新型ステップワゴンは、2021年12月10日にティザーキャンペーンを開始し、2022年1月7日には、内外装やパワーユニットが明らかにされ、2月4日には販売店で価格も公表して予約受注を開始した。5月26日に正式に発売され、納車も始まる予定だ。
ただ2月14日に発表された新型ステップワゴンの納車の目処については、ガソリン車、e:HEVともに5ヵ月程度かかるとのこと。2月中旬に注文すると、7月中旬以降になるということか……。
最長半年待ちも!? 絶好調スタートも新型ノアと新型ヴォクシーの納期はどうなる!!?
その新型ステップワゴンの前に立ちはだかったのが2022年1月13日に発売した新型ノア/ヴォクシー。そのノア/ヴォクシーの受注状況は2月中旬現在の納期は、7ヵ月待ちの2022年9月以降にずれ込んでいる。受注累計は5万台に達していると推定する。
さて、そんなステップワゴンとノア&ヴォクシーの両車。現状ではどちらが勝ちか判定するのは時期尚早だが、まだ発売前のステップワゴンから見た、ノア&ヴォクシーに対して羨ましいと思うところはどこか、モータージャーナリストの渡辺陽一郎氏が指摘していく。
文/渡辺陽一郎
写真/ベストカーweb編集部、ベストカー編集部、トヨタ、ホンダ
■先行のノア&ヴォクシーを意識するステップワゴン
2022年5月に発売予定のホンダ新型ステップワゴン。発売の半年近く前の2021年12月からティザーキャンペーンを開始したのは2022年1月発売のトヨタ ノア&ヴォクシーを意識しているからだ
新型ステップワゴンを発売から半年も前にティザーキャンペーンを開始した理由について開発者に尋ねると、「ヴォクシー&ノアが2022年1月13日に発売されるから」と言われた。ヴォクシー&ノアはステップワゴンのライバル車だから、強く意識しているのだ。
この背景には売れ行きの違いもある。ヴォクシー/ノア/エスクァイアの3姉妹車を合計すると、2021年1~12月には、1ヵ月平均で1万565台を登録した。フルモデルチェンジを直前に控えながら、ルーミーの1か月平均1万1233台に近い。
一方、ステップワゴンは2021年の1ヵ月平均登録台数が3279台だ。この販売実績も、プリウスやキックスと同等で悪くないが、ヴォクシー/ノア/エスクァイアに比べると31%にとどまる。ヴォクシー&ノアは、ステップワゴンの3倍以上も売れているから、意識するのは当然だ。
そこでステップワゴンは、ヴォクシー&ノアとの真っ向勝負を避ける戦略に出た。これを象徴するのがフロントマスクで、ステップワゴンの開発者は以下のように説明する。
「ミニバンを買うお客様の70%は、高級感や存在感が強く、価格が高そうに見えるオラオラ系のフロントマスクを好まれる。そこでステップワゴンは、敢えてオラオラ系を離れ、シンプルでナチュラルな顔立ちに仕上げた」。
ステップワゴンの外観には、従来の標準ボディを踏襲する空気のように親しみやすいエアと、精悍なスパーダを設定した。スパーダはエアに比べると「オラオラ系」に近い印象も受けるが、ヴォクシー&ノアのエアロボディよりは大幅にシンプルだ。先代型のスパーダ(後期型)と比べても抑制を利かせた。
■勝負のキーポイントはフロントマスク!?
