2020年にフルモデルチェンジしたものの、売れゆきが今ひとつ伸びてなかったホンダのフィットが、4月の販売台数で前年比34.7%とこれまでにないほど大きく落ち込んだ。
かつての大ヒットモデルである人気コンパクトカー、フィットに今何が起こっているのか? そして、なぜこれほどまでに売れていないのか?
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カーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏は次のように考察する。
文/渡辺陽一郎 写真/HONDA、TOYOTA、ベストカー編集部
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■半導体不足の問題が4月販売台数落ち込みの要因のひとつ
2020年2月にフルモデルチェンジしたホンダ フィット。2021年4月における登録台数は前年比37.4%と落ち込んだ
2021年4月におけるフィットの登録台数を見て驚いた。前年の4月と比べた対前年比が37.4%(マイナス62.6%)に落ち込んだからだ。2020年4月には8977台が登録されたが(この時の対前年比は132.5%)、2021年4月は3359台であった。
現行フィットは2020年2月にフルモデルチェンジされたから、2021年は発売直後の絶好調に売れていい時期だ。それなのに登録台数が前年に比べて60%以上も失われたのでは相当に辛い。4月はステップワゴンよりも少なかった。
なぜここまで登録台数が下がったのか、ホンダ(メーカー)に尋ねると以下のような返答だった。
「フィットでは半導体の不足が生産に大きな影響を与えている。例えば車両本体は順調に生産できても、ディーラーオプションのカーナビなどが入荷せず、登録できない場合がある。
半導体の影響は車種によって異なり、フィットでは登録台数の対前年比が大幅に減った。しかしお客様からの受注は以前と同等に推移している」。
半導体の不足が納期を遅延させ、登録台数の大幅な減少を招いた。
登録台数が下がった理由を販売店に尋ねると、以下のように返答された。
「半導体の不足により、ETCユニットなど販売店で装着するディーラーオプションの入荷が遅れ、納車できないこともある。お客様が急いでいる時は、車両を登録して納車した後、ディーラーオプションが入荷したら改めて取り付ける方法もあるが、通常はすべてそろった段階で装着して納車する」。
■納期遅延の一因には生産工業の集中も
ホンダ鈴鹿製作所。Nシリーズやフィット、新型ヴェゼルなどの製造を担当しているため負担が集中しがちだ
フィットの納期が遅れたり、登録台数が下がった理由として、半導体の影響のほかに、ホンダからは「売れ筋車種の生産が鈴鹿製作所に集中している」という声も聞かれる。
鈴鹿製作所では、従来からN-BOXを始めとする軽自動車のNシリーズと、フィットを生産していた。そこに今では新型になったヴェゼルも加わっている。
今のホンダの国内販売では、軽自動車の比率が安定的に50%を上まわり、そこにフィットとフリードを加えると70~80%に達する。フリードの生産は寄居工場が担当するが、Nシリーズ、フィット、さらに新型ヴェゼルまで加わると、鈴鹿製作所の負担も増える。
ちなみに今のクルマの生産は、さまざまな車種を共通のラインで生産する混流生産が主力だ。そのために鈴鹿製作所でも、軽自動車のNシリーズ、コンパクトカーのフィット、SUVのヴェゼルが同じラインで生産される。ヴェゼルは3ナンバー車だから、ラインを一部変更したという。
以上のようにフィットの登録台数が前年に比べて60%以上も減った背景には、半導体の不足、鈴鹿製作所の過密などが挙げられるが、それだけではないだろう。新型フィットの売れゆきは、発売当初から冴えなかったからだ。
■モデルチェンジ直後からの伸び悩みもあった
ハイブリッドは走りが快適で価格も割安。渡辺氏もお薦めだ
現行フィットは前述のとおり2020年2月に発売され、2020年1月~12月の1カ月平均は8184台、2020年度(2020年4月から2021年3月)には7859台を登録した。人気は相応に高いが、発売時点でメーカーが公表した販売計画の1カ月当たり1万台には達していない。
コロナ禍の影響を差し引く必要もあるが、メーカーの公表する販売計画台数は、基本的にその車種が生産を終えるまでの平均値だ。いわゆるコミットメント(公約とか責任)だから、発売から数年を経過して売れゆきが下がることも考えると、発売直後は販売計画を上まわる必要がある。
