技術の進歩や時代の流れに対応してモデルチェンジを行う各メーカーのクルマたち。しかし、後継モデルが必ずしも先代を超える人気や評価を獲得できるわけではない。特に先代が成功作だった場合、その後継モデルは実際の能力よりも低く評価されてしまうこともある。
今回は、偉大な先代モデルの影に隠れてしまい、正当な人気と評価を得られなかった「不遇なクルマたち」にスポットを当てる!
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文/長谷川 敦、写真/日産自動車、本田技研工業、Favcars.com
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3ナンバー車への変更がアダに? 「S14型日産シルビア」
S13型の流れをくむものの、サイズ拡大の影響をうまく消化できずに、スポーティさを失ってしまったS14型シルビア。後期のマイナーチェンジも起死回生にならず
1988年に発売された日産シルビアの5代目モデルS13型は、美しいスタイルとFRスポーツの完成形ともいえるバランスのとれた性能もあって、シルビア史上ナンバーワンの売り上げを記録し、現在でも名車として愛されている。
そんなS13型の後を受けて1993年に登場したのが6代目S14型シルビアだ。プラットフォームこそS13型を継承したが、それまで5ナンバーサイズだった車体は3ナンバーサイズに拡大された。具体的にはホイールベースが50mm延長され、前後トレッドはそれぞれ15/10mm広がっている。これにはエンジンのパワーアップに対応するという理由があり、実際にターボエンジン搭載車のK’sグレードで比較すると、S13に対してS14は約15psパワーアップしている。
カタログスペックで見ればS13に対して遜色のないS14であったが、大型化に伴うボディデザインの変更により、前作にあったシャープさが失われてしまい、やや鈍重な印象を与えることになった。結果的にデートカーとしての魅力も減少したS14型シルビアの売り上げは伸び悩み、次代のS15型では再び5ナンバー車へと回帰することになる。
ハードウェアとしての出来は悪くなかったものの、先代の人気を引き継ぐことができなかったS14型は、最後まで正当な評価を得られずにその歴史を終えている。
シルビア同様路線変更に失敗? 「ホンダ4代目プレリュード」
全幅が1764mmに拡大されて3ナンバーサイズになった4代目プレリュード。リトラクタブル式ヘッドライトは排され通常スタイルに
成功作となったS13型シルビアのライバルとして、現役当時に比較されたクルマがホンダの3代目プレリュード。FFスペシャリティカーのプレリュードは1978年にデビューし、1987年登場の3代目モデルは、2代目の正当な後継車だった。量産車初の舵角応答式4WS(4輪操舵)システムを搭載し、足回りは前後ダブルウィッシュボーンサスで強化。洗練されたボディスタイルと確かな走行性能により、シルビアと人気を争うモデルになった。
そして1991年、満を持して5代目プレリュードが登場する。興味深いのは、シルビアのモデルチェンジに先がけて3ナンバー化されたこと。それまでのスリムなイメージを一新して、ボリュームのあるボディデザインに変身。エンジンも先代の2.0&2.1から2.2リッターに拡大されている。
機械式制御の4WSは電子制御に進化し、3ナンバー化によってラゲッジスペースも拡大されたにもかかわらず、そのイメージ変更が逆向きに働いてしまい、先代の持ち味だった軽快感はなくなった。
また、この5代目デビューの頃には日本国内のバブル経済も終わりを迎え、スペシャリティカーの需要も減る傾向にあった、これが4代目プレリュードの人気に影響を与えたことも無視できない。
バブル経済の申し子は後継車育成に成功せず。「日産FY32型シーマ」
先代の魅力でもあった圧倒的な加速性能を自然吸気エンジンで実現するため、4.1リッターの大排気量V8エンジンが搭載された2代目FY32型シーマ
日産が従来の高級セダンであるセドリック、グロリアの上位機種として1988年にリリースした新型ラグジュアリーセダンが初代FY31型シーマ。当時の日産車ではプレジデントと並ぶ最上位機種にあたるシーマは、“セド・グロ”のプラットフォームをベースに、3ナンバー専用のボディを搭載してパワフルな3リッターV6ターボで武装する。
バブル経済が頂点に達しつつあった時代、スペイン語で「頂点」を意味するシーマの車名を持つこのクルマは、4年間で実に13万台弱を販売。あまりの売れ行きに「シーマ現象」を巻き起こしたとまでいわれている。
