命短し走れよ乙女
すべてのクルマに乗り、すべてのレースに参加し、すべての自動車博物館を訪れるには、人生は短すぎる。すべてを叶えることはできないが、それでもクルマ好きなら誰もが一度は経験すべきことがたくさんある。
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今回は、クラシックなアメリカン・マッスルカーが好きな人でも、日本の軽自動車が好きな人でも、一生に一度は実践しておきたい20のことを紹介しよう。ただし、筆者(英国人)の好みによるところも大きいので、あしからず。皆さんはどんな経験を味わいたいだろうか。
アウトバーンの速度無制限区間を走る
ドイツのアウトバーンの速度無制限区間は、合法的に好きな速度で走れる世界で唯一の道路である。目的地まであと200kmという標識を見て、そこにどれだけ早く到着できるかはすべて自分と自分のクルマ次第だということを知る。これは、他では味わえない感覚だ。
最高速度で、あるいは最高速度に近いスピードで運転することは、決して忘れられない体験となるだろう。ドイツ政府は最近、CO2排出量を抑制するため、アウトバーン全線に速度制限を設けることを提案している。
V12エンジン搭載車を運転する
強大なV12エンジンを搭載したクルマの運転も、ドライバーとして最も記憶に残る体験の1つである。12個のピストンが上げる叫び声のような音から、スロットルを踏み込んだときのエンジンのレスポンスまで、どれもV8がおとなしく感じられるほどだ。
ランボルギーニの自然吸気V12が最も本格的でお勧めだが、BMW M760iの6.6Lのようなツインターボエンジンでもまったく期待を裏切らない。V12は絶滅危惧種なので、今のうちに最大限に味わおう。
リアエンジンのフォルクスワーゲン・ビートルに乗る
リアエンジンの初代フォルクスワーゲン・ビートルは、世界中の何百万人もの人々を乗せた傑作機だ。自動車の歴史において最も重要なクルマの1つであることは間違いない。
また、控えめながら意味のあるアップデートのおかげで、本来の販売期間をはるかに超えて長生きしてきたクルマでもあるため、さまざまな時代の自動車デザインを一度に体験することができる。ビートルのステアリングを握って1時間を過ごすのは、文化的、機械的な観点からも深い魅力がある。
オフロードを走る
人里離れた道をドライブするというのは、クルマ好きなら誰もが一度はやってみたいことではないだろうか。ジープ・ラングラーやランドローバー・ディフェンダー、トヨタ・ランドクルーザーのような4WD車で大自然の中を走れば、Bluetoothやアップル・カープレイよりもデフロックやシュノーケルが重要であるという、まったく異なるドライビングの一面を発見できる。美しい景色も最高のデザートになる。
サーキットで1日を過ごす
大雑把に言えば、公道でクルマのポテンシャルを75%以上引き出すことは法的に難しい。クルマとドライバーの限界に挑戦するには、サーキットを走る必要がある。クルマの能力、自分の能力、そしてハンドルを握るときの正しい姿勢や常に進みたい方向を見ることなど、貴重な教訓を学ぶことができる。
サーキットでコンマ1秒を追い求めるのはとても楽しいことで、これをマスターすれば、日常でも優れたドライバーになれるかもしれない。
レーン・モーター博物館
レーン・モーター博物館(Lane Motor Museum)は、欧州車のコレクションとしては米国最大を自称する。とはいえ、普通のクルマだけではない。シトロエンDSやBMWイセッタはもちろん、1951年のホフマン(写真)、ピールP50、1933年のダイマクション・カーのレプリカなど、無名の変り種も数多く展示されている。
テネシー州ナッシュビルにあるレーン・モーター博物館は、自動車の歴史に飛び込む魅惑的な場所である。
グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードに参加する
英国で毎年開催されるグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード(Goodwood Festival of Speed)は、クルマに対する情熱を前面に押し出している。新型車のお披露目や世界的に有名なヒルクライムなど、珍しいもの、速いもの、その他興味をそそるものすべてを4日間かけて紹介する自動車の祭典だ。
ポルシェ917、レッドブルのF1マシン、そしてプジョー208のパイクスピーク・レーサーが、眼の前で動き出すのを見られる場所が他にあるだろうか? 来客用の駐車場もそれ自体がショーなのだ。
メジャーレースに参加する(観戦)
F1アメリカGPやウェールズ・ラリー、ル・マン24時間レースのようなメジャーレースは、テレビ観戦でも素晴らしい光景を楽しめるが、現地に足を運ばないと大きな体験を逃してしまう。数百m離れた場所からクルマの音を聞き、目で見て、匂いを嗅ぐことで、彩り豊かな体験となるし、現地に行くことは同じ志を持つエンスージアストと出会う絶好の機会でもある。
米国横断ドライブ
米国は1つの大陸にまたがる広大な国土を有する。この国をドライブすれば、灼熱の砂漠、雪を頂く山々、賑やかな大都市など、多種多様な風景を体験でき、文化や料理も地域によって異なる。
ルートにもよるが、ロサンゼルスからニューヨークまでおよそ4~5日で横断できる。だが、ハイウェイを外れて本格的に観光するためには、最低でも1週間、理想的には1か月は計画したい。
休日を楽しめるクルマを所有する
クルマ好きなら一生のうちに少なくとも1台は楽しいクルマを所有すべきだろう。必ずしも高級であったり、高性能であったりする必要はない。質素なフィアット126(写真)は、合理的な最新モデルよりも1km走るごとにより多くの笑顔を運ぶことができる。覚えておいてほしいのは、遅いクルマを速く走らせるほうが、その逆よりも楽しいということだ。
クラシックなエコノミーカーは、長く走り続けても驚くほど手頃である。
自分の「ヒーロー」に乗る
英語には、「Never meet your heroes(ヒーローには決して会うな)」という古い格言がある。憧れの人でも、実際に会うと幻滅してしまうかもしれない、あなたの期待を裏切るかもしれないという意味で使われ、これは人間に関してはしばしば当てはまる。しかし、クルマ好きには、子供の頃から憧れていた「ヒーロー」に乗ることをお勧めする。
それがフェラーリ308であれ、フォルクスワーゲン・ゴルフであれ、スバルWRX STIであれ、期待を裏切らない大切な経験になるだろう。
道路の反対側(右側通行の道路)を走る
わたし達は、決まった道路を決まった方法で運転することに慣れている。英国や日本なら右ハンドルの左側通行、米国なら左ハンドルの右側通行が常識であり、日常である。この快適な日常から飛び出して他の国へ赴き、道路の「反対側」を運転するのは高度な頭の体操になるし、特にマニュアル・トランスミッション(MT)の操作は一度経験する価値がある。安全のためにも、まずは混雑した都心部ではなく、比較的空いている郊外で試してみよう。
大規模なモーターショーに参加する
多くの評論家は、モーターショーは縮小の道を歩んでいると声高に主張するが、ジュネーブ(GIMS)やロサンゼルス(Greater Los Angeles Auto Show)など、大規模なショーへの参加は素晴らしい経験であることに変わりはない。同じ屋根の下でこれほど多種多様なクルマに出会える場が他にあるだろうか?
