マツダのフラッグシップ(旗艦)モデルといえば、MAZDA(マツダ)6が挙げられる。マツダブランド伝統のセダン「カペラ」が2002年に「アテンザ」へと車名変更、そのアテンザも2019年にマイナーチェンジを実施した際に「マツダ6」へと改名し、現在に至る。
マークII(マークX)やレガシィB4が絶版となり、アコードやスカイライン、フーガがめっきり売れなくなり、クラウンですら「次期型はSUVになるのでは」という報道が流れるなかで、マツダ6はすでに次期型の開発と発売が予告されている。
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この国産セダン超逆風のなか、マツダ6に勝算はあるのか? そもそも現行マツダ6の今のポジションってどんなところなのか?? マツダを愛するがゆえに厳しい指摘を続ける渡辺陽一郎氏に伺った。
文/渡辺陽一郎 写真/MAZDA
【画像ギャラリー】マツダ6のこれまでの歩みと次期型予想CGをチェック
■8年以上マツダ6はフルモデルチェンジが見送られている
クルマがフルモデルチェンジを行うサイクルは、最近長引く傾向にあるが、一般的には5~7年だ。ところがマツダ6は、2012年にアテンザの車名で発売され、既に8年以上を経過した。
初代アテンザ (2002年発売)SPORT「20F」
共通のプラットフォームを使う先代CX-5は、アテンザと同じ2012年に発売されて、2017年には現行型へフルモデルチェンジされた(発表は2016年)。それなのにマツダ6は、2018年に規模の大きな改良を行ったものの、フルモデルチェンジは受けていない。
2007年発売2代目アテンザセダン
2007年発売 2代目アテンザセダンインパネ
この点について2018年当時、開発者は次のように述べた。
「SUVのCX-5とセダン&ワゴンのアテンザでは、海外を含めて売れ行きが異なる。商品戦略も変わり、アテンザはフルモデルチェンジを実施しないで大幅な改良を行った」。
この後、2019年にも改良を施して、直列4気筒2.5Lガソリンターボエンジンを加えた。車名はこの時にアテンザからマツダ6へ変更されている。
2020年12月に一部改良を実施した現行型マツダ6
現行型マツダ6セダン「25T S Package」インテリア
そして2019年に実施されたマツダの決算会見で、新しい直列6気筒エンジンと、このエンジンを縦向きに搭載する後輪駆動のプラットフォームが明らかにされた。
後輪駆動だからLサイズのボディを備えた上級車種に採用され、次期マツダ6が該当する。つまりマツダ6のフルモデルチェンジが見送られた背景には、前輪駆動から後輪駆動へ、という変革があった。
■次期型は後輪駆動車か⁉
気になるのは、後輪駆動を採用する次期(新型)マツダ6の発売時期だが、2022年4月頃になる可能性が高い。マツダの販売店では以下のように述べている。
「次期マツダ6の詳細な情報は、メーカーから聞いていない。しかし直列6気筒エンジンの後輪駆動車という概要は、既にメーカーが明らかにした。お客様からの問い合わせも多い。期待の新型車だから、今後の発売時期なども公表して欲しい」。
先代CX-5と現行マツダ6(当時はアテンザ)が発売された時、マツダは魂動デザインとスカイアクティブ技術に関して、詳細な説明を行った。魂動デザインについては、デザイナーから以下のような話を聞けた。
「野性のチーターは、生きるために獲物をねらって走るから、ムダな動きがなくて美しい。この姿をクルマに取り入れられないか、と考えた。そこで見えてきたのが背骨の存在だ。
ボディの前後方向に、軸を通すデザインが大切になる。そして動物が疾走する時に、前足を強く動かすことはない。荷重が後ろ足に加わった状態でダッシュする」。
このコメントで語られたボディスタイルは後輪駆動だ。スカイラインの生みの親として知られる故・櫻井眞一郎氏も「野性動物は後ろ足で大地を蹴り、前足で方向を変える。従って後輪駆動が自然の摂理に合っている」と述べている。クルマの形状や駆動方式に関して野性動物を引用すると、それは後輪駆動になる。
そして前述の話を踏まえて現行マツダ6の外観を眺めると、前輪駆動車でありながら、後輪駆動のデザインを追求していることが分かる。今はエンジンを横向きに搭載する前輪駆動車だから、縦置きの後輪駆動車のように前輪を前方へ押し出したボディ形状にはなっていない。
現行型マツダ6フロント
現行型マツダ6リア
しかしフロントピラー(柱)とウインドーは可能な限り手前(室内側)に引き寄せられ、ボンネットを長く見せている。トランクフードは短く、いわゆる「ロングノーズ・ショートデッキ」の形状だ。
2012年当時、開発者やデザイナーの説明を聞いてマツダ6の外観を眺めると、彼らが可衰想に思えてきた。本当は後輪駆動車を造りたいのに、与えられたのは前輪駆動のプラットフォームで、涙ぐましい苦労をしているように感じたからだ。
■ようやくマツダが理想とする次期マツダ6の開発が進んでいる
マツダ6の運転感覚も同様で、ステアリングの操舵角に忠実にボディが内側を向く性格を重視する。開発者からは「メルセデスベンツW124の走りが参考になる」という話も聞いた。
W124は1980年代から1990年代に製造されたEクラスのことで、当時既に古い車両だったが、前側を下げた姿勢で回り込む走りにはドライバーとの一体感が伴う。運転の仕方を間違えると、後輪の横滑りを誘発しやすかったが、上質な運転感覚が特徴だった。このW124も後輪駆動だ。
「そこまで言うなら、開発者やデザイナーに、後輪駆動車を造らせてあげればイイじゃないか!」。
そこでマツダはなぜ中級以上の車種に後輪駆動を採用しないのか、副社長(当時は執行役員)の藤原清志氏に尋ねると「後輪駆動とするには、いろいろな理由から困難がともなう」と返答された。
それがようやく、マツダから無理をしないで開発できる後輪駆動車が登場する。
後ろ足で蹴り上げるボンネットの長い外観デザイン、左側にオフセットされることが皆無なペダル配置、人馬一体の運転感覚など、マツダが理想とする次期マツダ6の開発が進んでいる。
■セダン&ワゴンだからこそ後輪駆動が生きる!
