バブル景気が生んだ奇跡のマイクロスポーツたちを再考
バブル経済の好景気という後押しもあり、後世に残る名車や個性的なモデルが多数生まれた1990年代初頭。その恩恵を受けたクルマは枚挙にいとまがないが、軽自動車というカテゴリーに限定すれば、その筆頭は「平成のABCトリオ」と呼ばれたオートザムAZ-1、ホンダ・ビート、スズキ・カプチーノであることに異論を唱える人は数少ないであろう。今回、改めて平成初期が生んだ奇跡のマイクロスポーツを取り上げたい。
軽自動車「最強」の呼び声も高いカプチーノ! あまりに「贅沢すぎる」中身とは
軽自動車のパワーウォーズの先に描いた究極のリアルスポーツという理想
まず、ABCトリオはなぜ生まれたのか? 1985年の2代目のダイハツ・ミラターボ登場から始まった軽自動車のパワーウォーズがその発端。
それに負けじと各メーカーから軽ホットハッチが登場し、馬力競争は過熱。それに多くの若者の心を捉え、独自の文化を築き上げたが、激化したパワー競争に歯止めをかけるべく、1989年に決まった普通車の280psと同様に、軽自動車にも64psの自主規制が行われたことで、その勢いも徐々に落ち着きをみせることとなる。
ただ、当時はスポーツ性の高さが人気のバロメーターとなっていたことは間違いなく、それにバブル経済という好景気も重なって、各メーカーは軽自動車の王道といえるスペース効率の追求(その代表格であるワゴンRが登場するのは1993年)ではなく、さらなるスポーツ性とプレミアム性を兼ね備えた特別なクルマの開発に着手していく。その開発陣の思いや夢の結晶として誕生したリアルスポーツが、AZ-1、ビート、カプチーノだったのだ。
もっとも早く登場したのがビート(1991年5月)、次いでカプチーノ(1991年11月)、最後にAZ-1(1992年10月)の順。生産中止はAZ-1(1994年10月発表、1995年9月販売終了)、ビート(1995年10月発表、1996年12月販売終了)、カプチーノ(1997年12月発表、1998年10月販売終了)となっており、3車種のなかで一番実用性が高かったカプチーノが残ったのは順当といえる。
カプチーノとAZ-1にあって、ビートになかったものとは?
生産台数はAZ-1が4400台強、カプチーノが2万6000台強、ビートが3万4000台弱となっており、なんと販売期間が長いカプチーノよりビートのほうが売れている。中古車マーケットでもビートやカプチーノはある程度台数はあるが、AZ-1は極小。その希少性からAZ-1は新車を大きく超える価格(300万円以上)で販売されている個体も少なくない。ビートやカプチーノは40万円前後から選べるが、その価格帯はトラブルを抱えているクルマも多く、手を出すなら100万円前後から上がオススメである。
基本パッケージはビートとカプチーノがオープンカーで、AZ-1がガルウィングドアのクーペ。駆動方式はビートとAZ-1がミドシップで、カプチーノがFRだ。エンジンは64psで横並び。ただし、カプチーノとAZ-1がターボだが、ビートは自然吸気で達成しているのがトピック。現在でもNAで64psに到達したモデルは他にない。
ちなみにビートにはないが、カプチーノ/AZ-1にはコンセプトカーが存在する。2台は1989年の第28回東京モーターショーに参考出品。 カプチーノはスタイルは市販とほぼ同じだったが、ボディにカーボンファイバーが用いられ、車両重量は500kgを切る超軽量スポーツであった。
対するAZ-1はAZ550の名前で、市販モデルに近いタイプA(ヘッドライトは格納式) クーペボディのタイプB
グループCを彷彿させるタイプCという3台が出品され、その反響の高さから市販化へのレールは敷かれたのだ。現在、50代以上なら覚えている方も多いのではないだろうか?
ビートの世界初とAZ-1の特殊性。小さくても本気が詰まっている。
車両重量はカプチーノがもっとも軽く700kg(後期型は690kg)で、そのあとにAZ-1(720kg)が続き、もっとも重いのがビート(760kg)。これはビートがミドシップ車として世界初のオープン専用設計ボディで、ホンダとしても経験値が足りなかったこともあり、必要以上にボディ剛性を与えたことも影響している。
さらに自然吸気エンジンであり、動力性能という面では2台に差を付けられたが、しっかりしたボディが与えられたことで、ステアリング操作に対して車体がリニアに応えてくれる楽しさ、エンジンをフル性能に使い切れる気持ちよさは他の2台よりも抜きんでている。数値で表せない魅力を兼ね備えているのがビートの真骨頂である。
AZ-1の魅力は異例づくめの特殊性。コンセプトカーが備えていたスーパーカーの三種の神器「ミドシップ/ガルウィング/リトラクタブルヘッドライト」は市販化にあたり、衝突安全など諸々の理由からリトラ式ライトは採用が見送られたが、ミドシップと軽自動車で唯一無二のガルウイングは採用された。外装パネルはすべてプラスチック製でスチール性のモノコックにボルトオンされるなど、小さいながらスーパーカーライクな作りとなっているのが素晴らしい。
見た目はスーパーカーだが、ハンドリングは2.2回転のロックトゥロックと相まってジムカーナ車のようにクイック。走行中にクシャミもできない、と言われたのも頷けるほど刺激に溢れている。完成度という点では未成熟な部分は多いが、これほど個性的な(クセのある?)クルマは二度と生まれない。趣味性といった点では大いにそそられる。
維持する環境は今も問題なし。1/1の玩具感覚でまだまだ長く楽しめる
カプチーノはスズキが本気で作った最高傑作のリアルスポーツ。オープンカーだが、幌ではなく耐候性に優れたアルミ製のハードトップを持ち、リアウインドウが格納する何とも贅沢な作り。
しかもハードトップは3分割となっており、Tバールーフ、タルガトップスタイルも楽しめるなどプレミアム感もたっぷりだった。
サスペンションは本格的な4輪ダブルウィッシュボーンが奢られ、機械式LSDを含めてスポーツ走行に必要なアイテムをオプション設定するなど、リアルスポーツに相応しい走りが味わえた。今だサーキットで見かけることも多く、現役マシンを上回るタイムで駆け抜ける潜在能力は今だ一級品だ。
現在もダイハツ・コペンやS660など軽スポーツカーは用意されており、完成度という点ではABCトリオよりも抜きんでいるが、遊び心という点ではまだまだおよばない。
登場から30年近くが経過し、コンディションのよい個体が減ってきているが、それでも同年代のリアルスポーツたちほど、高騰しておらず、維持費も安く済む。しかも、専門店も多いからメンテナンスやレストアするにも困ることはない。それでいて軽自動車の安っぽさを感じさせないから、趣味として1/1の玩具感覚で楽しむにはうってつけ。メーカー開発者たちの夢と遊び心が詰まったABCトリオ、狙うならラストチャンスかもしれない!
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