日本の自動車産業の岐路
100年に1度の変革期といわれる自動車業界。自動運転やバッテリー式電気自動車(BEV)、ソフトウエア定義型自動車(SDV)といった技術革新がほぼ同時に押し寄せている。この変革期において、日本メーカーは外国勢に主導権を握られているように見える。
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最近では、BEV以上にSDVへの対応が重要視されるようになってきた。しかし、ソフトウエア開発を不得手とする日本メーカーにとって、これはさらに大きな試練となる可能性が高い。
自動車産業は、造船、電機、半導体といった分野で競争力を失い続けた日本にとって、最後に残された主力産業だ。この壁を乗り越えることができるのか――。
DX後進国・日本、デジタル躊躇の実態
新型コロナウイルスの流行中、日本ではいまだにファックスが使われている実態がニュースになり、デジタルトランスフォーメーション(DX)の遅れが浮き彫りになった。世界と比べて日本のDX化は周回遅れだ。日本人はDXの必要性を理解しながらも、どこかで拒否反応を示している。漠然としたデジタルへの苦手意識が根強く残っているのだ。
この傾向は、今後自動車への搭載が増えると予想される人工知能(AI)にも当てはまる。総務省が2024年7月に発表した「2024年版情報通信白書」によると、過去にAIを使ったことがある人の割合は、中国が56.3%、米国が46.3%に対し、日本はわずか
「9.1%」
だった。各国とも「使い方がわからない」「生活に必要ない」といった理由で利用を避ける傾向はあるが、日本の数字を見る限り、「とりあえず試してみる」すら行われていないことが明白だ。
企業の姿勢にも差が出ている。「積極的に活用する方針」と回答した企業の割合は、中国が71.2%、米国が46.3%、日本は
「15.7%」
にとどまった。かつて日本は欧米に追いつき、追い越せと最新技術を積極的に導入し、果敢に挑戦してきたはずだ。そのチャレンジングな精神は、どこへ消えてしまったのか。
食わず嫌いが生むAI後進国・日本
現在、世界のAI開発をリードしているのは米国と中国だが、この数字を見れば、それも当然の結果だ。技術が実用化できるかどうかはさておき、まずは試してみるという姿勢がなければ、この差は埋まらない。日本はあまりにも保守的であり、それが成長を阻害している。
デジタル技術に触れなければ、その長所も短所も理解できない。いわば
「食わず嫌い」
の状態が、日本のデジタル化の遅れを招いている。そして、日本人は「モノづくり」という言葉に強く共鳴し、職人が手間暇をかけて作り出すアナログ的な製品を好む傾向がある。確かに、伝統工芸品のように職人技が生かされるべき分野もある。しかし、「職人技」という言葉にとらわれすぎるあまり、本来デジタル化すべき領域まで遅れをとっているのが現実だ。今後は、
・どこをデジタル化し
・どこを手作業で残す
のか、その線引きを明確にし、社会全体で合意形成を進める必要がある。そして、デジタル化に対応するか否かは、最終的には個人の意識次第だ。慎重な姿勢が日本の強みでもあるが、それが行き過ぎれば、米国や中国との差はますます広がるばかりだ。
BEVはHVを作れなかった欧州の逆襲
化石燃料は有限であり、いずれ枯渇することは誰もが理解している。さらに、地球温暖化が深刻化するなか、化石燃料を燃やして二酸化炭素を排出する内燃機関(ICE)は環境負荷が大きく、次世代のパワートレインをめぐる議論が活発になった。
筆者(武田信晃、ジャーナリスト)は幼少期、次世代のパワートレインはBEVになると漠然と想像していた。ラジコンなど、電池でモーターを動かす遊びが身近だったため、電気で車が走ることに違和感はなかった。
しかし、この議論に政治が絡むことで状況は複雑になった。化石燃料の消費を抑えるため、日本はハイブリッド車(HV)の技術で先行。一方、欧州勢はディーゼルエンジンに注力し、BEVに至る「中継ぎ」として活用する戦略を取った。
ところが、2015年に発覚したフォルクスワーゲンのディーゼルゲート(ディーゼル不正事件)により、この戦略は破綻。HVを導入しようとしても日系メーカーに追いつくことは難しく、自動車製造の主導権を失うと危機感を抱いた欧州連合(EU)諸国は、一気にBEVへと舵を切った。
しかし、急速なEVシフトによるひずみが露呈し、HVの延命は避けられない状況となった。一方で、中国の比亜迪(BYD)が開発したBEVが急速に台頭し、さらにトヨタが2027年にも実用化を目指す全固体電池の存在もあり、BEVが主流となる可能性が高まっている。
BEVより深刻なSDVの遅れ
BEVは大型バッテリーを搭載し、モーターに電力を供給して駆動する車だ。ICEのように精密な技術のすり合わせが不要なため、コモディティ化(製品やサービスが広く普及し、企業ごとの違いがなくなって価格競争に陥ること)しやすい。極論をいえば、資金さえあれば部品を集めてBEVを製造することは可能だ。テスラやBYDの存在感は大きいものの、パワートレインの領域では自動車メーカーが巻き返す余地はある。
しかし、問題はそこではない。単独での巻き返しが困難なのが前述のSDVだ。SDVとは、車両と外部をつなぐ双方向通信機能を活用し、ソフトウエアの更新によって新たな機能を追加し、性能を向上させる自動車を指す。サスペンションなどのハード面が向上するわけではなく、走行性能が直接的に向上するわけではない。しかし、
・エネルギー効率の改善
・カーナビの高度化
など、ソフトウエア領域での進化が重要になる。
かつては運転そのものを楽しむために車を購入するドライバーが多かったが、若者の車離れが進むなか、自動車は移動手段としての「道具」へと変化している。そのため、カーナビやソフトウエアの利便性向上が、購買動機において重要な要素となっている。
この流れが加速すると、売れる車の条件はソフトウエアの質に左右される。完全自動運転が実現すれば、車内はゲーム、音楽、スポーツ観戦、さらにはミニオフィスとしての空間へと変貌する可能性が高い。
問題は、ソフトウエアの開発には膨大なコストがかかる点だ。アマゾンは2025年の投資額を約1000億ドル(約15兆円)と見積もっており、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)と日本企業の資金力の差は圧倒的だ。ホンダはSDV関連のソフトウエア開発に2030年までに10兆円(年間約2兆円)を投資するとしているが、規模・質ともに大きく後れを取っている。実際、ホンダはアマゾンのAWSを活用するが、日本にはAWSに匹敵する基盤すら存在しない。この点は、日本のデジタル産業における大きな弱点でもある。
つまり、BEVはまだ巻き返しの余地があるが、SDVは一度差をつけられると、資金力の格差があまりに大きく挽回が極めて困難になる。日本ではBEVの遅れを懸念する声が多いが、それ以上に深刻なのは
「SDVでの敗北」
だ。今後、日本の自動車産業が世界の中心的な存在であり続けるためには、デジタル分野の遅れをどう克服するかが問われている。国の積極的な支援も不可欠となるだろう。
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