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変わる「軽バン」なぜ大合併? 褪せぬ最強の実用性と転機迎える働く車の新事情

掲載 更新 38
変わる「軽バン」なぜ大合併? 褪せぬ最強の実用性と転機迎える働く車の新事情

 2021年9月1日に、軽商用バンのスズキ エブリイとエブリイワゴンが一部改良を行った。法規の対応も視野に入れ、ライトを自動的に点消灯させるオートライト、横滑り防止装置を全車に標準装着している。そこで改めて軽商用バンについて考えたい。

文/渡辺陽一郎、写真/SUZUKI、DAIHATSU、HONDA、編集部

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今やスズキ、ダイハツ、ホンダしか作らない軽バン

2021年9月13日、スズキ エブリイは法規整備と安全装備を充実させ、一部改良を行った。OEM車は日産 NV100クリッパー/マツダ スクラムバン/三菱 ミニキャブバンである

 まず軽商用バンで注目されるのは、OEM車を除くと3車種しか用意されないことだ。スズキ エブリイ、ダイハツ ハイゼットカーゴ、ホンダ N-VANに限られる。

 このうち、エブリイとハイゼットカーゴは、後輪駆動をベースにした軽商用車専用のプラットフォームを使う。N-VANは軽乗用車のN-BOXをベースに開発され、駆動方式も前輪駆動と4WDになる。

 そしてエブリイは、OEM車として日産 NV100クリッパー/マツダ スクラムバン/三菱 ミニキャブバンとしても販売されている。乗用車メーカー8社のうち、供給元のスズキも含めると、4社が実質的に同じクルマを扱っている。

 ハイゼットカーゴも、スバル サンバーバン、トヨタ ピクシスバンとして2社に供給され、ダイハツも含めると3社が販売する。

ダイハツハイゼットカーゴのOEM車はスバル サンバーバン、トヨタ ピクシスバンである。2021年8月における月平均届け出台数はOEM車分を含めて7523台だった

 2021年1~8月の1か月平均届け出台数は、エブリイが5102台だったが、OEM車のNV100クリッパー/スクラムバン/ミニキャブバンを加えると8314台に達する。エブリイバン+OEM車の販売総数は、乗用車でいえばスズキ ハスラーの7638台を上まわる。さらにワゴン仕様まで加えると月平均1万370台だから、スペーシアの1万2373台に迫る売れ行きだ。

 ハイゼットカーゴの2021年1~8月における月平均届け出台数は5898台で、OEM車も加えると7119台だ。ハイゼットカーゴ系はワゴンが少なく、これを加えても7523台だが、タフトの5329台は大幅に上まわる。

スバルやマツダも自社開発撤退 「軽バン大合併」の裏側にある事情とは?

ハイゼットカーゴのOEM車であるスバル サンバーバン。以前は自社で軽乗用車、軽商用車の開発から販売までを行っていた。しかし、近年の安全装備義務化などでコストも高まったため、開発/生産から撤退をした

 このように乗用車とは異なる後輪駆動の専用プラットフォームを使う軽商用バンは、OEM車も生産するから成立する。軽自動車は薄利多売の商品だから、独自のプラットフォームを使うとなれば、月平均で7500~1万台は生産する必要があるわけだ。そのために後輪駆動ベースの軽商用車を生産するメーカーは、スズキとダイハツのみになった。

 かつては三菱、マツダ、スバルも、軽乗用車と軽商用車を自社で開発/生産して販売も行っていた。しかし近年では、軽自動車も安全装備の義務化などが行われてコストも高まり、メーカーは選択と集中を迫られるようになった。

 そこで上記の3メーカーも、軽商用車については、開発と生産から撤退した。ただし販売まで終えてしまうと、顧客が他社に流出して、車検/修理/保険などの仕事まで失う。軽自動車の開発と生産は終えても、顧客は手放したくないので、OEM車を導入して穴を埋めるわけだ。

 ホンダも従来は後輪駆動のアクティバンとワゴンのバモスを用意したが、前述の事情により、もはや独自のプラットフォームを備えた軽商用バンは生産できない。

 そうなるとスズキやダイハツのOEM車を導入する方法もあるが、今のホンダは、ほかのメーカーとOEM関係を結んでいない。そこでN-BOXをベースに、軽商用車のN-VANを自社開発した。N-VANの届け出台数は、1か月平均で2482台と少ないが、1万8000台近くを販売するN-BOXと基本部分を共通化したから成立する。

新しい軽バン ホンダ N-VAN独自の魅力

N-BOXをベースに開発されたホンダN-VAN。駆動方式が前輪駆動ということもあり、エブリイとハイゼットカーゴと比べ、荷室長が短く設計されている

 エブリイとハイゼットカーゴは、両車ともにエンジンを前席の下に搭載して後輪を駆動する方式だ。そのためにボディの前側が短く抑えられ、荷室長を長く確保できた。

 後席を使わない状態の室内長は、エブリイが最大で1910mm、ハイゼットカーゴも1860mmに達する。全長は両車ともに3395mmだから、エブリイでは、全長の56%を荷室長が占める。

