マイナーチェンジしたホンダのハイト軽ワゴン「N-BOX」に今尾直樹が試乗した。ここ数年、販売台数首位をキープするN-BOXの魅力は?
数字でわかるN-BOXの強さ
2020年も日本一売れた新車はホンダN-BOXだった。これで、軽自動車に限ると6年連続、登録車(軽規格ではない、普通のクルマ)を含む新車販売台数では、ホンダ初の4年連続日本一である。プロ野球の福岡ソフトバンクホークスとおなじだ。そう考えると、N-BOXの圧倒的強さもわかるのではあるまいか。
ちなみに、2020年の軽乗用車販売台数ベスト10を並べると、次のようになる。
1位 ホンダN-BOX 19万5984台
2位 スズキ・スペーシア 13万9851台
3位 ダイハツ・タント 12万9680台
4位 ダイハツ・ムーヴ 10万4133台
5位 日産デイズ 8万7029台
6位 スズキ・ハスラー 8万114台
7位 ダイハツ・ミラ 7万3462台
8位 日産ルークス 7万2820台
9位 ホンダN-WGN 6万9353台
10位 スズキ・ワゴンR 6万6061台
1位のN-BOXと2位のスズキ・スペーシアとのあいだには5万6133台もの差があることに注目していただきたい。どうしてN-BOXばかりこんなに売れるのか?
その謎を探るべく、3年目のフェイスリフトを受けて昨年12月25日に販売開始された新型N-BOXで都内を小一時間ほど走ってみた。
役員車にも最適!?
試乗車は、N-BOX カスタム L・ターボ コーディネートスタイルという長い名前の、いちばん高価な仕様で、価格は209万9900円もする。スズキ・スペーシア・カスタムのいちばん高いモデルが183万円5900円。ダイハツ・タント・カスタムのそれは188万1000円。N-BOXを含むどれにも4WDがあって、それはもうちょっと高いけれど、N-BOXがこのなかでダントツに高いことに注目である。
高い分でしょうか、軽自動車とはちょっと信じられぬクオリティを備えてもいる。後ろ姿なんてトヨタのハイエースかと思っちゃう。N-BOXの3サイズは全長3395×全幅1475×全高1790mmで、縦横比は1.2:1。ハイエースのワゴンのスーパーロングは全幅1880mmで全高2285mmだから大きさは違うけれど、縦横比は1.2:1だ。遠目だとハイエースと勘違いするのもむべなるかな。
今回の改良でカスタムは、右にオフセットしていたナンバー・プレートをセンターに置いている。最近の軽自動車は冷却性能を得るために、ライセンス・プレートがラジエターの真前にくるのを避けて、オフセットさせるスタイルが定着している。オフセットしていると、すぐに軽であるとわかっちゃうので、N-BOXカスタムでは、登録車とおなじ車体中央に配置。これは登録車から軽に乗り換えた、いわゆる“ダウンサイザー”が世間体を気にしなくて済むようにという配慮だそうだ。今は軽自動車でも白いナンバープレートが選べるから、コレを装着したら“登録車テイスト”がグンと高まるはず。いずれにせよ、長さ3.40m、幅1.48m、高さ2.00mという軽規格のなかで、これほどリッパに見えるクルマをつくっているのだから感心せざるを得ない。
世界最小級のこのワゴンのなかに、世界最大級の効率でもって広大な居住空間を確保していることがN-BOXの最大の強みだ。運転席、助手席の前席も広いけれど、後席は足元も頭上空間もめちゃくちゃ広い。運転席と助手席の下に燃料タンクを配置するホンダのM・M(マン・マキシマム/メカ・ミニマム)思想にもとづく「センター・タンク・レイアウト」と1790mmの全高が生み出した、びっくり仰天の広さ。
本田技研の青山本社には黒塗りのクラリティやレジェンドが待機しているけれど、N-BOXも使うべきです、と、進言したい。話題にもなるし、そうやって軽自動車の社会的なポジションを変えていくことも必要でしょう。
試乗車は前述したようにカスタムの「コーディネートスタイル」という、新たに追加となった最上級オシャレ仕様で、カスタムの場合、ホンダの軽自動車としては初のフル合皮シートを採用している。まるでスポーツカーみたいにエンジ色のスティッチまで入っていて、筆者なんぞは「おおっ」と驚愕した。この合皮シートはスズキ・ステーシア・カスタムが先行していたようで、あちらが合皮ならこちらも合皮、とシート表皮でもヒートした合戦が繰り広げられている。
スタンダード・モデルに較べるとリッパなグリルも、今回の改良でメッキが増えてさらにリッパになり、「コーディネートスタイル」ではメッキの処理がダーククロームに、1インチ・アップのアルミ・ホイールがブラック塗装+切削の黒光りタイプになる。まるでオウナーが好みでカスタマイズしたみたいに個性的だけれど、メーカーがカスタマイズしたカスタムというカタログ・モデルを用意するというのは日本独特の習慣(カスタム)ではあるまいか。
