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Made in Graz オーストリア 新型Gクラス、新型スープラ、Z4が生まれるマグナ・シュタイヤーのオーストリア・グラーツ工場

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Made in Graz オーストリア 新型Gクラス、新型スープラ、Z4が生まれるマグナ・シュタイヤーのオーストリア・グラーツ工場

デトロイト・モーターショーで新登場したメルセデス・ベンツの新型Gクラス、ジュネーブ・モーターショーでベールを脱いだ新型スープラ、そしてその兄弟車のBMW 次期Z4。ジャガーIペイス、Eペイス。共通しているのは、Made in Austria(オーストリア)という点だ。マグナ・シュタイヤーのグラーツ工場が、生産工場となる。(取材は2013年3月に行なった)。TEXT & PHOTO◎鈴木慎一(Shin-ichi SUZUKI)

オーストリア、シュタイヤーマルク州の州都グラーツは、オーストリア第二の都市である。もちろん、第一は音楽の都、首都ウィーン。ではグラーツは? 実はグラーツは自動車産業の中心なのだ。AVLがあり、そしてマグナ・シュタイヤーがある。グラーツ市の中心は世界遺産にもなっている静かな旧市街である。今回取材したのは、その中心から車で30分ほど離れた近郊にあるマグナ・シュタイヤーのグラーツ工場だ。

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マグナ・シュタイヤーの「マグナ」は、1957年にカナダのトロントで創業したサプライヤー。このマグナが1998年にシュタイヤー(正確にはシュタイヤー・ダイムラー・プフ社)を買収して現在のマグナ・シュタイヤー社となった。マグナ・シュタイヤー社は、世界的なメガサプライヤーであるマグナ・インターナショナルの傘下にある。少々ややこしい。成り立ちを追いかけるとそれだけで紙幅が尽きてしまうので、ごく簡単に書くが、もうひとつの源流である「シュタイヤー」は1864年まで遡ることができる(さらに言うとプフ社も100年以上の歴史を持つ)。要するに、ヨーロッパ自動車業界の老舗、なのだ。

マグナ・グループ(マグナ・インターナショナルのグループ)が他のメガサプライヤーと決定的に違うのは、「クルマを生産できる」ことだ。エンジニアリング、パーツの供給だけでなくクルマそのものも造れる能力を持つのがマグナの強みである。自動車生産のノウハウを豊富に持つエンジニアリング&部品会社は唯一マグナだけ。しかも、そのノウハウは100年以上、250万台以上の実績に裏打ちされている。


現在、グラーツ工場で生産しているのは、メルセデス・ベンツGクラス、プジョーRCZ、BMWミニ・カントリーマン&ペースマンの3メーカー4車種。これに、ボディの組立を行なうメルセデス・ベンツSLS AMGがある(2013年3月当時。現在は、メルセデス・ベンツGクラス、BMW 5シリーズ、ジャガーEペイスなど)。自動車メーカーが生産を他社に委託することはけして珍しくない。トヨタと関東自動車(現・トヨタ自動車東日本)やトヨタ車体などとの関係を思い浮かべればいい。しかし、その場合は、自動車メーカーのグループ企業であり他のブランドのクルマの生産を行なうことは基本的にない。マグナ・シュタイヤーとは形態が違うのだ。「Vehicle Contract Manufacturing」は、エンジニアリング、ルーフシステム、フューエル&バッテリーシステムと並ぶマグナ・シュタイヤーのビジネスの4本柱の重要なひとつだ。


同じ工場で複数のメーカーの複数のモデルを生産するのは非常に珍しい。しかも、それがメルセデス・ベンツやBMW、アストンマーティン(2010-2012:ラピード)などのプレミアム・メーカーの重要モデルなのだからなおさらだ。

マグナ・シュタイヤーと自動車メーカー(OEM)の関係は、自動車メーカーと系列の下請けメーカーのそれとは違う。もっとパートナーとして対等で技術面での深い連携(共同開発)のうえでの受託生産、とでも言おうか。マグナ・シュタイヤーが生産することを前提にOEMは新車開発を行ない、そこにマグナ・シュタイヤーが技術ノウハウを投入して開発を支援し結果、生産まで請け負う。そんなイメージだ。