 一方、N-VANの荷室長は1510mmだ。N-VANはN-BOXをベースに開発されたので、エンジンは前席の下ではなくボディの前側に搭載する。従って荷室長がエブリイに比べて400mm短い。比率に換算すれば、N-VANの荷室長はエブリイの79%に留まる。商用車では決定的な欠点だ。

 ちなみにN-VANの前身となるアクティバンは、エンジンを荷室の下に搭載して後輪を駆動した。そのためにボディの前側が短く、荷室長は1725mmだった。エブリイやハイゼットカーゴに比べると短いが、N-VANよりは200mm以上長い。

 つまりアクティバンのユーザーがN-VANに乗り替えると、従来は積載できた荷物を積めない心配が生じる。そこに不満のあるユーザーは、アクティバンから、エブリイやハイゼットカーゴに乗り替えてしまう。

N-VANの欠点であった荷室長を補うため、左側ワイドに開くスライドドア、助手席の格納機能を搭載した。助手席を畳むことで、荷室長2635mmまで伸び、細長い荷物を積むことが出来る

 そこでN-VANには、荷室長が短い欠点を補うため、エブリイやアクティバンとは異なる独自の特徴が必要だった。それが左側のワイドに開くスライドドアと、助手席の格納機能だ。

 N-VANの左側のピラー(柱)は、N-BOXとは異なり、スライドドアに内蔵される。そのために左側のドアを前後ともに開くと、開口幅が1580mmに広がる。タントにも同様の機能が備わるが、開口幅は1490mmだから、N-BOXがワイドだ。

 またN-VANでは、後席に加えて助手席までコンパクトに畳めるから、運転席以外はすべてフラットな荷室に変更できる。幅の広い荷物を積む時の荷室長は前述の1510mmに留まるが、カーペットのような細長い荷物であれば、助手席を畳むことで2635mmの長さまで対応できる。

 そして助手席を畳んで左側のドアを全開にすれば、長い荷物をリヤゲートからではなく、ボディの左側面から積むことも可能だ。小さなダンボール箱をたくさん積み降ろしするような時も、ワイドに開くボディの左側面とリヤゲートの両方を使えば、数人のスタッフによって素早い作業が行える。

 このようにN-VANは、ワイドに開く左側のドアと助手席の格納機能により、軽商用車として新しい使い方を生み出した。今では荷物のサイズや個数、用途などに応じて、N-BOX、エブリイ、ハイゼットカーゴとそのOEM車を選び分けられる。軽商用車は少数精鋭で、日本の物流を支えている。

迫る電動化への対応 過渡期迎えた日本独自の軽バン

EVの軽バンとしては三菱のミニキャブミーブが発売されている(全長3395×全幅1475×全高1915mm)

 そして今後必要とされるのが、ハイブリッドや電気自動車への対応だ。軽乗用車にも当てはまる話だが、軽商用車もビジネスを支える一種のライフラインになっている。低価格で購入して、少ない維持費で所有できる軽商用車があるからこそ、仕事を続けられるユーザーも多い。

 そのためには、価格が35万円以上高まるストロングハイブリッド、補助金を加味しても50万円以上の上乗せになる電気自動車では、軽商用車のニーズをカバーできない。

税金を高めずにエンジン排気量を800cc前後に最適化するといった規格変更もおこない、軽商用車のハイブリッドを含めた電動化と、2030年度燃費基準に対応する必要がある。ユーザーを困窮させない新車価格を具体的にいえば、現状と比較して、20万円の上乗せが限界だろう。

 先ごろトヨタでは、電気自動車の開発に際して、電池単体でコストを30%以上低減する方針を打ち出した。軽商用車のニーズに応えながら、電動化を達成するためにも、電池を中心とした今後の合理的な開発と生産コストの低減が重要になる。

 そこを乗り越えられると、軽商用車と電動化の親和性は良好だ。特にエブリイのようなワンボックスに近いボディを備えた後輪駆動車では、平らな床の下には空間がある。そこに駆動用リチウムイオン電池や制御機能を搭載できる。

 最近発売された電気自動車やプラグインハイブリッド車を見ると、海外の商品を含めてSUVが多い。これもルーフが高く、床下に駆動用電池を搭載する空間を生み出しやすいからだ。三菱 ミニキャブミーブも、軽商用車規格の電気自動車で、モーター、駆動用電池、制御機能をすべで平らな床の下に収めていた。

 軽商用車の電気自動車は、街中の配達などを中心に使われるので、1回の充電で走行可能な航続可能距離が短くても許容されることが多い。事業所などに戻る度に充電すれば、走行を続けられる。そして軽自動車のサイズなら、混雑した街中や駐車場でも運転しやすい。

 そして、街中で使う場合、走行段階で排出ガスを発生させず、ノイズが小さいことも大きなメリットになる。排出ガスを発生させなければ、倉庫内の移動も気兼ねなく行える。このように軽商用車と電気自動車のメカニズムは、相性が抜群に良い。

 軽商用車(軽トラックを含む)の届け出台数は、日本で新車として販売される商用車の約半数を占める。日本の物流にとって不可欠の存在だから、電動化や燃費基準への対応に際しても、経済性を含めて軽商用車を尊重する必要がある。

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