アメリカでは、メーカー自身がカスタマイズしたハードユース系のオフロード仕様が広い世代で人気を集めている。ホンダからは2列シートのラージSUV、パスポートのオフロード仕様「トレイルスポーツ」、スバルからはアウトバックにラギッドさとワイルドさを加えた「ウィルダネス」などが登場している。
しかし日本には、こうしたオフロード色の強いグレードは設定されていない。なぜ日米でSUVオフロード系仕様に違いがあるのか、海外事情に詳しい桃田健史氏が考察する。
ホンダのトレイルスポーツ、スバルのウィルダネス……、カッコいいオフロード仕様が日本には設定されないワケ
本文/桃田健史、写真/HONDA、SUBARU
■北米では公式にメーカー自身がオフロード仕様をカスタマイズ
パスポートはホンダの5人乗りSUVとして最大のモデルで、よりSUVらしさを強調したグレードが「トレイルスポーツ」
アメリカ・ネバダの荒野のなかを派手に土煙を上げながら快走する、ホンダ「パスポート・トレイルスポーツ」。
また、コロラドの森林で、深い水たまりをものともせず華麗に走り抜ける、スバル「アウトバック・ウィルダネス」の姿。
こうしたハードユース系のオフロード仕様がアメリカでは広い世代で人気を博している。
日本でも最近、マツダ「CX-5」がフィールドジャーニーなど設定するなど、SUVのオフロード系仕様が登場してきているが、マツダにかぎらずこうしたSUV商品のイメージは家族での楽しいキャンプといったところにとどまっている印象がある。
アメリカでの各モデルのように、メーカーがオフィシャルにリフトアップして、四駆システムの制御まで手を加えるといった本格的なオフロード仕様は日本でまだ登場していない。
■SUVとピックアップトラックでシェアの7割を占めるアメリカ市場
こうしたSUVオフロード系仕様に対する日米の差は、大きくふたつの視点で捉えることができるのではないだろうか。長らくアメリカ各地を巡る生活をしてきた筆者の見解として、ふたつの視点を深堀りしてみたい。
第一の理由は、SUV市場の大きさである。
アメリカでは乗用の領域が、セダンなどの乗用車と、ピックアップとSUVを指すライトトラックに二分されている。
驚くべきことに、ライトトラックのシェアは乗用領域の7割以上を占めている状況だ。
ライトトラック市場の変遷を振り返ってみると、1990年代中盤にジープ「グランドチェロキー」やフォード「エクスプローラー」など、アメリカでいうミッドサイズSUVが人気となったことがきっかけだ。
さらに、フルサイズSUVとしてGMシボレー「タホ/サバーバン」が、企業のエグゼクティブや一般家庭の主婦層までユーザー層を拡大していった。
2000年代に入ると、ドイツのプレミアム系としてメルセデス・ベンツ「ML」、BMW「X5」、そしてポルシェ「カイエン」が登場して販売を伸ばした。これらに対抗するように、日系ビッグ3(トヨタ・ホンダ・日産)もレクサス・アキュラ・インフィニティを含めてSUVラインナップの拡充を急いだ。
続く2010年代に入ると、今後はコンパクトSUVへのシフトが加速した。コンパクトといっても、アメリカの場合、日本ではボディサイズが大きめに感じるようなトヨタ「RAV4」、ホンダ「CR-V」などが該当する。
■よりハードなオフロード仕様を求める声に応えて誕生した「ウィルダネス」
アウトバックにラギッドさとワイルドさを加え、走破性や機能性をさらに高めたグレード「アウトバック・ウィルダネス」
欧米日韓の各メーカーがミッドサイズSUVとコンパクトSUVにおける商品の差別化を探るなかで、例えば「RAV4」はラギッドな外観と激しいオフロード走行にも耐えうる強靭さを強調した。
そうしたなかで、モデルのグレード、または特別仕様車のような位置付けで、より高いオフロード性能に振ったSUVが登場するようになっていく。
こうなってくると、例えばスバルの場合、そもそもがフルタイム四駆でのオフロード走破性能をウリにしてきたのだから、四駆性能を満喫できる「もうひとつ上のモデル」を求める声がユーザーと販売店からアメリカ現地法人のSOA(スバル・オブ・アメリカ)に挙がってきた。
そこで、SOAとして北米モデル間を横断できるようなブランドとして「ウィルダネス」を設定したのだ。
スバル本社、およびSTI本社関係者に「日本でウィルダネス導入の計画はないのか?」とこれまで何度か聞いているが「あくまでもアメリカでの需要を見据えて設定したものであり、日本導入について現時点で計画はない」という回答に終始している。
日本でも最近はSUVシフトが進んでおり、またコロナ禍でキャンプブームが再燃しているなかで、よりハードなメーカーオフィシャルなオフロード仕様を求める声はあるのだが、四駆が主体のスバルでさえ、ウィルダネスの日本導入の最終決断ができない状況だ。
■日米でのオフロード系SUV市場、最大の違いは?
その背景が、「実際に走れるところがない」ことだ。これが、日米でのオフロード系SUV市場における決定的な差である。
アメリカの場合、ロサンゼルス市街やニューヨーク・マンハッタンなどの大都市でも、クルマで2時間程度走ると、周囲はのんびりとしたカントリーな雰囲気になってくる。それが、シアトル、デンバー、ダラス、アトランタなどの地方都市になれば都市部から1時間程度の移動で本格的なオフローダーの魅力が満喫できそうな土地が目の前に広がる。
ただし、その多くは走行使用許可がなければ気軽にオフロード走行をすることはできない。とはいっても、そうした広大な土地の所有者のなかには、自らがオフロード走行が趣味である人もいたり、有料で走行を可能とする事業化したりしている場合もある。
いずれにしても、アメリカでは日本とは大きく違い、オフロード走行を楽しめる可能性がある土地がたくさんあるということだ。
メーカー各社によると、アメリカの四駆ユーザーでは「最近の四駆モデルの基本性能が上がったこともあり、けっこう本格的なオフロード走行を楽しんでいる人が少なくない」という。
このように、アメリカでは広大な土地があり、かつユーザーからオフローダーに対する充分な需要があることがベースとなり、メーカーオフィシャルな本格的オフロード仕様車が発売されているのだ。
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みんなのコメント
同じ車が年間数千台レベルの日本ではそんな余裕はないし、出しても大して売れない。難しい問題じゃない。