後輪駆動になる次期マツダ6の売れ行きは分からない。今はセダンとワゴンの販売が激減して、マツダ6の2020年における登録台数は、1か月平均248台であった。CX-5の2019台に比べると、約12%の販売規模だ。
多額の資本を要する後輪駆動のプラットフォームと縦置き前提の直列6気筒エンジンを開発して、マツダの経営は果たして大丈夫なのか? とも思う。
それでも開発する以上は成功して欲しい。今どきマツダ6を後輪駆動に変更するのは、時代錯誤のように思えるが、クルマ好きとしてはロマンを感じる。良い意味で昭和の香りも漂い、すがすがしさもある。
次期マツダ6フロントデザイン(ベストカー編集部作成の予想CG)
マツダ6が後輪駆動になると、CX-5やCX-8も連動して後輪駆動、あるいはこれをベースにした4WDになる可能性が高いが、主力はあくまでもマツダ6にすべきだ。後輪駆動を採用する根本理由は、優れた走行性能と外観のカッコ良さにあり、それは天井が低く低重心のセダン&ワゴンでこそ実現できるからだ。
特にセダンは後席とトランクスペースの間に隔壁や骨格があり、ボディ剛性を高めやすい。そのためにセダンであれば、走行安定性と乗り心地のバランスを究極的に向上できる。そこに前後輪の荷重配分が優れ、操舵輪と駆動輪を区分できる後輪駆動を組み合わせると、さらなる相乗効果が得られるわけだ。
次期マツダ6 リアデザイン(ベストカー編集部作成の予想CG)
そうなると次期マツダ6の訴求点は、「カッコ良さと運転の楽しさ」になりそうだが、そこは一考を要する。大切な魅力だが「カッコ良さと運転の楽しさ」だけでは弱いからだ。
セダンとワゴンは、機能的には前述の通り走行安定性と乗り心地が優れ、いい換えれば安全性と快適性が高い。この2つの要素は、今のトレンド技術とされる衝突被害軽減ブレーキなどの安全装備と、運転支援機能を始めとする快適装備に重なる。セダンやワゴンは古臭いボディ形状と見られがちだが、安全と快適に優れ、時代のニーズと親和性が高いことをアピールすべきだ。
■次期マツダ6はマツダに相応しい有意義なチャレンジといえる
最近はクラウンがSUVに変更される噂もあるが、これもやめるべきだ。クラウンは長年にわたり、日本の道路環境に適した安全と快適を追求しており、それはセダンボディがあって実現できたからだ。
SUVにすれば流行に乗って売れ行きは伸びるだろうが、重くて高重心のボディではクラウンではなくなる。ハリアーの上級車種を開発したいなら、それは別の車名にすべきだ。
今はセダンの選択肢が激減して、マツダではマツダ3とマツダ6しか用意されない。トヨタもレクサスを除くと、一般ユーザー向けのセダンはカローラ/クラウン/カムリだけだ。
ここまでセダンが減ると、商品開発次第ではチャンスになる。「セダンが売れない」と言われるが、2020年の輸入車登録台数ランキングでは、BMW3シリーズがメルセデスベンツAクラスやVWゴルフに続いて5位に入り、Cクラスも9位だ。
従って優れたセダンを開発すれば、むしろ目立つこともある。「セダンが売れない」と言われるほど、セダンは嫌われていないからだ。
セダンの販売に陰りが見えた時、販売のテコ入れを行わず、商品開発を諦めたから市場規模が大幅に縮小した。「セダンを売れなくした」と考えるのが正しい。
セダンとワゴンが窮地に立たされる今、後輪駆動になる次期マツダ6は、マツダに相応しい有意義なチャレンジだ。マツダは果たしてセダンを救えるのか! 次期マツダ6に期待したい。
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