余談ながら、ホンダに限らず、最近のカスタムと称されるモデルはどれも鬼とか天狗、カッパ、ナマハゲ等、日本の古来の妖怪の類を思わせる怖い顔をしている。ここにも民俗学的な、日本独特の、たとえば、魔除とか家内安全とかの効果が期待されているのではないか、と、筆者は思ったりもする。
スイスイ走る
それはさておき、走り出してみれば、排気量たったの658ccにして、3気筒DOHCターボという精緻なエンジンが最高出力64ps /6000rpmと最大トルク104Nm/2600rpmを発揮し、CVTとの組み合わせによって、車重930kgの縦の比率の方が大きい四角いボディをスイスイ走らせる。
自主規制により軽自動車は64psにとどめられているので、リッターあたりの馬力は97psだけれど、この0.66リッター・エンジンを6.6リッターに換算すると、640psと1040Nmを発揮していることになる。
「ザ・ベスト・カー・イン・ザ・ワールド」のロールス・ロイスの6.75リッターV12は最高出力571ps、最大トルク900Nmである。あくまで計算上の話ですけれど、ホンダN-BOXの、いやさニッポンの軽のエンジンは、世界に誇りうる超高性能の量産ユニットなのだ。
乗り心地はサスペンションのストロークが感じられる一方、前後にスタビライザーを備えていて、全高が1800mm近くもあって、全幅は1475mmしかないのに高速走行でも安定している。レッドゾーンの始まる7000rpmまでぶんまわしても、エンジンの騒音がさほど高まることもない。
ホンダ・ユーザーのホンダ・ブランドへの“愛”
とはいえ、じつのところ筆者にはわからへんのです。なるほどホンダN-BOXは便利な生活の道具として、とことん考えられ、たいへんよくできている。
でも、スズキ・スペーシアとダイハツ・タントだって、たぶん、便利な生活の道具としてよくできている。スペーシアにはマイルド・ハイブリッド、タントには助手席側のBピラーがなくて、広い開口部を備えているという、それぞれライバルにはない、独自の特徴もある。価格もN-BOXよりお手頃で、どこで5万6133台もの差、平均すると毎月4677人以上ものひとたちがスペーシア、タント以上にN-BOXを選ぶのか、そこのところが謎なのである。
N-BOXの4年連続新車販売No.1獲得を機にホンダが行った、N-BOXユーザー500人とN-BOX以外の軽自動車ユーザー500人、合計1000人にたいするアンケート調査によると、N-BOXユーザーの満足度は、車内空間の快適性、運転のしやすさ、視界の良さ、室内の広さ、乗り降りのしやすさ、外観のスタイル・デザイン、安全装備の充実、乗り心地等、価格以外のすべてにおいて、N-BOX以外のユーザーよりもスコアが高かったという。
このジャンルの背高軽自動車ワゴンでは、筆者が考える以上に、車内空間の快適性、運転のしやすさ、視界の良さ、室内の広さといった実用性が最重要視されているのである。
買い換えについて、買い換え経験のある892人に質問したところ、N-BOXユーザーのおよそ3人にふたり、64.5%が「次もN-BOXを買いたい」と答えたというのは、N-BOXユーザーの要求を満たしている証と考えられる。これはN-BOX以外の軽自動車ユーザーの回答より10ポイントも高かったそうで、ホンダが主張するように「N-BOXユーザーはN-BOX愛がより強いよう」だといえるかもしれない。
ハードウェアの優劣については、N-BOX以外の軽自動車も一緒にテストして結論を出すべきなので、ここでは触れない。ただ、筆者が想像する、ホンダがこの調査では触れていない、N-BOXユーザーのN-BOX愛がより強いように思われる要因について、ひとつだけ指摘しておきたい。それはホンダ・ユーザーのホンダ・ブランドへの愛である。
もしも、“ダイハツ愛”や“スズキ愛”よりも“ホンダ愛”が強いとしたら、そのホンダ愛はどこから生まれているのか? F1からでしょう。と、筆者は申し上げたい。そのF1へのパワー・ユニットのサプライヤーとしての参戦を、2021年シーズンをもってホンダは終了する。「日本だけを相手にした日本一は真の日本一ではありません。(中略)日本だけの日本一はたちまち崩れ去ってしまいます。世界一であって初めて日本一となり得るのであります」と、主張した本田宗一郎が、創業5年有余にして出した「マン島TTレース出場宣言」に始まるホンダのモータースポーツ活動に、どれほどの若者がこころを震わせたことだろう。
F1活動の何度目かの終了が、N-BOXの売れ行きにどういう影響をおよぼすのか、あるいはなんの影響もおよぼさないのか……。
およぼさないとしたら、終了を決定することになったホンダの八郷隆弘社長だって、内心ちょっとさみしいにちがいない。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)
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みんなのコメント
縦長で安定感が無さそうな点は同じだけど