■「キング・オブ・ミニバン」の現状は?
日本の自動車史を振り返ると、ライバルを圧倒するほどの人気を誇ったモデルはたくさんありますが、その後の行方はさまざま。
一世を風靡した人気車といえども、モデルチェンジを重ねるうちに勢いを失ってしまうことがあります。
かつて飛ぶ鳥を落とす勢いだったクルマのなかから、今も絶版にならずに車名が残っているモデルを3車種紹介します。
不人気にもほどがある!? ビックリするほど売れなかった軽自動車5選
●日産「エルグランド」
初代「エルグランド」は堂々としたスタイリングに広々として高級感のあるインテリアと強力なV型6気筒エンジンを採用し、それまでのミニバンとは明確な違いを打ち出して1997年にデビューしました。
FRレイアウトと凝った足回りは確かなハンドリングと快適な乗り心地を両立していると高く評価され、当初から月間販売台数5000台の目標を上回るセールスを記録。人気のスポーティグレード「ハイウェイスター」の追加もあって、デビューから4年で20万台を超えるという、高額車とは思えない販売台数を達成したのでした。
2代目は、エルグランドらしさに磨きをかけて2002年に登場。「キング・オブ・ミニバン」のキャッチコピーのもと、メッキ加飾が増えたフロントマスクや高性能なマルチリンク式サスペンションの採用など、全方位でダイナミックさを増しているのが特徴で、セールスは初代同様に順調な滑り出しを見せました。
しかし、2代目発売の翌日にトヨタが「アルファード」を発売したことで計算が狂います。エルグランドの成功を受けてトヨタが開発したアルファードは、FFレイアウトを採用。FFならではの居住性の高さを活かし、高級感を持たせながらもミニバンらしい利便性を追求したのが特徴です。
アルファードがエルグランドと異なるのは、V型6気筒エンジンだけでなく経済的な2.4リッター直列4気筒エンジンもラインナップしたことでしょう。
この廉価な直列4気筒搭載車を中心にアルファードは売り上げを伸ばし、デビュー翌年にハイブリッドモデルを投入。アルファードはエルグランドの倍以上のセールスを達成し、年間販売台数ランキング9位を獲得するに至りました。
エルグランドも2004年末にこれまで同様の3.5リッターに加え、2.5リッターV型6気筒モデルを追加しましたが、時すでに遅し。トヨタはアルファードの姉妹車として2008年に「ヴェルファイア」を投入したのに対し、エルグランドはFF化することもあって3代目は2年遅れての刷新となり、「アルヴェル」に大差をつけられることになるのです。
現在のエルグランドは、2010年にモデルチェンジを受けて登場した3代目モデルが継続して販売され、13年目を迎えました。
2020年10月のマイナーチェンジで迫力のあるフロントマスクに変更されましたが、年間6万台販売するアルファードの人気には及ばないといった状況です。
■軽・コンパクトの人気車の「現在地」
●スズキ「ワゴンR」
今ではトールワゴンは軽自動車の定番ともいえるボディスタイルですが、スズキ初代「ワゴンR」が登場した1993年当時は3ドアまたは5ドアのハッチバックが主流でした。
軽ワンボックスにはまだ乗用車登録モデルが存在しない時代で、販売されていたのは商用車のみ。乗り心地や使い勝手の面で一般ユースには少々ハードルの高い存在だったといわざるを得ませんでした。
そんな時代にハッチバックのプラットフォームにワンボックスのように背の高いボディを与え、乗り心地と居住性を両立させたワゴンRが登場したのですから人気にならないわけがありません。
なかでも評価が高かったのが、道具然としたシンプルなスタイリングです。当時はRVブームが加熱していた時期でゴツいクルマが多かったこともあり、マーケットは食傷気味だったのか、逆に「こういうのでいいんだよ」とばかりに大いに支持されました。
軽自動車もエンジンのDOHC化や過給機搭載、4速AT採用など高性能化が進んでいた当時、3気筒SOHCのノンターボ、ATも3段というごく一般的なスペックで登場したにもかかわらず、大量のバックオーダーを抱えるほど人気を得ます。後にターボモデルなどの追加もあり、最終的に5年のモデルライフで90万台を販売するという大成功を収めました。
2代目も3代目も好調で2008年には累計販売台数300万台を達成。4代目は少し苦戦するものの、それでも4年で約75万台と上々でしたが、大苦戦となったのが2012年に登場した5代目モデルです。
前年(2011年)に登場したホンダ「N-BOX」を筆頭に、軽自動車の主流がスーパーハイトワゴンへと移り変わり、トールワゴンのセールスはライバルも含めて低下。2017年に登場した現行型(6代目)は機能面で話題性はあったのですが、かつての勢いを取り戻すには至りませんでした。
2020年には軽自動車の年間販売台数ランキングで9位につけており、ワゴンRもいよいよ終わりかと思われましたが、2021年に派生車種の「ワゴンRスマイル」を発売すると、これがヒット。2021年10月の月間販売台数でおよそ7年ぶりに首位を奪還しました。
また、最新の2022年の軽の年間ランキングでも5位につけるなど、復活を遂げています。
●ホンダ「フィット」
ホンダ「フィット」はそれまでの「ロゴ」に代わるコンパクトカーとして、2001年に初代モデルが登場しました。
ホイールベースを長く取り、全高を高くすることでクラスを超えた広大な居住空間を確保。燃料タンクをフロントシート下に配置する独自の「センタータンクレイアウト」を採用し、多彩なシートアレンジと低床のラゲッジを実現しています。
高効率な1.3リッターエンジンとCVTの組み合わせは必要十分な動力性能と好燃費を両立。ショートノーズで塊感のあるスタイリングは男女を問わず支持され、発売と同時に大量のバックオーダーを抱える人気車になり、2002年に初代フィットはホンダ車として初めて年間販売台数ランキング1位に輝いたのです。
2007年に2代目へと移行した後もセールスは順調で、2010年にはハイブリッドモデルを投入し磐石の体制に。2013年に登場した3代目は年間1位こそ取れませんでしたが、月間ランキングではトップ3の常連で順調に販売台数を上積みしていきました。
ところが、2020年に満を持して登場した4代目が苦戦しているのです。その理由は、3代目まででクルマとして完成してしまっていたからとも、同門のN-BOXが良くできすぎていて顧客が流れてしまったともいわれています。
コンパクトカーのライバル車種では2022年首位だったトヨタ「ヤリス」は派生車種の「ヤリスクロス」なども含む数字なので、実際にはそこまで差はないのですが、3位の日産「ノート」には大差をつけられているのが現状です。
※ ※ ※
ここで紹介したなかには再びスマッシュヒットとなり復活を遂げたケースもある一方で、厳しい状況にあるクルマもあります。
といっても、車名が残っているだけまだ良くて、後継車が登場することなく絶版になってしまった人気車も少なくありません。
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