■ハイブリッドシステム開発に力を入れるホンダ
トヨタと並んでホンダは、ハイブリッドに力を入れている自動車メーカーです。2018年(暦年)には、国内で約19万6000台のハイブリッド車を販売して、同社が扱った小型/普通乗用車の54%に達するほど主力商品となっています。
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ホンダはこれまでに、いくつかのハイブリッドシステムを世に送り出してきました。ホンダ初のハイブリッドシステムは、1999年の初代「インサイト」に搭載された「IMA」で、薄型DCブラシレスモーターをエンジンとトランスミッションの間に挟んだ1モーター式ハイブリッドでした。
減速時にはモーターが減速エネルギーを利用して発電を行い、駆動用電池に充電するというものです。加速時には発電された電気でモーターを駆動して、エンジンの駆動力を支援します。負荷の少ない低速走行時には、エンジンを停止させてモーターのみで走りました。 IMAは機能がシンプルで価格も安いというのも特徴で、2009年2月に発売された2代目インサイトのGグレードは189万円(消費税の5%を含む)という低価格で発売されました。
なお、この価格に刺激を受け、トヨタ3代目「プリウス」も急遽価格を抑えて2009年5月に発売されたのです。
■車種の性格に合わせて複数のハイブリッドシステムを使い分ける
さらに、2013年に発売された現行「フィット」などには、「スポーツハイブリッドi-DCD」が搭載されました。
スポーツハイブリッドi-DCDはIMAと同様の1モーター式ハイブリッドですが、モーターを7速DCT(2組のクラッチを使う有段AT)に内蔵しました。
クラッチを切り離すことでモーターのみの高効率な走行が可能で、減速時にモーターが発電する時もクラッチでエンジンと切り離せるため充電効率を高められます。
そして、最近の主流となるのが「スポーツハイブリッドi-MMD」です。最初に搭載されたのは2013年に発売された現行「アコード」で、「ステップワゴン」「オデッセイ」「CR-V」「インサイト」に採用されています。
スポーツハイブリッドi-MMDの特徴は、2つのモーターを使うことです。ひとつは発電機(発電用モーター)で、エンジンの力を使って駆動します。ここで生み出された電気により、もうひとつの駆動用モーターを回して走ります。
2つのモーターを使うメリットは、効率の向上です。エンジンが発電機を作動させ、モーターが駆動を受け持つため、走る速度に合わせてエンジン回転数を増減させることはなく、発電効率に優れた回転数を保てます。
また負荷の少ない時速70km以上の高速巡航時には、エンジンがホイールを直接駆動した方が、効率を高められる場合もあります。そこで発電機を経由しないエンジンの直接駆動モードも備えています。
さらに燃費性能にも優れていて、スポーツハイブリッドi-MMDを搭載した新型インサイトの実燃費は、市街地を中心に実際に走行したところ、28.79km/Lと好成績を記録しました。(JC08モード燃費:31.4km/L・WLTCモード燃費:25.6km/L)
上記のほかに上級車種向けのシステムとして、「スポーツハイブリッドSH-AWD」もあります。「レジェンド」と「NSX」が搭載するシステムで、モーター駆動を併用した4WDを構成しています。
このようにホンダは、複数のハイブリッドシステムを車種の性格に応じて使い分けているのです。
■ホンダのハイブリッドより簡素なシステムながら、販売好調な日産の「e-POWER」
ホンダのハイブリッド開発者と話をして強く感じるのは、日産の「ノート」や「セレナ」が搭載する「e-POWER」を不愉快に思っていることです。
日産が開発したe-POWERのメカニズムは、ホンダのスポーツハイブリッドi-MMDと基本的には同じです。正確にいえば、e-POWERには高速巡航時にエンジンがホイールを直接駆動する機能が備わらず(日産の開発者は「コスト低減のため」だと述べました)、スポーツハイブリッドi-MMDに比べて簡素化されています。