そんな爆発的なヒットモデルとなった初代シーマの後継車FY32型は1991年に販売を開始。FY32型の開発時点ではまだバブル経済は堅調であり、それは車体の内容にも反映されていた。
ボディはFY31型のセンタピラーレスからピラー付きに変更され、エンジンには4.1リッターV8自然吸気タイプを用意。内装も豪華になるなど、先代に負けない装備が盛り込まれた。だが、先代のようなインパクトはなく、シーマ現象を起こしたFPY31型並みのヒットモデルにはならなかった。
以降のモデルチェンジでも初代を超えることはできず、4代目F50型をもってシーマの生産はいったん中止される。しかしその約2年後の2012年に、シーマはハイブリッド専用の5代目HGY51型となって復活を遂げることになる。
伝説のハイチューンカーが後継に影を落とす。「日産N15型パルサー」
3&5ドアハッチバックに、4ドアセダンも用意されるなど、バリエーションが豊富だった5代目パルサーN15型。決して不人気車ではなかったが、先代には勝てず
今回の記事で日産の車両を紹介するのもこのパルサーで3台目。好意的に考えると、これはかつての同社が成功にあぐらをかかず、果敢なモデルチェンジに挑戦した証でもある。そして今回紹介する最後の日産車は、派手な展開を行った先代に比べて地味なイメージで損をした5代目パルサーのN15型だ。
先代のN14型パルサーは1990年に登場。このモデルからガソリンエンジン仕様はすべてDOHC化され、パワーと効率アップを達成。従来のFFに加えてシリーズ初の4WD車もラインナップされた。こうした攻めの姿勢の象徴ともいえるのが、WRC(世界ラリー選手権)の参戦を前提に開発されたハイパフォーマンスモデルの「GTI-R」だ。ターボで武装した2リッター直4エンジンは230psを発生し、ボディには空力チューンが施されるなど、それまでのパルサーのイメージを覆す出で立ちは、多くのファンから支持された。
そして1995年にN15型が登場する。このモデルから欧州での販売名はアルメーラに変更となり、ABSやエアバッグの装備など、安全性能が強化されている。クルマとしての素性はよく、モータースポーツでも活躍。エンジンパワーが大きいことも通好みのユーザーには歓迎された。しかしN15型の印象はやはり地味であり、90年代後半に入ると、パルサーよりもコンパクトなモデルや、RV、ミニバンなどに人気を奪われるかたちで販売数も伸びず。日本国内での販売は2000年9月をもって終了している。
オリジナルモデルがあまりに偉大だった。「フォルクスワーゲン・ニュービートル」
RR車だった初代のフォルムを継承するためか、エンジンを搭載するフロント回りの設計などに無理があり、使い勝手が良いクルマではなかったニュービートル
1945年に本格的な販売がスタートしたドイツ・フォルクスワーゲンのタイプ1は、当時としては破格の低価格モデルとして登場し、その利便性の良さとタフな車体、そして何より後に「ビートル」と呼ばれる愛くるしいスタイルで、ドイツはもとより世界中で愛される大衆車となった。
ビートルの生産は2003年まで行われ、累計生産台数はなんと2153万! もちろんこれはいまだ破られない世界記録である。
その初代ビートルの生産終了に先行する1998年、初代の面影を残しながら現代的に大胆な変更が行われた2代目ニュービートルの販売がスタートする。
フォルクスワーゲンでは、ニュービートルの開発にあたり自社の4代目ゴルフのプラットフォームを利用した。初代の特徴でもあったリアエンジン・リアドライブのRRはより一般的なFF方式に変更され、全幅も200mm近く拡大。初代が開発された1930年代とは、自動車を取り巻くすべての環境が異なっていたため、これは致し方ない選択でもあった。
しかし、ニュービートルはルックスこそ初代に似せられているものの、やはりまったく別のクルマであり、初代のようなヒット車にはならず2010年に生産を終了。さらにその後継車たるザ・ビートルも短命なモデルに終わった。
今回紹介したモデルは、人気面や売り上げでは不調であっても、単体で見ればよくできたクルマたちである。ただし先代が傑作と呼べるモデルばかりであり、登場した時代の空気とマッチしなかったケースもある。そういう意味において不遇な存在に甘んじているが、それがクルマとしての価値を下げることはない。
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今どきカローラでさえ3ナンバーなのに