※この記事は2006年12月に発売された「VW GOLF FAN Vol.10」から転載されたものです。
ビートル・カブリオに始まり、最新のイオスまで連綿と続くVWオープンの歴史。それを語る上で、やはり押さえておきたいのが「ゴルフ・カブリオ」の存在だ。ここでは、その日本仕様の足跡を辿りつつ、VWオープンの歴史をふり返ってみる。さらにパート後半では、ゴルフ・カブリオを中古車で楽しむ方法をリサーチする。
OUTLINE VWオープンの系譜
VWのオープンモデルのルーツは1949年に世に出たビートル・カブリオまでさかのぼるが、その30年後、'79年のジュネーブショーでゴルフ・カブリオがデビューする。さして間を置かず'80年4月には日本上陸を果たし、このIボディのカブリオがIIの時代からIIIの初期までラインナップされ、'94年3月にIIIのカブリオへチェンジ。'99年にはルックのカブリオレが後を継ぐ。そして現在はニュービートル・カブリオレ、そしてイオスが、そのオープンモデルの系譜を引き継いでいるわけだ。
ビートル・カブリオ
ビートルから連綿と続くオープンモデルの系譜
VW(フォルクスワーゲン)のカブリオのルーツは、いわずと知れたビートル・カブリオにある。1949年にその第1号が生産され、'80年までの31年間で約33万台が生産されている。VWゴルフの日本上陸は'75年のことだが、その時点でまだビートルは現役バリバリで新車が売られており、もちろんカブリオ(当時の車名は1303Sコンバーチブル)もラインナップ。ヤナセによる正規輸入のビートルは'78年まで販売されているが、このカブリオの人気は高かったのか、最後の年まで1303LEコンバーチブルの名でカタログオンしている。
ゴルフIカブリオ(前期型)
一方、'76年3月に日本上陸を果たしたゴルフIは、最初はクローズドボディのハッチバックのみだったが、ビートルの輸入終了とともにビートル・カブリオが消えた2年後、'80年4月にゴルフ・カブリオの名で追加されている。すでに実車は前年の'79年の東京モーターショーで披露されていたが、価格は371万5000円と、ベースとなったGLE(227万円)の6割増という強気のプライスタグが付けられていた。
ゴルフIカブリオ(後期型/IIルック)
カルマンによるコーチワークに加え、純正エアコン、スポーツステアリングホイール、ハロゲンランプ、AM/FMオーディオといった豪華装備が標準となっているものの、この価格からして普通のゴルフとは違ったポジショニングだったことが分かる。まさにGTI以上のプレミアムモデルとして登場したのがゴルフ・カブリオだったのだ。
ゴルフIIIカブリオ(前期型)
ゴルフIをベースにしてはいるが、デザインの完成度は高く、このIボディのままゴルフIIの時代を過ごし、IIIボディのカブリオが出るまで生産され続けたのはご存知の通り。日本でも'80年の上陸から'94年のIIIカブリオ上陸まで、輸入中断時期を挟みながら約14年にわたってデリバリーが続けられている。
ゴルフIIIカブリオレ(後期型/IVルック)
その'94年に日本上陸を果たしたIIIのカブリオも長きに渡り生産され続け、IVの時代にフロントマスクなどが変更されたものの、ボディはIIIのまま。要するにゴルフのカブリオは奇数モデルのときのみじっくり開発され、偶数モデル時代はキャリーオーバーで過ごしてきたと考えてもいいだろう。ゴルフII時代のカブリオも途中でGTIルックの4灯ヘッドライトが与えられるなど、Iのカブリオと差別化されてはいたが、ボディは完全にゴルフI。それでも旧さを感じさせないどころか、特別仕様のクラシックラインはゴルフ随一のプレミアムモデルとしていまでもマニアにとっては垂涎の的だ。
ニュービートル・カブリオレ
その後を受け継いだIIIのカブリオもクラシックラインほどのプレミアム性は与えられなかったものの、やはり普通のゴルフIIIとは違う雰囲気を持っていた。IVの時代にはIVの顔を持ったカブリオへ進化しているが、これも基本ボディはIIIのまま。ヘッドランプとグリル回りが大幅に変更されただけでなく、サイドエアバッグの標準装備などゴルフIVのレベルへと進化している部分も目立ち、一方でホイールベースが短く、車幅は5ナンバーサイズなのでかえって扱いやすい面もあったが……。
搭載エンジンの変遷など、細かい部分は次ページ以降に詳しく記すが、デリバリーが開始されたばかりの最新のVW製カブリオ、EOSも、これらゴルフ・カブリオの流れを受け継いでいるといってもいいだろう。
イオス
ゴルフIカブリオ(前期型)1980~84年
