デバイスだけでも4種類がある
「事故を防ぐ、起こさない」ということを意味する予防安全性向上に大きく貢献する、自立自動ブレーキの装着車の急速な増加に伴い、自立自動ブレーキに対する関心も大きくなっている。「クルマを買い替えるなら自立自動ブレーキ付きにしたい」と考えている人も多いことだろう。
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しかし、ひと口に自立自動ブレーキといっても価格、価格と大きな関係を持つシステムの方式、そして最終的な性能には大きな違いがあり、慎重に選ぶ必要がある。そこで今回は自立自動ブレーキのシステムの違いなどを解説する。
※自立自動ブレーキは、後述するセンサーやカメラの情報からクルマが危険を察知するとブレーキを掛けるというもの。クルマが自律自動ブレーキを掛けるためには、クルマがブレーキを掛ける働きももつVSCやVDCと呼ばれるスタビリティコントロールも必須となる。
●自立自動ブレーキを作動させるのに必要な情報を得るためのデバイス
簡単に紹介すると
・赤外線レーザー: 近くの物体を把握する
・ミリ波レーダー: 主に遠くの物体を把握する
・単眼カメラ: 1つのカメラで、車両に代表される物体、歩行者、道路の白線、道路標識の内容を把握する。ハイビームとロービームを自動で切り替えるシステムの情報源としても使われることもある
・ステレオカメラ: 2つのカメラを人間の両目のように使い、物体、歩行者、道路の白線といった交通の状況を単眼カメラより正確に把握する
●各デバイスのメリット・デメリット
赤外線レーザー、ミリ波レーダー、カメラのメリット、デメリットに関しては、実際の使用では当てはまらないケースも多々あるが、一般的には
・赤外線レーザー/ミリ波レーダー
メリット: 雪、豪雨、霧といった悪天候に強い
デメリット: 歩行者や白線などは情報の形態が画像ではないので認識できない
・カメラ
メリット: 歩行者、白線、標識などが認識でき、ステレオカメラのような高性能なカメラであれば自立自動ブレーキや先行車追従型のアダプティブクルーズコントロールを作動させるために必要な情報をカメラだけで得られる
デメリット: 悪天候や逆光といった悪条件に弱い
と言われている。
●現在買えるクルマの自立自動ブレーキのシステムは?
前述した自立自動ブレーキを作動させるのに必要な情報を得るためのデバイスを、単独もしくは組み合わせて使うのが、自立自動ブレーキのシステム、方式となる。以下方式とそれぞれの○×を挙げると
赤外線レーザーのみ: 主に軽自動車に使われる。スズキのレーダーブレーキサポート、ダイハツのスマートアシスト、ホンダのシティブレーキアクティブシステムなど
○ポイント: 軽自動車に付くことからも分かる通り、スズキアルトの場合は2万1600円で付くなど、コストが非常に安い
×ポイント: 赤外線レーザーは近くの物体しか把握できないため、作動する速度域が30km/h以下と非常に低く、歩行者には対応していない。防げるのは渋滞中の追突などのケースに限られ、「ないよりはずっといいけど」という程度の効果しかない、値段なりというのが率直なところだ。後述する高性能な自立自動ブレーキの価格が量産効果などにより下がっていることもあり、赤外線レーザーのみで周囲の情報を得る自立自動ブレーキは軽自動車でも減少する方向にある。
ミリ波レーダーのみ: トヨタのプリクラッシュセーフティシステム、スズキのレーダーブレーキサポートIIなど
○ポイント: アダプティブクルーズコントロールの機能も付帯することが多い
×ポイント: 赤外線レーザーと同様に歩行者などには対応してない、自立自動ブレーキの性能としては低いことが多い
赤外線レーザー+単眼カメラ: トヨタセーフティセンスC、ダイハツのスマートアシストII
単眼カメラのみ: 日産(ノート、セレナ、エクストレイル、リーフに付く)エマージェンシーブレーキ、
○ポイント: カメラを持つので歩行者、白線、標識などを認識できる。価格が比較的安い。価格を考えれば自立自動ブレーキの性能も納得できることが多い。
