■スープラファンを根付かせた人気映画「ワイルド・スピード」
世界中のファンが夢見て、長年心待ちにしていたトヨタ「スープラ」の復活劇。背景には、とあるクルマ映画の存在がありました。
世界に1台のトヨタ新型「スープラ」が2億3000万円 市販モデルの約40倍の価格で落札
この映画によって、スープラをはじめとした日本車の人気は北米を中心に大いに盛り上がり、日本車の新たな魅力を世界に伝えるきっかけにもなりました。その映画とスープラは、いったいどのような関係性だったのでしょうか。
スープラの人気を押し上げた映画は、2001年に1作目が公開された「ワイルド・スピード」シリーズです。スープラ(1994年式タルガトップ仕様)は1作目の後半から登場します。
作中では最初はスクラップ同然の状態で、登場人物であるドミニクの自動車整備工場「D?T Precision Auto Shop」に持ち込まれ、「ゼロヨンを走るのに10分かかる。ここは廃車置き場じゃない!」などと揶揄されもしました。
しかし、搭載されるトヨタ最強のスポーツエンジン「2JZ型」は無事であったことから、そこから大規模なレストアとチューニングが施されます。
やがて衝撃的なカッコよさを誇る最速のゼロヨンマシンに生まれ変わり、故ポール・ウォーカー演じるブライアン・オコナー巡査の愛車となります。
ちなみに、アメリカではA80型スープラのことを「Toyota Supra MK IV」(マークフォー)と呼びます。
日本国内では初代セリカXX(A40型/A50型)に当たるモデルから、北米では「SUPRA」の車名で販売されていたため、4世代目となるA80型スープラは「マークフォー」との車名になるのです。
そしてこのオレンジのスープラ、じつは同シリーズでテクニカルアドバイザーを務める、クレイグ・リーブマン氏の所有するクルマでした。
オリジナルのボディカラーは黄色で、映画のためにオレンジ色(ランボルギーニ『ディアブロ』の純正色である『キャンディパールオレンジ』)に塗装されています。
1作目に出てくるスープラは、メインとなるのはタルガトップですが、撮影ではほかにタルガトップを外してハードトップを付けたものや、純粋なクーペモデルも数台用意され、遠目に映るシーンではクーペボディのスープラが使われていたようです。
2JZ-GE型エンジンは3.1リッターに拡大され、ゼロヨンで勝つためにシングルターボのターボネティクス製「T-66ボールベアリングターボ」をボルトオンしています。
最高出力は700HPを超え、エグゾーストシステムはグレッディの「Power Extreme ExhaustPro」が搭載されました。サスペンションはアイバッハのコイルオーバー(車高調)に交換されています。
スープラはもともとアメリカで人気の高い日本車でしたが、ワイルド・スピードの登場を機に、映画の人気と共にファンが急増していきました。
同様にR32型からR34型の「スカイラインGT-R」や、「シビック」、「エクリプス」、「アコード」、「ランサーエボリューション」、S14型「シルビア」、「350Z」など「スポコン」(スポーツコンパクト)にカテゴライズされる日本車の人気も高まりました。
結果として、海外仕様で輸出された日本車を、海外のユーザーが日本仕様に近づけつつチューンアップするという「JDM」というカスタム手法が発展し、世界中に多くの熱狂的なJDMファンを生み出すきっかけとなったのです。
■3日間だけのために作られた「幻のスープラ映画」とは
2019年5月17日から19日の3日間、お台場のメガウェブで新型スープラの発表イベントが華々しく開催されました。その一角では「SUPRA復活記念 ワイスピ名場面爆音上映会」と銘打った25分間の映画も上映されました。
1作目から8作目までの名場面が次々に登場するという内容で、とくに7作目『スカイミッション』のラストシーンに改めて涙を流した人も多かったように思います。
ウィズ・カリファの「SEE YOU AGAIN」が流れるなか、ブライアンの白いスープラとドミニクのダッジ「チャージャー」が並走しながら、やがてそれぞれの道へ走り去っていく有名すぎるシーンです。
ところで、なぜトヨタはこのような名場面を集めた映画を作ったのでしょうか? トヨタの広報担当者は次のように説明します。
「ワイルド・スピードという映画と、ポール・ウォーカーへの感謝を伝えることが、企画の発端でした。
スープラが17年ぶりに復活できた背景には、世界中のスープラファンの後押しがあったからで、それを盛り上げてくれた大きな要因に『ワイルド・スピード』があります」
残念ながら、この名場面映画はイベント限定で配給元から許可をもらったとのことで、今後どこかで再上映されることはないそうです。
名場面特集の最後には、トヨタからポール・ウォーカーに向けた感謝のメッセージが送られました。筆者(加藤久美子)の記憶を元に、紹介したいと思います。
※ ※ ※
ポール・ウォーカー様
私たちトヨタは感謝の言葉をまずあなたに伝えたいと思います。
日本のクルマを、とくにスープラを愛してくださってありがとうございます。プライベートと仕事と両方において、世界でもっとも熱狂的なスープラのファンであるあなたに、お伝えしたいことがあります。17年の時を経てスープラが戻ってきました。
(中略)
あなたは私たちに、もう一度、車の楽しさを思い出させてくれました。あなた無しでは、スープラの再来を見ることはできなかったでしょう
あなたのパッションを今後も伝え続け、私たちはクルマ造りをおこなっていきます。
ありがとう ポール
※ ※ ※
7作目の最後に登場する1995年式の白いスープラは、ポール・ウォーカーが個人で所有していたクルマです。ポールはワイルド・スピードシリーズのなかで、スープラに始まり、スープラで走り去っていったことになります。
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