国内メーカーから、さまざまなタイプのハイブリッドカーが誕生している。そのなかでも、最も知名度が高いのが、日産「e-POWER」。なぜここまで知名度を得たのか? ほかのメーカーとどう違うのか、検証していく。
文・図/吉川賢一、写真/NISSAN、TOYOTA
燃費も効率もプリウス式HVが有利!! なぜ日産のe-POWERはこんなに市民権を得たのか!?
■ハイブリッドの方式は大きく3つに分けられる
日産といえば「e-POWER」。ハイブリッド車のなかでも知名度は高い。ノートオーラには第2世代e-POWERが搭載されている
海外メーカーがガソリン車からバッテリーEVへと移行しつつあるなか、日本のガソリンハイブリッドカーは熟成の域に入りつつあります。なかでもすっかり市民権を得たのが日産の「e-POWER」でしょう。
プリウスを代表とするトヨタのハイブリッドシステム「THS-II」も優秀ですが、知名度では「e-POWER」の方が一歩上。なぜe-POWERはここまで知名度を得ることができたのか、トヨタのTHS-IIとの違いを比較しつつ、e-POWERの今後についても考えていきます。
「異なるものを組みあわせる」という意味をもつ、「ハイブリッド(HYBRID)」。クルマの場合は、ガソリンエンジンとモーターを組み合わせるパワートレイン方式のことをいいます。クルマのハイブリッドシステムは、「パラレル方式」と「シリーズ方式」、そして「シリーズパラレル方式」の大きく3つに分けられます。
「パラレル方式」は、一般的に「マイルドハイブリッド」とよばれるシステムで、発進時のみモーターが補助し、基本は常時エンジン駆動です。比較的低コストで実現できるので、価格上昇を抑えたい軽自動車で多く採用されていますが、燃費改善の効果は限定的です。
■まるで電気自動車!! シリーズ式は高速域が苦手
シリーズ方式は、エンジンは発電に特化し、発電した電力を小型バッテリーに充電、その電力で駆動用モーターを回して走行する方式です。
メリットは低回転から強いトルクを発揮するモーターで常時走行するため、発進時から力強い加速感が得られることで、発電もエンジンの燃焼効率の高い条件で運転できるので、燃費に有利とされています。
特に、街中や市街地といった走行シーンでは、ガソリン車とは違った「スカッ」とするドライブフィーリングを味わうことができます。
デメリットは、高速走行中の燃費低下です。高速走行時にはモーターが多くの電力を消費するため、常時発電が必要となり、エンジンがかかりっぱなしとなることで、燃費が著しく低下します。
また夏場のエアコンや、冬の暖房も電力を消費するため、燃料消費量が増えがちといった特徴もあります。代表的なシステムは、日産の「e-POWER」やダイハツの「e-HYBRID」です。
■トヨタ式は世界一高効率!? デメリットは?
シリーズパラレルシステム方式の代表的なシステムであるトヨタのTHS-IIを搭載するヤリス
シリーズパラレル(シリパラ)方式は、シリーズ方式とパラレル方式の「いいとこ取り」をしたハイブリッドシステムです。エンジン単体での走行もできますし、駆動力を分配するギアを介して発電することもできます。またモーターでの単独走行もできますし、エンジンの駆動力にモーターの駆動力を合成して、非常にパワフルな加速もできます。
メリットは効率の良さです。低速時から中速、高速領域まで、効率の良い動力で走行ができるため、燃費性能に優れています。シリパラ方式の代表的なシステムであるトヨタのTHS-IIは、「世界一の高効率ハイブリッド」といってよいでしょう(ホンダのe:HEVも分類的にはシリパラ方式ですが、トヨタのTHS-IIとはちょっと違います)。
デメリットは、ハイブリッドシステムの複雑差ゆえのコスト高です。通常のガソリン車と比べ、40万円ほどアップしてしまい(ヤリスガソリンXとハイブリッドXの価格差)、この価格差をガソリン代で取り戻すには、およそ15万km以上は走らないとなりません。ハイブリッドカーは長く使うほど環境にやさしいクルマといえます。
このシリーズ方式とシリパラ方式は、モーター単体の出力でも走行ができることから、まとめて(マイルドハイブリッドに対して)「ストロングハイブリッド」とよぶこともあります。
■キーテクノロジーを印象づけた「e-POWER」
2016年に先代のノートで初めて搭載された「e-POWER」
以上のように、ハイブリッドユニットにとって重要である燃費性能のポテンシャルは、シリーズ方式のe-POWERよりも、シリパラ方式のTHS-IIの方が上といえますが、知名度的には、e-POWERのほうが高い状況。
