直6エンジンは80年代に完成形が出来ていた
トヨタGRスープラに直列6気筒エンジンが搭載され、注目を浴びています。AMWでは『乗用車用国産直6エンジンの歴史を振り返る』として、日産、プリンス、三菱、そしてトヨタと、国内の自動車メーカー各社が登場させた創生期の直列6気筒エンジンを紹介しました。今回は70年代以降の直6エンジンについて振り返ってみることにしようと思います。
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70&80年代に日産の基幹エンジンとなったL型
先ずは日産から。63年にK型エンジンで、戦後の乗用車用国産直列6気筒エンジンの先鞭を切った日産が、65年に投入した名機。基本設計が同じ直4エンジンをファミリーに持つ「L型」エンジンから紹介しましょう。テーマは70年代以降の直6エンジンとしていますが、L型の登場は65年。それでもセドリック&グロリアからスカイライン&ローレル、更にはブルーバードなどの上級小型乗用車やフェアレディZなどに搭載され、80年代半ばまで、約20年間に渡って日産の基幹エンジンだったことは間違いないでしょう。
L型ファミリーとして最初に登場した”L20″は、その名前からも分かるように排気量は2リッター。後に排気量を拡大したL24(排気量は2.4リッター)やL26(同2.6リッター)、L28(同2.8リッター)というバリエーションが続々と誕生しました。
実はデビュー4年後に4ベアリングから6ベアリングにアップデートされるとともにシリンダーピッチも改良。大幅な設計変更を受けたL型でしたが、それ以降は基本設計に手を入れることなくL24以降の大排気量仕様が誕生しています。
それはとりもなおさずL型の基本設計が、懐の深いものだったということに他なりません。さらに電子制御式燃料噴射や乗用車用では国産初となるターボの装着など、様々な新技術のマザーベッドとしても貢献してきました。
ただし、OHCの動弁機構を採用していながらいささか旧態然としたカウンターフローのままだったことなど、今から思えば首をかしげるような点があったのも事実。ライバルとなったトヨタのM型エンジンにはツインカムがラインナップされていましたが、L型は最後までシングルカムだったのです。
それでも、レース用としてはクロスフローにコンバートした”LYヘッド”と呼ばれる特殊パーツを開発しており、実際に市販化される計画があったのかもしれません。また先にも紹介したようにL型には基本設計が同じ直列4気筒シリーズが67年に登場していますが、こちらにはレース用のオプションパーツとしてツインカム16バルブのヘッドが組み込まれたLZ20エンジンやLZ16エンジンが開発。これらはツーリングカーやグループ5のレーシングスポーツに搭載して活躍したことは、古くからのファンならばご存じのエピソードでしょう。
ちなみに、国産初となるターボを装着したL20ETが最初に搭載されたのは、セドリック/グロリア。ハイパワーを謳うことは暴走運転を助長する、との当局の指導に、L20ETはターボにより中速域でのトルク特性が改善されたことによって”燃費が良くなった=環境対応のエンジン”であることから、スカイラインGTやフェアレディZのようなスポーツカーでなく、上級セダンのセドリック/グロリアに搭載された、というのも知られたエピソードです。
L型後継のRB型は第二世代のGT-Rが採用
60年代後半から80年代中盤まで、日産の基幹エンジンとなったL型でしたが、80年代に入ると基本設計の古さは隠せなくなってきました。そこで後継エンジンとして84年に登場させたのが”RB型”です。L型と同じシングルカム(SOHC)の12バルブながら、クロスフローとしたことで随分モダンな外観になっていました。
当時の日産は同じ2リッターの6気筒でも、前輪駆動にも転用でき、また耐衝突の案件からも優位に働くV型6気筒を鋭意開発しているところで、RB型はスペック的にコンサバだっただけでなく、L型ファミリーとの共通項も多く持っていました。ただし、そこからターボやツインカム、24バルブなど、様々なチューニングアイテムが追加されていったのもL型と同じ。基本設計の段階から排気量拡大を見越していたのもL型と同様だったのです。
RB型は、84年の10月に登場した5代目のローレル(C32系)でデビュー。シングルカム12バルブの基本仕様に電子制御式燃料噴射システムを組み込んだRB20Eが、シリーズのベーシック・ユニットとなりました。
そしてデビューから約1年後、スカイラインが6度目のフルモデルチェンジを受けて7代目(R31系)へと移行した際に、ツインカム24バルブのRB20DEと、更にターボチャージャーを組み込んだRB20DETを設定。第一世代(初代PGC/KPGC10と2代目のKPGC110)のGT-Rに搭載されていたS20エンジン以来となる6気筒ツインカム24バルブエンジンでしたが、これを搭載したスカイラインGTがGT-Rを名乗ることはありませんでした。
その先代、6代目となるR30系で“史上最強のスカイライン”を謳うRSターボが登場した時は、6気筒でなく4気筒のツインカム16バルブ+ターボのFJ20ET型エンジン。これを理由にGT-Rを名乗っていませんでしたが、今度は6気筒にもかかわらずGT-Rを名乗っていません。後に登場する特別なエンジン=RB26DETTの存在だったのでしょう。
RBシリーズの究極としてRB26DETT型が登場したのは89年8月のこと。言わずと知れた、16年ぶりに復活したスカイラインGT-Rに搭載され大きな注目を集めました。このBNR32型を筆頭とする第2世代のGT-Rは、溢れるほどのトルクを余すところなく路面に伝えるための4輪駆動システムが注目されましたが、その溢れるほどのトルクを生みだすエンジン=RB26DETTも注目に値する“特別”なエンジンでした。
