まるでレーシングカーのようなサスペンションに仕立て上げられていた
平成のABCトリオ(AZ-1、ビート、カプチーノ)など軽乗用車の2シータースポーツが世を賑わすより20年も前、軽乗用車初のスポーツカーが誕生していました。今回は、軽乗用車、フロンテに搭載した2ストローク3気筒エンジンで一世を風靡したスズキが、1971年にリリースしたフロンテ・クーペを振り返ります。
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2ストローク3気筒の振動は理論的に4ストローク6気筒と同様
鈴木自動車工業(現スズキ)は、自動織機の生産で起業し、自転車や原付バイク、2輪車の生産を経て1955年に軽乗用車のスズライトで4輪市場に打って出ています。その後1962年にスズライト・フロンテを登場させ、1967年のフロンテで軽4輪乗用車市場に本格参入となりました。
わが国独自のカテゴリーである軽乗用車市場は、1958年にスバル360が登場したことで、明確な市場が確立されました。その後、新規参入が相次ぎましたが、スバルに倣った空冷2ストロークの2気筒エンジンを搭載するケースが多く、スバルの技術レベルを超えることは容易ではありません。
そうした中で1967年3月に登場したホンダN360は4ストロークの空冷2気筒で31psの最高出力を実現し、やがてスバルを王座から追い落とすことになります。一方、N360から2カ月遅れで発売されたスズキ・フロンテも、それまでの一般的なパッケージとは一線を画していて、2ストロークの直列3気筒エンジンを採用していました。
理論的には2ストロークの3気筒は、4ストロークの6気筒と同様にエンジンの振動が抑え込まれるメカニズムとされていましたから、スムースな回転フィールが得られるとCMなどでアピールしていました。さらに最高出力も、N360の31psには及ばないものの25psを発揮し、N360以外のライバルのレベルを凌駕していたのです。
ボディのスタイリングに関してもフロンテはスマートな肢体を見せつけ、コークボトル・ラインと呼ばれる抑揚の効いたスタイリングは、箱型で画一化されたライバルとは一線を画していました。フロントにダブルウィッシュボーン式、リヤにセミトレーリング式、ともにコイルで吊った4輪独立懸架を採用するなど、シャシーでもハイスペックを謳っています。
そんな2代目フロンテは1970年11月に、2度目のフルモデルチェンジを受けて3代目となるフロンテ71に移行。ボディのスタイリングは一新されていましたが、車両型式がLC10からLC10-IIに変更されていたことからも分かるようにメカ的には正常進化で、ダブルウィッシュボーン式/セミトレーリングアーム式で4輪独立懸架となる前後サスペンションも継承されていました。
シャシーで最大の変更点はホイールベース。LC10の1960mmからLC10-IIでは2010mmへと50mm延長されていました。LC10の軽快なスタイリングに騙されていたようで、箱型に生まれ変わったLC10-IIは、2995mmの全長と1295mmの全幅はLC10と全くの同寸。全高もLC10の1330mmからLC10-IIでは1295mmへと35mm低められていたのです。
この後に登場する今回の主人公、フロンテ・クーペが、軽乗用車として初めて、全高(の数値)が全幅(の数値)以下だったと、各所で報告されていますが、実はフロンテ71は軽乗用車で初めて、全高と全幅が同数値になっていたのです。
近年のモデルチェンジでは無用な肥大化が非難を集めることも多くなっていますが、ボディ重量も440kgから460kgに20kg増えただけでしたから、キャビンスペース、特にリアシートの居住性が高められたこの時のモデルチェンジは、まさにウェルカムなモデルチェンジとなりました。そして、この時に誕生した3代目フロンテをベースに、今回の主人公であるフロンテ・クーペが誕生するのです。
軽初のスポーツカーを標榜しレースでも孤軍奮闘の大活躍
フロンテ・クーペが登場したのは1971年の9月でした。ベースとなったのはフロンテの3代目、フロンテ71でしたが、少し解説を付け加えておきましょう。1970年の11月に登場したフロンテ71は当初、2代目フロンテと同じ2ストローク3気筒の空冷エンジンを搭載していましたが、半年後の1971年5月には2ストローク3気筒の水冷エンジンを搭載したフロンテ71W=LC10Wが追加設定されていました。
