■ホットで実用的なハッチバック車を振り返る
2000年代以降、日本の自動車市場で常に販売台数の上位に位置しているクルマといえば、コンパクトなボディサイズの5ドアハッチバック車です。
小型の5ドアハッチバック車は「コンパクトカー」と総称されていますが、実際はAセグメントからCセグメントまでさまざまなボディサイズが混在しています。
国産モデルでは1970年代に普及が始まり、次第に人気となり、前述のとおり2000年代からは4ドアセダンに代わって、ベーシックカーの主流となりました。
日本の道路事情にマッチしたサイズによる取り回しの良さ、優れた経済性などが人気となった理由といえます。
また、多様化したニーズに応えるように、かつては比較的高性能なモデルも数多く存在しました。
そこで、ちょっと前まで販売されていた、実用的かつ高性能なハッチバック車を、3車種ピックアップして紹介します。
●スバル「インプレッサハッチバック 2.0GT」
現在、スバルのエントリーモデルである「インプレッサ」ですが、かつては「WRX」に代表される高性能なセダン/ステーションワゴンというイメージが浸透していました。
このインプレッサにとって大きな転換期となったのが2007年6月発売の3代目です。ボディタイプが5ドアハッチバックのみでデビューし、2008年10月に4ドアセダンの「インプレッサアネシス」が追加されましたが、「スポーツワゴン」が廃止となりました。
3代目インプレッサハッチバックでは、WRX STI以外でも高性能なターボエンジンを搭載したグレードとして「2.0GT」が設定されていました。
2.0GTはデビュー当初「S-GT」のネーミングで5ドアハッチバックのみとされ、外観はスタンダードボディ(WRX STIはワイドボディ)で比較的おとなしめな印象ですが、ボンネットのエアダクトがターボモデルであることを主張。
搭載されたエンジンはWRX ST」 と同型の2リッター水平対向4気筒ターボ「EJ20型」をベースにデチューンされ、最高出力250馬力と扱いやすさを重視していました。
また、トランスミッションは5速MTと4速ATが設定され、駆動方式はフルタイム4WDのみです。
インプレッサハッチバック 2.0GTは2リッターの4WD車ながら1300kg台と比較的軽量なボディと、トルクフルなエンジンが相まって、実用的ながら十分にスポーティな走りも可能でした。
●三菱「コルト ラリーアート バージョンR」
三菱の現行モデルでエントリーモデルは6代目「ミラージュ」ですが、そのひとつ前の世代では2002年に登場した「コルト」が同ポジションを担っていました。
その後、2004年のマイナーチェンジでは、ショートワゴンボディの「コルトプラス」の追加と同時に、最高出力147馬力を発揮する1.5リッター直列4気筒DOHC MIVECターボエンジンを搭載した「コルト ラリーアート」と「コルトプラス ラリーアート」が加わりました。
さらに2006年には、コルト ラリーアートをさらにチューニングした「コルト ラリーアート バージョンR」が登場。
外観はフロントスポイラーやディフューザー形状のリアバンパー、エアアウトレット付きのボンネット、樹脂製オーバーフェンダー、ルーフスポイラーなどが装着され、見た目にも高性能さをアピールしていました。
エンジンは最高出力154馬力(後期型では163馬力)を発揮する1.5リッター直列4気筒ターボを搭載し、組み合わされるトランスミッションは5速MTとCVTを設定。
また、各部に施されたスポット溶接の増し打ちなどの補強により、ボディのねじり剛性はベースに対して約30%向上。足まわりも強化スプリングの装着やショックアブソーバーの減衰力アップに、ステアリングのギア比をクイック化することで、優れたコーナリング性能とドライビングプレジャーを発揮しました。
また、内装ではスポーツシートを装着し、乗車定員を5名から4名にするなど、特別なモデルであることを明確にしていました。
2008年にはシャシ剛性をさらに高めた「コルト ラリーアート バージョンR スペシャル」が限定販売されましたが、2012年にコルトの生産終了に伴い、コルト ラリーアート バージョンRも消滅しました。
●日産「ノート NISMO S」
日産は2020年12月に、「ノート」のフルモデルチェンジを実施して、3代目が登場しました。2代目の大ヒットの原動力となったシリーズハイブリッドのパワーユニット「e-POWER」が全車に展開され、出力と燃費性能のさらなる向上と、安全性能、走りの質まで、すべてがグレードアップされました。
一方で、純粋なガソリンエンジンを搭載した最後のホットモデルとなったのが、2014年に2代目の新グレードとして追加された「ノート NISMO S」です。
ノート NISMO Sの外観は専用のエアロパーツが装着され、専用のカラーリングを採用。内装もスポーツシートと専用の小径ハンドルを装備し、各所が赤い差し色でコーディネートされるなど、NISMOシリーズに共通するスポーティなイメージを強調していました。
また、エンジンは今では希少な存在となってしまった1.6リッター直列4気筒自然吸気を搭載。高圧縮比化してハイリフトカムシャフトが組み込まれるなど、ノート NISMO S専用のチューニングによって最高出力140馬力を発揮し、組み合わされるトランスミッションは5速MTのみでした。
さらに足まわりでは強化サスペンションと専用のブレーキシステム、各部の補強による車体剛性のアップやハイグリップタイヤを装着するなど、シャシ性能も高められていました。
そして、前述のとおりノート NISMO Sはフルモデルチェンジによって廃止となり、現在は貴重な1.6リッター自然吸気のホットモデルとあって、2020年以降のモデルは新車価格を上回るプレミア価格で販売されています。
※ ※ ※
1980年代から2000年代にかけて、高性能なコンパクトカーは各メーカーからラインナップされていましたが、近年はニーズの変化から激減してしまいました。
コンパクトカー本来の姿といえば、やはり優れた経済性ですから、時代の流れとして高性能なモデルが少なくなったのは仕方のないことなのかもしれません。
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みんなのコメント
スポット溶接を増やして剛性を確保していたぐらいなので…