カーボンニュートラルが推進され、自動車の『オール電化』は避けられない状況になりつつある。
現在、世界の多くのメーカーのEVは富裕層向けの価格帯となっており、一般家庭には手の出しづらい価格となっている。価格帯が下がらないまま電化が進むと『自動車所有難民』が出現しかねない。
極端なEV推しはナンセンス? 実は最新ハイブリッドがEVよりエコな実態と理由
電気自動車普及と、日本も含めた世界の価格問題について小林敦志氏が考察する。
文/小林敦志
写真/小林敦志、NISSAN、Daimler AG、TESLA、HONDA、AdobeStock
【画像ギャラリー】必要な人すべてが利用できる社会がいい!! 電気自動車普及と低所得層の自動車購入問題について考える
■急速に電動化が進む世界一の自動車市場 中国
2019年の広州モーターショーではEVよりも“国VI”と呼ばれるユーロ6レベル相当をクリアしたガソリンエンジン搭載車が目立っていた
世界一の自動車市場といえば中国。そして、その中国は世界のなかでも電動車、とくにBEV(純電気自動車)の普及が世界屈指の勢いで進んでいるところといっていいだろう。
中国政府が電動化を進める背景には諸説ある。
まずは、工業化を一気に進めたための大気汚染など環境問題の改善がある。電動化とともに、ガソリンエンジンでは欧州に準じたエミッション規制を進めた結果、現状ではユーロ6レベルに相当する“国VI”というエミッションレベルのガソリンエンジンを新車では搭載している。
その結果、例えば広東省にある広州市(二級都市となるので、北京や上海といった一級都市より環境規制が緩かった)では、それまで晴天の日でも、明るい曇天ぐらいの空模様だった(青空は拝めなかった)。
スモッグがひどく深刻な視界不良の日もあったが、エミッション規制や電動化を進めて行くと青空が見えるようになった。
また、急激に自国の自動車産業は成長していったのだが、所詮内燃機関では欧米や日本、韓国を追い抜くのはなかなか難しいと判断し、電動車に舵をきったとされている。
さらには、経済成長が進むなかで原油輸入量が増えて行ったのだが、その原油輸入量を減らすためにも電動車開発と普及を積極的に進めたともいわれている(中国の発電は石炭メインで、いま原子力へ移行中)。
■中国の電動車の多くは『はたらくクルマ』!?
中国では新エネルギー車は緑色のナンバープレートを付けている
以上のとおり、その積極的な取り組みの背景には諸説あるが、さぞや普及が進んでいるのではと思いがちだが、中国汽車工業協会の統計によると、たとえば、2021年6月の中国国内での新車販売台数は201.5万台となった。
しかし、そのうち“新能源車(中国語で新エネルギー車のこと/BEV[純電動車]、PHEV[プラグインハイブリッド車]、FCEV[燃料電池車])”の販売台数は24.8万台となるので、中国全体での新車販売台数のうち新能源車は約13%となっている。ちなみに、HEV(ハイブリッド車)は新能源車対象とはなっていない。
中国共産党の一党独裁ともいわれる政治体制下であり、日本や欧米のように議会での承認手続きを必要とせずに(そもそもない)政策実行ができる中国でも、前述した統計をみると思うような普及は進んでいないといえよう。
しかも、全体の約10%とされる新能源車の販売台数の多くは、タクシー、ライドシェア、バス、日本でいうところのライトバンなど、いわゆる“はたらくクルマ”が大半。
さらに、一般ユーザーが購入した電動車のなかには、レンジローバーやポルシェ・カイエンなど、欧州高級ブランドのPHEVやテスラなどが目立っている。中国といえども、なかなか政府が思い描いているように進んでいないのが現状のようである。
■西側先進国では普及にさらに時間がかかるか
近年目立ってきた北京汽車のEVタクシーも電池脱着式を採用する。電池スタンドで充電済みの電池と交換するので、充電時間が不要となる
今年春に開催された上海モーターショーでは、リチウムイオンなどの二次電池が脱着式のBEVが多く展示されていたとのこと。
つまり、電池残量が少なくなったら、街なかの電池ステーションへ行き、満充電された電池と交換するというもの。これなら、30~40分ともいわれる充電時間を省くことができる。
