この記事をまとめると
■所有しているだけで満足できるほど個性的なクルマを紹介
踏めばバカッ速なのになんだこの優雅さ! 大人の余裕を見せつけられる「ゆったりスポーツ」5台
■限定車や希少車であれば満足度が高い傾向にある
■数が少ないので手に入れるのは至難の業である場合も多い
ガレージにあるだけで気分最高潮!?
「それを持っているだけで幸せになれる」、などというと妙な壺やらインチキなキーホルダーなどを想起するかもしれません。ここでいうのは、「乗らなくとも」持っているだけで幸せになれるクルマ、つまり伝説的なレア車であったり、あまりにも美しくて目にするだけで眼福モノといったサンプル。旧車が高騰しているなか、せっかく手に入れるならこうした「幸せになれるクルマ」であれば、万が一ガソリンを売ってくれなくなっても、条例で週に1回しか乗れなくなっても、手元に幸せの源が残るという目論見。なかには手に入りづらいものもありますが、それだけにゲットしたときの喜びはひとしお。大きな達成感や満足感が、幸福感にブーストをかけてくれること間違いありません。
M2 1001
M2は、フォードのAVO(アドバンスド・ビークル・オペレーションズ)のようにマツダのグループ会社でありながら、コンプリートカー(その多くはAVO同様にパフォーマンスの向上がなされていました)を開発し、リリースしていました。活動期間はわずか4年という短命でありながら、初代ロードスターやAZ-1といったマツダ指折りのスポーツカーをさらにブラッシュアップしたことで、クルマ好きの記憶には深く刻まれていること、言うまでもないでしょう。
とりわけ、当時のロードスターオーナーの度肝を抜いたのがハイプロフィールカムシャフトやハイコンプピストン、さらにフライホイールの10%軽量化、ECUの最適化など、まさにメーカーでなければ難しいチューンアップの数々。おおよそ倍の値段(340万円)はしましたが、試乗した印象はまさに「別物」で、初代ロードスターのオーナーだった筆者は悔しさで歯を食いしばり、奥歯が砕けたほど(笑)。
クラブマンレーサーというのはこういうクルマを指すのだと、納得することしきりでしたが、やはり開発の中心人物だった立花啓毅さんのセンスや経験といったものが反映されていたことは誰もが認めるところ。似たようなカスタムが数多くフォローしましたが、本質は到底かなうものではなかったかと。
もちろん、限定300台ですからレア中のレア! デ・トマソ・マングスタとか924カレラとかのほうがよっぽど見つかりやすいくらい。なので「持ってるだけで幸せ」レベルは、こうした2台よりはるかに高いかと。探し出す価値は計り知れない1台といえるでしょう。
トミーカイラ M20b-2.2
トミーカイラ(現GTS株式会社)は、国内では数少ないフルコンプリートカービルダーとして名を馳せてきましたが、数あるコンプリートカー、はたまたチューニングカーのなかでも完成度や信頼性がずば抜けて高かったことが記憶に刻まれています。ターボチューンひとつをとってみても、やみくもにブースト圧をかけるのでなく、エンジンの特性やシャシーを考慮した最良のマッチングを見出すなど、単なる「改造屋」とは一線を画していることは確かでしょう。
彼らのマシンではキャブレター化した日産の4気筒エンジンをミッドに積んだ「ZZ」がもっとも有名かと思われ、「持ってるだけで幸せ」なのは明らか。ですが、ここはあえてスバル・インプレッサをドナーとしたフルコンプリート、M20b-2.2を推そうかと。だいたい、水平対向4気筒エンジンのフルチューンなんてスバルワークスのSTiとかWRCでおなじみのPRODRIVEくらいしか作っていません。しかも、トミーカイラの場合は2.2リッターへ排気量アップした手法がボアストローク93×79mmというロングストローク化! 言うまでもなく、中低速域のトルク向上を狙ったカスタムで、バランスが重要なコンプリートマシンらしいコンセプトではないでしょうか。
もちろん、トミーカイラといえば日産スカイラインのコンプリートカーが中心だったことは否めませんが、それゆえレアなスバルのコンプリートカーが輝きを増してくれるはず。M2同様、専用パーツをふんだんに使ったマシンなので、動態保存するのにも苦労することは目に見えていますが、完全消滅のM2よりははるかに恵まれているはず。乗ったらサイコー! なのは間違いないので、とにかく手に入れることから「幸せ」をスタートさせてみてはいかがでしょう。
希少車であればその価値はクラシックフェラーリと同等!?
