運営元:旧車王
著者 :木谷 宗義
1990年代は、クルマの世界が大きく変わった年代でした。
たとえば、安全性能や環境性能がまだそれほど厳しくなかった1990年代前半には、シトロエン「2CV」やサーブ「900」といった、20~30年以上も前にデビューしたクルマがまだまだ現役だったと思ったら、1990年代後半には今のミニバンブームにつながる日産「セレナ」や「エルグランド」が登場し、量産車初のハイブリッドカー、トヨタ「プリウス」も生まれています。
エンジニアリングの面でもユーザーニーズの面でも、20世紀から21世紀へと向かう、一大転換期だったのです。
そのため、この10年の間にはメーカーのチャレンジと試行錯誤によって生まれた、さまざまなモデルが登場しました。
とはいえ、そのすべてが成功し、名車と呼ばれるようになったわけではありません。
なかには、あまり日が当たらず、忘れられかけているクルマもあるものです。
前置きが長くなりましたが「1990年代 名車&迷車 烈伝」では、この時代に生まれた少々マイナーな名車&迷車にスポットを当てていきます。
第1回は、1991年に登場した三菱4代目「ランサー」です。
■1.3~2.0リッター、商用車からエボリューションまでランサーは、トヨタ「カローラ」や日産「サニー」ホンダ「シビック」など同じ1.3~1.5リッタークラスのコンパクトセダン。
3ドアハッチバックや2ドアクーペも用意された「ミラージュ」の兄弟車です。
4代目ランサーは、先代の5ドアハッチバックスタイルからセダンに変わった世代で、ランエボの愛称で親しまれるエボリューションシリーズが誕生したのもこのころ。
▲MX SALOON
▲MX LIMITED
1991年デビューといえば、その設計や開発がバブル期の真っ只中。
4代目ランサーも、実に贅沢に設計され、また多彩なバリエーションを誇っていました。
まずは、「そんなにあってどうするの?」と思うほどのエンジンバリエーションを見てみましょう。
・1.3リッターSOHC
・1.5リッターSOHC MVV(リーンバーン)
・1.5リッターDOHC(電子キャブレター)
・1.5リッターDOHC(インジェクション)
・1.6リッターDOHC MIVEC
・1.6リッターDOHC MIVEC-MD(気筒休止)
・1.6リッターV6 DOHC
・1.8リッターターボ
・2.0リッターターボ(エボリューション向け)
・1.8リッターディーゼルターボ(のちに2.0リッター化)
当時はまだほとんどのグレードでMT/ATが選べた時代。
▲1.6リッターV6 DOHCエンジンをはじめ、さまざまなバリエーションがあった
また4WD仕様もあり、パワートレインのバリエーションだけでも相当なものでしたが、さらに商用仕様、乗用仕様、スポーツモデル、競技向けモデルまで用意されたのですから、ラインナップの数は半端ではなく、これもこのクルマの名車&迷車性を物語っています。
▲RS
この時代のランサー/ミラージュのトピックとして、世界最小の排気量を持つ1.6リッターのV6エンジンがよく語られますが、ホンダのVTECと似た可変バルブタイミング機構を持つ「MIVEC:マイベック」や、それに気筒休止機構をつけた「MIVEC-MD」、リーンバーン(希薄燃焼)を追求した「MVV:Mitsubishi Vertical Vortex」も、このとき生まれた注目すべきパワートレイン。
MVVは、存在感こそ薄かったものの、のちのGDI(ガソリン筒内直噴)エンジンにつながる技術の1つでした。
■ディアマンテなみの豪華装備バブル期の設計といえば、作りのよさがよくいわれます。
メカニズム面では、リアサスペンションがマルチリンクの独立懸架で、4速ATには当時、このクルマではまだ珍しかった電子制御式(ファジィシフトと呼ばれた)、4WDにはVCU(ビスカスカップリング)センターデフ式が採用されていました。
一体成型のインストルメントパネルや贅沢にシート生地が貼られたドアトリムのインテリアも、当時の気前のよさを感じさせるもの。
フルオートエアコン車には「ディアマンテ」と同様に、作動状況を表示するカラー液晶のディスプレイがついていました。
▲ROYALのインパネ
1.8リッターターボを搭載する「GSR」は、MOMO製ステアリングやRECAROシートで装い、ラグジュアリーグレードの「ROYAL」にはパワーシートや空気清浄機、植毛ピラーなどを装備。
▲ROYALのインテリア
グレードによって、まったく異なるキャラクターを持たせていたのも、特徴でした。黒バンパーにビニールシート、パワステ・パワーウィンドウがオプションというグレードがあったのも、おもしろいところです。
▲GSRのインパネ
▲MVVのインパネ
これだけグレードの幅が広いモデルだけあって、価格レンジも90万~240万円台ほどと広く、廉価グレード、普及グレード、ラグジュアリーグレード、スポーツグレードはそれぞれ、形が同じだけで別のクルマと言っても過言ではないかもしれません。
さらに「GSRエボリューション」は270万円以上と、「ギャランVR-4」に迫るプライスタグがつけられていました。
■気合い十分も販売は・・・贅を尽くして開発された4代目ランサー。
しかし、気合い十分で臨めば売れるかというと、そううまくいかないのがクルマの世界というものです。
ここで、1992年の乗用車販売台数ランキングを見てみましょう。
1位:トヨタ カローラ
2位:トヨタ マークII
3位:トヨタ クラウン
4位:ホンダ シビック
5位:日産 サニー
6位:トヨタ スターレット
7位;トヨタ カリーナ
8位:トヨタ コロナ
9位:日産 マーチ
10位:トヨタ スプリンター
なんと、ベスト10にも入っていなかったのですね。
当時を知っている人なら、「知ってはいるけれど、あまり見かけないクルマ」という印象を持っているかもしれません。
▲MR
世界最小のV6エンジンなど話題性はありましたし、WRC(世界ラリー選手権)で活躍したエボリューションはクルマ好きを心酔させる魅力を持っていましたが、カローラクラスのセダンとしては決してメジャーな存在とはなりませんでした。
だからこそ、名車かつ迷車として取り上げたかったのです。
2022年12月現在、中古車情報サイトに載るランサーは、エボリューションを除くと十数台。
▲GSRエボリューション
そのなかで、この4代目はわずか1台しかありません。
それも、GSRのエボ仕様です。
MXサルーンをはじめとしたノーマルモデルは、ほぼ絶滅状態となってしまいました。
まさに1990年代の悲哀に満ちた名車&迷車だったといえるでしょう。
[画像:三菱自動車/ライター:木谷宗義]
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みんなのコメント
…良いクルマでしたけど…やっぱりエボ買ってしまいました。