'79年のジュネーブショーで初披露され、同年6月から生産が開始された初代ゴルフ・カブリオは'80年4月から国内販売を開始。手動開閉式の幌は工夫されたフレームとガスダンパーのおかげで造作無く開閉できたが、たたんだ幌をボディ後方に積み上げる方式だったため、オープン時の後方視界が犠牲となる。後に10cmほど下げられて視界を確保する。
初代ゴルフ・カブリオ誕生。プレミアム度は歴代No.1
初代ゴルフ・カブリオのデリバリー開始は'80年4月。ゴルフIの上陸から約4年が経過していたが、'78年まではビートルのカブリオが販売されていたこともあり、VWのオープンモデルの空白は2年足らず。国産オープンカーは存在していなかった時代だけに、そのプレミアム感はかなりのものだったが、価格もプレミアムたっぷりの371万5000円。誰もが気軽に手を出せるオープンカーではなかった。
搭載エンジンはベースとなったゴルフGLEと同じEJ型1588ccで、左ハンドルの5速MTのみ。ロールバーやダッシュボード裏の補強、幌の開閉システム(手動だが)のおかげで車重は960kgと、ベースとなったGLEより100kgも重くなっている。リアウインドーは熱線入りのガラスでクローズド時の後方視界はしっかり確保されていたが、オープン時はたたまれた幌がリアシート後方に盛り上がるスタイルだったため、バックするときは意外と後方が見にくかったのも事実だ。
デビュー7カ月後の'80年11月には、他のゴルフとともに搭載エンジンが1715ccのEN型へ変更。最高出力は82psから78psへとダウンするが、最大トルクの増加でドライバビリティは向上。ミッションは5速MTのままながら、シロッコと同じギア比のエコノミータイプへと換装されている。そして約1年後の'81年10月には'82年モデルが発売され、車名が「GLiカブリオ」に変わるとともに、ミッションもATへと変更。このとき、幌をたたんだ際の厚さが10cmほど低くなるように改良され、ルーフオープン時の後方視界を改善。アルミホイールが標準装備となるなど装備も充実する。
'83年モデルでは大きな変更点はなく、水温計がタコメーター内にビルトインされた程度。しかし、価格は393万5000円と400万円に迫り、当時のゴルフのベーシックバージョン(177万5000円)の倍以上。シロッコやアウディ80より高いゴルフとなる。
ゴルフIカブリオ(後期型)1984~92年
ゴルフIIの時代になってもカブリオはIボディのものがそのまま販売される。エンジンは排気量が拡大されて1780ccとなりドライバビリティは向上。'88年モデルからはヘッドライトがGTIと同じ4灯式となり、'90年モデルから幌が電動開閉式となる。'91年に設定された特別限定車「クラシックライン」は大人気で、再び'92年に追加設定されている。
IボディのままゴルフIIの時代を駆け抜けたカブリオ
9年ぶりのモデルチェンジを受けたゴルフIIが日本上陸を果たしたのは'84年の4月だが、その時点でひとまずカブリオはラインナップから消滅。だが、11月には早くも'85年モデルのデリバリーが開始され、GLiカブリオも復活。ボディはIのまま変わらなかったが、エンジンは1780ccのJH型を搭載。他のゴルフやジェッタに積まれたGX型より最高出力で5ps、最大トルクで0.5kg-m上回り、車重は相変わらず100kgぐらい重く、1トンを超えていたものの、活発に走れるカブリオへと変身している。
このゴルフII時代のカブリオ(後期型)は375万円と、Iの最終時期より20万円近く安くなっていたが、'86年モデルでは19万円もの値上げで394万円となり、これは歴代ゴルフ・カブリオの中でも最高値。アルミホイールは履いているが本革シートが標準装備というわけでもなく、初上陸を果たしたばかりのGTIより37万円も高い、まさにプレミアム価格だった。円高の進行により'86年2月にはVW車全体が値下げされているが、それでも391万円と高止まり状態が続いた。
'87年モデルはリアのエンブレムがGLiから「CABRIOLET」へと変わり、ウインドウォシャーノズルがダブルになるなど細部に改良を受ける。電子同調式ラジオ付きオーディオが標準装備になったりもしているが、一方で価格は382万円と9万円もプライスダウン。円高がさらに進んで輸入車の価格が安くなる時代を迎えることになる。
そして'80年のデビューからずっと同じルックスではさすがに面白くない(!?)と感じたのか、'88年モデルではGTIとともにヘッドライトを4灯式にチェンジ。当時の保安基準に適合させるため内側2灯は点灯しない構造となっている点もGTIと同じだ。その他にもボディ同色のエアロキットが装着され(バンパー/フェンダーアーチモール/サイドシル)、インテリアではステアリングホイールの形状も変更。エンジンはJH型のままだがタペット調整の不要な油圧タペットとなる。