そのLC10Wをベースに2座のクーペボディを架装したモデルがフロンテ・クーペです。スタイリングは、イタルデザインを設立したイタリアの巨匠、ジョルジェット・ジウジアーロが手掛けた原案をスズキの社内デザイナーが手直ししています。
ジウジアーロ/イタルデザインの原案は背の高いベルリネッタ・デュオポルテ(2ドアセダン)だったので、それをベースに車高を引き下げてスタイリッシュな2ドアの2座クーペが完成したのです。このスタイリッシュなボディが架装されたシャシーはLC10Wそのもの。ダブルウィッシュボーン式/セミトレーリングアーム式で4輪独立懸架となる前後サスペンションだけでなく、2010mmのホイールベースも継承されていました。
エンジンのLC10Wについても触れておきましょう。2ストローク3気筒で排気量は356cc。ボア×ストローク=52.0mmφ×56.0mmと同数値ですが、LC10Wは単にLC10にウォータージャケットを追加して水冷化を施しただけのエンジンではありません。
吸気系にリードバルブを採用し、ピストンなどの主要パーツも設計しなおすなど、まるで新設計と言えるほどの改良が加えられていました。完成した水冷エンジンの重量は65kg。これは空冷のLC10に比べて7kgも軽く仕上がっていたのです。
ちなみに37psの最高出力も、ホンダN360系ホットモデルの36psを上まわる軽乗用車トップレベル(最強はフェローMAX SSの40ps)となっていました。インテリアの豪華さも、ライバルを凌駕するものがありました。大径のスピードメーターとタコメーターをはさんで3つの小径メーター(スピードメーターの右に燃料計、タコメーターの左に水温系と電流計)を、そしてその左には時計が並ぶダッシュボードや、2脚のバケットシートなどは、軽初のスポーツカーを謳うに十分でした。
LC10WエンジンといえばFL500/FL550レースで数えきれないほどの優勝を飾っていますが、それを搭載したフロンテ・クーペも、1970年代序盤に賑わいを見せていたミニカーレースで大活躍していました。それには高回転まで気持ちよく吹き上がるLC10Wエンジンの威力も見逃せませんが、じつはフロンテ・クーペにはライバルを一蹴するだけの秘密兵器があったのです。
それは軽量だったことに加えて、リヤサスペンションの秘めたポテンシャルが高かったこと。レースでもライバルとなったのはホンダのN360/Z360、より正確にいうならN600用のピストンを組み込んだ500ccエンジンを搭載したN500/Z500でした。公認重量が不明なのでロードモデルでの比較になりますが、ホンダ勢に比べてフロンテ・クーペは40kgほど軽く、大きなアドバンテージとなっていました。
しかしそれ以上に大きなアドバンテージとなっていたのがサスペンション。リヤがリーフ・リジッドだったホンダ勢に対し、フロンテ・クーペはセミトレーリングアーム式の独立懸架でした。それをレース用にチューニングするにあたってはアームをピロボール式に置き換えて、まるでレーシングカーのようなサスペンションに仕立て上げられていたのです。
1970年代序盤の中国地方……中山サーキット(1971年開業)と野呂山スピードパーク(1970年開業、1974年閉鎖)、そして厚保サーキット(1972年開業。現在はマツダの美祢自動車試験場に)ではミニカーレースは人気のカテゴリーでしたが、エントリーの大半はN500/Z500のホンダ勢でフロンテ・クーペは孤軍奮闘していました。最終的には刀折れ矢尽きてしまい姿を消すことになりましたが、予選ではライバルを打ち負かすようなスピードでポールポジションを奪うことも度々でした。
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みんなのコメント
フロントウィンドーの寝かし加減とかいろいろ微妙な違いがあるんだろうけど、
『サイズ感』ってのが一番の要因なのかな?
この大きさだからこその奇跡のスタイリングだと思いますね
なんでここには出てこないんだろう?
ふしぎ。。。
あの不愉快極まりない変質者さえいなれりゃこの板だってちょっとはマシになるからいいけどね