最近の4WD(4輪駆動)システムの進化は凄まじく、各メーカーから様々なタイプの4WDシステムが登場しています。よく耳にするのが、「FFベース」か「FRベース」か、ということ。2022年7月に登場した新型クラウンでは、「FFベースの4WD」となったことが話題になりましたが、同じ4WDであるのに、「FFベース」と「FRベース」では、具体的に、どのような性能差があるのでしょうか。
文:Mr.ソラン、エムスリープロダクション
写真:TOYOTA、MAZDA、イラスト:著者作成
これから主流4WDで覚えておくと便利な「FFベース」と「FRベース」の長所と短所
近年は「オンデマンド4WD」が主流
かつては悪路や雪道を走破する目的で利用する人が多かった「4WD」ですが、現在は、駆動力を無駄なく4輪に伝えて、(舗装された路面を)安全かつ安定した走りを実現することを目的に、多くのモデルに4WDが用意されています。
FRベースの4WDは、「フルタイム4WD」と呼ばれるセンターデフ方式と、手動レバー(スイッチ)で2WDと4WDを切り替える「パートタイム4WD」に大きく分けられます。センターデフ方式は、常に4WDで駆動する方式で、トヨタ「ランドクルーザー」などの本格SUVや、スバルの水平対向エンジン搭載車などで採用されており、前輪と後輪を繋ぐプロペラシャフトの中間にセンターデフ(デファレンシャルギア)を設け、前輪と後輪の回転差を解消します。パートタイム方式は、センターデフの代わりに手動クラッチに置き換えた方式、構造が簡単で安価なシステムで、スズキのジムニーが採用しています。
一方、FFベースの4WDでは、オンデマンド(スタンバイ)方式が多く取り入れられています。駆動輪のタイヤが滑ってから反応するので4WDへの切り替わりにタイムラグが発生しますが、構造がシンプルで軽量なので、最近採用が増えており、アクティブ・オンデマンド方式とパッシブ・オンデマンド方式に分けられます。アクティブ方式は、2WDと4WDを多板クラッチなどの電子制御カップリングで素早く切り換え、前後輪の駆動力配分を行う方式で、パッシブ方式は、電子制御カップリングでなく、ビスカスカップリングといった機械的なクラッチで切り替えを行います。
しかし、最近は各メーカーから様々なタイプのオンデマンド4WDが登場し、これらもフルタイム4WDと呼ぶ場合が多く、呼称が煩雑になっています。また、ハイブリッドのパワートレインと同様に、駆動力としてモーターを使ったハイブリッド4WDが増えているのが、最近のトレンドです。
FRベースの4WDは、制御でオーバーステアを回避
FRは、エンジンとトランスミッションをフロントに縦置きし、後方にプロペラシャフトを伸ばして、リアデフを介して後輪に駆動力を伝達しますが、これを4WD化するためには、トランスミッションの後端にトランスファーアクスルを設け、前輪方向に短いながらもドライブシャフトを介して、デファレンシャルによって前輪にも駆動力を伝達します。
FRといえばセダンタイプが多いですが、FRセダンの場合、エンジンを低い位置に設計しているため、4WD化(フロントデフやドライブシャフトといった、フロント輪を駆動するための大きな装置をレイアウト)するためには、場合によっては、エンジンの搭載位置を上げる必要があり、4WD化はコストがかなりかかります。そのため、FRセダンの4WDモデルは、トヨタの先代「クラウン」やレクサス「IS」「LS」、日産「スカイライン」や「GT-R」、BMW「3/5/7シリーズ」、メルセデス・ベンツ「C/E/Sクラス」など、比較的、高級車やスポーツモデルに限られます。マツダの「CX-60」など、ボンネット高や最低地上高に余裕のあるFR派生のSUVは、4WD設計がしやすいようです。
ちなみに、FRベースの4WDでは、FRの特徴である曲がりやすさを生かすため、前輪の駆動力配分は後輪よりも小さく設定するのが一般的です。また、後輪のスリップを検知した際には、前輪を積極的に駆動させてアンダーステアを発生させることで、FRで発生しやすいオーバーステアを打ち消すことができます。そのため、コーナーを曲がりながら加速するようなシーンでは、FRの長所「回頭性の良さ」を失うことなく、素早く安全に加速することが可能になります。
2022年にデビューしたマツダの CX-60。「ラージ商品群」の第一弾として登場したFRベースのクロスオーバーSUV
FFベースの4WDは、4WD制御でアンダーステアを回避
FFベースの4WDは、一般的に、エンジンとトラスミッションを横置きにし、デファレンシャルギアを介して前輪を駆動します。4WD化するためには、トランスミッション内にトランスファーギヤを設けて、ここから車体後方にプロペラシャフトを介して、リアアクスルのデファレンシャルへと繋ぎます。
FFベースの4WDは、ベースのFFと同じくフロンヘビーですので、アンダーステア傾向といえますが、FFベースがFRベースよりもハンドリング性能が劣り、曲がりにくいというのは、過去の話。FFベースでも、シャシー設計の進化や、高度な電子制御による駆動力配分の最適化により、FRベース4WDに負けないハンドリング性能を実現しているクルマはたくさんあります。
例えば、トヨタのGRヤリスでは、スポーツモードで前後輪駆動力を30:70に設定して、FRのようなドリフト走行が楽しめることが、話題になっています。
また昨今、多くの車種で採用されるようになったのが、後軸に配置したモーターで後輪を駆動する電気式の4WDシステムです。トヨタはE-Four、日産はe-POWER 4WDなど、呼び名は異なりますが、やっていることは一緒です。FRよりも比較的簡単に低コストで4WD化が可能であり、また、オンデマンド4WDと組み合わせることで簡易なシステムから高精度なシステムまでつくることができる自由度の高さがあるため、現在は、このシステムが普及しています。最近では、FFベースの4WDに変更して注目された新型「クラウン」も、後輪を電気式4WD化したシステムです。
2020年に登場いたGRヤリス。トヨタ独自のスポーツ4WDを搭載、FFベースながら駆動力配分を変えて様々なドライブフィールを実現
駆動力配分の最適化によってFFとFRの弱点を解消
最新の4WD制御は、アクセル開度や車輪速、ギア段、ステアリング舵角、ヨーレートなどの各種センサー情報を使って、走行状況に応じて最適な前後駆動力になるよう、リアルタイム制御や予測制御を行います。
これによって、FRベース、FFベースに関わらず、FR固有のオーバーステア寄りの特性やFF固有のアンダーステア寄り特性を、解消したり、あるいは逆に強調したりして、安定性と意のままのハンドリングを実現しているのです。モーターを使ったハイブリッド4WDでは、その自由度がさらに向上することが期待できます。
急旋回時に発生しやすいFF車のアンダーステアとFR車のオーバーステア。(イラスト:著者作成)
◆ ◆ ◆
今後、ハイブリッド4WDやBEVがさらに普及することで、4WD車の比率は上がってくると予想されます。ご紹介したように、4WD制御技術の進化によって、FRベースでもFFベースでも、それぞれの弱点を解消しつつ強みを生かすことができるようになるため、FRベース4WD、FFベース4WD、といった議論そのものが意味を持たなくなる可能性があります。将来的に、各駆動輪にモーターを配置するインホイールモーター方式が登場したら、それこそFRベース、FFベースの論議はどうなっていくのか、興味深いですね。
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常に4WDになるのかな?