■「280馬力規制」撤廃の普通車、今ではGT-R等は500馬力超で世界と戦う
最近のクルマ業界では忘れられかけている「自動車の馬力自主規制」という言葉。よくに若年層には聞き慣れないフレーズかも知れません。
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この「自動車の馬力自主規制」とは、かつて国内自動車メーカーが正規販売するクルマに対して、エンジンの出力(馬力)を一定数以上出さないと自主的に定めた規制のことです。
クルマ業界には、普通車の「280馬力規制」と軽自動車の「64馬力規制」という2つが存在。なぜ、このような自主規制をすることになったのでしょうか。
1980年代当初に自動車メーカー各社が、自社モデルのスペック(馬力)数値をいかに高くするかで競っていたことがきっかけになります。当時は、スペック数値が高いほど“良いクルマ”というイメージをユーザーに印象付けるPR戦略があったからです。
その熾烈な馬力競争に歯止めをかけた要因には、交通事故による死傷者数増加という問題がありました。そこで、政府は「交通事故非常事態宣言」を発令し、日本自動車工業会(以下:自工会)などの関係各所に対応策を出すように通達。
それに輪をかけるように運輸省(現:国土交通省)は、自工会に「馬力規制」を迫ります。増加傾向にある交通事故を理由に自動車メーカー各社や関連団体は自主規制を受け入れます。
規制導入の際に、「280馬力」となった理由は、当時市販されていたクルマの中で最高出力を誇っていた日産「フェアレディZ(Z32型)」が280馬力だったからです。市販車よりも低い規制値となると開発段階中のクルマなどにも影響が大きいという配慮もありました。
その後、発売される日産「スカイライン GT-R(R32型)」やトヨタ「スープラ(A70型)」、ホンダ「NSX(NA型)」、三菱「GTO」など国産スポーツカーの代名詞と言われるクルマ達は軒並み280馬力を上限とした馬力数値です。
しばらくは「280馬力規制時代」は続き、世の中のユーザーニーズでも「ミニバン」や「SUV」などという今でも人気なジャンルの人気も出始めたこともあり、規制があっても大きな問題にはなりませんでした。
しかし、世界のクルマ業界では、技術革新とともに馬力も上がってく方向にシフトしていきます。国産自動車メーカーも海外での商品力強化や国内産業のガラパゴス化を防ぐなどさまざま理由で、2004年に自主規制を撤廃することになります。
その後、国内メーカーの販売するモデルは徐々に馬力を上げてきます。日産「GT-R(R35型)」は570馬力、ホンダ「NSX(NC型)」507馬力、トヨタ「センチュリー(UWG60型)」381馬力、日産「フーガ(Y51型)」333馬力などスポーツカーはもちろんのこと、セダンタイプでも軒並み高出力化へと進化させています。
■中途半端な数値になぜなった? 軽自動車の「64馬力規制」
一方で、2018年現在でも規制が残っているのが軽自動車の「64馬力規制」です。軽自動車は、日本独自の規格をもとに開発・販売され、「全長3400mm以下/全幅1480mm以下/全高2000mm以下/排気量660cc以下」という条件に当てはまるものが対象となります。
「280馬力規制時代」と同タイミングで軽自動車の「64馬力規制」も始まりました。1980年代の軽自動車は、排気量550ccという車種も存在しましたが、最高出力は50馬力ほどです。
そんななかで、1987年に発売されたスズキ「アルトワークス」は、最高出力64馬力という当時としては高スペックなモデルが登場しますが、運輸省(現:国土交通省)のお達しにより、このアルトワークスの馬力が規制数値となりました。
その後、ダイハツ「ミラTR-XX」や三菱「ミニカ ダンガンZZ」、スバル「ヴィヴィオRX-R」などさまざまな改良が施され、64馬力を達成します。普通車の「280馬力規制時代」は2004年に撤廃されましたが、軽自動車の自主規制は現在でも残っているのでしょうか。
軽自動車を販売するスタッフは次のように話します。
「現在も自主規制が残る理由はいくつかが考えられます。まず、普通車の撤廃理由には、競合する海外メーカーに対抗し、商品価値や開発力を高める狙いがありました。しかし、軽自動車は日本独自規格のためその理由は当てはまりません。
さらに、軽自動車の安全面を考えた場合、『64馬力規制』がなくなり馬力が上がっていくと、ボディ剛性や各安全装備などが普通車と同レベルになる必要があります。そうなると普通車とのサイズ感や価格での違いがなくなり、『軽自動車』そのものが必要なくなる可能性もあります。このようなことから、未だに自主規制は残っているのだと予想できます」
※ ※ ※
現在の軽自動車は、馬力などのスペック値を求める方向ではなく、近所の買い物など使い勝手の良さが支持されています。そのため、走行性能よりも燃費性能を高めるほか、限られたサイズの範囲でいかに快適な居住性を実現するかが重要です。
また、軽スポーツカーには小排気量でキビキビと走る運動性が魅力なため、軽自動車独自規格や「64馬力規制」の決まった枠組みでどれだけ“良いクルマ”を作れるかという自動車メーカーの個性や魅力が垣間見られるジャンルと言えます。 【了】
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