自動車の安全性能を評価・公表する自動車アセスメント(2020年度)の結果が5月25日に発表され、そこで日産デイズが軽自動車として初めて、唯一の最高評価「ファイブスター賞」を獲得した。
デイズの総合評価は、もっとも安全と評価されたレヴォーグ、そして2番目のハリアーに次ぐ98%の評価で、これはヤリスクロスと同じ。つまり普通乗用車と同等の評価だったのだ。
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ということは、ボディの小さな軽自動車だが、デイズの安全性能は普通乗用車と同レベルと考えていいのだろうか? モータージャーナリストの御堀直嗣氏が解説する。
文/御堀直嗣
写真/NISSAN、自動車事故対策機構、ベストカー編集部
【画像ギャラリー】祝! デイズが自動車安全性能2020で星5を獲得!!
■デイズが安全性能の最高評価「ファイブスター賞」を獲得
日産 デイズ(132万7700円~)は、JNCAPの「2020年度自動車アセスメント」総合評価で最高評価の5つ星を獲得した
日産自動車は、軽自動車のハイトワゴンであるデイズが、JNCAPの「2020年度自動車アセスメント」総合評価で最高評価の5つ星(ファイブスター)を獲得したと発表した。
JNCAP(ジャパン・ニュー・カー・アセスメント・プログラム)とは、独立行政法人の自動車事故対策機構によって中立公正な立場から公表される自動車評価だ。自動車事故対策機構は、1973年(昭和48年)に自動車事故対策センターとして設立され、1999年(平成11年)から自動車アセスメントの情報提供を行っている。
今日まで過程で、評価の内容も時流に応じて更新され、2020年度は衝突安全性能と予防安全性能の評価を統合したのに加え、新たに事故自動緊急通報装置の搭載の評価が加えられた。そして満点から差し引かれた点数の表記ではなく、満点の何パーセントを満たしたかで表示される。
今回の日産デイズは、衝突安全性能で88%、予防安全性能は96%、そして事故自動緊急通報装置で100%を獲得し、総合92%となって、5つ星を獲得した。
デイズのオフセット前面衝突試験の様子
デイズの 衝突被害軽減ブレーキ試験。奥の2台は死角から出てくる歩行者を再現するために置いてある
ちなみに、今回の大賞はスバル レヴォーグが獲得し、衝突安全で96%、予防安全で100%、事故緊急通報装置で100%を獲得し、総合では98%となっている。
日産デイズで若干パーセンテージが劣っている理由を詳しくみると、衝突安全ではオフセットの前面衝突で差がついている。また予防安全では高機能前照灯がないぶん差が出た。
■衝突安全性のために大型化された軽規格
近年の軽自動車規格は、1998年に定められ、車体寸法が以前に比べ大型化した。1960年代の初代日産サニーやトヨタカローラの横幅と同等にまで大きくなっている。
車体寸法は1960年代の初代日産サニーやトヨタカローラの横幅と同等にまで大きくなった
その目的は、登録車との衝突においても、同等の乗員安全性能が得られるようにするためだ。交通社会のなかで、互いに安全を確保することをコンパティビリティ(共生)というが、その要望が1990年代後半に強まったからである。
それが、1999年の自動車アセスメント情報の提供開始にもつながっている。
したがってそもそも23年前から、衝突安全性能においては軽自動車と登録車の差がなくなるような取り組みが行われてきた経緯がある。
実際、今回の日産デイズの自動車アセスメントのための衝突実験の映像(YouTube)を見ると、前席後席ともシートベルトとエアバッグによって乗員の生命の確保が行われている様子がわかる。
一方、かつてほかの自動車メーカーで衝突実験の様子を見た経験からすると、軽自動車と登録車を直接オフセット衝突する実験からは、車両自体の安全性能は同等であっても、車両重量の軽い軽自動車は衝突後に車体が跳ね飛ばされることを知った。
実験場内でのことなので明確には言えないが、車道から歩道あるいは道路の外へ出てしまうほど車体は飛んで行った。転倒することはないが、道路わきに居る歩行者が巻き込まれる可能性は考えられ、また道路の外へ飛び出せば畑などへ転落することも考えられる。
