、2代目はうってかわって丸みを帯びた優しいデザインとなった。
やはりメインのターゲットは女性であったのだ。
また、2代目「マーチ」はイギリスで生産されることもあり、走行性能も重視されていた。
ちなみに、当時の日産は「90年代までに世界一を目指す」という「901運動」を実施しており、その技術も2代目「マーチ」には生かされていたという。
そうした生まれた2代目「マーチ」もヒット車となり、1994年に累計生産200万台を突破、1997年には累計生産300万台を突破する。
初代と同様に、カブリオレなどの派生モデルも誕生。ハイトワゴンのヒットモデル初代「キューブ」も、ベースには2代目「マーチ」が使われている。
最多販売台数 氷河期支えた3代目
2代目となっても順調に売れ続けた「マーチ」であったが、その一方で、1990年代の日産は赤字が続く斜陽の時代でもあった。
そして、日産は2兆円もの有利子債務を抱え経営危機に。
1999年にはルノーとのアライアンスが決まり、リストラ屋として知られるカルロス・ゴーン氏が日産にやってきた。
そのゴーン氏による再建の中、2002年2月に生まれたのが3代目「マーチ」であった。
プラットフォームはルノーと共同開発となったが、「女性ユーザーに向けた」というコンセプトにブレはなかった。
それはキュートなルックスを見れば一目瞭然だ。
その結果、2002年の国内販売は、約15万8000台となり、「マーチ」の過去最高記録を更新することになる。
1999年にトヨタから「ヴィッツ」、2001年にはホンダから「フィット」が登場しており、コンパクトカーが激戦を繰り広げた中での好成績だ。
ちなみに2002年の年間販売ランキングは、「フィット」が1位、2位「カローラ」、3位「マーチ」となる。
再建に至る厳しい時代の日産を支えたのが「マーチ」だったのだ。
4代目 「可愛らしさ」どこへ?
そして最後に登場するのが、2010年7月発売の4代目「マーチ」だ。
このモデルの特徴は、「日本から世界」ではなく、最初から「世界のマーチ」として開発されたことだろう。
生産は主にタイでおこなわれることになった。
日本で販売する「マーチ」もタイからの輸入品となったのだ。
そして、何よりも驚かされたのが4代目「マーチ」のデザインだ。
残念ながら、日本人の価値観では、どう見ても、まったく可愛くない。初代からのメインターゲットである女性ユーザーには、どう考えても刺さるはずはない。
その結果、発売直後の2010年と2011年こそ年間5万台ほどを売ることができたが、年々販売は下降線をたどる。
2014年には50位以下のランク外となってしまうのだ。
エースはノートに マーチ失速のワケ
その「マーチ」の不振を埋めたのが、2005年に登場していた「ノート」だ。
コンパクトカーでありながらも、ワンモーションに近い大柄なボディを持つ。
2001年に登場して大ヒットしているホンダ「フィット」に似たコンセプトのモデルである。
そして、結局のところ、日本市場において歴代「マーチ」が担っていた「ベストセラーのコンパクトカー」というポジションは、2012年登場の2代目「ノート」、そして2020年の3代目「ノート」が受け継ぐことになったのだ。
また、欧州向けには、「マイクラ」の名称で、2017年に新型モデルが登場している。
日本の「マーチ」とは異なる、よりサイズの大きなモデルだ。
日本やアジアで「マーチ」は生産終了となったが、欧州での「マイクラ」の販売は続くだろう。
振り返ってみれば「マーチ」は、「女性をターゲット」として生まれ、日本をはじめ世界中で広く認められてきたという歴史を歩んできたクルマだ。
4代目となったときに、その「女性向け」という部分がブレてしまったのが、とくに日本における販売低迷の理由ではないだろうか。
ちなみに、「マーチ」のフルモデルチェンジは10年おき。
現行モデルの生産は終了となるけれど、モデル廃止との話は耳にしていない。
次世代となる5代目「マーチ」が、日本で復活することを切に願うばかりだ。
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みんなのコメント
それに気付いてニスモバージョン出したが
もう後の祭りで、トヨタのヤリスみたいに
仕切り直しで出せなかったのだろうか。
日産の車種戦略の甘さが露呈して消えた車かと。