■2022年は「EV普及元年!?」 しかし電力供給に対する議論は進まず
EV(電気自動車)のニューモデル登場が相次いだ2022年は「EV元年」ともいわれています。いっぽうで電力供給のひっ迫に対する注意報も発令されるなか、このまま国内でEVが普及しても、本当に大丈夫なのでしょうか。
世界のEV事情に精通するモータージャーナリスト 桃田健史さんのレポートでお届けします。
2022年の日本は、6月に入って全国的に真夏日が続き、梅雨が異例の短さで終わってしまいました。
そんな中、国は6月26日に初めて、電力の「需給逼迫(ひっぱく)注意報」を発令しました。この注意報は、2022年5月に経済産業省の審議会での議論を踏まえて設定されたものです。
具体的には、注意報を発令する翌日の電力を供給する予備率が5%を下回る際に出されます。
今回、電力の需給逼迫注意報の発令を受けて、国は個人に対しては使わない部屋の電気を消すとか、企業や自治体などにはオフィス内の照明をつける数を減らすなど、国民一人ひとりが節電意識を持つことが重要だとして、岸田文雄総理が記者会見の中で日本全国に向けて訴えました。
一方で、自動車業界に目を移しますと、軽EVの日産「サクラ」と三菱「eKクロスEV」がそれぞれ、販売開始後の受注が順調であるほか、トヨタ「bZ4X」やスバル「ソルテラ」、日産「アリア」などの国産車や、輸入車メーカーでもメルセデス・ベンツ「EQ」シリーズやアウディ「e-tron」シリーズ、そしてテスラ待望の「モデルY」など、最新EVが目白押しの状態になっています。
こうした市場の動向に対して、「2022年はEV普及元年」という表現があるほどです。
各メーカーとも2050年の「カーボンニュートラル」実現に向けて、2030年代を目途にEVの生産・販売台数をこれから一気に加速させるという事業計画を立てているところです。
そうなってくれば当然、日本国内での電力の需要は増加するため、電力の供給量をどうやって増やすのか、または電力をどうやって効率的に使うのかという議論が必要になります。
しかし、自動車メーカーが行う新車EV発表会の場では、自動車メーカーとして電力の需給と供給の全体像をどう考えているのかといった、社会全体を俯瞰した発言はほとんどない状況です。
また、自動車メーカー、トラック・バスメーカー、二輪車メーカーでつくる業界団体の日本自動車工業会としては、「カーボンニュートラルを目指す方法はいくつもある」として、欧州は政治主導で一気に進む急激なEVシフトをけん制しながら、日本としてはハイブリッド車、燃料電池車、さらに内燃機関で使用できるカーボンニュートラル燃料や次世代バイオディーゼル燃料などについて、業界を挙げて積極的に研究開発を行っているところです。
EVシフトについて、日本自動車工業会の豊田章男会長が2020年12月17日、オンラインでの報道陣との意見交換の中、日本の保有台数のすべてがEVになると、ピーク時の電力量はその時点の10%から15%上昇する可能性を示唆しています。それに対応するためには、日本全体の電力供給体制を大きく見直す必要があるとの見解を示すに留めています。
■近未来のエネルギー政策のあり方は「ガソリンとクルマ」の二の舞であってはならない
一方、電力の供給については、国のエネルギー基本計画に基づいて、原子力発電所の再稼働や再生可能エネルギーを既存の電力網に効率的につなげる系統連携などについて、様々な業界、団体、そして個人が、これからの日本のエネルギー政策のあり方について議論を深めているところです。
そこに、長引くコロナ禍とロシアのウクライナ侵攻が重なり、発電のための使うLNG(液化天然ガス)、原油、石炭などの供給が不安定になり、家庭の電気代の上昇、そしてガソリンやディーゼル燃料の価格高騰など、毎日の生活で使う様々なエネルギーに対して不安な気持ちになる人も少なくない状況だと思います。
