連載第5回目となる今回の日産ヘリテージコレクションの名車紹介では、日本ではキワモノ的な扱いだったが、メイン市場である北米では大人気を誇った「NXクーペ」を取り上げる。
文/大音安弘、写真/池之平昌信、日産
雰囲気はミニ「Z32フェアレディZ」!? 日産NXクーペはセクレタリーカーとして北米で成功も日本では「時代の徒花」に?
■RZ-1後継として誕生したNXクーペ
7代目サニーのクーペモデルとして1990年に誕生したNXクーペ
スポーツカーのようなカッコよさが愛された時代、多くのスペシャルティカーを誕生した。そのひとつに、北米を中心に展開された働く女性のための小さくお洒落なクーペの「セレクタリーカー」がある。小さなクルマを得意とする日本メーカーが、欧州のメーカーと激しい戦いを見せたジャンルのひとつでもある。
NXクーペは、1990年(平成2年)1月11日、基本構造を共有する7代目サニーシリーズ(B13)のバリエーションのひとつとして登場。日本では、先代6代目サニーのクーペ「サニーRZ-1」の後継として位置付けられていた
サニーRZ-1。6代目サニーのクーペとして登場したが、NXクーペとは性格がまったく異なっていた
しかし、メイン市場となる北米では、日本でも販売された変わり種の2ドアスペシャルティカーであった2代目エクサ(現地名パルサーエクサ)の後継モデルに位置づけられている。このため、海外仕様では「NX」を名乗った。
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■NDIが手がけた未来的デザインが特徴
NXクーペのリアビュー。3ドアHBタイプのクーペで、Z32フェアレディZを小さくキュートにしたようなデザインにも見える
未来的かつスタイリッシュなエクステリアデザインは、カリフォルニアのデザインセンター「日産デザインインターナショナル(NDI)」によるもの。現在のニッサンデザインアメリカである。ターゲットユーザーを熟知していることを強みに、軽快で気軽に乗れるセレクタリーカーに仕上げていた。
そして、カリフォルニアの気候にも最適な太陽光や風の変化を楽しめるTバールーフも与えていた。この点は、エクサの後継を意識したのもあったのだろう。特にユニークなのが、奥まった楕円形のヘッドライトを備えたグリルレスのフロントマスクだ。
RZ-1とは異なり、サニー一家であることよりも、よりセレクタリーカーとして魅力的な存在を目指したといえる。ちなみに、サニーセダンは日本の日産テクニカルセンターの作品である。
NXクーペのインテリア。デジタルメーターを標準採用していた
内装はサニーとダッシュボードは共通デザインとしているが、2ドアクーぺのため、ドアトリムや後席など専用部品も多数採用する。そのひとつで象徴的なのが、スペシャルティカーで人気のアイテムであったデジタルメーターの標準化だ。
また、ドア開口部には傘の収納スペースを装備しており、雨天時でも車内を濡らさない工夫が施されていた。もちろん、この傘には水抜き用のドレンが装備されている。後席とラゲッジスペースはスタイルを優先し、小ぶりとなっていた。
■Tバールーフ仕様も設定していた
1.6タイプSのTバールーフ仕様NXクーペ(1992年式)
グレード構成は、エントリーとなる1.5Lエンジンの「タイプA」、1.5Lエンジンと1.6Lエンジンの選択が可能な中間グレード「タイプB」、アナログメーターやハードサスペンションなどを備えた1.8Lエンジンのスポーティ仕様「タイプS」の3つを用意。
このうち、タイプBとタイプSでTバールーフが選択できた。当時の価格は、113万6000~181万5000円(東京・名古屋・大阪・福岡地区)を掲げ、これはサニーの中間グレードから上級グレードとなる価格帯であった。
国内では、S13シルビアの弟分としてカッコよく気軽に乗れるクルマを求める女性をメインターゲットとみていた。日本でのNXクーペの知名度を高めたのは、ユニークなテレビCMだ。当時最新のコンピューターグラフィックを活用し、擬人化されたNXクーペが壁から飛び出して変幻自在に空中を飛び回る演出が大きな話題に。
また、未来的なフォルムや女性をメインとした気軽なカッコいいクルマというキャラクターを持つ新提案のクルマとして、「タイムマシンかもしれない。」というキャッチコピーが使われた。
彼の地、米国では成功を収めたものの、残念ながら、国内販売面では、低調なままで推移。そして、7代目サニーシリーズとともに販売を終了。後続車は、再びサニー色を強めたサニールキノ(後にルキノに改名)となり、NXの名は国内では一代かぎりとなってしまった。
■ヘリテージコレクションにはタイプBが展示される
ヘリテージコレクションに収蔵されているNXクーペのラゲッジにはNXクーペを模した巨大なぬいぐるみが!
収蔵される記念車は、デビューイヤーである1990年式タイプB。1.5Lエンジン車の4速AT車で、イメージカラーのイエローパールを纏う。ノーマルルーフ仕様であることも、CMモデルと重なるところだ。
今見ても、特徴的なフロントマスクは斬新。フロントマスクには、メーカーどころか、車種別エンブレムもないのは現代では考えられない自由さがある。その表情は、満点の笑顔にも見え、凄くフレンドリーで元気な走りを予感させてくれる。
ただ、癖の強さがあったのも確か。そして内装はデジタルメーター以外は普通。もう少し遊び心があってもよかったのではと思う。そんなことを考えながらテールゲートを開けると、中からは巨大なNXクーペのぬいぐるみが出現して驚かされた。恐らく販売促進用グッズと思われるが、今や実車同様に希少なアイテムだろう。
■NXクーペを再現したオブジェも製作された!
NXクーペのフロントマスクの表情はファニーで実に個性的だ
当時のべストカーを振り返ってみると、なんとテレビCMのグンニャリ曲がったNXクーペの姿を再現したオブジェが存在したことが判明。1990年3月10日号によると、首都圏サニー系販売会社8社と日産自動車の首都圏営業部が共同で行ったPRプロジェクトで、制作会社が実車のNXクーペを参考に鉄骨の骨組みを組み、FRPで架装していた。
もちろん、一部のパーツは実車のものが使われており、リアルさも追求された。当初500万円の予算でスタートしたが、最終的には約1500万円の製作費がかかったというのは、なんともバブルらしいエピソードといえよう。
都市部には展示され、さらに地方のディーラーからも展示の引き合いがあったというから当時、実物を目撃した人もきっといたことだろう。また、同号の試乗テストでは徳大寺有恒氏がレポートを寄稿。
デザインについては、「初めからデザインには魅力が感じられず、もっと先進的でよかったのでは」と厳しい指摘。ただ、日本も地方の働く女性たちが軽自動車を卒業し、このクラスを選ぶようになると予測していた。
セクレタリーカーとしては面白い提案だったNXクーペだが、そのニーズのなかった日本では、存在意義を示すことが出来なかった。また、スポーティ仕様はあったが、当時のほかの日産車のように、本格的なスポーツ性能を追求したものでもなかったので、ネオヒストリックとしての人気も皆無。
それだけに今は絶滅種となってしまった。逆に言えば、日産ヘリテージコレクションの1台は今となっては本当に貴重な1台なのだと言うことができる。
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みんなのコメント
黒髪ロングのワンレン、いつもスーツを決めてて大人の女性って感じだった
RZ1やエクサも良かったけどNXクーペは女性に似合う車だった
後継のルキノはこれじゃない感があったけど
SR16VE搭載車はオワコンへ向かうなか発売された。