高級車セグメントの販売が減少
メルセデス・ベンツの最新の決算内容とEVシフトの進捗動向が判明し、販売台数、収益性、EVシフトという観点で減速が目立つ厳しい動向が判明しました。
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まずメルセデス・ベンツは、2024年初めに、当初掲げていた2030年までの完全バッテリーEVシフトの目標を取り下げており、今後どのようなEV戦略を採用するのかに注目が集まっていました。そして、そのような背景のなかで、2024年第三四半期の決算内容が発表されました。まず、メルセデス・ベンツの乗用車セグメントとバンセグメントを合計した、グループ全体のグローバル販売台数は59万4673台を達成。ところが前年同期比で3.4%のマイナス成長と、やはり2024年の後半に突入しても販売ボリュームの減少トレンドが続いています。
さらに問題であるのが、グループ全体の売り上げが第三四半期単体で345億2800万ユーロと、前年同期比で7.2%のマイナス成長に留まっている点です。つまり、販売台数以上に売り上げが減少しており、販売単価の減少が推測可能です。
実際に、Q3でもっとも販売に苦労したのがSクラスやGクラス、AMG、そしてマイバッハが該当する高級車セグメントです。販売台数も6.2万台弱と、前年同期比で12%のマイナスです。さらに、2024年通しの9カ月間で見ると、前年同期比で19%のマイナス成長。2024年に突入してから、メルセデスの収益性を支える高級車の販売状況が芳しくない様子が見て取れます。
次に、メルセデス・ベンツの収益性を詳細に見ていきましょう。まず直近のQ3の粗利益率は17.99%と、2021年以降で最低の四半期となりました。2022年Q3は23.28%、2023年Q3は21.6%、そして今回の18%弱と断続的に粗利が低下しています。おそらく粗利を稼ぎやすい高級車の販売台数が減少していることが影響していると推測できます。
また、販売管理費や研究開発費を除いた営業利益という観点も、Q3は7.29%と、2022年Q3は13.78%、2023年Q3が13.02%であり、急速に収益性が悪化しています。
この営業利益に影響する研究開発費について、売り上げに占める研究開発比率がQ3は4.87%と、この数年間で最高水準を計上しています。他方で、9カ月間通しの研究開発費と比率は、前年と比べて横ばいであり、研究開発費が大幅に増加したことが営業利益を圧迫したとはいえません。
また、販管費はこの9カ月間でわずかに低下しており、これは人件費の削減が理由であると説明されています。つまり、何がいえるのかといえば、今回、なぜ収益性で大きく落ち込んでしまっているのかというと、研究開発費や販管費が大きく増加したことが要因ではなく、やはり販売台数の減少、とくに高級車という利幅の大きいモデルの販売が落ち込んでしまったことが原因なのです。
EVシフトも進んでいない
そして、高級セグメントの販売減少における最大の問題が、主力マーケットである中国市場の不振です。このグラフは、メルセデス・ベンツの乗用車部門に絞った、マーケット別の四半期販売台数の変遷を示したものです。
とくに今回注目するべきは、緑で示されている中国市場の販売台数です。Q3はおよそ17万台を発売したものの、前年同期比で12.9%もの販売台数減少となりました。メルセデス・ベンツ全体の乗用車販売に占める中国市場のシェア率は、2022年シーズンから一貫して低下しています。
中国市場は輸入車に対するブランド価値が高いことから、ドイツ国内で生産したSクラスやGクラスといった高級車を販売して大きく利益を上げていたわけです。まさに、この中国市場の販売台数の低下こそが、収益性が悪化している大きな要因であるのです。
さらに、メルセデス・ベンツにとって苦しいのが、収益性をさらに圧迫せざるを得ないEVシフトがまるで進んでいないという点です。現在、メルセデス・ベンツは、EV専用シリーズであるEQシリーズを立ち上げて、EQA、EQB、EQC、EQE、EQE SUV、EQS、EQS SUV、EQV、EQT、G580 with EQ Technology、マイバッハEQS SUVをラインアップしています。
ところがこのグラフは、パワートレイン別の販売シェア率の変遷を示したものです。緑のバッテリーEVの販売動向は横ばいとなっています。Q3は前年同期比で31%ものマイナスであり、販売全体に占めるバッテリーEVシェア率も8.45%と低下しています。
さらに、メルセデス・ベンツは、中国国内のバッテリーEVシフトをまったく推進できていません。このグラフは、中国市場におけるパワートレイン別の販売シェア率の変遷を示したものです。Q2以降の数値には輸入EVの販売内訳を入手できていないため、EQS、EQS SUVの販売台数は合算されていません。他方で、輸入EVの販売台数はこれまでも月間100台以下程度という規模感であったため、除外しても大きく数値がブレることはないと推測できます。
そしてQ3のバッテリーEVシェア率は1.51%、販売台数ベースでも2600台弱と、まったくEVが売れていません。
いずれにしても、メルセデス・ベンツは主力マーケットの中国でEVシフトが進んでおらず、ここに手をつけないとメルセデス・ベンツ全体のビジネスに大きな悪影響が出ることが確実です。
また、中国市場においてメルセデス・ベンツを筆頭とするドイツ勢に深刻なダメージを与えているのがファーウェイの存在です。ファーウェイが発売中のフラグシップSUV「AITO M9」は、日本円で1000万円級の高級車であるにもかかわらず、現在、月間1.5万台の販売台数を達成しています。2月から納車をスタートしたM9の存在が、メルセデス・ベンツの高級モデルであるEクラスやSクラスの需要を大きく削いでいると考えられます。中国市場の高級セグメントの販売台数減少こそが、メルセデス・ベンツの収益性悪化に直結しているわけです。
いずれにしても、2030年までの完全EVシフトを撤回したメルセデスは、足もとでEVシフトが停滞しており、ここに来て急速に販売台数と収益性が悪化し始めています。そのもっとも大きな要因が、中国市場の高級車セグメントの販売悪化であり、その引き金となっているのが、中国での高級ブランドの地位が確固とし始めている、ファーウェイやLi Auto、NIOなどの中国メーカーの存在なのです。
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