修学旅行対応で高速バス運休
富山県富山市と県東部を拠点とする中堅私鉄・富山地方鉄道(富山市)は4月、5月中旬に県内発着の高速バス計60便の運休を決めたと発表した。その理由は前代未聞で、
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「富山市内の中学校の修学旅行で輸送のニーズが増大し、それに対応していくため」
というものだった。
5月10日から5月17日までの間、富山~東京、富山~京都・大阪、富山~新潟、富山~名古屋の各路線と、重要な観光路線であるアルペンライナー宇奈月~室堂の高速バスの運行を休止すると発表した。また、運行会社の都合による運休については、無手数料で払い戻しを行うとした。
全国的にバスドライバーが不足しているとはいえ、すでに予約受付を開始している便を運休し手数料なしで払い戻しを行う――筆者(西山敏樹、都市工学者)は長年バス事業を研究しているが、自然災害時を除いてこのような判断を聞いたのは初めてである。
限られたドライバーの人的資源をどこに振り分けるか、運行会社にとって最善の選択を迫られたのだろう。
また、大手旅行会社・近畿日本ツーリストが2校の修学旅行に貸し切りバスを依頼したが、すべてのバス会社から断られたということもSNSで話題になった。
コロナ禍とバス会社の苦境
修学旅行は、
「若者の一大イベント」
である。そのサポートはバス会社にとって非常に重要だ。なぜなら、路線バスや高速バスと比べて“確実に乗車してもらえる”からである。
「地域の交通事業者としての使命と周囲の評価を背負うべきだ」
「ゴールデンウィーク明けで高速バスや観光特急バスのニーズは減る。多少の減便はやむを得ない」
社内ではそんな葛藤があったと推測される。バス会社の苦境と惨状は、収益性の高い高速バスの運行を断念せざるを得なくなったことからもわかる。
新型コロナは外出回数を減らし、テレワークの発達やオンライン会議の普及で経営は悪化、賃金は低下し、ドライバーは離職し、新規採用は不足した。全国のバス会社は昼夜を問わず高速バスの廃止という苦渋の決断を下し、現在に至っているのだ。
筆者は「2024年問題」が顕在化するなかで、路線バスドライバー不足が懸念されることから、事業者が収益性の高い高速バスや貸し切りバスを手放さないよう
「公的補助制度」
を導入し、その利益を地域の路線バスの運行に充てることを各所で提案してきた。
一度廃止・休止したバス事業を復活させ、再び集客を始めるのは容易ではない。縮小を続ければ、バスドライバーの離職と人手不足が加速し、下降スパイラルに陥るのは間違いないのだ。
地域社会への影響と路線維持
2023年11月、NHK『おはよう日本』に筆者が出演した際、金沢地区を走る北陸鉄道のバス転換の難しさが放送された。経営状況が厳しい北陸鉄道石川線については、沿線自治体と協議しながら“地域の足”としてどう守っていくかを議論してきた。
ローカル鉄道路線は、線路や車両、架線などの維持が困難なため、道路インフラに依存するバス輸送への転換が各地で議論されてきた。しかし、北陸鉄道石川線のバス転換は当面見送られ、沿線自治体の財政負担を前提に鉄道路線として存続することが合意された。
東京発からの全長36mの2両編成で、ドライバーひとりが運転する。最大400人の乗客を運べるが、バス高速輸送システム(BRT)に転換すれば、混雑に対応するために4~5人のバスドライバーが必要になる。
完全自動運転が実現するまでには、技術の向上とシステムの確立にまだ相当な時間がかかる。それまで、バス転換は難しい状況が続くだろうし、路線バスドライバー不在という現象が地域社会に与える影響の大きさを痛感している。
コミバス契約解除の可能性
また、自治体が地元のバス会社やタクシー会社に委託しているコミュニティーバスでも、肝心の路線バスが維持できない場合、全国的に契約更新時に解除する事業者が出てくる可能性がある。
このように、バス会社は、路線バス、コミュニティーバス、高速バス、貸し切りバスの
「どれを優先するか」
を決めなければならなくなる。経営上、慎重な選択を迫られているのだ。
また、地域交通の世界では、バスドライバー不足で非効率な鉄道からの乗り換えができないという深刻な事態も生じている。
生活者はこの事態を重く受け止める必要があるが、前述のように、安定収入を得やすい高速バスや貸し切りバスの経営改善には、やはり公的補助金を投入してバス事業を支援することが有効である。
これと並行して、利用者の必要な負担を考え、地域交通維持の観点からバス事業を支える制度設計を今一度行う必要がある。そうしなければ、地域交通の崩壊は避けられない。
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