トヨタ最大のオフロード車
「和製ハマー」とも呼ばれる高機動車BXD10は、日本の陸上自衛隊のために1990年代に開発されたモデルで、米国のハマーなどとはまったく共通点がない。民生用のモデルはメガクルーザーと名付けられたが、高級スポーツカー並みの価格だったため、販売は低迷。日本以外の国でも、姿を見ることはほとんどない。
【画像】世界中を駆け巡る日本の4WD車【トヨタのオフロード車を写真で見る】 全113枚
米国のハマーがEV(電気自動車)として復帰し、世界中の注目を集めているが、今回はトヨタが作った最大のオフロード車メガクルーザーと、陸上自衛隊仕様のBXD10について取り上げたい。
高機動車BXD10のルーツ
トヨタが4WD車を作り始めたのは、今のような巨大企業になるかなり前のことだ。戦後間もない1951年に開発された小型トラックAK10は、その後BJに発展し、自衛隊(当時は警察予備隊)の採用試験に臨んだが、三菱ジープに敗れた。
しかし、BJはランドクルーザーの原型となり、地球上のありとあらゆる地形を制覇する圧倒的なオフロード性能により、何世代にもわたってドライバーの心をつかんできた。米国のジープ、英国のランドローバーと並ぶ屈指のオフロード車として、世界的な支持を集めている。
政府からの要望
トヨタが陸上自衛隊向けに高機動車(HMV/High Mobility Vehicle)の開発に着手したのは1990年代初頭のことである。政府からの要望は、隊員を乗せたり、火砲を運んだりできる4WD車だった。
防弾仕様である必要はないが、普通のSUVよりもオフロード性能が高く、比較的安価に製造でき、故障が少なく、修理しやすいことなどが求められた。
民生型のコンセプト公開
高機動車BXD10の開発が進むにつれ、トヨタは政府機関やレスキュー隊など、どこにでも行けるオフロード車を必要とする人たちのために民生型の販売を考え始める。そこで、1993年の東京モーターショーで「メガクルーザー」というコンセプトを発表。年間1000台以上の生産が可能だと謳い、市場の反応を窺った。
「ショーで人気が出れば、作るかもしれない」と、メガクルーザーのプロジェクトチーフである野中氏は述べている。
小回りが利くよう採用された四輪操舵システム(4WS)は、モーターショーでもよく見えるように展示され、大きな注目を集めた。しかし、「目玉」展示はメガクルーザーだけではなかった。この年、トヨタが発表した6つのコンセプトカーのうちの1つ、RAV4は、発売されるや否やSUV市場を一変させたのである。
トヨタで最もタフなSUV
トヨタはBXD10の開発において一切の妥協を許さなかった。ランドクルーザーの改良版ではなく、軍用オフロード車としてゼロから開発したのである。前後ポータルアクスルを装着し、ドライブトレインをボディに収め、トランスミッショントンネルを異常に広くするレイアウトで、地上高420mmを確保。1993年から1994年にかけて実証試験が行われ、1995年から全国の駐屯地への納入が開始された。
形式より機能
BXD10のインテリアは、まさに「形式より機能」のデザインである。背の高いフラットなダッシュボードには、スピードメーター、燃料計、温度計、そして警告灯がいくつか配置されているのみ。シフトレバーもスイッチもハンドブレーキも、シンプルなことこの上ない。
数字で見るBXD10
全長4910mm、全幅2150mm、全高2240mm。車両重量は2640kg。後部にはロングベンチシートを装着し、10人の隊員を乗せることができる。初期のモデルは、4.1Lターボディーゼル4気筒(最高出力155ps、最大トルク39kg-m)を搭載していた。
意外と小回りも利く
4.1Lディーゼルも十分にトルクフルだが、悪路を走るために必要なのはエンジンだけではない。BXD10はフルタイム4WD、センターデフロック付き2速トランスファーケース、タイヤ空気圧調整装置を備え、後輪を前輪と反対方向に最大12度回転させる四輪操舵システムも大きな特徴である。
その結果、回転半径はトヨタ・カムリよりも小さい5.6mとなっており、その巨体からは想像できないほど小回りが利く。
何でも屋
トヨタは何種類ものBXD10を製造した。人を運ぶために作られたものもあれば、地対空ミサイルの発射装置を運ぶためのものもある。また、衛星通信装置、対空レーダー、発煙筒なども搭載。さらに、航空機のエンジンを始動させるためのジェネレーター(写真)を搭載することも可能だ。
一方、海外では
BXD10とハンヴィー(写真)はよく似ているが、同じ部品は1つとてない。ハンヴィーの基本サイズは、全長4600mm、全幅2160mm、全高1800mm。6.2LのV8ディーゼルエンジンは152psを発生。地上高は約400mmで、BXD10とほぼ同等。フルタイム4WDでポータルアクスルも装備しているが、四輪操舵はメガクルーザーの特権だ。
また、ハンヴィーではラジエーターがほぼ水平に取り付けられているのに対し、BXD10は民生型と同様に垂直となっている。
メガクルーザー誕生
1996年1月、トヨタはBXD10を民生用に改良したメガクルーザー(BXD20)を発売した。足回りは共通だが、1993年のコンセプトを踏襲したフロントデザインが特徴である。パワーウインドウや布張りのシートなど、快適性を重視した内装も違いの1つだ。
陸自仕様と民生型の違いは?