すでに中国の街なかには電池ステーションが目立ってきているとの話も聞く。中国の都市部を中心にタクシー車両のBEV化は進んでいるが、北京汽車のBEVタクシー車両が電池脱着式となっており、このタクシーが都市部では目立ってきている。
ただし、日本ではこの脱着式電池のBEVは電池ステーションに多くのリチウムイオン電池が集まるのが危険ということで法令に触れるとのことで、現状では中国のように展開することはできない。
中国のBEV普及において、やはり充電に時間がかかるということも少なからずネックになっているからこそ、脱着式が注目されているのであろう。
中国のような、ある意味特別な政治体制下で物事がスピーディに進むとされる国においても、車両電動化はなかなか普及が進まない。そんなことでは、個々人の権利意識の高い西側先進国では、化石燃料で内燃機関のクルマを走らせることによる既得権益も絡み、さらに普及に時間がかかるのではないかともいわている。
■欧米でのEVの扱いはいまだに貴族のオモチャ
メルセデス・ベンツ EQS。高級4ドアセダンであるSクラスのEV版といった位置づけとなる。EVの普及対象が富裕層だという現れだろう
先進国での車両電動化の急先鋒は西ヨーロッパ諸国で自動車産業の盛んな、ドイツやフランス、イギリスあたりとなる。
イギリスやフランスは2030年までに電動車以外の販売を終了するとしているが、その欧州でも2030年時点での車両電動化は全体の3割ほどまで進めばいいほうともされている。アメリカではさらに電動化は進まず、そして日本はアメリカより進まないのではないかとする見方もある。
中国はまだまだ自動車保有台数については“のびしろ”のある成長市場なので話は別となるが、すでに成熟市場となっている欧米や日本などでは、今後電動車の普及が進むなかで早晩“貧困問題”というものが普及にブレーキをかける可能性が高いと考えている。
事実、電動車普及に積極的とされる欧州では、電動車が多くラインナップされるのは上流階級が乗るプレミアムブランドのほうがより積極的に見える。つまり現時点での普及対象のメインは富裕層となっている。
100年ほど前に自動車そのものが発明された時、最初のステップでは、“貴族など上流階級のおもちゃ”的需要も普及に貢献したとされているのを見れば、電動車の普及も“いつか辿った道”を歩んでいるのかもしれない。
一方で物資輸送など“はたらくクルマ”的需要も、自動車が世の中に出始めた当初では普及を進めたとされる。これは、前述した、中国での現状での電動車普及状況を見ると、同じ道をたどって電動車が普及しているようにも見える。
■自動車の歴史の節目節目で置き去りとなる低所得層
テスラ モデルS。現在のEV市場が富裕層をターゲットとしているのはアメリカも同様だ
アメリカでは、電動車のなかでBEVにフォーカスすれば、圧倒的にテスラがよく売れている。
とくに電動車が普及している南カリフォルニアで見れば、富裕層のウイークデーでの街乗り用のクルマとして、テスラをはじめ高級BEVがフリーウェイをはじめ、街なかで多く見かけることができる。
そして、複数保有が当たり前のアメリカでは、ウイークエンドのレジャーなどでは、郊外に出かけることも多いので、大排気量の内燃機関となるSUVなどで遠出するといった使い分けのなかでの電動車普及が進むとされているが、低所得層ではホイホイ複数保有することはできないだろう。
80年年代に“日米貿易摩擦”問題が勃発した。日本から安価で性能の良い製品がアメリカへ大量に輸出され、アメリカ企業に大打撃を与えたのである。そこで真っ先にやり玉となったのが日本車である。排気量が少なく、燃費性能がよくガソリン代をセーブできるだけでなく、なおかつ壊れにくい。
さらに当時の最新技術がふんだんに盛り込まれた日本車はアメリカで大人気となったが、それを新車で購入できるのは、中産階級以上などの富裕層がメインとなっていた。
そして、年式の古い格安中古車しか買えない低所得層になればなるほど、排気量が7Lといった大排気量で燃費だけでなく、環境性能も悪い年式の古いアメリカンブランドの大型車に乗ることとなり、日々のガソリン代の負担も重くなっていた。
■低所得層へのアピールとして格安EVもアリか?