ホンダ新型ステップワゴン(AIR)。ノア/ヴォクシーの対極にあるプレーンなフロントマスクを採用。オラオラ系フロントマスクを好まない層をあえて狙った
その点でヴォクシー&ノアは、70%の売れ筋路線を狙ってフロントマスクを「オラオラ系」とした。しかもノアのエアロボディは、大型メッキグリルを採用した典型的なデザインで、ヴォクシーは独特の迫力が伴う先鋭的な形状になる。
ちなみに2020年5月に、トヨタの国内販売は、全店で全車を扱う体制に移行した。この背景には、販売系列のために用意する姉妹車を廃止して、開発や流通を合理化することも含まれていた。
したがってヴォクシーとノアも、どちらか一方を廃止して、車種を統合するのが本来の売り方だ。そこでヴォクシーは、先代型のモデル末期に標準ボディを廃止した。
それなのにヴォクシーの売れ行きは下がらず、全店が全車を売る体制の中で、姉妹車を残す異例のフルモデルチェンジを実施した。そこでヴォクシーとノアのエアロボディは、基本的には同じクルマだが、前述の通りフロントマスクを大幅に変えた。好みに応じて選べるように配慮している。
このフロントマスクなら、発売から2~3年を経過して外観が飽きられ始めた時、特別仕様車などにより、先鋭的なヴォクシーのフロントマスクを一層際立たせることも可能だ。そうなればノアとヴォクシーのエアロは、今後の売れ行きを高く維持する上でも新たな価値を生み出せる。
ヴォクシー&ノアがそこまでフロントマスクにこだわるのは、ミニバンの売れ行きは顔立ちに大きく左右されるからだ。ミニバンは実用重視のカテゴリーだから、デザインの優先順位は低そうだが、実際には車種ごとの機能の差はあまり開かない。
ホンダ新型ステップワゴン(SPADA)。AIRに比べて装飾を施した精悍なフロントマスクを採用。それでもノア/ヴォクシーと比較するとおとなしい顔つきだ
ミニバンは基本的に日本向けのカテゴリーで、どの車種も共通のターゲットユーザーを想定して開発するから、ボディサイズや車内の広さ、シートアレンジ、価格などが互いに似てしまう。
そうなるとユーザーは選ぶ時に迷いが生じて、本来は副次的な要素とされる顔の好き嫌いが、選択基準として浮上してくる。ミニバンは背が高いので、フロントマスクに厚みがあり、造形の自由度が大きいことも挙げられる。
この事情はアルファード&ヴェルファイアを見ると良く分かる。以前はヴェルファイアの販売が好調で、現行型にフルモデルチェンジされた後も、アルファードより多く売られていた。
それがマイナーチェンジでフロントマスクに変更を加えると、アルファードの売れ行きがヴェルファイアを上まわり、全店が全車を扱う体制になると、販売格差が決定的に拡大した。
これは先に述べたトヨタの狙い通りで、ヴェルファイアを廃止してアルファードに統合することが可能になったが、ミニバンのフロントマスクの重要性も浮き彫りにされている。
■充実装備のノア&ヴォクシー
トヨタ ノア&ヴォクシー。多くのミニバンユーザーが好むギラギラのフロントマスクを採用。これを好まない層にとってステップワゴンは最後の砦ともいえる
ヴォクシー&ノアとステップワゴンの違いとして、装備の充実度も挙げられる。ヴォクシー&ノアは、まずスライドドア関連を充実させた。後方の並走車両を検知して知らせるブラインドスポットモニター装着車には、安心降車アシストも採用している。
電動スライドドアを開き始めた時に、自転車や車両が接近すると、スライドドアの作動を停止して乗員が降車しないようにする。
左側のスライドドアには、乗降用ユニバーサルステップをオプション設定した。従来は電動で出し入れするので高価だったが、ヴォクシー&ノアは、スライドドアの開閉に連動する機械式だ。したがってオプション価格も3万3000円と安い。
荷室のバックドアには、フリーストップ機能を採用した。バックドアの開閉途中で止められるから、縦列駐車をしていて、車両の後方が狭い場所でも荷物を出し入れできる。
3列目シートの格納方法も工夫した。先代型と同様にレバー操作で跳ね上がり、ウインドー側に押すとロックする。先代型のストラップで固定する手間を省いた。
車庫入れを支援するアドバンストパークには、リモート機能も採用した。スマートフォンを使うことで、運転席に誰も座っていない状態でも、車外から車庫入れを操作できる。狭い駐車場所に収める時に便利な機能だ。
