台風15号による被害で千葉県の房総半島や伊豆諸島、神奈川県などに大規模な停電が続いてしまったのは、さまざまな報道によりご存じのことだろう。
最近になって千葉県は災害用に備蓄されている防災倉庫に468台もの発電機があり、信号機制御用に県警に210台を貸し出した以外は、鋸南町と神崎町に6台を貸し出しただけで、残りの250台は倉庫に眠っている状態であることが明らかになっている。
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個人向けへの貸し出しは想定していない、という理由で残りの発電機は使われていないそうだが、その一方で信号制御用の発電機は、盗難が相次いでいるという報道もある。
停電が長引いている現在、電気がなければ死活問題ともなりえるだけに、道路上にある発電機を持ち去ってしまう人が現われるのも、気持ちはわからないでもない。それくらい現場は甚大な被害なのだ。
こうした、万が一の時に役に立つ、コンセントを差し込めば電気が取り出せる、給電装置の付いたクルマがあるのをご存じだろうか?
これさえあれば自宅と同じように家電がそのまま外で使えるので、携帯電話や炊飯器などの家電製品がそのまま使えるのだ。
いま、給電できるのはどんなクルマがあるのだろうか? また、給電する際に注意点はあるのだろうか? 自動車テクノロジーライターの高根英幸氏が解説する。
文/高根英幸
写真/ベストカー編集部
【画像ギャラリー】給電できるのはどんなクルマ?
クルマにACアクセサリーコンセントがついていれば非常に便利!
電気ケトル(500mL)の消費電力は800W。1.2L沸かせる大型の電気ケトルでも消費電力は1250W程度だ。AC100V、1500Wのアクセサリーコンセントが付いていればどこでもすぐにお湯が沸かせる!
東京電力は今回の台風被害で千葉県に電源車を200台以上派遣しているが、半分しか稼働していないとも聞く。
さらにEVとPHVを民間に貸し出したというが、それも40台程度と焼け石に水状態。何度も大災害を経験しているにも関わらず、この国の災害対策や支援はまったくお粗末なものだ。
個人で災害にどれだけ備えられるかは、今後日本で生活していくうえで、ますます重要なことになる。
ハザードマップを参考に住む場所を選んだり、防災用品や食料、飲料水を備蓄しておくだけでなく、停電時の備えも重要だということを、今回の台風被害で再認識させられたのではないだろうか。
東日本大震災でも停電時にエスティマハイブリッドが外部に給電できるため大いに役立ったという報道もあった。
クルマは、いざ時には車中泊や電力供給など、移動手段以外の目的でも役立てることができるのだ。こうして外部に給電できるクルマには、いくつかの種類がある。
ハイブリッドやPHV、FCVは給電能力が高い
前述のエスティマハイブリッドは標準で1500Wまで給電することが可能だ。これは家電としては大電流が必要な炊飯器やドライヤーなども使うことができる。
エアコンと冷蔵庫を同時に駆動することも可能だし、冷蔵庫は扉の開閉を控えれば1日に数回冷やせば冷気を維持出来るので、夜間は照明やTVなどに給電することもできる。
アルファード&ヴェルファイアハイブリッドやプリウスPHVにも同様の給電機能が上級グレードには標準装備されており、30/50プリウス、プリウスアルファにはオプションで装着することができる。
アルファード&ヴェルファイアハイブリッドの上級グレードにはAC100V電源/1500Wアクセサリーソケットが標準装備
エグゼクティブラウンジ、 G”Fパッケージ” 、SR”Cパッケージ”には標準装備(5カ所)。G、X、SRには6万4800円のオプション
現行プリウスのAプレミアムに標準装備のAC100V、1500Wのアクセサリーコンセント(メーカーオプション=4万3200円)
スマホの充電やLED投光器、ラジカセなどは余裕で使用できる
SAIやハリアーハイブリッド、シエンタハイブリッド、 ノア/ヴォクシー/エスクァイアハイブリッド 、オデッセイハイブリッドなども同様で、三菱のアウトランダーPHEV(初期はオプションだった)も同じく1500Wまで使える交流コンセントが用意されている。
問題はEVだ。EVには、外部から充電するためのソケットがあるが、そこから電気を取り出すのは単なる自宅コンセントからの充電を行なうコードのようなものではなく、電圧や電流を管理できるパワーコンディショナーを介さなくてはならない。
これは60万円くらいするため(補助金によって、EVを家庭用蓄電池として積極利用する人でなければなかなか手を出しにくいものだ。
しかし昨今の自然災害の頻発ぶりを考えると、太陽光発電と組み合せて電力を自給自足できる環境にしておくのも選択肢の一つだろう。
