味付けはエンジニア次第
トルク配分をどうするかは、開発エンジニアのセッティングによる。その範囲内で、選択した走行モードだけでなく、そのときどきのスロットルポジションや舵角、旋回Gの大きさ、電子制御スタビリティプログラム(ESP)の判断などに応じて変化する。
新型ゴルフRを監修したエンジニアのヨナス・ティーレベインは「ドリフトモードは度を超えた使い方です」と語る。「というのも、普段ならクルマがスリップすることは求められないからです」。彼に言わせれば、スイートスポットは通常なら極限に至らないセッティングにあり、それは、ドライバーは感じ取れるが、傍目にはわからない程度にクルマが回るくらいだという。
「それが速く走らせることのできる方法で、わたしたちはそれを目指しています」とティーレベインは語る。それを超えて、リアのクラッチの片側が「ほぼ完全に切れている」のがドリフトモードというわけだ。
フォルクスワーゲンと、このシステムを共同開発しているのがマグナだ。メルセデス・ベンツGクラスやジャガーIペイスなどの生産を請け負っている、言わずと知れた一大エンジニアリング企業であり、A45のハードウェア開発にも関与している。
ゴルフRとA45のシステムは大きく見ればほぼ同等だが、AMGのほうがクラッチの枚数が多く、手組みエンジンでより大きなパワーとトルクを叩き出す。
AMGに長く在籍し、SLSの開発などにも携わったラース・ヘンツラーによれば、このシステムを組み込むまでには2年を要したという。目指したのは、直感的なレスポンスとスタビリティ。もちろん、パフォーマンス的なポテンシャルを前提としたうえでの話だ。
「求めたのは、ニュートラルなクルマです」とヘンツラーは語り、AMGは過剰に外輪側へ駆動力を分配しないという。「ドリフトモードでも、駆動トルクを完全に外輪へ送るのは意味がありません。そうすると、アグレッシブすぎて走らせにくいクルマになるからです」。
彼は、トルクベクタリングが抱える別の側面も口にしている。リア外輪寄りの駆動力配分とすることでオーバーステアを誘発するいっぽうで、コーナリング中は内輪側を加速させて、ESPに頼らず正確なヨーイングの抑制を行うこともできるというのだ。
ヘンツラーは、これが単なるギミックではなく、エンジン横置きハッチバックのハンドリングバランスを洗練させ、速さもドライバーの自信も高めるのに有効なツールだという信頼を、トルクベクタリングに寄せている。
先鞭をつけたのはフォーカスRS
このジャンルのパイオニアであるフォーカスRSは、今回のA45より3年、ゴルフRより5年早く登場した。ただし、その方法論はほとんど同じだ。GKN製のツインスターと呼ばれるシステムは、リアのベベルギアを挟んで設置される一対のクラッチでトルクの左右配分を調整する。
1点だけ大きく異なるのは、リアのギア比がフロントより2%ほど速いこと。それによってリアへ最大70%の駆動力を分配でき、そのすべてを左右どちらかへ送ることも可能だ。かなり冒険的なシステムだといえる。
最後はGRヤリスだ。はっきりいって、これはほかのホットハッチより、1990年代のグループAラリーカーに近く、厳密にはほか3台のようなトルクベクタリング性能を備えているとはいえない。
サーキットパック仕様には、前後がオープンデフではなく一般的なトルセンLSDが備わる。いずれかのタイヤがトラクションを失った場合、パッシブ作動でもっともグリップのあるタイヤに偏重したトルク配分とする。
とはいえ、フォードと同じく、フロントよりリアのギア比が高く、プロペラシャフト後端のハルデックス式クラッチが完全に繋がれると、前後アクスルはタイトにロックされ、前後トルク配分は30:70となる。その結果、ハンドリングバランスはオーバーステア傾向となり、想定上はひたすらナチュラルに感じられるはずだ。
ここで根本的な疑問が浮かぶ。これらのシステムは、そこまで手間をかける価値があるものなのだろうか。いい方を変えるなら、本当に役に立つのか、ということだ。
これについては、まちがいなくイエス。すべりやすいスキッドパッドでは、オーバーステアが出はじめた際の荷重移動が効かないので駆動系が効かなくなってしまうところだが、A45とゴルフRは瞬間的にアンダーステアを出し、それからリア外輪に過剰な負荷がかかると、短いテールが流れる。
スリップアングルを増すには、しばしばドリフト状態を意図的に作り出すことが必要になる。これは、かつての三菱ランサーエボリューションやスバル・インプレッサWRXで経験済みというドライバーもいるだろう。ヨーモーメントは、まさしくモーメント、つまり短い間しか発生しない。
BMW M2が見せるような、シャープなスライドを引き出すことはできないが、だれもそれを期待してはいないだろう。それでも、まさしくパワーオーバーステアだ。フォーカスRSはややなめらかさにかけるが、基本的には変わらない。
明確に分かれる個性
おもしろいのは、GRヤリスがほかよりずっとドリフトへ持ち込みにくいということだ。より機械式の要素が強いシステムは、かなりグリップしたがるニュートラル志向で、電子制御できるリア左右のクラッチがないので、エンジニアのプログラムで気まぐれな動きを簡単に抑え込むことはできない。ホモロゲーションモデルとしては、じつに手堅い。
もちろん、重要なのは公道上でなにが起きるかである。そのほうがはるかに大事だ。その場合は、トルクベクタリングの効果はスキッドパッドほど明確に出ないが、だからこそ満足度が増す。ティーレベインの言うとおりだ。この手のシステムで重要視されるべきは、グリップ限界内でハンドリングバランスを高め生き生きさせることであり、サーキットでの度を越した挙動より常用域のセッティングである。
まさしく、ゴルフRはときとしてスロットルを開くと駆動系を締め上げる。まるで、恐ろしくタイトなLSDをリアに備えているかのようだ。それでいて、そうでないときには尖ったところがない。自然ではないが、うまく機械式LSDの挙動をイミテートしていて、じつに楽しめる。
対してA45は、落ち着きを重視している。その主な理由は、エンジニアが明らかに動じることのないニュートラルさをもたらすべくリアアクスルをチューニングしたからで、それゆえに安定感を求めたのだ。
当然というべきか、フォーカスRSは最もワイルドな性格を示す。積極的に不安定な動きを誘発するように感じられるが、おそらくそれは、油圧のベクタリングシステムの反応が遅いが、その後の作動が活発で、チューニングに緻密さが足りないからだろう。2015年当時では、これが最先端のクルマだったのだが。
今回、明らかになったのは、同じ種類のハードウェアでも、チューニング次第で明確な違いが生まれるということだ。それこそ、このクレバーな駆動系のもっともおもしろいところだといえる。チューニングの許容度が、エンジニアの個性を際立たせているのだ。
結局のところ、どのクルマもある程度までは作り手の意図が反映されている。だからこそ、トルクベクタリングは4WDホットハッチをかつてより俊敏で懐の広いものにするばかりでなく、表情豊かで興味をそそるものにするのだ。実用本位になりがちなクラスのクルマとして、これは間違いなく歓迎すべきことである。
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