まだまだ馴染みが薄いCASE時代の車作り
2021年8月21日にトヨタが発表した「トヨタのクルマづくりへのこだわりと未来への挑戦」というプレゼンテーションがオンラインで行われた。
CASE※時代における自動運転や電動化などは日々ニュースとして取り上げられる機会も多いが、実際のところ、消費者側はプロダクト(商品)や仕組みに関して目にする機会は、大きな枠組みの中から見ればわずかである。
では、トヨタはこの時代においてどのような取り組みを行っていこうと考えているのか、そしてそれが最終的に中古車の市場にどう影響するのだろうか。
※CASE=Connected(コネクティッド)、Autonomous(自動運転)、Shared & Services(カーシェアリングとサービス)、Electric(電動化)の頭文字をとった造語
キーになるのはやはり電子化
これまで、車は社会情勢や時代の変化に合わせて進化してきた。環境性能を含めた燃費向上や安全性能はもちろん、快適性なども比較にならないほど向上している。
まだまだ沈静化しそうにない半導体不足に関しても、トヨタによれば(車種にもよるが)1台あたりの搭載されているECUは50個、半導体は1000個も使われているという。
もちろん車種によりその差はあるにせよ、単純に半導体の数だけでなく、システムを動かすプログラムのデータ量も日々増えているのが現状である。
この電子化が加速する中で、トヨタは単純に車のハード&ソフトウエアを進化させるだけはなく、「ヒト、モノ、コトの移動」に対して新しい価値や感動を提供しようと考えている。これを「ヒューマンコネクティッド」と呼んでいるが、実際ユーザーや社会によってどんなメリットがあるのかはまだ漠然としている部分もある。
必ず必要になってくるのが“通信”
では、何が今後のキーワードになってくるのだろうかというと、そのひとつが「通信」である。
現在の新型車の多くには、携帯電話と同様の通信モジュールが搭載されてきている。トヨタはもちろん、メルセデス・ベンツやBMW、フォルクスワーゲン、そして少し遅れながら昨今ボルボもGoogleとの提携による新しいコネクティッド技術の採用に伴い、通信化を実現した。
これまでの通信活用といえば、車両とメーカー側が保有するサーバーとつなげることで行う、地図更新をはじめとするテレマティスクサービス、また走行データを収集し分析することで渋滞情報や災害時における通行情報、さらにCRM(顧客管理)などとなる。
トヨタの場合はこれらをTSC(トヨタ・スマート・センター)で一元管理しているが、これらにプラスして保険会社やレンタカー、物流などのサービス事業と連携する「MSPF(トヨタモビリティサービスプラットフォーム)も提供している。
また、車の新しい使い方として昨今、トヨタの「KINTO」やホンダの「マンスリーオーナー」などのサブスクリプション形態や、「Honda One」というオンライン販売などが話題になっている。これらのシステム基盤を支えるのも、こういったIoT技術である。
ここで重要なのはそれぞれのサービスが連携している点。これまではバラバラに提供していた各種サービスを“一気通貫”で行う点がポイントだ。支払いやメンテナンス情報他、テレマティクスを活用した保険プランの提供も同じプラットフォーム上で実現できることで、トータルでのサービス向上につながる。
OTAを含めたアップデート技術が今後の車のあり方を変える
そして通信といえば、昨今、話題になっているOTA(Over The Air)と呼ばれる仕組みがある。
簡単に言えば、前述した携帯電話などの通信網を活用することで、車載ソフトの更新を自動的に行うという仕組みだ。携帯電話のOSやアプリなどのアップデートと同じ、と言えばわかりやすいだろう。
すでにOTAの取り組みは徐々に始まっているが、これまではどちらかといえば、カーナビなどのテレマティクス関連が多かった。だが、テスラのように“システム”までを更新させ、安全性や機能を向上させようというのが今後の方向性だ。
トヨタは2021年4月から「Advanced Drive(アドバンスドドライブ)」と呼ばれる高度運転支援技術を搭載する「レクサス LS」と燃料電池車「MIRAI」にこのOTA機能を実装しているが、前述したマルチメディアとコネクティッドサービスのフルモデルチェンジという意味では、10月7日に発表された新型「レクサス NX」が最初のモデルとなる。
中古車のOTAは不可能なのか?
前述したように、もはや今後の自動車産業において通信は切っても切り離せない関係になっていることは誰の目にも明らか。それでは中古車を含め、これまで通信モジュールなどを搭載していない車両に関してはどうすればよいのだろうか。
結論から先に言ってしまうと、OTAという考えが「通信ありき」である以上は非搭載の車種に関しては不可能である。
また、通信機能を搭載していても、車両側のコンピュータがそれに対応していなければ、もちろんアップデート自体はできない。
ただ、これで終わりかと言うと必ずしもそうではない。元々車載コンピュータは不具合や機能向上に対して改良を行うための機能が実装されている。リコールなどによるサービスプログラムでの改定もこれに含まれる。
確かにこれまでは、車載コンピュータへのアクセスはどちらかというとネガな部分が多かったが、今後は機能向上をメインとした“ポジティブ”なアップデートに期待できる。
すでにマツダでは、エンジンのスペック向上を行うアップデートを有償・無償を含めて提供しているし、トヨタも前述した「KINTO」向けのGRヤリスに顧客の走行データに基づき、一人ひとりに異なるソフトウエアをカスタマイズする仕組みを検討中だ。
正直、これらの車種が中古車市場に流通されるまでには少し時間がかかるだろう。ただ、これまでは年次改良による機能向上(輸入車やスバル、マツダが全体的に多い)が、中古車選びの大きなポイントであったことにプラスして、今後は「車載ソフトのアップデートの可否」が新しい選択方法に加わってくることになるだろう。 文/高山正寛 写真/トヨタ、マツダ
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