これらは安全性や利便性を向上させると同時に、機能が似通りやすいミニバンを個性化する役割も果たす。ライバル車との選択に迷った時、ユーザーの判断を促す効果も期待できる。フロントマスクのデザインと、スライドドアの安全装備は次元の異なる要素だが、購買意欲を高める点では共通性もある。
さらにヴォクシー&ノアは、プラットフォーム、エンジン、ハイブリッドシステムをすべて刷新させた。
開発者は「先代型のプラットフォームは設計が古く、これを新しくしないと、エンジンやハイブリッドも進化できなかった」という。ノーマルエンジンはハリアーなどと同じタイプになり、ハイブリッドシステムは、ほかの車種に先駆けて第5世代に進化した。
そのためにハイブリッドのWLTCモード燃費は、23.0~23.4km/L(2WD)に達した。先代型から現行型に乗り替えると、燃費数値上は燃料代を15~17%節約できる。ステップワゴンの燃費数値は不明だが、ここまで向上するかは分からない。
■ノア&ヴォクシーを敬遠するユーザーを狙うステップワゴン
ステップワゴンe:HEVスパーダ。ファブリック×プライムスムース(合皮)
ヴォクシー&ノアは、このように各種の装備やメカニズムを刷新させて機能と性能を高めたが、開発と生産に要する投資も増える。それを可能にしたのは、ヴォクシー&ノアの保有台数が多く、前述のフロントマスクや装備の差別化もあって大量に販売できる見通しが立ったからだ。
ここはステップワゴンを売るホンダにとって、羨ましいところだろう。ステップワゴンはヴォクシー&ノアほど大量な販売は見込めないから、先代型と比べて進化の度合いも小さい。
ヴォクシー&ノアとの競争を避けるため、フロントマスクもミニバンユーザーの70%が好むオラオラ系ではなく、30%のシンプルな顔立ちを選んだ。
ただしステップワゴンが勝る機能もある。それは車内の広さと居住性だ。身長170cmの大人6名が乗車して、2列目に座る乗員の膝先空間を握りコブシ2つ分に調節した場合、3列目に座る乗員の膝先空間は、ヴォクシー&ノアは握りコブシ1つ半だがステップワゴンなら2つ収まる。
3列目の座り心地は両車とも改善されたが、ステップワゴンは座面の厚みを20mm増して、座り心地を積極的に向上させた。
さらにステップワゴンは現行型でヴォクシー&ノア以上に外観の水平基調を強め、床と座面の間隔も先代型に比べて2列目シートで10mm、3列目では20mm高めた。
1/2列目の背もたれ形状も工夫され、2/3列目に座る乗員の視覚的な圧迫感を抑えている。ステップワゴンの開発者は「クルマ酔いの研究も行い、その成果を反映させた」という。
2列目のロングスライドや左右方向のスライド機能も含めて(ヴォクシー&ノアもロングスライドは可能)、ステップワゴンは居住性に配慮した。フロントマスクのデザインも含めて、リラックスできる乗車感覚を大切にしている。
■フロントマスクだけではないステップワゴンの『薄味感』
売り上げの8割以上が軽自動車とコンパクトカーが占めるホンダは、ステップワゴンなどの大きな車種に資金投資をしづらい状況にある
ただしそれにしても、ステップワゴンはヴォクシー&ノアに比べると、さまざまな点でインパクトが弱い。この根幹にはホンダの国内販売状況も絡む。
2021年に国内で新車として売られたホンダ車の33%をN-BOXが占めて、N-WGNなどを加えた軽自動車比率は53%に達した。コンパクトなフィット/フリード/ヴェゼルも加えると84%だから、ステップワゴン、シビック、CR-Vなどは、すべて残りの16%に含まれてしまう。
これではステップワゴンに多額の投資はできないが、ミドルサイズ以上のホンダ車では、売れ行きを最も伸ばせる車種だ。
車名の認知度も高く、子供の頃に初代や2代目ステップワゴンを使った世代が、今は子育てをしている。親子の繋がりを視野に入れた売り方など、工夫を凝らせば、販売台数を伸ばす余地も生じる。
今後のバリエーション展開も大切で、エアとスパーダに加えて、SUV風のクロスターやスポーティなモデューロXも欲しい。
これらのテコ入れを怠ると、ステップワゴンは次のマイナーチェンジで、フロントマスクをオラオラ系に変えることになってしまう。近年のステップワゴンは、大人しい顔で登場して、売れ行きが伸び悩み、派手なデザインに変更するパターンの繰り返しだ。
ステップワゴンは優れた商品だから、大切に販売して、今の顔立ちを最後まで変えないで欲しい。これからの時代に必要なのは、ステップワゴンのような穏やかな世界観を備えたクルマだと思う。
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