×ポイント: 自立自動ブレーキの性能が低いものもある
ミリ波レーダー+単眼カメラ: トヨタセーフティセンスP、日産(スカイライン、フーガに付く)エマージェンシーブレーキ、ホンダセンシング、ベンツ(Aクラスなど)のレーダーセーフティパッケージ、ボルボXC90のインテリセーフなど
○ポイント: アダプティブクルーズコントロールが付帯するケースが多い。歩行者への対応を含め自立自動ブレーキの性能と価格のバランスも納得できるものが多い
×ポイント: 方式としてはここに分類されても、自立自動ブレーキの性能が低いものもある
ステレオカメラ: スバルのアイサイト、スズキのデュアルカメラブレーキサポート
○ポイント: アイサイト、デュアルカメラブレーキサポートともに自立自動ブレーキの性能はトップレベルで、アイサイトはアダプティブクルーズコントロールの性能も非常に高い。カメラ式は悪天候に弱いと書いたが、アイサイトはゲリラ豪雨のなかでも機能を継続するなど、悪天候にもむしろ強いといえるほど。価格も性能を考えれば非常に安い。
×ポイント: 強いて挙げればデュアルカメラブレーキサポートはクルーズコントロール付きでも、アダプティブクルーズコントロールとしては機能しないこと
価格も効果もピンキリなので購入前に精査が必要
赤外線レーザー+ミリ波レーダー+単眼カメラ: ボルボV40、V60などのインテリセーフ、他社も同方式のものあり
○ポイント: ボルボのインテリセーフはXC90のものも含め自立自動ブレーキ、アダプティブクルーズコントロールの性能ともに非常に高く、自転車にも対応する
×ポイント: 方式としてはここに分類されても、自立自動ブレーキの性能が低いものもある
ミリ波レーダー+ステレオカメラ: ベンツCクラス、Eクラス、Sクラスなどのレーダーセーフティパッケージ、レクサスLSの衝突回避支援型プリクラッシュセーフティシステム
○ポイント: ベンツCクラス、Eクラス、Sクラスのレーダーセーフティパッケージの自立自動ブレーキ、アダプティブクルーズコントロールの日本の速度域においての性能はスバルのアイサイトやボルボのインテリセーフとほぼ同等。しかしドイツ生まれのベンツだけに日本では非合法となる速度域まで対応するという非常に高い技術力を持つ。価格もCクラスのオプションとなるグレードを見ると19万9000円と内容を考えれば納得できる。
×ポイント: ベンツCクラス、Eクラス、Sクラスのレーダーセーフティパッケージに関して、ネガな要素を強いて挙げるなら、日本の速度域では過剰な性能な感じがあることくらい。レクサスLSの衝突回避支援型プリクラッシュセーフティシステムは性能としてはアイサイトと同レベル。つまりそれなりに性能は高いが、付帯する機能を考慮しても100万円以上という価格はいくら何でも高すぎる。
このように自立自動ブレーキは性能、価格を含めて「ピンからキリまで」という言葉がピッタリなくらい幅広い。しかも同じメーカーの場合、同じ名前なのに性能がまったく違う、名前が似ていているのに性能が全然違う、といった非常に紛らわしいケースもある。
それだけに自立自動ブレーキの性能を見極めるには情報収集が非常に重要だ。具体的な方法としては、カタログやインターネットでメーカーが公表する情報、自動車メディアの評価、そして車種は限られるが、国が行う「JNCAP」と呼ばれるクルマの安全性のテストの中にある自立自動ブレーキの性能の評価を含む予防安全性能アセスメントという項目のチェックが挙げられる。
とくにJNCAPの予防安全性能アセスメントでは「物体に対し何km/hまで止まれるか?」などのテスト項目があるので、これらの情報を総合しそのクルマの極力正確な自立自動ブレーキの性能を把握するといいだろう。
また自立自動ブレーキはあくまでも運転支援。危険が迫ったときの最後の砦であるだけに、自立自動ブレーキやアダプティブクルーズコントロールに頼り切った運転はくれぐれもやめていただきたい。
(文:永田恵一)
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