日本ではあまり耳慣れないが、『シューティングブレーク』というカテゴリがある。形はステーションワゴンに似ているが、もっとスポーティーでスマートで、ヨーロッパなどでは人気のカテゴリのひとつだ。
しかしこのシューティングブレーク、日本ではあまり見かけない。そこで、もっとシューティングブレークのかっこよさを知ってもらうため、世界のシューティングブレーク展覧会を開いてみた!
クルマ選びに新たな選択肢誕生!! アルテオン シューティングブレークはオトナに似合う美麗ワゴンだ!!
※本稿は2021年11月のものです
文/島崎七生人、写真/ベストカー編集部 ほか
初出:『ベストカー』2021年12月26日号
[gallink]
■クーペ風の高級なステーションワゴン!?
クルマの歴史を考えると当然だが、自動車の形状をあらわす言葉には馬車由来のものが多い。シューティングブレークもそのひとつだ
名称からも空気が伝わってくるように、シューティングブレークは優雅でエレガントなクルマである。毎日スーパーの買い物に使いますでも、道具をしこたま積み込んでアウトドアを楽しみますでもない、生活感のなさそうな、サラッとした生活スタイルを送るオーナーが似合う。
実は日本車でもカローラ/スプリンターリフトバック、アコードエアロデッキなど、それ風のクルマがなくはなかった。が、見合った乗り方が定着しないまま販売に結びつかず消えた経緯がある。
一方、輸入車は、あのアウディTTのショーモデルもあったほどだし、アストンマーティンラゴンダ、ジャガーの改造車などもあった。SUVの使いやすさはもはや鉄板だが、ある種のマイペースさで次にブームが来るかも?
●シューティングブレークとは?
筆者も生まれる前のことだから自分の目で見たわけではないが、辞書的な解釈でいうと、シューティングブレーク(Shooting Brake)の呼び名は、ザックリというと、イギリスで(然るべき階級の人たちが)狩猟で使うために作られた馬車のことをそう呼んだのが始まり。
転じて時代がクルマになると、今度はロールスロイスなどをベースに、少量生産の改造車が作られるようになった。少し細かくいうと、猟銃や弾薬などの狩猟のために必要な装備や、猟犬、獲物などが乗せられるような仕立て。
なかには、今でも自衛隊車両で見かけるような、人が横向きで対面で座れるように対面でベンチシートを備えるタイプなどもあった。
さらに時代がすすみ、今に繋がるシューティングブレークが誕生するようになる。狩猟用という本来の用途は形骸化しつつも、ステーションワゴンとも違う、ちょっと贅沢な位置づけで希少性もあるスタイリッシュなクルマのことをシューティングブレークと呼ぶようになった。
■日本車はゼロ!! 現在販売中の世界のシューティングブレーク
■VW アルテオン シューティングブレーク
VW アルテオン シューティングブレーク
VWのフラッグシップ、アルテオンに設定されるモデル。ベースのアルテオンはサッシュレスドアにファストバックのシルエットを持つ時流に乗った5ドアクーペだが、追加設定されたシューティングブレークは、分類上はワゴンまたはハッチバックの扱い。
ルーフラインは後方に伸ばされつつもなだらかに下降、反対に次第にハネ上がっていくサイドウィンドウ下端のラインとともに、引き締まったリアクオーター~リアエンドの造形をみせる。2L TSIエンジンに4WDの4MOTIONを組み合わせる。
●シューティングブレーク度:★★★★☆
■ポルシェ パナメーラ スポーツツーリスモ
ポルシェ パナメーラ スポーツツーリスモ
4ドアセダンの位置づけのパナメーラをベースに、ルーフをより後方まで延ばしワゴン要素を高めたモデル。
全長×全幅×全高=5049×1937×1422mm、ホイールベース2950mmとかなり立派なボディサイズだが、2.9LのV6ツインターボのGTSスポーツツーリスモの0-100km/h加速は3.9秒。
●シューティングブレーク度:★★★★☆
■ポルシェ タイカン クロスツーリスモ(日本未発売)
ポルシェ タイカン クロスツーリスモ(日本未発売)
ポルシェ初のフルEVとして登場したタイカンに、スポーツセダンに次いで設定されたのがこのクロスツーリスモ。車高調整が利くエアサスを備え、グラベルモードが用意されるなど、SUV的な性格も与えられている、まさにクロスオーバーなクルマだ。
モデルは4、4S、ターボ(b)の3タイプがあり、このうちターボの最大出力は約625ps、ローンチコントロール時オーバーブースト出力で約680psに達する。ポルシェらしいスペックの持ち主だ。
●シューティングブレーク度:★★★★★
■BMW MINIクラブマン
BMW MINIクラブマン
ミニのエステートワゴンではあるが、ラゲッジスペースは積載容量だけを売りにした作風ではなく(といっても360~1250Lの容量を確保している)、シューティングブレーク的なクルマとも見なせる。
リアスプリットドアと呼ぶ、両開きの少し斜め上向きに開くバックドアは、クラシックミニ時代のカントリーマンのそれを受け継いだスタイルで、この『粋さ加減』がミニクラブマンの魅力。3気筒ガソリン、ディーゼル、4WDがある。
●シューティングブレーク度:★★★☆☆
■フェラーリ GTC4ルッソ(日本未発売)
