最近のクルマはどうもパソコン化が進んでいると思いません? 例えば、以前に比べると頻繁に一部改良があって、気がつくと燃費が向上していたりする。これは、すぐに高性能な新型モデルが出るパソコンみたいじゃないか!(本稿は「ベストカー」2013年2月10日号に掲載した記事の再録版となります)
TEXT/マリオ高野(自動車ライター。純度100%のスバリストとしても著名)
プリウスとインプレッサG4は「同じ」!? 小変更激増、パーツ集約化…… クルマのパソコン化が進んでないか?
■普通の人にとっては「どれを買っても同じ」に?
せっかくインプレッサG4を薦めたのにプリウスを買ってしまったそうな。えええ…
不肖マリオ高野、先日友人から「なんかいいクルマない?」と最高にテキトーな相談を受けました。そやつの生活環境や家族構成などを吟味し、悩みに悩んで苦渋の選択としてインプレッサG4を薦めたところ、「あ、わり、もうプリウスっての買っちゃった。どれ買っても一緒だろ?」と爽やかに言われ、腰が抜けて椅子から落ちた次第。
どこが一緒だと問い詰めましたら「エンジンかける時に押すボタンとか」と言いやがりまして、「お前は新垣結衣とメスゴリラを並べて“目がふたつで指が五本だから同じだね”と言うのか」と言ったら殴り合いのケンカになりました。暴力反対。
かように一般ピーポーにとってクルマとは「どれを買っても同じ」になりつつあります。おしなべて性能が向上し、共通部品が増え、デザインや使い勝手が均質化し、燃費や価格くらいしか違いが出なくなってきたせいでありましょう。
これぞクルマの家電化であり、Mac AirやらWindows8やら、へたすると昨今のパソコンのほうが独自カラーを出してる可能性もあるのであります。
■小変更が多すぎないか?
早くも一部改良(※当時)のマツダ CX-5
日本車の場合、ひと昔前まではフルモデルチェンジは最短でも4年ごと。マイナーチェンジは2年ごとに実施されるというのが常識だったので、“買い時”がわかりやすかったものです。
スバルの場合はモデルライフが他社よりも長い傾向にあり、自分が20年前に初期型の初代インプレッサを買った時は、マイナーチェンジは何度も繰り返されたものの、8年近くも「現行型」として乗ることができました。フルローンを完済した後もなお、愛車が古くさく思えることはなかったのです。
しかし、今はそのスバルでさえもエコカーブームに焦燥感を覚えるせいか、少しでも燃費の改善が図れるネタができるとモデルチェンジをしたがる傾向が強まり、嘆かわしい限り。
発売されたばかりだと思っていたマツダのCX-5もさっそく一部改良が実施されました。ライバルに先駆けしたいあまり、出したそばからすぐに改良を加えられる余地を残したまま見切り発車的に販売しているのか? と訝ってしまいますね。
■壊れても自分で直せないし直してほしくなさそう
最近のクルマはエンジンルームがブラックボックスと化し過ぎです。
ボンネットを開けると樹脂製のカバーがエンジンルームのほぼ全面を覆っており、「素人触れるべからず」となっておりますが、「メンテナンスを自力で行なう自由」が奪われたようでまったく寂しい限り。
自分の愛車初代インプレッサは20年21万キロの老骨車なので、ヒマさえあればボンネットを開けて油脂類の漏れがないかどうかチェックする必要がありますが、案外楽しいものです。
もしもデート中に機械的なトラブルが発生したとき、「今のクルマは触れなくてさぁ」などと言い訳をしながらJAFやディーラーの人が来るまで何もできず途方に暮れるだけ。
しかし、自力でパッパッと解決させることができれば女子からの評価は高まるでしょう。
ユーザーのメンテナンス技能が高まると、晩婚化や少子化の改善にも繋がるはずなので、メンテする自由を少しは返してほしいものであります。
マリオ高野の愛車は初期型インプレッサ。今日も元気に走ってます!
■誤操作でエラーが出るパソコンとクルマ
アイサイトなどの運転アシスト機構に備わる車線逸脱警告や一部の高額車に用意される「プリクラッシュシステム」は、イザという時にはドライバーの危機を救ってくれる大変ありがたいハイテクデバイス。
…しかしそうであるとわかってはいても、常時オンにしていると煩わしく思う場面が多々あります。
たとえば路上駐車を避けたり自転車を追い抜いたりするなど、日常には車線を逸脱せざるを得ない場面は多いものですが、そのたびにブブー! と警告音を鳴らされるのは非常にウザイので、せっかくの機能をオフにして走ってしまいます。
プリクラッシュシステムではちょっと際どいすり抜けをするとクラッシュに備えてシートベルトがギュッと締まったりしますが、コンピューターに「コイツは事故る」と判断されたようで実に不愉快です。
ドライバーがボンヤリしてしまっている時と、しっかり状況を把握して運転できている時を識別してくれるようになれば最高だと思いますが。
カメラで白線のはみ出しを感知、警告音とともに、はみ出したことが表示される
■最近の修理はみんなアッセンブリー交換
パーツのアッセンブリー(集約)化が普及してすでに久しくなりました。
車両販売価格を抑えるために生産効率を高めていることはわかりますが、本当は小さなパーツを換えれば直るはずなのにユニットを丸ごと交換しなければならないため、保証の切れたクルマの修理代がバカ高くなってしまうのは、結果としてユーザー負担が増すばかり。
昔は、お金のない若者は古めの激安中古車を買うことからカーライフが始まったものですが、本体が安くても修理代が高いと思うと腰が引けてしまい、若者のクルマ離れの原因のひとつになっております。
また、最近の新車ディーラーのメカニックは整備士ではなく「アッセンブリー交換士」と化しており、整備士としてのスキルを磨くことができなくなっているのも問題です。
「ディーラーに居てもアッセン交換作業ばかりでつまらない」との理由で離職したり、志望者が減ったりしているようなので「脱アッセンブリー」の推進をはかってみてはどうでしょうか。
パソコンの拡張カードを交換するみたいに、クルマもASSY(ユニット)単位での修理となる
■韓国、台湾、中国勢の追い上げがヤバい!