'89年モデルではウインドーフレームとドアトリムがクロームメッキからブラックに変わり、マルチファンクション・インジケーターが標準装備されるが、さらに価格が15万円も下がって367万円とかなりプライスダウン。この頃はマルク高に加えて物品税廃止&消費税導入で価格がかなり変動しているが、'89年10月発売の'90年モデルでは消費税抜きで333万円まで下がっている。
一方で幌の開閉機構が電動式となり、パワーウインドーも標準装備。エンジンも燃料噴射システムがKEジェトロニックから電子制御のデジファントへ変更され、型式も2H型と呼ばれるようになる。幌に関しては手動開閉機構のときもガスダンパーを備えた優れものだったが、電動開閉となったことでクオリティが一段と増したことはいうまでもない。
'91年モデルではシートやドアトリムが一部変更され、電動幌の開閉スイッチがセンターコンソールからダッシュボードに移動。そしてゴルフIIの最終年度となる'92年モデルでは、間欠ワイパーの採用や新たなボディカラーの追加などが行なわれている。
このゴルフII時代のカブリオで忘れてはならないのが特別限定車の設定だ。'85年にはカブリオ初の限定車となるメイ・ホワイトが発売されているが、その6年後の'91年6月には記念すべき初代クラシックラインを300台限定で発売。本革シート、スペシャルボディカラー(グリーンパール&ブルーメタリック)、鍛造アルミホイールなどを標準装備としながら、標準モデルに対して14万円高の367万円とかなりお買い得だったこともあり人気が集中。なかには抽選で購入者を決めたディーラーもあったほどだという。
その約10カ月後の'92年3月にもクラシックラインの第2弾(371万円)を、今度は360台限定で発売しているが、これもすぐに売り切れてしまい、後に中古車市場で高い人気を得ることになる。
ゴルフIIIカブリオ(前期型)1992~98年
ゴルフIIIの上陸から半年後にIボディのカブリオ最終型が発売され、その約1年半後にカブリオとしては2世代目となるIIIのカブリオが上陸。カルマン社によるコーチワークは継続されるがボディ、シャシーともに一新され、エンジンも1984ccの2E型を搭載。厚めのフェンダーアーチモールの装着により登録は3ナンバーとなる。
14年ぶりのフルチェンジ。ようやく2代目が登場
'92年4月にゴルフIIIのデリバリーが始まった時点では、カブリオはラインナップされていない。その6カ月後、'93年モデルが発表されたときに復活するが、相変わらず旧来のIボディ+2H型エンジンと、ルックスだけでなく中身も「クラシック」。すっかり変わってしまったゴルフIIIに対して、伝統の丸目4灯ヘッドランプを残したカブリオにシンパシーを感じる人も少なくなかったようだが……。価格も361万円と安くはなかったが、370万円のVR6の登場によりゴルフ最高価格車の座を明け渡している。
だが、このIボディのカブリオはこれが最後となり、'94年3月にはついにIIIボディのカブリオが上陸。14年を超える長いモデルサイクルの間にIボディのカブリオは国内でも約4300台がデリバリーされたが、ここで2代目カブリオへとバトンタッチされることになる。依然としてカルマンによるコーチワークは継承され、補強に効くセンターロールバーを残すスタイルも踏襲。エンジンはGLiと同じ2Lの2E型が搭載され、トランスミッションも4速ATへと進化している。
サイドシルやフロア、バルクヘッドなどの補強に加え、スカットルシェイクを防ぐ防振ウエイトがリアに装着され、快適性は飛躍的に向上。さらにボディの一新によって室内も広くなり、リアシートのニースペースは前後方向に78mmも広がっている。トランクスペースも幌をたたんだ状態で270Lと、先代に比べて50L増量されており、トランクスルー機構を備えるなど使い勝手も大幅に向上。幌も6層式となって防音性や耐候性が確保され、雨の多い日本での日常使用にも十分耐えるオープンカーへと進化している。なお、基本ボディは日本の5ナンバーサイズに収まっていたゴルフIIIだが、このカブリオとGTI、VR6は樹脂製のフェンダーアーチモールを装着していたことで車幅が1710mmとなり、3ナンバー登録となっている。
ボディカラーもクラシックラインで設定されたグリーンパールやブルーパールが標準で設定され、一方で価格は353万円のGTIより安い348万円までダウン。オープンボディのゴルフを望んでいた人には嬉しい設定となる。
その後、'95年モデルではエンジンが2Lのままながら、燃料噴射システムが同時噴射のデジファントからシーケンシャル噴射のジーモスへと進化。エンジン型式もADY型となって低速でのフィーリングや燃費が向上している。'96年モデルでは他のゴルフIIIに合わせてアンテナをショートタイプへチェンジ。カブリオの場合は屋根(幌)に付けるわけにはいかないので左フロントフェンダーにセットされ、合わせてオーディオも変更。さらにシートヒーターが標準装備となっている。
