この記事をまとめると
■復活するホンダ・オデッセイが中国生産となることが話題となっている
惜しまれながら国内販売を終了したホンダ・オデッセイのこれまでと今後
■オデッセイ以外にもじつは海外生産の日本車は多い
■日本人は日本産にこだわる傾向が強いが、世界的には品質面で原産国にこだわることは少ない
中国から輸入されるオデッセイで注目されるクルマの原産国
2023年に日本国内で再登場予定のホンダ・オデッセイが中国生産になるという報道が話題となっている。海外生産され、日本に輸入されて日本国内で販売されている日本車は何もオデッセイだけというわけでもなく、ほかにもトヨタ・スープラ(オーストリア製)、タウンエースバン&トラックとダイハツ・グランマックスカーゴ&トラック(インドネシア製)、日産キックス(タイ製)、スズキ・エスクード(ハンガリー製)など、意外にその数は多い。
ただ、「復活するオデッセイが中国製になる」とここまで広く報じられているケースはいままでにない動きのように感じる。いままでは海外製造であることを表立ってアピールするのを控え、むしろ可能な限り表面に出したくないという傾向が強いように見えた。
たとえば2015年に国内デビューし、2020年に公式サイトの掲載を終了した3ナンバーコンパクトハッチバックとなるスズキ・バレーノはインド製であった。日本で発売したころにインドの首都デリーで開催されるデリーオートエキスポに行くと、「インドで作ったクルマがあの日本でも売られている」と、インド人がかなり喜んでおり、それがとても印象的であった。
日本ではインド製だけでなく、3ナンバーサイズのコンパクトハッチバックということで市場の反応がいまひとつのうちに国内販売が終了している。日本の消費者には知らないうちに、「自動車大国日本」とか「日本で作られる自動車は世界的にも品質が高い」といったことが擦りこまれてしまっているようであり、海外工場製の日本車にはネガティブな印象を持つ人が多いようだ。
輸入車の世界でも、単にドイツ車、フランス車、イギリス車というだけでなく、各モデルの原産国を意識する人が日本では多く、ある輸入車事情通は「これだけ原産国を気にする消費者が多いのは日本だけともいわれています」と話してくれた。
かなり前だが、日本だけでなく世界的にも有名なドイツブランド車のあるモデルについて、右ハンドル車が南アフリカ製となり物議を醸した。そして、原産国で物議を醸したことが理由かは定かではないが、そのモデルの次期型ではドイツ国内工場製になったこともあった。
ヨーロッパ車はそのブランドのヘッドクォーター(総本社)のある国が西欧であっても、南欧や東欧工場で生産していることも珍しくない。2012年に当時のフィアットクライスラー・ジャパンがクライスラー・イプシロンを発売した。ランチア・イプシロンのクライスラー版であり、日本以外ではアイルランドとイギリスでも販売されていた。クライスラーブランドでありながら、ランチア・イプシロンほぼそのままということで、アメリカ車ファンからもイタリア車ファンからも受け入れられにくいクルマとなっていた。しかも製造はポーランド工場。
かつては韓国工場で製造されたGM(ゼネラルモーターズ)車が一度もアメリカ本土に上陸せずに日本に輸入されアメリカ車として販売され、一部アメリカ車ファンは複雑な気持ちになったとも聞いている。最適で効率の良い生産拠点で自動車を生産するのはどの自動車メーカーも同じ動きであるが、日本以外の国々では、それがどの国で生産されたのかに強いこだわりを見せることは少なく、日本の消費者は原産国にこだわるとの印象が強まっている。
日本企業が海外に工場を作るのはコストダウンだけが目的ではない
それでは日本製の自動車が世界でも群を抜いて高品質なのかといえばそうでもない様子。あるアメリカ系ブランドの関係者に聞くと、「いまどきはタイ生産モデルが世界でもっとも品質が高いのではないかともいわれています」とのことであった。
中国製自動車についてある事情通は、「中国政府は外資メーカーが中国に工場進出する際には最新の工作機械を導入するよう求めていたそうです。そして、一定期間使ったら中国メーカーに譲るようにも指導していたそうです。また、中国では最新の品質検査機でのチェックをマストとしたり、均等にトルクがはいるようにエア式ではなく電動式を使うようにと指導していたそうです」と、まだまだ中国の自動車産業が立ちあがったばかりのころの様子を語ってくれた。
さらに、「一方で日本のメーカーは、検査機での品質検査ではエラーが出てしまうが、ベテランの熟練工の長年の経験による判断により、極限までコストダウンを進めながら完成検査では熟練工の目視などでOKを出しているといった話を聞きました。そしてある日、中国である部品が足りなくなり日本で製造した部品を中国の工場に持ち込んで検査機で検査したら、ほとんどすべての部品がエラーとなってしまい、使い物にならなかったそうです。ベテラン熟練工の経験による判断だから別に問題ないじゃないかという話もありますが、日本の製造現場からは自動車に限らず熟練工は減る一方で、近いうちに現場からいなくなるともいわれています。現場に熟練工がいなくなったとしたら……、その意味でモノづくり大国日本なんて、とっくの昔に終わっていると、ある製造現場の人は語ってくれました」(事情通)。
中国の自動車生産現場で最後まで課題だった品質管理も、日本から現場をリタイヤした熟練工を招くなどして、近年では相当レベルアップしているのが現状。中国メーカーもその数は多いので、簡単に「中国車が日本を抜いた」ともいえないが、すでに日本を抜きつつあるところもあるだろうし、日本とほぼ並んでいるメーカーも少なくないはずだ。
日本人が海外製日本車にネガティブな印象を持つ背景は、「海外工場=人件費安い=品質あまりよくない」という連想に基づくことも多いかもしれないが、いまや日本の人件費がかなり安いこともあり、東南アジアあたりとほぼ変わらないともいわれている。中国で見学したある工場では、製造現場に従事する人でも地元の高専卒業レベルの人が働いており、収入ももちろん高くなっている。たとえば最適な製造現場がベトナムだったというようなノリで、海外に製造現場を求めるというのがいまのトレンドのようである。
筆者が購入するような白物家電ではすでに日本製はほぼ存在しない。そのなかで筆者はメーカーよりもタイ工場製のものがあればそれを選ぶようにしている。前述したタイ製の自動車の質感は高いと聞いてから、客観的な根拠はないがそのようにしている。
日本における工業製品で、その大半が地産地消(海外に中古車として輸出されてしまうこともあるけど)されるのは自動車ぐらいとなっている。ただ、日本国内の生産設備の老朽化も目立ってきているとの話もあり、フレキシブルな対応がしにくくなっているとの話も聞く。
単にコストを下げるために海外へ生産拠点を移すのは過去の話。日本よりもフレキシブルで合理的な生産ができる場所を求めて日本で使われる日本車も海外生産が今後目立ってきて、それが日本に輸入されるというのが当たり前になるかもしれない(とくにBEVでは目立ってくるかもしれない)。
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