アメリカでは新車購入はローンかリースを組むのが大原則なので、車両価格が高額になると低所得層はまず審査自体が通らないだろう(studiopure@AdobeStock)
日本では、大排気量車といえばお金持ちが乗っているイメージが強いが、アメリカではいまも、新車購入するためのローンやリースの審査が通らずに、中古車しか買えない層(おもに低所得層)が多く購入している。
昔ほどではないものの、年式が古く排気量が大きいだけでなく、環境性能も劣っている車両(結果的に値落ちも早いのでアメリカンブランド車になりやすい。日本車は中古車で購入するのも価格高めで簡単ではない)を保有する傾向が目立っている。
現状ではBEVやPHEVはもとより、HEVすらガソリン車より車両価格が高いのが現状。そして、いま世界的に騒がれている車両電動化の主役はBEVとなるので、同クラスガソリン車との価格差はより大きくなっている。
仮に補助金を手厚くしたところで、その差が縮まる程度であり、そもそもアメリカでは新車購入はローンかリースを組むのが大原則なので、低所得層はまず審査自体が通らないだろう。
富裕層から電動化を進め、ややタイムラグがあるが中古車で、低所得層にも普及をはかればいいだろうという意見もあるだろうが、日本とはクルマについて、レベルの違う酷使をするアメリカで、果たして中古車のBEVのコンディションがどうなっているのかも気になるところ。
買ったクルマのマイナートラブルで電池交換となっても支払うことができるのだろうか?
ミシガン州デトロイト及び近郊のフリーウェイを走っていると、道端の大きな看板に「クルマを寄付してください」と書かれたものをよく見かける。
デトロイト市及び近郊でも当然ながら路線バスは走っており、以前より車両も新しくきれいになったが、日本のように時刻表があるわけでもなく、バス停で待っていてもいつくるかわからないというのが現状。
結果的にデトロイトあたりの都市でも乗用車がないと生活していくのが大変なのである。しかし、クルマを買うお金のないひとも多く、“クルマの寄付”を募っているのである。この“寄付”となると、少々風向きが変わってくる。
例えば、中国系というと現状では米中対立もあり難しいかもしれないが、アメリカ国内のBEVベンチャーが、一時話題となった中国の上海通用五菱汽車の45万円ほどの格安BEVに近いものを開発し、これを宣伝も兼ねて低所得層低所得層向けに寄付してしまうというならば、普及に弾みがつきそうだ。
■日本でも『自動車所有難民』が出現する
ホンダの三部社長は就任会見で2040年までにエンジン車全廃という目標を掲げた。EV化、FCV化は車両価格の上昇に繋がる。いかに価格を抑えて提供するかも自動車メーカーの責務だろう
日本でも“格差社会”というものが叫ばれて久しくなってきている。
新型コロナウイルス感染拡大以降さらに顕在化しているともいわれている。日本についてはあえて“生活困窮者”とさせていただくが、そのような所得の低いひとたちには、格安で買え、維持費負担も軽い低年式(古い)軽自動車の中古車が現状では受け皿となっている。
大手中古車検索サイトをみると、年式が2000年代前半で10万km以上の走行距離の軽自動車が多数掲載されている。ただ、日本でも経済産業省が2030年までにガソリン車の販売終了を検討しているという報道があり、いまやそれが既定路線となっている。そして、現状では軽自動車も例外ではないとされている。
軽自動車では一部の車種では現状でも、簡易式のHEVのラインナップはあるが、フルHEVやPHEV、BEVなどはラインナップされていない。当然、軽自動車もHEVやPHEV、そしてBEVなどのラインナップを進めるのだが、当然ながら価格上昇はまぬがれない。
