■EV普及のカギとなる充電器に新しい動きアリ!
2022年から2023年にかけて、日本市場向けのEVラインナップが一気に増えてきました。
国産メーカーでは軽EVの日産「サクラ」や三菱「eKクロスEV」、トヨタ「bZ4X」、スバル「ソルテラ」、日産「アリア」など、また輸入車ではテスラ「モデルY」、メルセデス・ベンツ「EQS」「EQE」、ヒョンデ「IONIQ 5」、そしてBYD「ATTO 3」などです。
世の中全体が“EV本格普及期”に入ったような雰囲気になり始めていますが、多くのユーザーが気になっているのが充電インフラでしょう。
その実態と今後の動向について、充電器メーカー各社、自動車メーカー各社、大手電力各社の関係者と意見交換してみました。
まず、EV用(およびプラグインハイブリッド車)の充電インフラの種類を再確認してみましょう。
もっとも簡単に安価で取り付けられるのが、一般的にEVコンセントと呼ばれる商品で、EVに付属しているケーブル機器を家電のようにコンセントにつなぐ方法です。
交流(AC)100Vと200Vに対応しますが、最近では自宅で簡単な電気工事をおこなって200Vにし電流を16Aとする、200V×16A=3200W(3.2kW)のEVコンセントの普及が進んでいます。新車ディーラーではEV購入する際に電気工事業者の紹介もしています。
EVコンセント単体の価格は数千円ですが、設置場所の状況に応じて設置工賃は数千円から10万円くらいまでとケースバイケースだといわれています。
3.2kWのEVコンセントは、マンションなどの集合住宅での普及も進み始めているようです。集合住宅では、EVやプラグインハイブリッド車を所有している住民とそうではない住民との間の公平感を考慮し、充電インフラの設置についてはマンションなどの管理組合で協議する必要があります。
そのうえで、EVコンセントは比較的安価に導入でき、またスマホのアプリを通じて利用者や管理組合の双方が納得いく解決策になるようなさまざまなサービスビジネスモデルが生まれています。
次に、普通充電と呼ばれる方法では充電器側にケーブルがあります。こちらの出力は6kWが主流です。価格はメーカーや仕様によって20万円から30万円といったところです。設置工事についても、EVコンセントと同様に場所によってバラつきがあります。
2010年代から6kW普通充電器を製造・販売している大手企業は、市場の潮目が変わったのは2021年から2022年にかけてだと指摘します。トヨタがEV市場への本格参入を表明し、そして軽EVを含めて各社のEVラインナップが増えていくことが確実視されるようになりました。
それに伴い、戸建て住宅で6kW普通充電器の需要が一気に増え、またマンションなどでの普及も増えてきており、今後もこの流れは継続するものとメーカーではみています。
また、6kW普通充電器を使うサービス事業者では、国や自治体の補助金に加えて、サービス事業者が導入支世界各地に広まっています。初期導入コストを抑えることが魅力となり、ホテルや旅館などでの引き合いが多いといいます。
■高出力な急速充電器の課題とは?
急速充電器については、高出力仕様への注目が集まっています。
近年、EVは航続距離を延ばすため電池容量が70kWhから100kWhと大型化する傾向があり、それをより短い時間で充電するためには、急速充電器の高出力化が必要という考え方が欧米や中国を起点に広まっています。
急速充電器の規格は国や地域によってバラバラで、日本を中心とするCHAdeMO(チャデモ)、欧米それぞれの仕様があるCCS(コンボコネクター方式)、中国のGB/T、そしてテスラ独自のスーパーチャージャーがあります。
日本では、CHAdeMOの主流は50kWで、その一部が90kWになってきており、また輸入車メーカー系の販売店では150kWの設置を促進しているところです。これらは直流出力を使う方式です。こうした高出力化に関して課題は大きく3つあるようです。
ひとつ目は、技術的な課題です。国が定める電気設備の技術基準での450Vという制限値と、それに伴う電流値によるケーブルの仕様設計の関係です。
具体的には、出力150kWを450Vで充電すると、150kW(15万W)÷450V=333A、という電流値になる計算です。これがケーブルに流れると発熱することが課題となっています。見方を変えると、ケーブルの性能によって、充電器の出力が制限されてしまうということです。
現状で、取り回しがある程度しやすい、太さや重さのケーブルは125A程度だといわれていて、つまり450V×125A=50.26kWということになり、現在の充電器の主流が50kWという考え方が成り立ちます。
これを、200A対応のケーブルにしたり、または複数口で利用した際の制御方法を工夫すると、実質的に450V×200A=90kWが可能になります。
90kWが2口あるタイプでは、欧州メーカーなどがラインナップしている180kW対応という急速充電器があります。
そして、150kW対応にするには、先に説明したように電流値が300Aを超えてしまいますが、一般的にブーストモードと呼ばれる考え方で、一定時間だけ150kWで出力しケーブルの熱上昇が起こる前に出力を絞る方法の充電器が商品化されています。
または、ケーブルの内部に液体を流して冷却する方法も、海外の充電器メーカーではすでに採用されています。
こうした出力・電圧・電流との関係で、欧米では電圧800Vの充電器が早くから考案されてきました。電圧を上げれば電流を抑えながら高い出力が可能になり、さらにケーブルを液体で冷却して熱対策をしています。
日本でも今後、高出力の急速充電器が普及するには、先に実施が決まった消防法に対する規制緩和のほか、「450Vの壁」に対する規制緩和が必要になってくるのではないでしょうか。
2つ目は、設置費用(イニシャルコスト)です。450Vまでは、200Vから配電することも状況によっては可能だといいますが、450Vを超える場合は中規模な事業施設など向けの6600Vから配電し、個別の電気設備を設置する必要があるため、コストは一気に上がります。
現在は、国や自治体からの補助金が潤沢にあるものの、EVの普及が進めばいずれ補助金も減額されて足りなくなります。
そして3つ目は、電気の基本料金(ランニングコスト)です。料金はkWあたりで計算されるため、例えばkWあたり1700円と仮定すると50kWでは月8万5000円ですが、150kWではその3倍となる25万5000円となります。設置した事業者がこうしたランニングコストをどう回収するのか、さまざまなビジネスモデルを考えていかなければなりません。
こうして見てみると、当面の間はEVコンセントと6kWの普及充電器の普及が着実に進み、一方で、急速充電については全体の数は徐々に増えるものの、場所によって出力の差は大きいままの状態が続きそうです。
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