■デイズは予防安全装備も充実
したがって軽自動車の乗員の命が守られる可能性は高いが、二次事故に至る懸念は否定できない。つまり、軽自動車が登録車と衝突して安全かどうかという問いに対し、乗員は大丈夫だろう、ただし、周囲の通行者への二次被害を生じる可能性は残るということだ。
そこで、事故を起こさないための予防安全の重要度が増す。
予防安全でのレヴォーグとの点数差について、デイズにはハイビームの状態で前を走るクルマや対向車の運転者への幻惑を防ぐ機能が搭載されないため、減点となっていると思われる。
それでも、デイズは車線維持機能を含め、被害者をなくすだけでなく、運転者が加害者となる危険を予防できる予防安全が充実している様を映像から知ることができた。
■事故自動緊急通報装置
今年10年を迎えた日産と三菱自動車工業の合弁企業であるNMKV(日産・三菱・軽・ヴィークル)によって企画・開発されたデイズと三菱自のeKワゴンは、基本的に同じクルマだ。
三菱 eK クロス(146万3000円~。ベースのeKワゴンは132万5500円~)は、基本的にデイズと同じ
両車とも試験が行われたが、それでもデイズのみが5つ星を獲得できたのは、事故自動緊急通報装置の搭載の有無であろう。ほかの自動車メーカーでも、上級車種に車載する事例はあっても、軽自動車にまで採用するのはデイズだけではないか。
デイズは専門のオペレーターにつながるSOSコールを3万3000円でオプション設定。ハイウェイスターX(156万7500円)以上のグレードには標準装備
自動車安全性能2020の評価結果(レヴォーグ/ハリアー/デイズ/ヤリスクロス)
自動車安全性能2020の評価結果(フィット/ヤリス/キックス/eKワゴン/タフト/ハスラー)
なぜ、デイズは採用できたのだろう。
理由は、電気自動車(EV)の本格導入を日産が真剣に考え、取り組んだ成果ではないかと思う。
初代リーフを市場導入する際、まだ充電の社会基盤は充分に整備されておらず、国の支援も行われていなかった。そうした時代に日産が行ったのは、すべての販売店へ急速充電器を設置する準備だった。これにより、40km圏内に急速充電拠点があるよう日産自ら充電基盤整備を行った。
そのうえで、日産は充電器の情報をカーナビゲーション上で検索できるようにするだけでなく、オペレーターが支援する仕組みも取り入れた。
運転者自ら検索してもうまく探しきれない状況で、ボタンスイッチひとつでオペレーターを呼び出し、最寄りの充電器を検索してもらい、そこまでの道順をカーナビゲーションに設定することまで行っていた。
実際に利用した経験があるが、オペレーターの対応は大変親切かつ丁寧で、これがあることにより、以後充電への心配がいっぺんに吹き飛んだのである。
結果的に初代リーフの販売実績は年間平均1万台程度に落ち着くのだが、EVの拡販を目指すことで顧客への心理的負担を軽減する対応を行った日産には、数多くの人々からの問い合わせに対応するオペレーター支援をいかに行えばよいかとの知見が残ったはずだ。
軽自動車は、今日の新車販売の3~4割を占めるとされ、昨今の性能・品質の向上による商品性の高さもあってその傾向は今後も変わらないだろう。そうした時、事故自動緊急通報装置を搭載し、それが作動した際の支援を賄える基盤を、日産は初代リーフで築くことができたのではないか。
EVの本格導入を日産が真剣に考え、取り組んだ成果が、デイズの自動車アセスメント ファイブスター賞につながったのではないか、というのが筆者の意見だ
一方、上級車種のグレード別や注文装備程度の数しか設定してこなかったメーカーは、軽自動車にまで事故自動緊急通報装置を搭載するほどの支援体制を築くには時間を要するだろう。
今回の最新の自動車アセスメント基準において、デイズが軽自動車として初めて5つ星を獲得したことは、単に一車種の優劣だけでなく、企業としてこれまで取り組んできたさまざまな面での成果が評価されたといっても過言ではないのではないか。
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