■新車の80%以上がEV・PHEVのノルウェー
バッテリーへの負荷が大きいことなどから、寒冷地や冬場には不向きといわれることの多い電気自動車(EV)。
しかし、意外なことに世界でもっともEV販売比率が高い地域は北欧諸国となっています。
そのなかでももっともEVが普及しているというノルウェーの事情について探ってみました。
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IAE(国際エネルギー機関)のレポートによると、2021年における電気自動車(EV)とプラグインハイブリッド車(PHEV)の世界全体での新車販売台数は約660万台にのぼり、前年比2.2倍という急成長を見せています。
日本でも、軽自動車規格の新型EVである日産「サクラ」と三菱「eKクロス EV」が発表されたほか、トヨタ「bZ4X」やスバル「ソルテラ」なども登場するなどEVの選択肢は広がりつつあります。
一方、ユーザーの多くは、EVに関して不安を抱えているのも事実です。
そのなかでも、もっとも心配されることのひとつが寒冷地や冬場での利用が難しいという点です。
EVに搭載されるリチウムイオンバッテリーは、その構造上外気温が低い状態では本来のパフォーマンスを発揮することができません。
また、冬場の移動では暖房が必須となりますが、内燃機関車の暖房はエンジンの熱を再利用する仕組みのため、暖房を使用したことによる航続距離への影響は皆無ですが、EVの場合は航続距離に大きく影響します。
豪雪地帯では、猛吹雪によってクルマが立ち往生してしまうことがしばしば起こりますが、もしEVでそのような状況に遭遇してしまうと、充電状況によってはすぐに電欠してしまうおそれがあるため、そうした地域に住むユーザーはEVを検討することが難しいといわれています。
しかし、意外なことに、世界のなかでももっともEV販売比率が高い地域は北欧のノルウェーです。
スカンジナビア半島のもっとも西側に位置するノルウェーは、人口約543万人、国土面積は日本よりわずかに大きい約38万5000平方キロメートルです。
そんなノルウェーの新車販売状況を見ると、2021年に販売された17万6276台の新車のうち、およそ65%がEVとなっています。
PHEVも含めるとその比率は約86%にまで跳ね上がり、内燃機関車(HV含む)はわずか14%程度となっています。
一方で日本の新車販売台数におけるEV比率は約1%、PHEVを含めても約2%程度であることを考えると、非常に大きな違いがあることがわかります。
また、ブランド別のシェアを見るとテスラが11.6%とトップであり、初めてフォルクスワーゲンを抜きました。
ノルウェーでここまでEVの販売比率が高い背景には、政府による強力な普及推進政策があります。
EVに対しては、輸入関税や購入時の付加価値税が免税となるため、ガソリン車よりもむしろ安価に購入することができます。
例えば、フォルクスワーゲンの「ゴルフ」とそのEV版である「e-ゴルフ」を比べると、ゴルフの購入時には税金など合わせておよそ3万6600ユーロ(約500万円)の費用が必要となりますが、e-ゴルフの場合は2万5300ユーロ(約350万円)となります。
また、充電器の整備も進んでいます。現在、ノルウェーには約1万5000か所の充電器が自治体などによって設置されていますが、これを人口あたりの割合で見ると、日本の20倍近くにおよびます。
さらに、EV専用車線やEV専用駐車場などが整備されているため、ノルウェーに住む多くのユーザーにとって、EVは非常に合理的な存在となっています。
■EV推進は、ノルウェーが生き残るための重要な戦略
では、なぜノルウェーはEVを推進するのでしょうか。
それは、ノルウェーのエネルギー事情が大きく関連しています。ノルウェーは世界でもっとも電力が充実した国であり、アルミニウムの精製などの電力を大きく消費する産業が豊かです。
そのほとんどを担うのが、水力発電や風力発電、太陽光発電といった再生可能エネルギーです。
ノルウェーでは、国内で使用するほぼすべての電力を再生可能エネルギーでまかなっており、電力自給率の非常に高い国となっています。
再生可能エネルギーの大部分を占める水力発電は、春から夏にかけて貯水池にためられた雪解け水を、降水量が少なく、電力消費量が多くなる冬に利用するという構造です。
つまり、豪雪地帯であるからこそ成立する仕組みといえます。
一方、日本ではあまり知られていませんが、ノルウェーは世界10位の石油輸出国であり、天然ガスについては世界3位の輸出量を誇る資源大国でもあります。
つまり、火力発電に頼ったエネルギー政策を展開することもできたということになります。
しかし、実際には、石油や天然ガスのほとんどは輸出用となっており、外貨獲得のために役立てられています。
人口が少ないノルウェーは、人手を必要とする農業や工業が育ちにくく、石油や天然ガスを売却することが外貨獲得の重要な要素となっています。
その意味では、自国で利用できる化石エネルギーはほとんどありません。
その背景には、化石エネルギーに依存をしてしまうと、将来資源が枯渇した際に命取りになり、国家存亡の危機に直面してしまうというおそれがあります。石油や天然ガスの埋蔵量についてはさまざまな試算がなされていますが、いずれにせよ、原理上はいつか枯渇してしまう可能性があります。
しかし、再生可能エネルギーで自国の電力供給をまかなえていれば、万が一の際にも対応することが可能です。
そうした事情から、ノルウェーは資源大国でありながら、早くから再生可能エネルギーを推進する政策をとってきました。
その結果、自国で利用するには十分な電力を再生可能エネルギーでまかなうことができるようになったのです。
一方、電気はためておくことが困難です。そこで、EVを普及させることでそれぞれのクルマをバッテリーに見立て、余剰電力を限りなく少なくしているというわけです。
このことからわかるのは、ノルウェーでは単に環境問題への配慮からEVを推進しているわけではないということです。ノルウェーにとってEVを普及させることは、自国を守っていくための大切な戦略でもあるといえます。
※ ※ ※
もちろん、ノルウェーと日本では、産業構造も人口密度も異なるため、同様の政策をとることが必ずしも正しいとはいえません。
しかし、現在の日本は石油資源のほぼすべてを海外に頼っており、その中でも中東への依存率が80%以上に上っています。
さまざまな努力によって、これまでは石油の安定供給が実現されてきましたが、いつそれが破綻してもおかしくないという点においては、薄氷を踏むかのような状況であるともいえます。
現在、急速なEV推進には賛否両論の声がありますが、現在の日本が置かれているエネルギー安全保障という視点からの冷静かつ慎重な議論も求められています。
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日本では無理。