ザガート・ガビア
編集部から当企画は国産車メインという指示があったので、ガビアを選ぶのにはいささかの躊躇もありました。それでも、この美しさあふれるボディを思い出せば「持ってるだけで幸せ」になれることは必定だと、あえてセレクト。なんといってもシャシーは日産レパードを使用していますから、ざっくり言えば「半分は国産」となるのでご容赦を。
ガビアはカロッツエリア・ザガートのレースカー部門「スクーデリア・ザガート」の創設30周年記念モデル、という建前がありますが、巷間よく言われるとおりオーテック・ザガート最初のコンプリートカー「ステルビオ」のためにザガートへ送られたレパードのシャシーを流用。つまり、ステルビオが300台限定だったのに100台ちょっとしか売れなかったので、悪く言えば「余りもの」よく言えば当節はやりのリサイクルとかSDGsみたいなこと(笑)。
とはいえ、シャシーは出荷前にオーテックが徹底的にフレームの強化や、ダンパーチューニングを施したもの。加えて、ガビアのデザインもザガートが1950~60年代に創りあげた優美な曲線オマージュですから、「ついでに作った」感はゼロといって差し支えないかと。
また、インテリアの造形もステルビオ同様、イタリアの工房で職人が手作りしているわけですから、同時代のマセラティと等しくうっとりするような出来栄え。シートに座っているだけでも「幸せ」を感じること請け合いです。さらに、この時代のカロッツエリアとしては標準的ですが、ボディがラッカー塗装というところも「所有感」を満たしてくれるものでしょう。独特のツヤやウエット感、塗料の軽さが垣間見える仕上がりは、維持することは面倒でも、ひと味もふた味も違った喜びが得られそうです。
国内には30台のうち16台が輸入されたとされていますが、いずれにしても手に入れるのは至難中の至難であることは間違いありません。それでもクルマの範疇を超え、もはや美術品の領域に入ろうとするクルマですから、ビンテージのフェラーリなどと同様に所有するだけでも価値のある1台にほかなりません。
スズキ X-90
個人的にはスティーヴ・マックイーンやダニエル・クレイグあたりが乗り込んで、浜辺を疾走なんてプロモがあったら、売れ行きは何倍にも伸びたのではないかと感じています。2シーター、Tバールーフ、しかも腰高の4輪駆動でオフっぽい香りすら漂うわけですから、現在のマーケットでも十分通用するパッケージ。
1348台と、担当者が目を覆わんばかりの販売成績は、2ドアのスペシャリティカーという位置づけにあったかもしれません。ハードそのものは、前述の通りビーチカーとかバハバグのようなファンバギー的な成り立ちですから、時代はスペシャリティカー(といっても終焉間近)だったとはいえ、惜しいことをしたものです。
ご存じのとおりシャシーはエスクードそのもので、ラダーフレーム構造ですから、いわゆる「上物を替えた」バリエーションとなります。それゆえ、エンジン、足まわり、前輪駆動システムなどすべてエスクードと共通(これはこれで、エスクードファンなら欲しくなる要素かもしれません)なので、走りの質は見た目を裏切る本格派といっても差し支えないでしょう。
ちなみに、前述のザガートもエスクードにほれ込んだようでカスタムカーを少量ながら製造販売していたことがあります(イタリアでエスクードはいまでも根強い人気があるようです)。
X-90は1995年発売ということもあって、前出の3台よりずっと手に入れやすいかと。また、不可思議な不人気によってプレミア化もされていないため、わりと正常な中古車価格が付けられているサンプルがほとんどです。晴れた日だけ、ガレージから押し出して、ガラスルーフ越しに空を見上げたりなんかしたら、それこそ「乗らなくても幸せ」な気持ちになれそうじゃありませんかね。
トヨタ・クラシック
トヨタの特装車両なんかを作っているトヨタ・テクノクラフトが1996年にリリースした100台の限定車。クルマ好きの皆さまからはハイラックスを切った貼ったで仕上げた「ハリボテ」などと叱られそうですが、じつはホテルや結婚式場といった「幸せセレモニー」を担う法人使用が少なくなかった模様。つまり、この「ハリボテ感」がアニメや漫画の世界観につながるようで、とても歓迎されているとのこと。
なるほど、新郎新婦を乗せたロールスロイスというのは絵になりますが、ちょっと格式ばったところもなくはない。一方で、トヨタ・クラシックのずんぐりむっくりしたところや、その名のとおりクラシカルでいくらかコミカルなフロントデザインはホッとする要素もあるのでしょう。
クルマ好きといえば、性能やデザインといったことに目を奪われがちではありますが、ときにはこうしたおだやかな存在感というか、肩の力が抜けているようなクルマもよろしいのではないかと。
市場的にはハイラックスの荷台を活かして、フェイスまわりだけクラシック化した「TCピックアップ」のほうが人気だそうですが、乗らずとも幸せになることを考えると、やっぱりトヨタ・クラシックに軍配を上げたくなります。もっとも、数少ないタマは軒並み400万円程度で、わりと強気な設定。ただし、法人使用が多かったことを考えればダメダメなクルマも少なそうなので(そもそもハイラックスは丈夫ですからね)、幸せの代価としては順当といえるかもしれません。
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