自動車規格によって全高のリミットが決まっている
SUVブーム、キャンプブームの影響もあって盛り上がっている「アゲ系」。いわゆるリフトアップ系のカスタマイズなのだが、車高を上げることでノーマルよりもボディがひと回り大きく見えたり、大口径のオフロードタイヤを履けるようになるのがおもなメリット。トヨタ・ランドクルーザーやトヨタ・ハイラックス、スズキ・ジムニーといった本格クロカンだけでなく、トヨタ・RAV4やマツダ・CX-5といったシティ派SUVや、三菱・デリカD:5、トヨタ・ハイエース、スズキ・エブリイ、軽トラなど幅広い車種にアゲの波が来ている。
不便なだけじゃなく性能悪化も! クルマのローダウンのメリット・デメリットとは
ここで素朴な疑問。いったい何センチまでリフトアップすることが可能なのだろうか? 車高短なら地面というリミットがある。いくらノーサス状態にしてもボディが地面にくっつけばそれ以下には落とせない。なかにはフロアやフレームを切ってより低く見せる荒技もあるが、下限が地面までというのは変わらない。もちろんそれ以前に、最低地上高が9センチを割ると違法というのもあるけれども。
しかしアゲの場合はまさに青天井。サスペンションを伸ばしていけばどこまでも上がっていく気がする。実際は法規などいろんな意味で限界を迎えるわけだが、今回は具体的にどういったリミットがあるのか紹介していきたい。
自動車には規格の種類に応じてボディサイズに制限があり、全高については下記のように上限が定められている。 ・軽自動車(4・5ナンバー)…2メートル以下
・小型自動車(5ナンバー)…2メートル以下
・普通自動車(3ナンバー)…3.8メートル以下
・小型貨物車(4ナンバー)…2メートル以下
・普通貨物車(1ナンバー)…3.8メートル以下 まとめると、軽自動車を含む4・5ナンバー車は2メートル以下、1・3ナンバー車は3.8メートル以下ということになる。ただし、4・5ナンバー車がリフトアップして全高2メートルを超えた場合でも、1・3ナンバー登録すれば3.8メートル以下までリミットは伸びる。というより、2メートルを超えた場合は1・3ナンバー登録しなくてはならないというべきか。
いずれにせよ、全高はマックスでも3.8メートルまで。基本的に日本の道路は3.8メートル以下のクルマでないと走行不可(例外はあるが乗用車ではまず当てはまらない)なので、国内ならこれがリミットだ。だが冷静に考えてみると、ほとんどのクルマは全高が2メートル以下だから、1.8メートル以上リフトアップしないとこの法規に引っかからない。そんなに上げるのは構造的に難しいし、仮に上がったとしてもどうやって乗り降りするのか。ということで、もっと現実的なラインを考えてみよう。
車検証に記載されている全長や全幅、全高といった純正の車体寸法。カスタムによってその数値が変わった場合は、基本的に構造変更が必要になる。しかし一定の範囲内であれば「軽微な変更」としてそのまま車検に通る。全高であれば「+4センチ~−4センチ」ならセーフの範囲だ。
構造変更となると車検の取り直しになるし、申請には手間や費用がかかる。よって4センチアップまでに抑えたいという人も多いだろう。これが第一のリミットになる。
だが「指定部品」を使ってカスタムした場合には、リフトアップ量に関わらず「軽微な変更」として認められる。自動車のパーツには指定部品と指定外部品という区分があり、ショックアブソーバーやコイルスプリング、車高調は指定部品に当たるので、もし車高調で5センチアップした場合であれば、構造変更せずとも車検に通る……はずなのだが、地域や検査官によってはNGになることもあるようだ。
一方でブロックやブラケットなどは指定外部品。それを使った4センチを超えるリフトアップアップは、もれなく構造変更の対象になる。
またタイヤは指定部品。外径が大きくなると自然と車高も上がるが、継続車検時ならそれで引っかかることはない。タイヤで車検NGになるのは、外径が大きすぎてメーター誤差が規定の範囲内に収まらなかった場合や、フェンダーからはみ出してしまった場合、荷重指数が規定以下だったりした場合など。
まとめると、ブロックやブラケットなど指定外部品を使った車高アップは4センチまで。コイルスプリングやタイヤなど指定部品を使った車高アップは4センチを超えてもOKだけど、NGになる可能性もある。安全牌を狙うなら、手法は問わず4センチアップまで、といった感じだ。
指定部品だけを使ってのリフトアップには限界がある