フェラーリ GTC4ルッソ(日本未発売)
いかにもフロントエンジンのクーペを改造したかのような典型的なシューティングブレークルックのGTC4ルッソは、FF(フェラーリ・フォー)の後継車種として2016年に登場。2+2の4シーターであるのはクーペ系と同様だが、リアゲートと実用になるラゲッジスペースを持つのが特徴。
6262ccのV12を搭載、AWDが組み合わせられる。残念ながら、すでに生産は終了しているが、本国イタリアでは在庫車を販売中。
●シューティングブレーク度:★★★★★+
■メルセデスベンツ CLA シューティングブレーク
メルセデスベンツ CLA シューティングブレーク
最も身近なメルセデスベンツであるAクラスと同じエンジン横置き&FFプラットフォームをベースに、より流麗なボディを纏うCLA。クーペスタイルの4ドアとともに用意されるのがこのシューティングブレーク。コンパクトなボディながらインパクトのある姿が味わいどころ。
●シューティングブレーク度:★★★★☆
■ジャガー XFスポーツブレーク
ジャガー XFスポーツブレーク
ジャガーのサルーンではミドルレンジを受け持つXF。そのバリエーションとして2017年に登場したのがスポーツブレークだ。『ブレーク』はシトロエンなども用いるワゴンの呼称のひとつだが、XFスポーツブレークも565~1700Lのラゲッジスペースを持ち、ワゴンとしての実用性もシッカリと備える。
かつてのXタイプにはワゴンがあったが、今はないから、希少な多用途車ではある。
●シューティングブレーク度:★★★☆☆
■ジェネシス G70シューティングブレーク(日本未発売)
ジェネシス G70シューティングブレーク(日本未発売)
韓国ヒョンデ社の高級車ブランド「ジェネシス」のG90、G80に次ぐDセグメントのモデルとして用意されるのがG70。2017年に登場しており、2020年には早くも大幅改良を実施し、その後、シューティングブレークが追加された。
写真などで見る限り、スポーティというよりもオトナの味わい、渋味を醸し出した存在感がある。なおヒョンデは、EVブランドのIONIQを立ち上げている。
●シューティングブレーク度:★★★☆☆
■かっこいいけどもう買えない! 歴代のシューティングブレーク
●BMW Mクーペ
BMW Mクーペ
オープンスポーツとして登場したZ3のハードトップモデル。デザインはまさしくシューティングブレークそのものだった。
●キャラウェイ コルベット・エアロワーゲン
キャラウェイ コルベット・エアロワーゲン
アメリカのキャラウェイカーズが製作するシューティングブレークのコルベット。ミドシップ化した新型C8へ代替わりしたため新車は入手不可。
●アストンマーティン ザガート シューティングブレーク
アストンマーティン ザガート シューティングブレーク
デザインカロッツェリアのザガートがデザイン。ベースはヴァンキッシュ・ザガートであり、99台限定で販売された。
●メルセデスベンツ CLS シューティングブレーク
メルセデスベンツ CLS シューティングブレーク
2011年登場のCLSは1年後にシューティングブレークを追加。荷室底面に木製フロアをオプションとして選ぶこともできた。
●ボルボ P1800ES
ボルボ P1800ES
1972年に登場。荷室の広さはもちろん、後のC30に引き継がれたオールガラスリアハッチなども初採用された。
●ジャガー XJ-S リンクス・イベンター
ジャガー XJ-S リンクス・イベンター
イギリスのリンクス社がジャガーXJ-Sを架装、67台が製作された。その流麗なデザインで全世界から注目の的となった一台である。
●ロータス エリート
ロータス エリート
エリートは2代目でシューティングブレークに変身し高級路線へ。ただ社会情勢も重なり販売は伸びず。
●リライアント シミターGTE
リライアント シミターGTE
スポーツカーとワゴンの長所を組み合わせ1968年登場。その後モデルチェンジを重ね1986年まで生産された。
●ボルボ C30
ボルボ C30
2006年発売。ボルボのエントリーモデルとして作られ、リア回りはP1800ESのような大型ガラスハッチが採用された。
●フェラーリ FF
フェラーリ FF
フェラーリ初となるシューティングブレークで6.2L V12(660ps/69.6kgm)を搭載。2016年まで生産し、後継をGTC4ルッソへと譲った
■まとめ
本企画担当、「次はシューティングブレークのブームが来る!」と言い続けてかれこれ5年以上。まったくその気配がない。
スポーティで実用性も高いとなればやらない理由はないはずなのに、なぜか日本では新車が出ない。いまだにアコードエアロデッキやカローラ/スプリンターリフトバックの写真がページを飾るというのはどういうことなのか?
ベストカーは声を大にして国産メーカーに聞きたい。「シューティングブレークを避ける理由はなんですか!?」と。「売れそうにないから……」とか答えた日には「夢がないんか!」と気合を入れてやる。
日本は新庄ビッグボスの時代に変わっているのだからクルマも変わらなければ。そのためにはシューティングブレークが必要なのだ!
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