'97年モデルではエンジンがさらにリファインされAGG型へ進化。内部のチューニングで低速域でのレスポンスも向上し、III用のエンジンとしてほぼ完成域に達する。そしてIIIのカブリオの最終型となる'98年モデルではリアブレーキがディスクとなり、キーは偽造しにくい内溝式に変更。パワーウインドーも挟み込み防止機構付きとなり、価格は329万5000円と最安値を更新している。
このIII時代の特別限定車で興味深いのが、'96年に設定されている「カブリオ・ボン・ジョヴィ」と「青いカブリオ・ボン・ジョヴィ」だろう。VGJ(フォルクスワーゲン・グループジャパン)がロックバンド、ボン・ジョヴィのジャパンツアーの冠スポンサーとなった記念の特別仕様車だが、6連奏CDチェンジャーとBONJOVIステッカーが付く程度だった「ボン・ジョヴィ」に対して、「青いボン・ジョヴィ」は本革シートやBBSホイールなどが標準装備されている。2モデル合わせて700台と台数は少なくないが、中古車市場でもなかなか見つからないレア車でもある。
もう1台、'97年に発売された「ブラック&シルバー」は'98年モデルを先取りした装備(リアディスクブレーキなど)を与えられた限定仕様で、センターピラーにはカルマンの紋章エンブレムが付けられている。台数は300台(シルバー200台、ブラック100台)と少なかったが、今も中古車専門店でときどき目にすることができる。
ゴルフIIIカブリオ(後期型)1999~2002年
IIIボディのままフロント回りをIVルックで仕上げた「IVのカブリオレ」は'99年2月に日本上陸。顔はIVとなったがフェンダーアーチモールなどを廃したことで車幅は1695mmに戻り、5ナンバー登録となる。車名もカブリオではなく「カブリオレ」に変わり、エンジンは2 のAGG型を継続搭載。'01年と'02年に「カラーコンセプト」が限定発売されている。
II時代と同じくIIIのボディにIVフェイスで登場
ゴルフII時代と同じく、厳密にはゴルフIVカブリオは存在しないが、IIIカブリオをベースにフロント回りを大幅に変更し、インテリアにもIVの要素を取り入れた「IVのカブリオレ」が'99年の2月に発売されている。
ほぼ1年前の'98年3月にジュネーブショーでデビューし、そのルックスは雑誌などで知れ渡っていたが、フロント回りは見事にIVルックに仕立てられており、ニューモデル感は満点。さらに本革シート、BBS製鍛造ホイール、サイドエアバッグなどが標準装備で339万円と、IIIの最終型カブリオと比較してもお買い得なモデルとなっていた。ちなみにずっと「カブリオ」と呼ばれてきた車名は、なぜかIVの時代から「カブリオレ」に変わっている。
シャシーが変わっていないこともあり、エンジンはゴルフの最終型と同じ2LのAGG型。ゴルフIVに搭載される2LのAPK型とフィーリングはやや異なるが、IIIで定評のあった信頼性の高いエンジンだけに、実用上の差はほとんどない。一方でIII時代に装着されていたフェンダーアーチモールが廃されたことで車幅が1695mmとなり、登録は5ナンバーとなっている。
IV時代のカブリオレはこのデビューモデル以降、マイナーチェンジなども行なわれず、あまり表だった動きのない状況が続く。次に出てきたのは2年ほど経った'01年2月のことで、「カラーコンセプト」と名付けられた特別限定車として登場。限定250台で設定されたカラーコンセプトはブラック、ムラノレッド、ジャズブルーの3色が用意され、それぞれボディカラーと本革インテリアをカラーコーディネイト。ヒーター付きのレカロシートはブルーとレッドが用意され、オープンボディならではの「非日常感」を味わえるクルマとして人気が出る。
このカラーコンセプトは1年後の'02年2月にも、ボディ色の設定やスペックをほとんど変えずに250台だけ限定販売されている。346万5000円という価格も'01年のカラーコンセプトと変わっていないが、この'02年発売モデルが事実上のゴルフ・カブリオレの最終モデルとなる。'03年6月にはニュービートルにもカブリオレモデルが追加されており、VWのオープンモデル路線はひとまず、ビートルへ引き継がれたと考えてもいいかもしれない。
※文中の価格は発表当時のもので、すべて東京地区希望小売価格(車両本体価格)です。販売台数はヤナセおよび日本自動車輸入組合調べ。
構成:田畑 修/タイトルフォト:赤松 孝
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