いやいや、安全牌も何も指定部品ならいいんでしょ? だったらそれでガッツリ上げるよ、と考える人もいるかもしれない。だが実際はなかなか難しいのだ。たとえばスプリング交換だけで5センチほど車高を上げると、ほとんどの車種はショックアブソーバーが伸び切ってしまう。縮む方向には動くけど伸び側には動かないという状況となり、乗り心地は最悪になる。加えてショックアブソーバーに大きな負担が掛かるから壊れやすくなる、というか壊れる。
対策としてはショックアブソーバーもブラケットで延長するか、ロングショックに交換する、あるいは車高調に交換するという手もある。ただしブラケットは指定外部品なので延長できても4センチがリミット。ショックや車高調に交換する場合は指定部品なので4センチを超えてもOKだが、その分コストがかかるし、たいてい5センチくらい車高を上げるとドライブシャフトに角度が付いてブーツが破れたり、異音が発生するといったトラブルが発生する(車種や足まわり構造にもよる)。
ドライブシャフトの角度を補正するには「メンバーダウン」といって、メンバーにブロックを噛ませるなどしなくてはならない。そしてブロックは指定外部品につき、4センチを超えた場合は要構造変更。つまり指定部品だけで4センチの壁を超えるのは難しいね、となるわけだ。
もちろん、構造変更もやぶさかではないという人であればもっと上げられる。具体的には4~5インチ(約10~12.5センチ)アップくらいで、このあたりが第二のリミット。なぜなら世間に出回っているキットといえば、4~5インチまでが主流だからだ。
なぜ6インチ以上はあまりないのか? それには車高アップに伴うデメリットが関係している。見た目がカッコ良くなったり、不整地に強くなるという利点がある反面、弱点も出てきてしまうのはアゲの宿命。代表的なところだと以下のとおり。 (1)重心が高くなることでフラつきやすくなる
(2)空気抵抗が増し横風の影響を受けやすくなる
(3)加速やブレーキ性能、燃費などが落ちる
(4)直前直左が見えにくくなる
(5)乗り降りがしにくくなる 基本的にこれらのデメリットは、車高を上げれば上げるほど顕著になっていく。サスペンションを専用品に交換する、ブレーキを強化するといった対策にも限度がある。車種にもよるが、その辺になんとか折り合いを付けられて、なおかつ見た目のバランスがいいのが4~5インチアップまでということだ。
より正確にいうなら、たいていリフトアップと同時にタイヤ外径も大きくするだろうから、その分で1.5センチプラスして、合計約14センチアップくらいまでが構造変更組のリミットになりそう。
一応、車種によっては6インチ(約15センチ)アップのキットも普通に存在するし、7~8インチ(約17.5~20センチ)もなくはない。
だが、前述の通り、軽自動車や小型乗用車は、全高は2メートル以下と決められている。それを超えるなら1・3ナンバー車に変更しなくてはならない。結果、維持費が跳ね上がるケースもあるため注意が必要で、これもリミットの一つになるだろう。
たとえばハイエースバンの標準ボディ&標準ルーフは全高1985ミリの4ナンバー車だが、リフトアップして全高2メートルを超えると1ナンバー車になる。すると税金や高速代などがやや割高になってしまうので、う~むと悩むことになるだろう。
もっともこれはまだいい方で、軽自動車の場合はさらにキツイ。エブリイワゴンのハイルーフは全高1910ミリで5ナンバー車なのだが、これを5インチ(約12.5センチ)アップすると確実に全高2メートルを超える。結果、軽自動車の規格から外れ、3ナンバーの普通自動車扱いになってしまうのだ。1万800円だった自動車税が2万9500円に跳ね上がり、高速料金も普通車料金×8割だったところが10割になる。
同じくエブリイ(バン)やダイハツ・ハイゼットカーゴといった4ナンバー車も、全高2メートル超えで1ナンバー車になる。2年に1度だった車検は毎年やってくるようになり、高速料金も中型トラック並みになる。
といった感じで、とくに軽自動車の場合はナンバーが変わってしまうデメリットが大きすぎる。実質、軽自動車のリミットは2メートルまでと考えたほうがいい。ホンダN-VANなどは純正でも1945ミリ(4WDは1960ミリ)とかなり際どいので、こうした車種は3~4センチアップくらいが限界だ。
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無駄な車高上げ
車高を上げても、最低地上高は、タイヤサイズとデフの位置で決まる。