スズキのオールグリップのしくみ

Question

オートモードでは通常は4WDでなくFF(スタンバイ4WD)で、スノーやロックなどでは基本4WD。
ではスポーツモードではスタンバイ4WDなのですか？

Answer 1

ALL GRIPのスポーツモードは、オートモードよりも後輪の稼働が増え、ギアボックスや電子デバイスの関与度合いが変わります。分かりにくいと思うので、それぞれのモードについて説明しますね。少し長くなりますが、最後までお付き合いいただけましたら幸いです。

■ オートモード

通常走行は、ほぼFFで走行し、前輪が空転したり急加速すると、自動的に後輪に駆動力の配分を高めて4WDになり、平常に戻ると2WDに戻ります。
現行エスクードのようなFFベースのスタンバイ式4WDの場合、エンジンの出力は前輪に直結しており、そこからプロペラシャフトでリアに駆動力を伝えますが、その間に「電子制御カップリング」という装置が挟まれています。この装置の油圧を上げると後輪が前輪と直結に近づけようとして四駆になり、油圧を下げると後輪へはエンジン出力が伝わらずFFになります。各種センサーにより、電子制御で自動的に前後トルク配分をコントロールします。

■ スノーモード

スノーモードといいつつ、主にアイスバーンを想定しています。スノーモードにすると、後輪への駆動配分も高めますが、同時にTRC(トラクション・コントロール)の介入を強めます。TRCはアイスバーンなどで、エンジン出力を絞ることでアクセルの踏みすぎによるタイヤの空転を自動制御する優れた電子デバイスです。
一方、深雪等ではTRCが邪魔です。深雪では重たい雪の中でタイヤを空転させながらエンジン出力を上げてグイグイとラッセル走行して進みますが、TRCが介入するとエンジン出力をクルマが勝手に絞ってしまうので、アクセル踏んでもクルマが動かなくなってしまうのです。この場合、TRCを解除するかロックモードの登場となります。

■ ロックモード

ロックモードでは、電子制御カップリングの油圧を最大に高めることでトルク配分を前:後＝50:50に近づけた状態を保ちます（時速60km/hまで）。フルタイム4WDに近い状態ですので4WD性能は高まります。さらに「ブレーキLSD」の介入を強めて、さらに走破性をアップします。ブレーキLSDを説明するには、デフギアの説明が必要です。2WD車でも左右の駆動輪の間にはデフギアがあり、コーナーで左右輪の回転差を抵抗なく差動制御してくれます。しかし、片輪が空転すると反対側の車輪の駆動力が一切なくなり空転し続けるという致命的な欠点があります。これが雪道でスタックしやすい一因です。それゆえ走破性を高めるためにデフの機能を制限するデフロックやＬＳＤ（リミテッド･スリップ･デフ）装備する車両があります。ブレーキＬＳＤは4輪個別にブレーキの強さを変えられるＡＢＳを利用して、空転した駆動輪にだけ個別にブレーキをかけます。それにより反対側の駆動輪に強制的に駆動力を生み出させます。このブレーキＬＳＤの登場により飛躍的に走破性がアップします。それも、重たく高額な機械装置を追加せずに、ブレーキだけで走破性を高められる電子デバイスなのです。

■ スポーツモード

基本オートモードと似ていますが、まずギアのシフトスケジュールが変わり、低いギアで高回転まで引っ張るようになります。結果加速力がアップします。従って、ＦＦ状態でロールの出ているコーナー出口でアクセルを踏むと前内輪が空転しやすくなるため、後輪へのトルク配分を増やすことで前輪の空転を防ぎ、コーナーでの加速力を補います。さらにTRCの働きを弱めて、車輪の空転に際してもエンジン出力を絞らないようにします。これらによりスポーツ走行を楽しめるようにしています。しかし、燃費は悪化します。

ロックモードのところでブレーキLSDの説明をしましたが、ロックモードでなくてもブレーキLSDは稼働します。ロックモードにすると、より走破性を高めるように制御してくれます。日常走行でロックモードにすると、ブレーキLSDの関与が強すぎて、動きがスムーズでなくなります。なので、通常はオートモードがベストということになります。

・・・というわけで全体として、このような制御を行います。
長くなり失礼いたしました。何かご不明な点などございましたら、追加でご質問いただけましたら幸いです。