それは2568ccという、ある意味中途半端な排気量が雄弁に物語っています。これは当時のツーリングカーレースにおいて、世界的に主流となっていたグループAレースの車両規則を分析し、勝てるパッケージとして導き出された答えだったのです。
もう少し詳しく説明するなら、グループAレースでは排気量によって最低重量やタイヤサイズ、燃料タンク容量などが事細かく決められていて、2.6リッター+ターボならターボ係数(1.7)を掛けて4.42リッターとなり4500cc以下のクラスに編入されます。この4500cc以下のクラスが、最低重量やタイヤサイズ、燃料タンク容量などの面から総合的に見て最も有利だと判断。まさにレースに勝つために生まれてきたエンジンだったのです。
90年代序盤までM型の熟成を重ねたトヨタ
60年代半ばの直6投入では、日産やプリンス、三菱などライバルに後れをとる格好となったトヨタは、90年代序盤まで、そのM型エンジンの熟成を重ねて行きました。そしてターボチャージャーを装着したり、ツインカムヘッドを組み込んだり、と様々なアップデートを行っていきました。
68年に登場したトヨタ2000GTにもM型ファミリーの一員である3M型が搭載されていて、これが市販量産車における国内初のツインカムエンジンとなりましたが、このツインカムヘッドはヤマハ発動機で開発されたもの。
しかし、その3M型以降に登場したM型のツインカムユニットは、全てトヨタが独自に開発したものでした。そしてM型ファミリーの集大成となったのが86年1月に2代目ソアラ(Z20系)に搭載されてデビューした排気量3リッターの7M-GTEUでした。GTのネーミングからも分かるようにツインカム+ターボ仕様でしたが、M型ファミリーとしては初の4バルブヘッドを奢られており、ターボも空冷式のインタークーラー付きで、当時として国産車最高の230馬力を誇っていました。
M型の後継、2リッターに特化したG型が登場
熟成が続けられていたM型でしたが、70年代も終わりになる頃にはやはり、基本設計の古さが目立つようになってきました。そこで後継モデルが開発されることになるのですが、先ずは2リッターに特化した、言い換えれば排気量拡大を前提としないエンジンとしてG型が登場しました。
ファミリーの中で最初にデビューしたのはSOHC12バルブで電子制御式燃料噴射仕様の1G-EU。80年4月に登場した初代クレスタ(X60系)の基幹エンジンと位置付けられ、同年10月にはマークIIとチェイサーがフルモデルチェンジし、それぞれ4代目と、2代目となるX60系の基幹エンジンにも位置付けられていました。
さらに81年2月にはソアラが、7月にはスープラが、そして8月にはクラウンが、それぞれフルモデルチェンジやマイナーチェンジに合わせてエンジンをM型からG型にコンバート。新旧交代は瞬く間に行われ1G-EUはトヨタの2リッター級直6での主流エンジンの座に就くことになりますが、何より2リッターに特化したことで軽量コンパクトに仕上がっていたのがG型エンジンの最大の美点でした。
その後は基本となった1G-EUに、ターボチャージャーやスーパーチャージャーなどの過給機を装着したり、ツインカムヘッドを組み込むなどアップデート。1G-GEUは、トヨタとして初のツインカム4バルブとなっていました。1G-GEUが最初に搭載されたのはスープラの前身であるセリカXXで82年8月のこと。そしてマークII/チェイサー/クレスタの3兄弟やソアラ、そしてクラウンなど2リッタークラスの上級小型車のラインナップの中でスポーティなグレードに続々搭載されていきました。
また珍しいところでは、同じツインカムながら、タイミングベルトで一本のカムをドライブし、もう一本はシザーズギアでドライブするハイメカツインカムもラインナップされていました。こちらは、エンジンのタイプ名にGの付く通常のツインカムとは異なり、Fが付けられて1G-FEと呼ばれることになりました。
大排気量化にも対応したJZ型の登場
ツインカム24バルブのターボ仕様まで誕生したG型ファミリーでしたが、2リッターに特化していたことから大排気量化は叶わず、80年代後半になってもトヨタのオーバー2リッター直6はM型が受け持つ状況が続いていました。そこでM型に代わりオーバー2リッターを受け持つ新型直6の開発が進められることになりました。そうして誕生したのがJZ系でした。排気量が2.5リッターの1JZと3リッターの2JZがあり、そのそれぞれにツインカム24バルブのGEと、それにターボチャージャーを装着したGTE、そしてハイメカツインカムのFSEと合わせて6タイプが用意されました。
JZファミリーの中で最もホットなユニットは2.5リッターのツインカム・ターボ=1JZ-GTEでした。これはトヨタとヤマハ発動機が協力して開発したもので前期型はツインターボ+インタークーラーで当時の業界自主規制値だった280馬力を難なく捻り出すとともに、その最高出力発生回転が6200回転と2JZ-GTEよりも高回転にシフトされていました。
後期型ではシングルターボにコンバートされたもののVVTi(可変バルブタイミング機構)を備えることで前期型と同じ280馬力/6200回転をキープ。さらにトルク特性も見直され、最大トルクが37.0kg・m/4800回転から38.5kg・m/2400回転へと向上。クラウンやマークII3兄弟だけでなく、ソアラや、走りを追求するスープラのユーザーにも好評を博して受け入れられていました。
残念ながら、2000年代に入ると衝突安全の追求から直6エンジンは不利となり、多くがV型6気筒に置き換えられることになって行きました。それでも、技術の進化により耐衝突の案件をクリア。トヨタも直6エンジンでは定評のあるBMWと共同開発しGRスープラに搭載。オーナーは直6エンジンによる官能のエキゾーストを楽しむことができるようになりました。
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