韓国や中国などのアジアの自動車メーカーの勢いは凄まじいものがあります。日本車の強みは信頼性と経済性の高さでしたが、これらに関してはアジアのメーカーにほぼ追いつかれ、追い抜かれつつあるのが現実です。
ハイブリッドなどのエコ技術ではまだ最先端に居るものの、燃費や価格などの数字を重視したクルマ作りはやがて追いつかれることでしょう。デザイン面では、韓国車には追い抜かれてしまった感さえあります。
しかし、ノウハウの膨大な蓄積が必要な「乗り味」の差ではまだ日本車に大きなアドバンテージがあると思います。日本車メーカーも長年欧州車の乗り味を追い求めながら、いまだに欧州車を凌駕する乗り味のクルマが少ないという事実からも、ここだけはそう簡単に追いつかれることはないといえます。
中国でもエンスー趣味を持つ人が徐々に増えているようですが、アジアでは乗り味にこだわるユーザーはまだ圧倒的に少ないので、ユーザー側の成熟度でも日本に一日の長があります。
■壊れないなどブランド神話が崩壊中
パソコンの場合は普通に使うぶんにはマイナーなメーカーでもまったく問題がなくなったので格安製品に人気が集まっておりますが、クルマも似たような状況にあります。
自分がホンダ車のセールスマンをしていた1996年頃は「トヨタ以外はクルマにあらず!」と宣言するような人がわずかながら存在していましたが、今では愛知県など特殊な地域を除いてそういう人は激減しました。実際、国産車ではどのブランドも信頼性や品質に差はありません。
そうした状況のなか、各社は独自性を強く打ち出してブランド力を高めようとしていますが、一番人気は軽自動車です。
軽自動車に対する偏見は完全になくなったわけではありませんが、全体的に質感や性能がよくなったおかげもあり、普通車から軽自動車に乗り換えることは「ダウンサイジング」という大義名分のもと、恥ずかしいことではなくなりつつあります(富裕層や見栄を張る人はその限りではないでしょうが)。
ホンダN-ONEのエンジンは、ダウンサイジングターボでコンパクト並の出力
■クルマもパソコンも簡素化が進んでいる
重たくて嵩張るスペアタイヤを省くことについては強く支持しております。装備の簡素化は軽量化にも繋がり、燃費をよくしたり運動性能を高めることになるので推進してほしいところですが、操作性の簡素化については慎重に考えてほしいです。
たとえばリンカーンのMKXなど、オーディオやエアコンなどの操作をひとつに集約したクルマも増えてきましたが、操作スイッチはボタンではなく指先のタッチを感知するタイプなので、ブラインドタッチがしづらいという難点があります。
スマホと同じで操作時にスイッチ付近を凝視しないといけないのは甚だ不便、かつ危険であり、簡素化した意味がありません。
エアコンやオーディオなどの操作系は簡素化し過ぎず、昔ながらのダイヤル式に戻すなどして操作性を元に戻してほしいと願います。また、最近のモーターショーを見ていると将来はステアリングさえもなくなることが示唆されますが、運転する楽しみを第一とする保守派としては嬉しくない簡素化です。
リンカーンMKXのような操作系の簡素化は、BMWの「i-Drive」から始まったと思う
■まだまだある クルマのパソコン化!
クルマのパソコン化は全体的にはびこりつつありますが、もっとも顕著なのはEVやプラグインハイブリッドです。
クルマから遠く離れていてもスマホからエアコンのスイッチを入れたりバッテリーの充電状況をチェックしたり、ドアの開閉まで出来てしまうわけですが、クルマのパソコン化というより、パソコンに走る機能が付いたという見方もできます。
・パソコンもクルマ化……最近では水冷で放熱するパソコンもあるようで、パソコン側からもクルマに接近しているようですね。クルマもパソコンも照明にはLEDの採用が拡大していますが、そのうちパーツの共用化が実現するかも知れません。
最近のパソコンはCPUなどを水冷するものもあり、ラジエータがあって、まるでクルマ
・取説は見ない……クルマもパソコンも、使える機能は膨大にあるのに取扱説明書を熟読する人は少なく、そのくせ「多機能を使いこなせていない現実に悲しくなる」ことについても、道具として似ているといえます。三菱i-MiEVを最も多く販売しているのは“ジャパネットたかた”のようですが、これからのクルマはパソコン化どころか携帯電話化も進むのでしょう。貧窮にあえぐ自分などは、通信代が滞って携帯や自宅のネットが停まるとクルマも動かせなくなりそうで恐ろしいです。
・履歴が丸わかり……さらに、技術的には自車の位置や走行ルートの履歴はもちろん、速度を何キロ出したかもわかるでしょうから、監視される恐怖も伴います。新手のストーカー事件が発生するかも。クルマのパソコン化はある程度避けられないとしても、もっとクルマ好きが喜ぶ類いの機能が増えてほしいものであります。
省電力は省燃費につながることや、EVは少しでも電力を節約するためLED化が進んだ
* * *
以上のようにドンドンクルマがパソコン化しているのだ! 今後、EVの普及が進めば、ネットを使った電源管理なども含めてさらにドンドンパソコン化が進むだろう。
それどころか、パソコンメーカーがクルマを作る時代がくるかもしれないのだ!!?
(写真、内容はすべてベストカー本誌掲載時のものです)
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