新車発表の興奮に満ちたモーターショーの会場を歩くのは、他のイベントでは味わえないスリルとなる。
凍った湖でドライブ(&ドリフト)
凍った湖でのドライビングは、その言葉の響き通り、厳しくも楽しいものだ。クルマを壁にぶつける心配もなく、クルマのハンドリング特性について多くを学ぶことができる。通常、ミスする余地は十分にある。
可能な限り正確に何周か走行し、さらに何周かドリフトしながら走ることをお勧めする。
日本で軽自動車を運転する
日本で軽自動車を運転すると、自動車デザインにおけるミニマリズムに改めて敬意を抱くようになるだろう。日本独自のセグメントである「軽自動車」は、寸法やエンジンを規定する厳しい規制を遵守しながら競争を繰り広げている。2023年現在、軽自動車は全長3400mm以下、全幅1480mm以下、全高2000mm以下を収まらなくてはならない。その見返りとして、所有にかかるランニングコストを安く抑えることができる。
排気量660ccのエンジンは最高出力64psしか出せない。それでも大人4人が比較的快適に乗れ、高速道路も走行できる。日本の軽自動車には、パネルバンからミドエンジンのスポーツカーまで、さまざまなタイプがある。
第二次世界大戦前のクルマを運転する
第二次世界大戦前に製造されたクルマのハンドルを握るには、運転の仕方を勉強し直さなければならない。(通常は)ハンドルとペダルが付いているが、1920年代に製造されたクルマと2020年代に製造されたクルマの類似点は、ほとんどそこで終わっている。
モデルによっては少し難しいかもしれないが、過去数十年の間にクルマがどのように進化してきたかについて貴重な洞察を与えてくれる、やりがいのある体験だ。
基本的なメンテナンスを学ぶ
クルマの整備は、多くのクルマ好きにとって通過儀礼である。古風な考え方かもしれないが、スパークプラグの交換であれ、摩耗したブレーキパッドの交換であれ、基本的なメンテナンス方法は誰もが学ぶべきことだ。難しく考える必要はないし、満足感もあり、長い目で見ればお金の節約にもなる。
自動車工場を見学する
一枚の板金がクルマになるまでの工程を見るのは、大変興味深い体験だ。同じ自動車工場は2つとない。ドイツ・ヴォルフスブルクにある巨大なフォルクスワーゲン工場のように、ロボットに大きく依存しているところもある。
英国のモーガンのような小規模な企業は、昔ながらの職人技を何よりも大切にするため、生産工程に人間による手作業を多く残している。どちらも同じように魅力的だ。たいていの自動車工場では見学が可能で、見学料が高額になることはほとんどない。
自動車の設計者と話す
クルマの設計を生業とする人々と話をすると、自動車メーカーがどのように動いているのか内情を垣間見ることができる。コンセプトカーから市販モデルに仕上げるのは、何十もの段階で何十もの決断を伴う、長く複雑なプロセスである。
そのすべてを説明するのに、デザイナーやエンジニアほど適した人材はいない。もちろん、アウディのデザインスタジオに足を踏み入れてマーク・リヒテ氏に話を聞くことはできないが、レースやモーターショーに参加することで、アイデアを現実にする彼らに会えるかもしれない。
ピーターセン博物館を訪れる
ロサンゼルスのピーターセン自動車博物館(Petersen Automotive Museum)は、あらゆるジャンルのクルマが平等に展示されている自動車の楽園である。ホットロッド、ローライダー、ワンオフ車、T型フォード(モデルT)のような歴史的な名車、高額ヴィンテージ・フェラーリ、インターナショナル・ハーベスター・スカウトのような地味なクラシックカーなどが一堂に会する巨大なミュージアムだ。
ピーターセン自動車博物館では定期的に特別展を開催しているので、たとえ毎月足を運んでも毎回新しいものを見ることができる。そのすべてがクルマをこよなく愛する賢い人たちによるキュレーションである。
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