BXD10とメガクルーザーの外観上の相違点はいくつかある。メガクルーザーでは角型ヘッドライト、トヨタのエンブレムを誇らしげに配したグリル、フルワイドバンパーなど、民生型ならではの意匠に。また、ボディパネルも比較的滑らかなものになっている。自衛隊仕様よりも製造コストがかかるが、トヨタの経営陣は十分に回収できると考えていたようだ。
「大きい」なんてもんじゃない
インテリアの雰囲気はハマーH1と似ているが、こちらも共通の部品は全く無い。H1が4人乗りであるのに対し、メガクルーザーは6人乗りである。前席は北アルプスのように大きなトランスミッショントンネルを挟んで2席、後席は2人掛けのベンチを別体シートが挟むという珍しいレイアウトだ。
幅2050mmの荷室には600kgまで積載可能。もはや、「大きい」という言葉では言い表せない。
数字で見るメガクルーザー
発売当初は4.1L直列4気筒ターボディーゼルエンジンを搭載し、最高出力155ps、最大トルク39kg-mを発揮。その出力を4速ATとポータルアクスルを介して、四輪に伝達する。
アプローチアングルは49度、デパーチャーアングルは45度、地上高は420mmとなっている。歴戦のランドクルーザーをも凌駕する性能であったが、東京の街中を国産軍用車で駆け巡るには、それなりの金額が必要だ。
センチュリーとメガクルーザー、どっち買う?
メガクルーザーは1996年、962万円という価格で発売された。同時期の1000万円近い日本車と言えば、V12エンジンを搭載したトヨタ・センチュリーやホンダNSXが挙げられる。巨大なエンジンを積んだダイダラボッチを手元においておくには、軽自動車よりもはるかにコストがかかるのだ。
レスキューミッション
メガクルーザーに価格競争力なんて必要なかったのかもしれない。というのも、日本ではメガクルーザーに相当するライバル車はいないし、センチュリーやNSXを買う人を主要な顧客として見ていたわけでもなかった。純粋に大型オフロード車を必要とするユーザーに、働くクルマとして使ってもらうための道具と想定されていた。
トヨタは自社のホームページで、「陸上自衛隊の人員輸送用車両として開発された高機動車を民生仕様に仕立てたモデルで、1996年1月に発売。極めて高い不整地走破性能を備えることが特長で、救難救助車、救急車、未開地域走破用などの用途向け車両である」と書いている。
メガクルーザーの引退
メガクルーザーの生産は岐阜県の工場で行われたが、生産台数については専門家の間でも議論がある。132台という説もあれば、149台が正しいとする説もある。いずれにせよ、2001年8月、後継車がないまま生産は終了した。
トヨタは最終的に、このニッチな分野では競争する価値がないと判断した。GMも同じ結論に至り、2006年にハマーH1を引退させている。
BXD10の引退
BXD10の歴史は、メガクルーザーよりもう少し複雑だ。民生型が引退した2001年頃に生産が終了し、陸上自衛隊向けに約3000台が生産されたというのが大方の見方である。現在も使用されている車両もあるが、廃車になったものはスクラップにされる。
日本では自衛隊の車両は防衛専用品として扱われ、民間への払い下げは禁止されている。本来なら、民間人が手に入れることは不可能なのだが、スクラップとして海外へ輸出されたものが復元され、コレクターの手に渡ることも少なくないらしい。
それにしても、ハンヴィーの生産台数が30万台に達することを考えると、3000台という数字は少なく感じる。もちろんこれには理由があって、まず第一に、BXD10は訓練に参加したり、基地間の人員・装備品の運搬に使われたりすることが多いのだが、ハンヴィーは過去30年間に実際の戦地に投入され、破損のリスクが非常に高い中で使われていること。第二に、生産期間が比較的短かったことである。AMゼネラル社は1983年以来、いまだにハンヴィーの製造を続けている。
メガコースター?
トヨタは1990年代、マイクロバスのコースターにメガクルーザーのポータルアクスルを流用した4WD仕様を製造している。BB58と呼ばれるこのモデルは、標準仕様よりもずば抜けて地上高が高く、雪の多い地域での送迎車として好まれた。現在、オフロード愛好家の間では「どこへでも行けるキャンピングカー」として珍重されている。
中古車価格は新車の2倍
メガクルーザーは、トヨタが製造したオフロード車の中で最も大きなモデルであり、今後もこの地位が揺らぐことはないだろう。また、希少価値が高いため、必然的に多くの車両がアウトドアではなく空調の効いたガレージで過ごすことになる。
中古で売りに出される希少な個体を見ると、購入するためには少なくとも2000万円近く用意する必要があるようだ。メガクルーザー特有の部品もなかなか手に入らないので、手に入れても壊さないように気をつけたいところだ。
メガクルーザーの再来は?
GMは最近、電動ピックアップトラックのGMCハマーEVを発表した(SUV仕様もある)が、トヨタがこの電気で動くモンスターに挑戦状を叩きつけることはないだろう。当分の間は、ランドクルーザーがヒエラルキーの頂点に君臨するはずだ。
昨年発売された新型のランドクルーザー300では、3.5Lツインターボガソリンと3.3Lツインターボディーゼルを搭載。注文が殺到して受注停止を余儀なくされるなど、その人気はあなどれない。
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みんなのコメント
それ以前に売る気ないから