場合によっては、アイデア・企画からマグナ・シュタイヤー側が自動車メーカーに提案して生産を行なう場合もある(BMWの初代X3がこの例に当たる)。まさに、ブランドなき完成車メーカーである。現在生産しているプジョーRCZは、プジョーからマグナに、プラットフォーム2をベースにした2ドアクーペが造りたい、というオファーが来て開発・生産に結びついたという。開発自体はプジョーが行なったが、プジョーは当初からマグナ・シュタイヤーに生産を委託することが前提条件だった。マグナ・シュタイヤーの長年の多ブランド多車種の生産から得た技術ノウハウ(マルチOEMエクスペリエンス)が評価されての受託生産である。マグナ・シュタイヤーとプジョー(PSA)はRCZで初めて受託-委託生産関係を結んだのだが、マグナ・シュタイヤー側が以下の全責任を負う、とされている。
・生産:エンジニアリング戦略の選択
・品質:完成車の開発
・パーツサプライ:全パーツの購入
の3つだ。要するにマグナ・シュタイヤーにすべてお任せ、ととることもできる。結果、RCZは多くのパーツをマグナ・グループから供給。まさにMade in Graz、Made by Magna Steyrと言える。


では、早速プジョーRCZの工場に入ってみよう。ホール1・フレックスプラントと呼ばれる工場は、明るくきれいな最新自動車組立工場である。とはいえ、ドイツ企業の病的なまでに整理整頓された清潔なファクトリーとはやや趣を異にしていていい意味で少し雑多な雰囲気だ。居心地は悪くない。設備はもちろん最新。流れているのは、プジョーRCZのみ。自動車メーカーの他品種混流ラインを見慣れた目には新鮮だ。
(注:現在ではRCZの生産は終了している)

同じ工場で複数の自動車メーカーの受託生産を行なうとなると、懸念されるのは、技術の流出だ。プジョーの技術がBMWヘ、メルセデスのノウハウがプジョーへ……この疑問についてはアプファルター社長が明快に答えてくれた。「OEMとは厳格な秘密保持契約を結んでいます。技術が流れることは絶対にありません」


次に案内されたのはホール12・メルセデス・ベンツGクラスの生産工場だ。Gクラスは、1979年の生産開始以来ずっとグラーツ工場で生産されている。その数22万台以上。基本構造を変えずにずっと生産されているロングセラー・モデルだ。と同時に、メルセデス・ベンツブランドで最も高価なモデルでもある(V12搭載モデル)。工場に足を踏み入れた途端、RCZの工場とまったく違うことに驚く。人が多い。手作業が多い。工場内が雑多。いわゆる、昔ながらの工場なのだ。熟練の職人がていねいに手作業でクルマを作っていく。Gクラスは最高で年数万台の生産台数を誇っていた時代があった。その当時は自動化していた工程も、現在の生産台数だとマニュアルで作業した方が効率がいい場合もあるということで、職人の手による生産に変更されたという。


30年以上継続生産されているGクラスは、2009年に契約が延長され、現在では2019年までは少なくとも生産が続けられることが決まっている(注:契約は2023年まで延長され、新型Gクラスもマグナ・シュタイヤーのグラーツ工場で生産されることが決定している)。
しかも、生産台数は、今後増加していく見込みだという。まさに、「生きる伝説」的なモデルだ。軍用車としても使われるGクラスの実力は、おそらくそう簡単には代替がきかないのだろう。22万台のうちの80%が現在でも路上を元気に走り回っているという事実からも、それは証明されている。

なぜ、自動車メーカーはマグナ・シュタイヤーを選ぶのだろうか?

「One Stop Shopだから」と社長は言う。マグナ・シュタイヤーだけが、アイデア~エンジニアリング~生産までできる。マグナ・シュタイヤーだけで完結できるから、という。かつてイタリアン・カロッツェリアも生産設備を持ち自動車のメーカーの生産を請け負っていた。しかし、いまは姿を消してしまった。なぜマグナ・シュタイヤーは存在感を増し続けているのだろうか?「我々だってアップダウンはあるよ。天気みたいなものさ」と社長は言う。しかし、その顔は笑っていた。生産のノウハウまで持った上でのエンジニアリング能力の高さに自信あり、と見た。

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