エンジンの排気量も、スポーツハイブリッドi-MMDは直列4気筒1.5リッターと2リッターですが、e-POWERはノートもセレナも直列3気筒1.2リッターのみです。
日産は『電気自動車の新しいカタチを充電いらずで』『日産がやらなくて、ほかに誰がやる』とe-POWERを大々的に宣伝して、まったく新しいパワートレーンのようなイメージを植え付けました。
このイメージ戦略によって、e-POWERを搭載したノートとセレナは好調に売れて、販売ランキングの上位に入っています。2018年(暦年)は、ノートが小型/普通車の販売1位、セレナはミニバンの1位でした。
実際にはほかに日産の売れ筋車種がなく、販売がノートとセレナに集中したという経緯もありますが、ホンダのスポーツハイブリッドi-MMDの開発者としては、e-POWERの人気が面白くないのでしょう。
■新型フィットはi-MMDを搭載して2019年中に発売予定
現在は自動車公正取引協議会から禁止されていることもあって表現が改められましたが、日産は運転支援機能の「プロパイロット」も『自動運転』と宣伝していたことがありました。(どの自動車メーカーでも『自動運転』という表現は使用禁止です)
日産の大げさな宣伝に関する話を聞いていくと、見えてくるのはコスト低減です。今の日産は新型車の国内発売が1~2年に1車種で、e-POWERも直接駆動の機能を省きました。CMなどの宣伝も同様で、使える予算が少ないのです。
そうなると低コストで手っ取り早くCM効果を高められるのは、キャッチコピーでしょう。『やっちゃえ日産』と聞けば、他メーカーに忖度しないで、凄い技術を価格破壊の安さで搭載するように聞こえます。
ホンダの開発者が不愉快に思うのも当然で、ノートe-POWERに対抗すべく、2019年中に発売予定の新型フィットはスポーツハイブリッドi-MMDを搭載するといわれています。
■新型フィットがノートe-POWERに勝負を挑む
現行フィットは、トランスミッションに7速DCTを採用しています。この7速DCTは複数回にわたる改良が加えられたにもかかわらず、例えば時速40キロから60キロで走行しているときなどに変速がギクシャクすることがあり、いまひとつ滑らかさに欠けます。
現行フィットは発売直後に7速DCTをめぐるリコールが相次ぎ、出鼻をくじかれました。
リコールを責めることは、リコール隠しを誘発するので控えるべきですが、現行フィットの時は補修部品の配達が遅れたりして販売店にはフィットを売りにくい雰囲気が漂いました。
現行フィットでの失敗を教訓にし、新型フィットに最新のスポーツハイブリッドi-MMDを搭載することで、機能と販売の両方でライバルのノートe-POWERに真っ向勝負を挑むのです。
スポーツハイブリッドi-MMDは、モーター駆動が中心となるので走りが滑らかです。モーターはエンジンに比べてアクセル操作に対する反応が早いため、運転しやすく、動力性能も力強く感じます。
新型フィットが優れた商品として発売されると、日産の動きも注目されます。ノートをさらに商品力の高いクルマにフルモデルチェンジするのか、それとも負けたままで放置するのか。日産の国内市場に向けた姿勢も明らかになります。
問題は新型フィットの価格でしょう。スポーツハイブリッドi-MMDを搭載する際のコストアップは避けられず、「ステップワゴン」や「オデッセイ」は、ノーマルエンジン車に比べて、価格が47万円から58万円高くなっています。
ホンダの開発者は、「i-MMD搭載車が増えたこともあり、今では量産効果によるコスト低減も進みました。今後はコンパクトな車種にも搭載可能です」とコメントしており、スポーツハイブリッドi-DCDを搭載しているフィット、フリード、ヴェゼルといったモデルも、順次i-MMDに変更されると考えて良いでしょう。
新型フィットのi-MMD搭載車とノーマルエンジン車との価格差も、現行モデルと同様に40万円程度に抑えられるものと思われます。
「次は失敗できない」とホンダも気合が入っています。ハイブリッドに限らずメーカー同士が技術力で勝負すると、クルマが目覚ましく進歩して、ユーザーが得るメリットも大きいといえるでしょう。
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