現状ガソリン車でも支払い総額で200万円付近が当たり前の軽自動車(新車の場合)が、いま以上割高となれば「新車で軽自動車も買えない」という層が増えていきそうである。
販売終了について中古車販売は含まれていないようなのだが、いまの世界的な脱炭素社会の動きを見ていると、その“猶予”がいつまで続くのか不安が残る。
政府が負担軽減のため、電動車購入のための補助金をいま以上に手厚いものにしないと、全体で見ても普及はなかなか進まないだろう。
しかし、新型コロナウイルス感染拡大に関する財政出動では、庶民が実感あるかないかは別として、世界でもトップクラスの税金投入をしたあとなので、あまり期待できない。
結果的に、新車で電動軽自動車すら購入できないひとが増え、そのようなひとたちが中古車購入(ガソリン車)に流れるが、新車販売の(トルツメ)販売が不振になれば、当然下取り車も少なくなり、中古車のタマ(在庫)不足が発生。
そのなかでタマの奪い合いも起これば中古車価格が上昇し、そのために生活困窮者への負担を増やしかねないだけでなく、電動車普及もなかなか進まないことになりかねない。
■サブスクやカーシェアリングで普及促進
肝心なのは所有することではなく、必要な時に移動手段として使えることだともいえる。サブスクやカーシェアリングの推進も有効な方法だろう
まずは富裕層が積極的に電動車へ乗り換えができるような補助金などの施策を組み、しかも短期間で次の電動車へ乗り換えてもらうようにし、中古市場へ程度の良い電動車を多く流通させるようにするしかないだろう。
ただし、現状では前述したように、日進月歩で電動車の技術は進歩しており、そうなると「中古車で乗りたい」というひとも少なく、BEVやPHEVの中古車は人気が低く、相場はよくない。
リセールバリューが良くないままだと、それも理由となり、内燃機関車が新車として買えるうちは、なかなか電動車が選ばれないどころか、電動車のみ新車販売できなくなれば、程度の良い内燃機関を搭載する中古車の人気がアップしてしまうかもしれない。
日本では販売台数の多いHEVでも、ガソリン車のように、走行距離が少なければ少ないほど、下取り相場がいいというわけでもなく、値付けには苦労していると聞く。
日本は何事も、所得格差などに関係なく“公平性”が重んじられるが、それでは電動車普及では苦労するだろう。
まずは所得に余裕のあるひとからドンドン乗り換えてもらえるような環境整備を整えることが肝心ではないかと考える。そして、中古車もしかりだが、裾野を広く普及させていくにはどうしたらよいのかも検討していく必要があるだろう。
山間部など過疎地域では、今後ガソリンスタンドの廃業が進み、“ガソリンスタンド空白地帯”が続出していくとされている。そのような地域では、地域ごとに“カーシェアリング”としてBEVの普及をはかっていくというのも有効かもしれない。
この流れで、都市部でも一定所得以下のひとを対象とした、意図的に負担を軽くした電動車のカーシェアリングネットワークを普及させていくのも一考だろう。個人所有という枠にとらわれないで、柔軟に対応していくことが、所得格差に関係なく、車両電動化をスムーズに進めて行くことができるのではなかろうか。
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みんなのコメント
国民に丸投げしておいて
指導者や幹部はEVに乗っていないこと。
つまり、
EV政策なのに乗ってねーじゃんw
(ブックオフなのに本ねーじゃん風に)
新車はやはり高値維持でしょう。
しかし、旧態然としたリチウムEVの中古は叩き売り状態になっていて、
むしろその処分に困る事態になっている事でしょう。