これは、中身はシリーズハイブリッドながら、「ハイブリッド」と呼ばずに、「電気の力で走るe-POWER」とした、日産のマーケティングの成果だと考えられます。
「電気の力で走る」というフレーズが、多くのライトユーザーの耳に残り、加えて、電気自動車並みの走りの良さも評判となったことで、2016年11月、先代ノートのマイナーチェンジで追加された「ノートe-POWER」は、発売から3週間で2万台、7カ月で10万台の受注を記録。
2018年には登録車ランキングで、あの強敵のプリウスを退けて、第1位を獲得するという、空前の大ヒットとなりました。
日産といえばほかにも、「ゼロ・エミッション車(環境負荷ゼロ)車」(2010年、初代リーフ登場当時)や、「やっちゃえNISSAN」(2015年)、「プロパイロット」(2016年、先代セレナ登場当時)など、個々のクルマの宣伝をするよりも、キーテクノロジーを印象付けようとするマーケティングをいくつか打ち出しています。
ちなみに「e-POWER」の国内販売を、日産社内で強烈に後押ししたのは、星野朝子副社長(当時は国内マーケティング&セールス企画部の専務)だったことはあまり知られていません。社内では、「優れた嗅覚を持つマーケッター」として当時から有名だったそうです。
■ヤリス有利! e-POWERの高速燃費は今後対策が必要!!
e-POWERは現在、ノート、キックス、エクストレイル、そしてセレナに設定されています。それぞれのモデルに合わせた発電用エンジンを設定しており、アクセル開度に合わせて遅れなくトルクが立ち上がる、リニアで気持ちの良い走りを提供しています。
電力の回生量の強さを変えることで、ワンペダルドライビングといった走らせ方もできますし、反対に、通常のAT車のように滑るようなクルマの動きにもできます。
ただ、前述したように、シリーズ方式であるe-POWERは、高速走行時には、エンジンがかかりっぱなしとなってしまい、どうしても燃費が悪化する傾向にあります。
しかも、エンジンで発電したうえで、その電気でモーターを動かして走る、という2段階となるためにロスも大きくなり、直結モードのあるトヨタTHS-IIやホンダのe:HEVよりも厳しい状況です。
参考に、e-POWERと、国内ハイブリッドカーのWLTCモード燃費の実例を以下に示します。エンジン駆動で走行するヤリスHYBRIDやフィットe:HEVでも、高速モードでは燃費が落ちる傾向ですが、ノートe-POWERは落ち代がもっとも大きく感じます。特に、エアコンを使用する時期は燃費に相当影響してきます。
国内ハイブリッド車とe-POWER車のモード燃費比較 燃費が伸びる郊外モードに対し、高速道路モードでは、e-POWERであっても、通常のハイブリッドであっても、燃費は落ちる
■日産パワートレイン部長は「まだまだやりようがある、しっかり対策する」
日産が2021年2月に発表した、熱効率50%を実現するe-POWERの発電専用内燃機関の説明。自動車用ガソリンエンジンの平均的な最高熱効率は30%台で、40%台前半が限界とされている中、革新的な技術になるとして公開した
かつてe-POWERの高速燃費について、新型セレナe-POWERを担当した日産のパワートレイン担当部長に質問したところ、「いまのe-POWERは燃費が不利という事実もしっかりと受け止めている。ただその点に関しては、開発部隊としてはまだまだ“やりよう”があると思っており、今後しっかりと対策していきたい」としていました。
2021年2月に発表した、熱効率50%を実現するe-POWER用発電専用エンジンや、その他の可能性(ポルシェのBEVタイカンのようにBEV用の2段ミッションの採用など、通常のモーター駆動車はギア1段のみ)も含め、まだできることはたくさん考えられます。
新型プリウスに搭載された2.0リッターの新型THS-IIは、滑らかなエンジン回転やあふれ出るトルク感など、質感の良さが熟成の域に達しています。日本メーカーの技術の粋であるe-POWERとTHS-II、どちらが最後まで進化し続けるのか、両ユニットの今後の進化が非常に楽しみです。
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みんなのコメント
肝心な数字がわからない。参考までに、僕のアクアは、夏場は通勤で25キロ、高速は22キロ、飛ばすと落ちます。バイパスで70キロ走行で30キロ。その前のプリウス2は、それぞれ-5、-2、-5落ちます。だから、アクアも高速は苦手です。e-powerは。もっとダメということなら、どれくらいダメなのか。