なにしろ、EVの蓄電池としての能力は相当なもので、モデルハウスのような大きな一戸建てで普通に使っても2日間、節電しながら大事に使えば一戸建ての電力を1週間近くも供給できる。もちろん季節や気温、EVのバッテリー搭載量によって実際には上下する。
また蓄電池として電力供給したら、なんらかの手段でEVを充電しなければならないので太陽光パネルを設置していない場合は、停電状態では自宅では充電できないから、充電するために移動できる分の電力はバッテリーに残しておく必要がある。
走行していなくても蓄電池として利用すればバッテリーの充放電サイクルは進んで劣化していくので、その後の航続距離が短くなってしまうことにも注意が必要だ。
トヨタミライやホンダクラリティFCVといった燃料電池車の場合は消費する電力を常に水素と酸素から作り出すので、燃料の水素さえあれば連続的に安定した電力を供給できる。
水素の供給面では不便な環境ではあるが、1回のタンク充填で700kmもの航続距離を誇るFCVなら、相当長期間、家庭用電源として給電させることも不可能ではなさそうだ。
エンジン車でも工夫次第で電力供給は可能
一般的なガソリン車は、シガーソケットから電気を取り出せるが、その電気はDC12V(直流)。一般家庭用コンセントの電気はAC100V(交流)なので、そのままでは使えない。そこで登場するのが、DCからACへと電気を変換してくれるインバーター。 クルマで白物家電をバッチリ使いたいなら1500W以上の正弦波のインバーターを購入したほうがいい
さらにハイブリッドではない普通のエンジン車でも、交流100Vを給電できるクルマもある。トヨタのプロボックスやハイエースにはコンセントが設定(ハイエースバンはオプション装備)されている。
これは12Vの直流電流を、交流100Vに変換できるインバーターを内蔵しているからだが、その出力は100Wと、本格的な家電製品が使えるものではない。
移動中にノートPCや携帯電話、業務用の電子機器などを充電するためのものとして用意されているのだろう。
インバーターを購入する際の注意点
ACアクササリーやインバーターの定格出力が1500Wあれば、消費電力は1240W、マイコン制御の炊飯器も問題なく動く
まったく問題なく美味しいご飯が炊けた
インバーターを内蔵していないクルマでもシガーソケットにインバーターを接続して交流100Vを出力することはできるが、シガーソケットの出力も10~15A程度なので170Wくらいが給電の限度だ。
それ以上の電力を使いたいなら、バッテリーと大型のインバーターを直接接続してやれば、1500W程度までなら問題なく供給できる。
インバーターを購入する場合、実はここには大きな落とし穴がある。それはインバーターで変換される電気の「波形」。
インバーターで変換する電気の波形には、一般家庭用の電気と同じキレイな波形の正弦波(せいげんは)と、ブロック状の直線的な波形、矩形波(くけいは)の2種類がある。
近年の電化製品はマイコンで高度に制御されたものが多くなっていて、正弦波で使用するもの。矩形波では定格出力が足りていても動かないということになってしまう。1500W以上で波形が正弦波のインバーターをオススメしたい。
価格は2万円くらいから上を見れば10万円超えと、矩形波のインバーターよりも高くなってしまうが、備えておけば万が一の時でも安心できる。
インバーターの選び方についての詳細は以下の別記事にあるので見てほしい。
【車で家電を使うなら…】意外と難しいカーインバーターの選び方2019最新版
ちなみに標準装備している、電池から電気を取り出すことができるコンセントが備わっているこのコンセントは、定格出力1500Wという高出力で、波形は一般家庭用と同じく正弦波。
しかし、大電流が必要な時には、走行時のように2000~3000rpm程度までエンジン回転を上昇させる必要があるため、クルマから離れられないのが難点だ。
こうした電源はキャンピングカーでは常識の装備だが、例えば愛車がセダンでもいざという時のために接続できるよう準備しておくと安心だ。
ガス欠に注意!
給電できるといってもエンジンをかけ続けなければいけないので、ガス欠には充分注意する必要がある
ただし、軽自動車ではオルタネーターの発電能力が小さいので、あまり大きなインバーターを組み合せても車載のバッテリーが弱ってしまうことになる。
オルタネーターを大型のモノに交換したり、サブバッテリーを連結することで、こうした問題は解決できるが、これはほとんどキャンピングカーの領域だ。
気を付けなくてはいけないのは、発電機でもクルマでも電力を作るためには燃料を消費する、ということ。
燃料の供給が不安定な状況では、エンジンを掛けっ放しで発電させると、ガソリンスタンドまで辿り着けなくなる恐れがある。実際に運用する状況になったら、燃料の確保も考えながら利用することだ。
【画像ギャラリー】給電できるのはどんなクルマ?
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