そうした中、現時点で発電して送電する側とEVを作り売る側との間で将来の電力需給に対する明確な方針や、データに基づく具体的な需給シュミレーションが一般向けに公開されている状況ではありません。
見方を変えると、これまでもガソリンやディーゼル燃料の供給量と、自動車の生産・販売台数について、具体的なシュミレーションが一般向けに公開されてきたわけでもありません。単純に、自動車販売台数が増えることに対して供給型が対応するためにガソリンスタンドの数を増やし、ガソリンの供給量を増やしてきたのです。
しかし、近年ではハイブリッド車の普及で燃費が良くなり、結果的にガソリン供給量が減ったり、ガソリンスタンド間での価格競争が激しくなり経営不振に陥る小資本の事業者が店じまいするなど、様々な要因でガソリンスタンド全体数の減少が続いている状況です。
こうした、ガソリン需給のこれまでの経緯を振り返ってみますと、EVと電力供給の関係性についても、基本的には市場での自由競争のなかで、社会状況に応じてEVと電力供給のバランスを模索し続ける可能性も考えられます。
理想的な社会の姿としては、いわゆるスマートシティやスーパーシティといった街の概念の中で、EVを含めた社会全体で必要な電力を発電・送電し、また蓄電したEVから家に送電するなど、計画的かつ効率的な社会全体でのエネルギーマネージメントが考えられています。
ただし、こうした議論は2010年に国産EVの日産「リーフ」と三菱「i-MiEV」が相次いで世の中に登場した際、電力大手やガス大手などがこぞって提案した社会の未来像でしたが、そうした社会が現時点である程度の規模で実現しているとは言い難い状況です。
EV普及元年である2022年は、改めてEVと電力供給に対する考えをユーザーも含めて国全体で議論するべき時期だと感じます。
■需給の変化に応じて電気料金を変化させる仕組み「ダイナミックプライシング」に取り組む自動車メーカーも
そのうえで、最後にひとつの事例を紹介したいと思います。
日産は2022年6月30日、令和4年度「ダイナミックプライシングによる電動車の充電シフト実証事業」についての報道発表をしています。その実態について、日産グローバル本社で担当者に詳しく聞きました。
この実証は、経済産業省が今年度を含めて3年間行っている「蓄電池等の分散型エネルギーリソースを活用した次世代構築実証事業」に応募する形で行われます。
今年度は、電力会社のMCリテールエナジー、五島市民電力、SBエナジー、シェルジャパン、REXEV、三菱自動車工業、日産、そして三菱オートリースの8社が共同でおこないます。
対象エリアは令和3年度実証での、東京電力、東北電力、中部電力、関西電力、四国電力の各エリアに加えて、新たに九州電力エリアにも拡大します。
目的は、「将来のEVやプラグインハイブリッド車の普及に伴い、充電時間帯の集中による電力系統への負荷増大が懸念される。そこで、電力負荷の低減と平準化を目的とした、電力供給状況等に応じた電力料金が変動するダイナミックプライシングによる効率的な充電時間のシフトを検証する」ことです。
要するに、電気代を安く設定する夜間や早朝など電力需給量が少ない時間帯での充電をユーザーにうながして、電力供給のピークを和らげるという考えです。
実証に参加するモニターには、充電対象日の前日に、日本卸電力取引所の電力量単価が最も安い時間帯の4時間での充電について、メールやLINEで通知する方法です。これによりモニターは実証期間中はその時間帯での充電電力料金が無料になります。
そのほか、条件に合わせてEVやプラグインハイブリッド車から放電することでPayPayポイントがつくといったインセンティブについても検証していくといいます。
今後、こうしたダイナミックプライシングのみならず、社会全体でEVやプラグインハイブリッド車を含めた電気の使い方について、様々なアイディアが生まれ、それらを活用した未来の社会の姿が見えてくることを期待したいと思います。
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