そこまで考えると、コロナ禍とはいえ、発売直後の登録台数が販売計画の80%前後では少ない。2020年の国内新車販売台数は、コロナ禍の影響を受けながらも前年に比べて11.5%の減少、2020年度は7.6%の減少に収まった。
そこを考えてもフィットの登録台数が目標値に比べて約20%少ないのは、伸び悩みと考えられる。
フィットは機能と価格のバランスを考えると、買い得感の強い商品だ。ライバル車のヤリスに比べると、後席と荷室が広く、シートアレンジも豊富で、乗り心地も快適に仕上げた。
フィットは全長が4m以下に収まり、全高も立体駐車場を使いやすい高さに抑えながら、ファミリーカーとして使える実用性を備える。
しかもハイブリッドのe:HEVはモーター駆動が基本だから加速が滑らかでノイズも小さく、高機能なシステムでありながら、1.3Lノーマルエンジンとの価格差はホームの場合で約35万円だ。
一般的に1.5L前後のハイブリッドは、ノーマルエンジン車に比べて40万円前後は高いので、フィットのe:HEVは高効率で割安だ。そのためにフィット全体の約70%がe:HEVで占められる。
■フィットが伸び悩むこれだけの理由
ヤリスには安全装備を省いたX“Bパッケージ”が130万円台で用意される。ここから上級グレードへの誘導もできるが、フィットには低価格帯が用意されないのも苦戦の理由となっている
それなのにフィットが売れない理由は、大きく分けて3つある。
まずはデザインだ。フィットのボディスタイルは視界が優れ、内装ではメーターの視認性やスイッチの操作性もいい。機能的な形状だが、フロントマスクなどは、従来型と大きく異なるから馴染みにくい。
インパネも上面を平らにして視界を向上させたが、立体感は乏しく、2本スポークのステアリングホイールも独特だ。フィットの優れた特徴が伝わりにくい面もある。
売れない2つ目の理由は価格設定だ。前述のとおりe:HEVを含めて、機能に対して割安だが、ヤリスと違って130万~140万円台のグレードは用意されない。
ヤリスでは1Lエンジンを設定して、X“Bパッケージ”は衝突被害軽減ブレーキを省いて価格を130万円台に抑えた。安全装備をカットしているから、まったく推奨できないグレードだが、安い仕様を用意すると購入時の検討対象に入る場合がある。
ヤリスの1Lエンジン車は、営業用などに使う法人に売る時も有利だ。
3つ目の理由としてN-BOXの高人気も挙げられる。N-BOXは発売から3年近くを経過した今でも、1カ月平均で2万台近くの届け出となっている。そしてフィットのノーマルエンジン車で売れ筋になる1.3ホームの価格は171万8200円、N-BOXで人気の高いカスタムLは176万9900円だから、価格も同程度だ。
そして両車の機能を比べると、走行安定性や乗り心地はコンパクトカーのフィットが上まわるが、N-BOXは空間効率が優れているから自転車などを積みやすい。
内装の作りも、同等かN-BOXが上質に感じる。N-BOXが絶好調に売れて、今では一種のトレンドになったから、フィットが顧客を奪われている面もある。
■生産体制と販促方法の改善が待たれる
空間効率や内装の質感はN-BOXに一歩譲るが、総合力ではフィットも決して負けてはいない
以上のようにフィットの商品力を総合的に判断すると、ヤリスやノートなどのライバル車、軽自動車のN-BOXと比べても優れている。それなのに売れゆきが伸びないのは、メーカーの生産体制やフィットの販売促進に問題があるからだ。
今後の売れゆきについて販売店に尋ねると、しばらくは納期の遅延が続きそうだという。
「最近のフィットは、納期が短縮傾向にあったが、(2021年)6月には一部改良を受ける。外装色を変更したり、発売後20周年の特別仕様車を設定する(初代フィットの発売は2001年6月)。
そのためにお客様が5月中旬以降に契約された場合、在庫車を除くと購入できるのは改良版になるから、納期は7月から9月になってしまう。しばらくフィットを売りにくい状態が続く」。
フィットは半導体などの不足で販売不振が続いた後も、一部改良の絡みで納車が遅れるわけだ。登録台数の伸び悩も続く。
フィットは前述のとおり2001年に初代モデルを投入した後、20年間にわたってホンダの国内販売を支えてきた立派な商品だ。生産と販売の両面で、もう少し大切に扱って欲しい。
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みんなのコメント
やはりデザインは重要ですね。